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ひざまくら

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 あっくんは、甘えん坊さん。
 1日1回、10分間はくっついて『充電』をしなければいけないらしい。

 だから今も、


「幸せ……」


 こうして、私のひざに寝転んでいる。いわゆる、ひざまくら。 
 さらさらと流れる黒髪を撫でて、幸せそうな顔を上から覗き込んだ。

 気持ち良さそうに細められる目と、朱に染まる頬。


(可愛い)


 くつくつと喉を鳴らせば、閉じかけていたまぶたがゆっくりと持ち上がる。

 そしてあっくんの眠そうな瞳が私をとらえて、


「みーちゃん?」


 優しい声が耳を撫でた。 


「なんで笑ってるの……?」
「あっくんが可愛いなーと思って」


 また笑えば、納得がいかないと言いたげに眉を寄せる彼。

 おもむろに下から伸びてきた手が、私の頬にそえられた。
 そして、


「みーちゃんの方が可愛い」


 半分夢の中にいるみたいに、ふにゃりと笑うあっくん。
 彼の手に自分のそれを重ねて、照れ隠しに「知ってる」とだけ返した。 

 それでもあっくんは、


「知られてた」


 とか言って、くすくす笑う。

 少ししてから体をひねり、ひざまくらされたまま腰に腕を回したあっくん。


「あっくん、」


 呼んでみたけれど、返事はない。代わりに、小さな寝息が耳に届いた。 


「あっくん、寝ちゃったの?」


 言葉が届いていないとわかっていても、なんとなく声をかけてしまう。

 規則正しい寝息は乱れず、腰を抱く腕から力が抜けた。


(あ、完全に寝ちゃったんだ)


 すぐ目下で眠る愛しい人。
 その髪をもてあそびながら、


「……あおい


 歌うみたいに名前を呼んだ。 


「葵、大好き」


 独り言をぽつりぽつりと落としながら、彼の片手に指を絡める。
 すき間をなくすようにぎゅっと握れば、少しずつ体温が混ざりあう。

 あたたかい、葵。


「好き」


 もう一度囁いて、頭を撫でて、


「おやすみ、葵」


 愛を込めて、夢の中へ言葉を落とした。 
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