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その8
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しばらくの沈黙。
ただじっと私を見る佐伯くん。
それからまた少しして、パタリとページが閉じられた。
「……」
黙ったまま、組んでいた足をおろして。
ことり、本を横に置く。
生暖かい春の風が頬を撫で、佐伯くんのふわふわの髪を揺らした。
あ、やっぱり綿菓子みたい。
そんなことを考えていると、彼はゆっくりと立ち上がる。
(……かっこいい……)
そんな単純な仕草すら、王子様は絵になって。
すらりと伸びた長い足で、こちらに歩み寄ってきた。
「……」
「……っ、」
反射的に後ずさると、背中にコンクリートの壁が当たる。
じわりと染みる冷たさが、“これ以上後ろには逃げられない”と告げていた。
佐伯くんは無言で距離を詰めてきて、
「――っ!」
トン。
顔の横に置かれた両手が、逃げ場を塞いだ。
彼との間に距離がなくなって、ばくばくばくばく心臓が暴れる。
佐伯くんの顔を見る余裕なんて、しゅわしゅわと泡のように消えてしまった。
(熱い)
顔が、熱い。
春には似合わない汗が背中にはりつく。
「……彩、」
佐伯くんの声がとんと響き、私の名前をなぞった。
返事をしなきゃと開いた唇は、ただ震えるだけで機能しない。
「ねえ、」
「……っ、」
「僕の言うこと、聞けない?」
聞けない、聞きたくない。
そう言いたいのに、覗き込む瞳がそれを許さない。
「彩花」
ゆらり。2つの黒いビー玉が揺らいで、甘い声がまた名前を呼ぶ。
そうしたらもう、何も考えられなくて。
「き……きけ、ま……す」
それしか、言えませんでした。
ただじっと私を見る佐伯くん。
それからまた少しして、パタリとページが閉じられた。
「……」
黙ったまま、組んでいた足をおろして。
ことり、本を横に置く。
生暖かい春の風が頬を撫で、佐伯くんのふわふわの髪を揺らした。
あ、やっぱり綿菓子みたい。
そんなことを考えていると、彼はゆっくりと立ち上がる。
(……かっこいい……)
そんな単純な仕草すら、王子様は絵になって。
すらりと伸びた長い足で、こちらに歩み寄ってきた。
「……」
「……っ、」
反射的に後ずさると、背中にコンクリートの壁が当たる。
じわりと染みる冷たさが、“これ以上後ろには逃げられない”と告げていた。
佐伯くんは無言で距離を詰めてきて、
「――っ!」
トン。
顔の横に置かれた両手が、逃げ場を塞いだ。
彼との間に距離がなくなって、ばくばくばくばく心臓が暴れる。
佐伯くんの顔を見る余裕なんて、しゅわしゅわと泡のように消えてしまった。
(熱い)
顔が、熱い。
春には似合わない汗が背中にはりつく。
「……彩、」
佐伯くんの声がとんと響き、私の名前をなぞった。
返事をしなきゃと開いた唇は、ただ震えるだけで機能しない。
「ねえ、」
「……っ、」
「僕の言うこと、聞けない?」
聞けない、聞きたくない。
そう言いたいのに、覗き込む瞳がそれを許さない。
「彩花」
ゆらり。2つの黒いビー玉が揺らいで、甘い声がまた名前を呼ぶ。
そうしたらもう、何も考えられなくて。
「き……きけ、ま……す」
それしか、言えませんでした。
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