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〜小学校 入学〜

その19.夏休み

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 夏だ!海だ!
 優ちゃんだぁぁぁ!!

 ハロー!きっちゃんだよぅ!みんな元気にしてたかなぁっ?きっちゃんはとっても元気だっちゃ!

 俺がなぜ初見バイバイレベルにハイテンションなのかと言うと、


「うみー!」


 優ちゃん(ついでに真也)と一緒に海に来ているからである。 



***



「樹久、明日一緒に海に行かねーか」
「…………はい?」


 最初、真也にそう誘われた時は色々な意味で耳を疑った。
 だって真也が……あの真也が、“一緒に海にイカナイカ”とか……。


「真也……」


 俺もついにコンクリートに詰められて海に捨てられるのだろうか。
 それともマグロ漁船にぶちこんで大金を稼がせる気なのだろうか。

 などと色々な考えが頭をよぎったけれども、最終的にたどり着いた結論は、 


「ホモォ……」
「あ?」


 もしかして真也は実は昔から俺のことが好きだが恥ずかしくていつもは冷たい態度をとってしまうとかいうそういう感じか?このツンデレめ!!

 毎回ボケネタを考えるのが大変だからってコメディーからBL恋愛小説に進路変更する気なのか?
 突然すぎるが……よろしい、付き合おうじゃねーの。色んな意味で。


「真也……抱いてやろうか?」
「夢でも抱いて一生眠ってろカス」 



***



 というわけで、夏休みに入った優ちゃんをつれて3人で海へやって来たわけだ。


「しょっぱーい!」


 海の潮風をクンクンと嗅いで、照りつける太陽よりも眩しく笑う優ちゃん。
 その体は、フリルの付いたピンク色のラブキュア水着に包まれている。


(ああ、天使だ……)


 可愛い、眩しい、愛らしいの三拍子が揃ったマイエンジェル。

 ぐっと拳を握りしめ、小さくガッツポーズをキメる俺。 


「よっしゃあ!! それじゃあ砂で三階建ての城作ったり、たらば蟹捕まえたり夕陽の浜辺で優ちゃんとキャッキャウフフするぞー!!」
「スケールのでかい計画だな」


 パラソルのもと、パーカーを着て優雅に読書をする真也。

 いやいや、何のために来たんだよお前は。ハリウッド女優か?真っ白い肌しやがって外で遊べ!


(そのくせにいい体つきしてるとか……)


 真也よりひょろい自分の体に目線を落とす。

 く、くそ……っ、悔しい……っ!
 ドSで俺様でツンデレでイケメンでイケボで長身で色白で細マッチョで仕事もできて金持ちで(俺以外には)優しいとかお前、どこの乙女ゲームから出てきたんだよ帰れ!優ちゃんは置いて元の世界へ帰れ!!


「きっちゃん! およごー!」
「おうともよ!」


 まあ今は目の前のエンジェルが大切だ。
 優ちゃんに手を引かれ、波の打ち付ける浅瀬に入る。

 瞬間、えぐれる砂。倒れる体。ゴキッと音を立てる足首。
 そして顔面が水面に直撃。からの、思いっきり塩水を飲み込んだ。


「きっちゃん! だいじょうぶ!? ぱぱー! きっちゃんがー!」
「ゴボボアバ真也! ゴブッ! だずげで真也! ゴボッ! 足っ、足ひねっだ! ゴボボボッ!!」
「なんだ、今の一瞬で両足が折れたのかと思ったぞ」


 とかなんとか言いながらも、助けてくれる真也。
 俺の髪を掴んで、ワカメをとるみたいにザバァッと。 

 痛い……でも助かった。水深10センチの場所で死ぬかと思った。


「このご恩は今日いっぱい忘れませぬ……」
「おう、そうか。死ぬまで忘れるなよ」


 そのままずるずると引きずられ、パラソルの下に敷かれたシートの上へ。
 俺の塩水だらけの顔をエンジェルが心配そうに覗き込む。


「きっちゃんだいじょうぶ……?」
「優ちゃんが人工呼吸してくれたら大丈……ぶぎぇあああああ!!」


 鼻に焼きそばを突っ込まれ、痛さや熱さでのたうちまわった。 

 不意に、


「わー! 可愛いー!」
「その子、妹さんですかー?」


 明るく声をかけてきた、ナイスボディのお姉さん2名。
 どうやら逆ナンされているらしい……真也がな。


「いえ、娘です」
「ゆうです! よろしくおねがいします!」
「可愛いー!」
「ははっ、ありがとうございます」


 優が可愛いなんて当たり前だろ?と言いたげな真也の声のトーン。
 ぺこりと可愛く頭を下げる優ちゃん。 


「じゃあパパさんなんですねー! 何歳ですかー?」
「28です」
「わかーい!」
「いえいえ、そんなことないですよ」


 爽やかなイケメンスマイル。
 真也のアレは、いわゆるリップサービス。余所行き用の仮の笑顔だ。

 本性は皆さんもよーくご存知だろう。


「よかったら一緒に遊びませんか?」
「優ちゃんも一緒に!」


 あれ?樹久ちゃんは?樹久ちゃんは一緒じゃないの?っていうか無視?

 チクショウ!イケメンはリア充こじらせて爆発しろ!


「せっかくのお誘いですが……」


 俺がのっそりと体を起こすと、真也が肩をぐいと抱き寄せてくる。
 突然のことで反抗もできず、なすがままに倒れて真也の胸におさまった。


(……え? ホワイ? どういう状況?)


 見上げた先にある整った顔は、切れ長の目を細め意地悪そうに笑っている。


「ごめんね。俺、コイツがいるから」
「し、真也……?」


 ……って、待て待て待て待て!なんでときめいてるんだ俺は!?


「えっ? あっ……! ごごご、ごめんなさい!」
「お邪魔しました! さようなら!」


 豊満な胸を揺らして去るお姉さん達。ぱっと手を離す真也。


「よし、やっといなくなったな……優、泳ぎに行くぞー」
「いくー!」


 脱いだパーカーを俺に投げつけ、優ちゃんと一緒に海へ向かうパパ。

 その背中を呼び止めると、


「かき氷、イチゴとブルーハワイ買っとけ」


 真也はニヤリと口角を持ち上げ、それだけ言って海の中へ。

 不覚ながらドキドキしてしまう俺は、僕は……私は、


(真也くん、また私をからかって楽しんでるんだ……っ!)


 忘れるべからず。この小説は、親バカ真也と優ちゃんと優ちゃんラブな俺で成り立ちます。
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