上 下
17 / 30
〜小学校 入学〜

その17.誕生日会

しおりを挟む
 突然だが、皆さんの中に優の誕生日をご存知の方はいるだろうか。


「おいおい、真也。その情報が本編でチラッと公開された時は他のインパクトが強すぎたんだから記憶に残るわけないだろー?」


 そう、6月1日だ。


「あれ? 無視?」


 そして今日は6月9日である。

 決して、断じて、誓って。忘れていたなんてことはありえない。


「真也。大事な日を忘れることくらい誰にでも一度はあるんだ。恥ずかしくないぞ」
「さっきからうるせーぞ喉仏引きちぎられてーのか」 
「やだこわい……きっちゃん黙ります……」


 さて……ではなぜ今日――9日にお祝いパーティーをするのかと言うと、レストランを貸し切ることのできる日が一番近くてこの日しかなかったからだ。

 まあ『貸し切り』と言っても、お店に俺と優(あとおまけにもう1匹)のみというのはさすがに寂しいだろうから、一般客も入って来られるようにしてあるんだがな。

 というわけで、俺達は某有名高級レストランにやって来たのである。 


「高峰様、お待ちしておりました。席にご案内させていただきます」
「わー! きらきらー!」


 店内のシャンデリアを見上げ、きゃっきゃと笑う優が可愛すぎてつらい。今日も優が優勝。

 案内されたテーブルの椅子に腰かけると、ウェイトレスさんが優の首にエプロンをつけてくれた。


「おひめさまみたい!」


 ははっ、なに言ってんだ?優。
 パパの中では365日、常に優が世界で一番のお姫様だぞ。

 少ししてから、先ほどのウェイトレスさんがワゴンに料理を載せて運んできた。


「スズキでございます」
「えっ? あっ、城田でございます!」
「ゆうです!」


 優は可愛いから無罪として……樹久。お前、なに言ってんだ?

 ウェイトレスさんは肩を震わせて笑いをこらえている。


「こっ、こちら……スズキの、むっ、ムニエルです……っ、ぶふっ……!」


 そう。彼女は別に礼儀正しく自己紹介をしてくれたわけじゃない。


「また、の、後ほど……ぶっ……料理を、おっ、お持ちします……ふっ、くっ……」
「はい、ありがとうございます」


 よく頑張って堪えたな、ウェイトレスさん。 

 震える背中を見送ると、優は手を合わせて、


「いただきます!」


 フォークとナイフを持ちにくそうにしながらも、頑張って使いスズキのムニエルを食べ始めた。


(ああ……一生懸命な優、可愛いな……フォークとナイフになりてぇな……いや、むしろスズキに……)


 優の横から箸で小骨を取り除き、身をほぐしつつそんなことを考えていれば、対面側に座る樹久が軽く身を乗り出して顔を寄せてくる。


「なあなあ、真也」
「何の用だ虫けら」
「ナチュラルに人を傷つけるのはやめない? そうじゃなくて、」 


 にやけヅラで声をひそめる虫けら。


「何で6月9日を選んだわけ? エロくね? 69って、シックスn……ひっ!」


 何やらおかしな話が耳に入ってきたため、本当は蹴り飛ばしてやりたいところではあるが……それは我慢して、テーブルの下で虫けらの股間にナイフを突きつけた。


「……今、何か言ったかい? 樹久クン」
「ハイ……優ちゃんの誕生日である6月1日は国民の祝日にするべきだよなと言いマシタ……」
「ああ、たしかにそうだね。俺も同意だよ」 


 樹久に向かって『次、優の前で変なこと言いやがったらテメーの愚息は粗びきウインナーに、金色の袋はミートボールにでもしてテメーの口とケツに突っ込んでやるよ』という意味を込め、営業スマイルを浮かべて見せる。

 樹久は瞳に恐怖の色を浮かべながら、


「クソッ……こうなったら……」


 などとほざき、胸ポケットに片手を入れた。 


「何だ? ナイフか? いい度胸だな。まともにやりあってもお前に勝機がないとはいえ、凶器使って実力行使しようなんざ見損なったぞ」
「ハピハピッ! ハッピーバースデートゥー優ー♪」


 歌と共に出てきたのは、ピンク色の包装紙に包まれた縦横30センチはあるだろう巨大なプレゼント。


「わー! きっちゃんありがとうー!」
「どういたしまして優ちゃん!」


 それはいったいどっから出てきたんだ。
 お前の胸ポケットは四次元空間にでも繋がってんのか?

 ……つーか、 


「芸人のネタを我が物顔で披露するんじゃねーぞ」
「昨日テレビでたまたま見てさぁ、これはウケる! と確信したわけさ」
「わけさ、じゃねーよ紛らわしい真似しやがって」


 こんなやり取りをしている間に、優はムニエルとサラダを綺麗に平らげる。
 それに気づいてウェイターさんに目配せすれば、店内の電気がフッと消えた。

 しかし、停電ではない。ここまで全て計画通りだ。 
 奥から出てきたのは、7本のろうそくに火を灯したバースデーケーキ。


「ケーキだー!」
「パパの手作りだぞ、優」


 いびつながらも、頑張って優の大好きなラブキュアのケーキを作り上げた俺。


「ぱぱ、ありがとう!」
「どういたしまして」


 その輝く笑顔を見られただけで、努力した甲斐があるというものだ。
 店内のお客さんも一緒にお祝いの歌を口ずさんでくれて、


「ふーっ!」


 優は可愛く唇を尖らせ、火を消す。同時に、周囲からわき上がる拍手。


「誕生日おめでとう、優」
「ぱぱだいすき!」 


 俺は心の底から愛してるぞ。来年も再来年もその先も、俺がそばにいてやれる限り一緒に祝おうな、優。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

あやかし雑草カフェ社員寮 ~社長、離婚してくださいっ!~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 令和のはじめ。  めでたいはずの10連休を目前に仕事をクビになった、のどか。  同期と呑んだくれていたのだが、目を覚ますと、そこは見知らぬ会社のロビーで。  酔った弾みで、イケメンだが、ちょっと苦手な取引先の社長、成瀬貴弘とうっかり婚姻届を出してしまっていた。  休み明けまでは正式に受理されないと聞いたのどかは、10連休中になんとか婚姻届を撤回してもらおうと頑張る。  職だけでなく、住む場所も失っていたのどかに、貴弘は住まいを提供してくれるが、そこは草ぼうぼうの庭がある一軒家で。  おまけにイケメンのあやかしまで住んでいた。  庭にあふれる雑草を使い、雑草カフェをやろうと思うのどかだったが――。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

処理中です...