上 下
16 / 30
〜小学校 入学〜

その16.かたつむり

しおりを挟む
 ハロー!みんなのきっちゃんだよ!本日は、優ちゃんの通う小学校からお送りします!

 いや、決して誘拐しに来たわけじゃないです。正直言えば誘拐したいけども。
 そんなことしたら真也が鬼の形相で地獄の果てまで追ってくるからね。なにそれこわい……。
 そんな自殺行為はしません。俺、かしこいから。

 では、なぜ自宅から歩いて20分の場所にある小学校まで来たかと言うと、優ちゃんのお迎えのためである。
 今日は朝からずっと天気が悪く、午後2時半ごろになってついに雨が降りだしたためじゃのめでお迎えに参った次第で候。 

 校門のわきで少し待っていると、中からぞろぞろと小学生が出てくる。いや、小学校なんだから当たり前だけれども。


「きっちゃん、おむかえに来てくれたの?」


 と、今にも空が晴れ渡りそうなほど眩しい笑顔を咲かせるマイエンジェル。

 あ、これはもう絶対俺に惚れたな……なんてな!ハッハッハ! 


「優ちゃん、一緒に帰ろうか」
「うん!」


 紅葉みたいに小さい手を握り、さしていた紺色の傘を優ちゃんの方に傾ける。

 レインコートを着ていてもランドセルには雨粒がかかるし、風邪なんか引いたら大変だからな。去れ!ウイルスめ! 


「雨ー雨ーぽっつぽつー降ーれ降れっ♪」


 そこまで歌うと、優ちゃんは嬉しそうに笑って続きを口にする。


「ぱぱちゃんがーくるまでおむかえーらんらんっ!うれしいなー♪」
「現代的ですね」


 優ちゃんオリジナルなのか、作詞監修は真也なのか。
 まあ可愛いからどっちでもいいか!


「きっちゃんみてー!」
「俺が優ちゃんを見てない日はないよー!」


 突然、道のわきに咲いていた紫陽花めがけて走りだし何かを捕まえ戻ってくる。

 その手の中には、殻に引きこもったカタツムリが。
 ちなみに、蝸(か)の牛と書いて、蝸牛(かたつむり)。覚えなくても生きていけるから大丈夫!


「かたつむりかー」
「いっぱいいたよー!」


 ぐいぐいと腕を引っ張られ紫陽花に近寄ってみると、葉っぱにかたつむりが4匹這っていた。ワーオ、ヌメヌメ。

 だが、こうして見ると可愛いかもしれない……優ちゃんには負けるけど。


「もってかえったら、ぱぱよろこぶかな?」
「んー……食べられる方なら喜ぶかもなー……」


 いや、優ちゃんにもらえるなら例え犬の糞だろうと真也は喜ぶ。確実にな。


「……? かたつむりはたべられないよ?」


 不思議そうに小首を傾げるエンジェル。
 ああ……可愛い。晴れ渡った俺の心に虹がかかりそうだ。


「ぱぱにもあげる!」


 そう言って、かたつむりを計5匹捕まえ、レインコートのポケットにINする優ちゃん。……潰れないのを祈ろう。


「あっめーあっめーぽっつぽつーふれふーれー♪」


 エンジェルはご機嫌でスキップをし、長靴をはいた小さな足で水溜まりに飛び込む。
 そして、飛沫が跳ねると楽しそうにきゃっきゃと笑った。


(心に虹がかかったわ……)


 ほら見ろ、優ちゃんのエンジェルスマイル効果で空にも虹がかかっている。……ん?虹?!


「優ちゃん、虹!」
「ほんと!? どこー!?」
「ほら、あそこ!」


 気がつくとやや左斜め上の前方には綺麗な虹がかかっていた。
 カラフルに色づいた空を見て、優ちゃんは歓声をあげる。


「きれー!」
「優ちゃんも綺麗だけどなー」
「ぱぱもみてー!」
「ほら! パパも見て!」


 ……あれ?パパ?


「おう、綺麗だな。優の次に」


 耳に届く聞きなれた声。振り返ると、湿気で少し跳ねた髪を揺らしつつ煙草の火を携帯灰皿で消す真也が立っていた。

 手首には黒とピンクの傘がぶら下がっている。


「真也……いつからいたの?」
「優がかたつむりを捕まえてる辺りから」
「マジかよ全然気づかなかったわ……忍者かよ……」
「次は天井裏に潜り込んでお前の寝首を搔いてやるよ誘拐犯」 


 真也は人が殺せそうな目付きで俺を睨んだあと、仏のような微笑みを優ちゃんに向けた。

 そして目線の高さにかがみ、エンジェルの濡れた頬をハンカチで拭うパパ。


「ぱぱみてー! かたつむり!」


 自信満々な様子でポケットから5匹を取り出し、真也に差し出す優ちゃん。

 真也はそれを、


「おっ。いっぱい捕まえてすごいなー、優。ありがとう。でも、かたつむりは飼えないから逃してやろうな?」


 と優しく諭し、そっと葉の上に置いた。 


「その代わり、帰ったらかたつむりの絵を描いてくれるか?」
「うん!」


 優ちゃんの頭を撫でる真也。
 それを眺めつつ、ぽつりと呟く。


「かたつむりに向ける優しさを俺にもくれよ、真也……」


 お父様は無言で黒の傘を手にとり、柄の部分を俺の足首に引っ掛けて軽々とひっくり返してから優ちゃんと一緒に先を行く。


(ああ……綺麗だなあ……)


 置き去りにされた俺は、いつの間にか晴れ渡った青空を静かに仰ぎ見るのだった……水溜まりに浸かりながら。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧乏神の嫁入り

石田空
キャラ文芸
先祖が貧乏神のせいで、どれだけ事業を起こしても失敗ばかりしている中村家。 この年もめでたく御店を売りに出すことになり、長屋生活が終わらないと嘆いているいろりの元に、一発逆転の縁談の話が舞い込んだ。 風水師として名を馳せる鎮目家に、ぜひともと呼ばれたのだ。 貧乏神の末裔だけど受け入れてもらえるかしらと思いながらウキウキで嫁入りしたら……鎮目家の虚弱体質な跡取りのもとに嫁入りしろという。 貧乏神なのに、虚弱体質な旦那様の元に嫁いで大丈夫? いろりと桃矢のおかしなおかしな夫婦愛。 *カクヨム、エブリスタにも掲載中。

山蛭様といっしょ。

ちづ
キャラ文芸
ダーク和風ファンタジー異類婚姻譚です。 和風吸血鬼(ヒル)と虐げられた村娘の話。短編ですので、もしよかったら。 不気味な恋を目指しております。 気持ちは少女漫画ですが、 残酷描写、ヒル等の虫の描写がありますので、苦手な方又は15歳未満の方はご注意ください。 表紙はかんたん表紙メーカーさんで作らせて頂きました。https://sscard.monokakitools.net/covermaker.html

水曜の旅人。

太陽クレハ
キャラ文芸
とある高校に旅研究部という部活動が存在していて。 その旅研究部に在籍している花咲桜と大空侑李が旅を通して多くの人々や物事に触れていく物語。 ちなみに男女が同じ部屋で寝たりしますが、そう言うことはないです。 基本的にただ……ただひたすら旅に出かけるだけで、恋愛要素は少なめです。 ちなみにちなみに例ウイルスがない世界線でのお話です。 ちなみにちなみにちなみに表紙イラストはmeitu AIイラストメーカーにて作成。元イラストは私が書いた。

失恋少女と狐の見廻り

紺乃未色(こんのみいろ)
キャラ文芸
失恋中の高校生、彩羽(いろは)の前にあらわれたのは、神の遣いである「千影之狐(ちかげのきつね)」だった。「協力すれば恋の願いを神へ届ける」という約束のもと、彩羽はとある旅館にスタッフとして潜り込み、「魂を盗る、人ならざる者」の調査を手伝うことに。 人生初のアルバイトにあたふたしながらも、奮闘する彩羽。そんな彼女に対して「面白い」と興味を抱く千影之狐。 一人と一匹は無事に奇妙な事件を解決できるのか? 不可思議でどこか妖しい「失恋からはじまる和風ファンタジー」

カフェぱんどらの逝けない面々

来栖もよもよ&来栖もよりーぬ
キャラ文芸
 奄美の霊媒師であるユタの血筋の小春。霊が見え、話も出来たりするのだが、周囲には胡散臭いと思われるのが嫌で言っていない。ごく普通に生きて行きたいし、母と結託して親族には素質がないアピールで一般企業への就職が叶うことになった。  大学の卒業を間近に控え、就職のため田舎から東京に越し、念願の都会での一人暮らしを始めた小春だが、昨今の不況で就職予定の会社があっさり倒産してしまう。大学時代のバイトの貯金で数カ月は食いつなげるものの、早急に別の就職先を探さなければ詰む。だが、不況は根深いのか別の理由なのか、新卒でも簡単には見つからない。  就活中のある日、コーヒーの香りに誘われて入ったカフェ。おっそろしく美形なオネエ言葉を話すオーナーがいる店の隅に、地縛霊がたむろしているのが見えた。目の保養と、疲れた体に美味しいコーヒーが飲めてリラックスさせて貰ったお礼に、ちょっとした親切心で「悪意はないので大丈夫だと思うが、店の中に霊が複数いるので一応除霊してもらった方がいいですよ」と帰り際に告げたら何故か捕獲され、バイトとして働いて欲しいと懇願される。正社員の仕事が決まるまで、と念押しして働くことになるのだが……。  ジバティーと呼んでくれと言う思ったより明るい地縛霊たちと、彼らが度々店に連れ込む他の霊が巻き起こす騒動に、虎雄と小春もいつしか巻き込まれる羽目になる。ほんのりラブコメ、たまにシリアス。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ところで小説家になりたいんだがどうしたらいい?

帽子屋
キャラ文芸
小説を書いたこともなければ、Web小説とは縁も縁もない。それどころか、インターネット利用と言えば、天気予報と路線案内がせいぜいで、仕事を失い主夫となった今はそれすら利用頻度低下中。そんな現代社会から完全にオイテケボリのおっさんが宇宙からの電波でも拾ったのか、突然Web小説家を目指すと言い出した…… ■□■□■□■□■□■□ 【鳩】松土鳩作と申します。小説家になりたい自分の日常を綴ります 【玲】こんな、モジャ頭オヤジのエッセイ、需要ないと思いますよ?(冷笑) 【鳩】頭関係ないだろ?! 【玲】だいたいこの欄、自己紹介じゃなくて、小説の内容紹介です。 【鳩】先に言え!!!

ローリン・マイハニー!

鯨井イルカ
キャラ文芸
主人公マサヨシと壺から出てきた彼女のハートフル怪奇コメディ 下記の続編として執筆しています。 「君に★首ったけ!」https://www.alphapolis.co.jp/novel/771412269/602178787 2018.10.16ジャンルをキャラ文芸に変更しました 2018.12.21完結いたしました

処理中です...