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4 : 成績が良いのは王子妃教育の賜物ですわ。

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「君達は、姉君であるマーベル嬢に代筆を頼んだのかい?
それとも、口利きを頼んだのかい?」

目頭を揉み、軽い溜め息を吐きながらも、学園長が問い続けておられますが、だいぶお疲れのようですね。
問われているご子息達は幼子のような態度なのですもの、無理もありませんわ。

「「??グレーフィル教授に、僕等の言葉を伝えるようにと言っただけだ。
男に媚びるしか脳のない女になど、何かを頼んだりするものか?!」」

「...媚びる?マーベル嬢が...男に??
むしろ、世の男性陣がこぞってマーベル嬢に愛を請うているのでしょう?
マーベル嬢は隣国にご婚約者がおられるから、全く相手にしてはいないけれど...。」

この子息達は...お父君の性格が丸写しになっておられるのね。
自分の姉を"男に媚びる女だ..."なんて、世間一般の良識ある方ならば、思っていても口には出しませんもの...。
マーベル様は、ご婚約者様以外にお心を傾けられることもありませんし...ご親族の方であっても、夜会などでのエスコートであってもお断りしておられますものね。
仲睦まじい婚約者のいるご令嬢に愛を囁くなんて、そんなことをする殿方がお馬鹿なのだとしか言えませんよね...残念ながら、少なくはありませんのよね。

「...学園長様、弟達の軽率な発言に意見してくださって...感謝いたしますわ。
誠に申し訳ございません。
苦言を呈するのが身内の中では私だけでして、中々修正出来なくて...腑甲斐ないですわ。」

「マーベル嬢、君の謝罪はいらないよ。
姉である君よりも、育てた親に責があるのだから。」

「どうぞ、頭をお上げなさいな。
子供の教育は産んだ母親の仕事。
弟君達の姉といえど貴女はまだ未成人の身、教育方針に口を出すことなど出来ません。
それに、貴女の母は辺境伯爵家縁の伯爵令嬢でしたけれど、弟君達のお母君のお生まれは新興の男爵令嬢でしたでしょう?
上位貴族の教育方について全く知らないのですもの、仕方ありませんわ。」

「我が母上を愚弄するのか?!!無礼者!!」

「貴方、王妃である私のことを無礼者と言ったの?
王妃に怒鳴りつける貴方の方が無礼者でしてよ?」

「母はこの女の母親よりも、父に愛されている!」

「愛されているかいないかなど、貴族夫人としては関係ございませんわ。
元々、マーベル嬢のお母上は政略のための結婚でしたわ。
跡取りとなるはずであったマーベル嬢と隣国の貴族家との婚約が決まった際に、跡取りとなれる男を産ませようと多産の家系である貴方方のお母上が嫁いだだけのこと。
たとえ愛されていたとしても、貴方方よりもマーベル嬢の方が格が上ですわ。
そもそも、高位貴族へと嫁がせる予定ではなかった貴方方のお母上は、下級貴族としてギリギリ及第点程度にしかマナーが出来ないのよ。
ですから、私や高位貴族夫人主催のお茶会には1度も招待しておりませんわ。」

「...事実として、上位貴族としての教養もマナーもまともに知らないのだから、愚弄されても文句など言えないでしょう?
それとも、お母君はご存知だと言うのかしら?
その程度の振る舞いしか出来ないのに...まさか、ご自分が上位貴族として振る舞えてると勘違いなさっておられるの?
貴方方の振る舞いは、下位貴族にも劣りますわ。」

マーベル様のお母君は辺境伯爵家の分家である伯爵家の次女でしたが、先代のルセーヌ侯爵様からの少々強引な申し入れによって双方ともに嫌々ご結婚されましたのよね。
跡取りとなれる子供...マーベル様をお産みになられて直ぐに離縁して、ご実家のある辺境伯領の修道院に入られましたの。
その3年ほど後に、流行り病を得て亡くなられたとお聞きしておりますわ。
契約に基づいてのお母君からの離縁でしたから、マーベル様は侯爵家に残されましたの。
お母君にとっては、子供を産めば離縁しても構わないとの契約をしていたこともあり、女の子とは言え子供を1人産んだのだから政略結婚の義務を果たしたつもりだったのでしょうね。
『母親が子供を捨てるなんて怪しからん!』
とか、
『辺境伯爵家縁の娘は堪え性が無い...その娘も大概同じなのだろうな。』
とか、マーベル様が陰でチクチク嫌味を言われておりましたのよ?
産んだ子供を育てるという義務を放棄したのは、お母君の"侯爵の側にこれ以上いたくない"という身勝手な我が儘ですのにね。
被害者であるマーベル様のお気持ちを考えもせず...踏みにじるだけの発言の数々には、幼心に度肝を抜かれましたわ。
まぁ、言った方々には、後々色々と手を尽くして後悔していただきましたけれど...ウフフッ。
40過ぎのおっさん方が、6歳の幼子相手に嫌味を言うだなんて...恥ずかしい限りですわよね。
弱い者イジメ反対!ですわ!





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