13 / 30
その13.エイプリルフール
しおりを挟む
ある日のこと。
「ぱぱー! ゆう、おおきくなったらきっちゃんとけっこんするー!」
もうすぐ小学生になる可愛くて愛しいお姫様の娘がそんなことを言ってきた。
今さらだが……『きっちゃん』とは。
優を嫁にくれとしつこいロリコン(そして自称小学校からの俺の親友)の城田樹久のことだ。
城田樹久と書いてロリコンバカと読む。
たまに「しろたきく」と読む場合もあるらしい。
(優が……お嫁さん……ウエディングドレス……ヴァージンロード……ライスシャワー……)
「ぱぱ、おめめしろいよ?」
***
「というわけで、お前を抹殺することが決まった。さようなら樹久クン」
「いや、どういうわけかわからないのは俺だけかな?」
「お前だけだ」
「そうか、ならいいわ」
言った直後「いや、いいわけないだろ!」とツッコミを入れてくる樹久。
俺の肩に。バシッと。
「まあ、なんだ……昔から色々あったが、思い返せばどれもいい思い出だな」
「いだだだだだっ!! 刻まれてる!! 今まさに俺の思い出に悪夢の1ページが刻まれてる!!」
腕を掴みひねりあげるとそう喚くが、とりあえず無視して小指を反対方向へ曲げた。
「樹久、今まで世話したな」
「世話になったな、じゃなくて!?」
「世話になった覚えはねぇ」
「えーっ、俺だって真也の世話になったことなんか……いだだっ!! ありました!! すみません、山ほどありました!! あと痛いです!!」
いったん手を離してやると、樹久は曲がった小指にふーふーと息を吹きかける。
その様子をずっと眺めていた優に向き直り頭を撫でた。
「優、こんな甲斐性なしに嫁ぐことないからな。今、パパがこの世から消してやる」
「サラッと怖いこと言うのやめようね、パパン。それにこの前『優を任せられるのはお前しかいない……』ってイケボで囁いてくれたばっかりじゃん!?」
「男心と秋の空って言うだろ」
「いや、初耳だわ」
まったく真也はーなどとぶつくさ言いながら屈み、優の頭を撫でる樹久……は、鼻の下が伸びきっている。
「デュフフ……優ちゃんは俺のお嫁さんになるんだもんねー?」
「ううん」
優は、真顔で首を左右に振った。ふりふりと。
ああ、そんな細かい仕草まで愛おしい。
「てれびで、きょーはうそをつくひですっていってたから!」
今日……は、4月1日。エイプリルフールだ。
つまり、
「……そうか、嘘か」
「うん!」
「ははっ、まったく……優はお茶目さんだなー」
両手で優の頬を包み、お互いの額をこすり合わせて笑う。
すると優は俺に抱きつき、
「ゆうが、いちばんおよめさんになりたいのは、ぱぱだもん!」
なんて可愛いことを言う。
天使だ……ここに天使がいるぞ。
「よしよし。優、ハンバーグでも食べに行くか」
「いくー!」
そして、安らかに眠る樹久を置き去りにしたまま、俺達はファミレスへ向かうのだった。
「だった。じゃねーよ俺のことは無視!? 涙だって出ちゃう! 男の子だもん!」
「ぱぱー! ゆう、おおきくなったらきっちゃんとけっこんするー!」
もうすぐ小学生になる可愛くて愛しいお姫様の娘がそんなことを言ってきた。
今さらだが……『きっちゃん』とは。
優を嫁にくれとしつこいロリコン(そして自称小学校からの俺の親友)の城田樹久のことだ。
城田樹久と書いてロリコンバカと読む。
たまに「しろたきく」と読む場合もあるらしい。
(優が……お嫁さん……ウエディングドレス……ヴァージンロード……ライスシャワー……)
「ぱぱ、おめめしろいよ?」
***
「というわけで、お前を抹殺することが決まった。さようなら樹久クン」
「いや、どういうわけかわからないのは俺だけかな?」
「お前だけだ」
「そうか、ならいいわ」
言った直後「いや、いいわけないだろ!」とツッコミを入れてくる樹久。
俺の肩に。バシッと。
「まあ、なんだ……昔から色々あったが、思い返せばどれもいい思い出だな」
「いだだだだだっ!! 刻まれてる!! 今まさに俺の思い出に悪夢の1ページが刻まれてる!!」
腕を掴みひねりあげるとそう喚くが、とりあえず無視して小指を反対方向へ曲げた。
「樹久、今まで世話したな」
「世話になったな、じゃなくて!?」
「世話になった覚えはねぇ」
「えーっ、俺だって真也の世話になったことなんか……いだだっ!! ありました!! すみません、山ほどありました!! あと痛いです!!」
いったん手を離してやると、樹久は曲がった小指にふーふーと息を吹きかける。
その様子をずっと眺めていた優に向き直り頭を撫でた。
「優、こんな甲斐性なしに嫁ぐことないからな。今、パパがこの世から消してやる」
「サラッと怖いこと言うのやめようね、パパン。それにこの前『優を任せられるのはお前しかいない……』ってイケボで囁いてくれたばっかりじゃん!?」
「男心と秋の空って言うだろ」
「いや、初耳だわ」
まったく真也はーなどとぶつくさ言いながら屈み、優の頭を撫でる樹久……は、鼻の下が伸びきっている。
「デュフフ……優ちゃんは俺のお嫁さんになるんだもんねー?」
「ううん」
優は、真顔で首を左右に振った。ふりふりと。
ああ、そんな細かい仕草まで愛おしい。
「てれびで、きょーはうそをつくひですっていってたから!」
今日……は、4月1日。エイプリルフールだ。
つまり、
「……そうか、嘘か」
「うん!」
「ははっ、まったく……優はお茶目さんだなー」
両手で優の頬を包み、お互いの額をこすり合わせて笑う。
すると優は俺に抱きつき、
「ゆうが、いちばんおよめさんになりたいのは、ぱぱだもん!」
なんて可愛いことを言う。
天使だ……ここに天使がいるぞ。
「よしよし。優、ハンバーグでも食べに行くか」
「いくー!」
そして、安らかに眠る樹久を置き去りにしたまま、俺達はファミレスへ向かうのだった。
「だった。じゃねーよ俺のことは無視!? 涙だって出ちゃう! 男の子だもん!」
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
貧乏神の嫁入り
石田空
キャラ文芸
先祖が貧乏神のせいで、どれだけ事業を起こしても失敗ばかりしている中村家。
この年もめでたく御店を売りに出すことになり、長屋生活が終わらないと嘆いているいろりの元に、一発逆転の縁談の話が舞い込んだ。
風水師として名を馳せる鎮目家に、ぜひともと呼ばれたのだ。
貧乏神の末裔だけど受け入れてもらえるかしらと思いながらウキウキで嫁入りしたら……鎮目家の虚弱体質な跡取りのもとに嫁入りしろという。
貧乏神なのに、虚弱体質な旦那様の元に嫁いで大丈夫?
いろりと桃矢のおかしなおかしな夫婦愛。
*カクヨム、エブリスタにも掲載中。
山蛭様といっしょ。
ちづ
キャラ文芸
ダーク和風ファンタジー異類婚姻譚です。
和風吸血鬼(ヒル)と虐げられた村娘の話。短編ですので、もしよかったら。
不気味な恋を目指しております。
気持ちは少女漫画ですが、
残酷描写、ヒル等の虫の描写がありますので、苦手な方又は15歳未満の方はご注意ください。
表紙はかんたん表紙メーカーさんで作らせて頂きました。https://sscard.monokakitools.net/covermaker.html
水曜の旅人。
太陽クレハ
キャラ文芸
とある高校に旅研究部という部活動が存在していて。
その旅研究部に在籍している花咲桜と大空侑李が旅を通して多くの人々や物事に触れていく物語。
ちなみに男女が同じ部屋で寝たりしますが、そう言うことはないです。
基本的にただ……ただひたすら旅に出かけるだけで、恋愛要素は少なめです。
ちなみにちなみに例ウイルスがない世界線でのお話です。
ちなみにちなみにちなみに表紙イラストはmeitu AIイラストメーカーにて作成。元イラストは私が書いた。
カフェぱんどらの逝けない面々
来栖もよもよ&来栖もよりーぬ
キャラ文芸
奄美の霊媒師であるユタの血筋の小春。霊が見え、話も出来たりするのだが、周囲には胡散臭いと思われるのが嫌で言っていない。ごく普通に生きて行きたいし、母と結託して親族には素質がないアピールで一般企業への就職が叶うことになった。
大学の卒業を間近に控え、就職のため田舎から東京に越し、念願の都会での一人暮らしを始めた小春だが、昨今の不況で就職予定の会社があっさり倒産してしまう。大学時代のバイトの貯金で数カ月は食いつなげるものの、早急に別の就職先を探さなければ詰む。だが、不況は根深いのか別の理由なのか、新卒でも簡単には見つからない。
就活中のある日、コーヒーの香りに誘われて入ったカフェ。おっそろしく美形なオネエ言葉を話すオーナーがいる店の隅に、地縛霊がたむろしているのが見えた。目の保養と、疲れた体に美味しいコーヒーが飲めてリラックスさせて貰ったお礼に、ちょっとした親切心で「悪意はないので大丈夫だと思うが、店の中に霊が複数いるので一応除霊してもらった方がいいですよ」と帰り際に告げたら何故か捕獲され、バイトとして働いて欲しいと懇願される。正社員の仕事が決まるまで、と念押しして働くことになるのだが……。
ジバティーと呼んでくれと言う思ったより明るい地縛霊たちと、彼らが度々店に連れ込む他の霊が巻き起こす騒動に、虎雄と小春もいつしか巻き込まれる羽目になる。ほんのりラブコメ、たまにシリアス。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ところで小説家になりたいんだがどうしたらいい?
帽子屋
キャラ文芸
小説を書いたこともなければ、Web小説とは縁も縁もない。それどころか、インターネット利用と言えば、天気予報と路線案内がせいぜいで、仕事を失い主夫となった今はそれすら利用頻度低下中。そんな現代社会から完全にオイテケボリのおっさんが宇宙からの電波でも拾ったのか、突然Web小説家を目指すと言い出した……
■□■□■□■□■□■□
【鳩】松土鳩作と申します。小説家になりたい自分の日常を綴ります
【玲】こんな、モジャ頭オヤジのエッセイ、需要ないと思いますよ?(冷笑)
【鳩】頭関係ないだろ?!
【玲】だいたいこの欄、自己紹介じゃなくて、小説の内容紹介です。
【鳩】先に言え!!!
ローリン・マイハニー!
鯨井イルカ
キャラ文芸
主人公マサヨシと壺から出てきた彼女のハートフル怪奇コメディ
下記の続編として執筆しています。
「君に★首ったけ!」https://www.alphapolis.co.jp/novel/771412269/602178787
2018.10.16ジャンルをキャラ文芸に変更しました
2018.12.21完結いたしました
イケメン政治家・山下泉はコメントを控えたい
どっぐす
キャラ文芸
「コメントは控えさせていただきます」を言ってみたいがために政治家になった男・山下泉。
記者に追われ満を持してコメントを控えるも、事態は収拾がつかなくなっていく。
◆登場人物
・山下泉 若手イケメン政治家。コメントを控えるために政治家になった。
・佐藤亀男 山下の部活の後輩。無職だし暇でしょ?と山下に言われ第一秘書に任命される。
・女性記者 地元紙の若い記者。先頭に立って山下にコメントを求める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる