上 下
7 / 8

Story7.見つけたよ、嘘つきさん

しおりを挟む
 大路君の前で泣いてしまった、次の日。

 私は教室へは行かず、まっすぐに保健室へやって来た。


「あら、こんな早くから……どうしたの?」
「……今朝から、少し……体調が悪くて……」
「じゃあ、そこのベッドで寝てていいわよ」
「はい。ありがとうございます」


 ポニーテールの髪を揺らし、ほわりと笑う保険医の御堂みどう先生。


(う、生まれて初めて仮病を使ってしまいました……! ごめんなさい、御堂先生……!)


 やや良心を痛めつつ、真っ白いベッドへ潜り込んだ。

 なぜ、仮病を使ったのか。
 それはもちろん、大路君が深く関係しています。

 冷静に考えてみると、大路君は同じクラスで……しかも、隣の席で。
 嫌でも顔を合わせることになる。

 それなのに私は昨日、大路君の前で泣き本を投げつけ、とどめに「大嫌い」と言ってしまった。
 昨日の今日だと……大路君に会いたくありません。気まずすぎます。


(はぁ……)


 投げつけた1050円はどうなったのでしょうか。

 そんなことを考えながら目に蓋をして、現実の世界から逃げた。



 ***



 キーンコーンカーンコーン……と鳴り響く鐘の音が私の意識を夢の世界から引きずり戻す。

 まだわずかに重いまぶたをこすりつつ、


(どれくらい経ったのでしょうか……)


 のっそりと体を起こし、腕時計に目線を移した。
 短針と長針は、仲良く12を指している。


(そんなに眠ってしまっていたのですね……)


 不意に、ガラリと保健室の扉が開く。
 いつの間にかベッドの周りはカーテンで仕切られていたため、誰が入って来たのか視覚から情報を得ることはできません。


(御堂先生、でしょうか……)


 耳をすませていると、聞こえたのは――……ガチャン。

 扉が、施錠される音。


(御堂先生……じゃ、ありませんね……)


 先生なら、室内にいるのにわざわざ鍵を閉めたりしません。

 ……ふと、嫌な予感が心臓を刺激した。


(……いえ、まさか、)


 足音が近づいてきて、シャッとカーテンがめくられる。

 そこに立っていたのは、


「みーつけた」


 ニヤリと妖しく口角を持ち上げる、大路君で……嫌な予感的中です。


「……っ!!」
「逃げんな」


 彼の立っている反対側から逃げ出そうと体をひねった時、手首を捕まえられてそのままベッドに押し倒された。


「は、離してくださっ、」
「誰が離すかよ」


 顔の両側で縫い付けられた手の拘束は、あがいてみても全く緩まない。

 それどころか、大路君は上履きを脱いでベッドへ上がり、馬乗りになってきた。


「もう、逃がさねぇよ」


 どことなく怒りの色が滲む声。

 クリーム色の髪の毛が、光を透かしてきらきら光る。


「白雪」
「……なん、ですか」
「昨日のアレ、なに?」


 どきり。
 心臓が跳ねるのを確認。

 ふいと目をそらせば、


「何で泣いたの?」


 真剣な声が“こっちを向け”と誘うようで。


「……それは、」


 空中をたどり、大路君の喉元を目線で刺した。


「大路君が、好きでもないのに……からかって、キスを……してくるからです」


 唸るように呟くと大路君は息を吐いて小さく笑い、


「なんだそれ」


 と、一言。

 なんだとはなんですか。
 文句を言おうとしたけれど、


「なあ、昨日言ったよな?」
「ひゃっ、」
「次、逃げたら……食うって」


 喉を熱い舌が這って、言いかけた言葉を消す。

 そのまま首筋にキスを落とし、


「……っ、やっ、」


 耳たぶを舐められると、身体中にぞくぞくとした感覚が走って。


「白雪」


 熱っぽく名前を呼ばれれば、もう何も考えられなくなる。


「……何で俺がこんなことするのか、お前を構うのか……本当に、わからない?」
「わか、るわけ……っ」


 大路君の片手が布団をめくり、お腹とスカートの隙間からブラウスの中に入ってきた。

 肌着の中にも侵入し、直接腰を撫でられる。


「ふ……っ、」
「じゃあ……教えてやる」


 耳元に口が寄せられ、


「お前のことが、好きだから」


 そんな囁きが脳を揺らした。


「え……」


 そんな、まさか……信じられない。

 けれど、驚く私を映す瞳はとても真剣で。


「えっ、でも、私、なんで、」


 思わず、心の声を口にしてしまった。

 眉も八の字になって、目は空中を泳ぐ。


「前にも言ったけど……そういうところが、すげぇ可愛いと思ったから」


 つまり、戸惑う私が面白いという意味ですか。

 皮肉の一つでもぶつけてやりたかったのに、愛しそうに細められたブラウンのビー玉2つがそんな気持ちを捨てさせる。


「だから、」


 髪を揺らして微笑む彼は、


「キス、していい?」


 本物の、王子様に見えてしまった。


(……悔しい。大路君は、なぜこんなに、)


 何も言わないのを了承と受け取ったようで、大路君は唇を優しく重ねる。

 けれど、一度触れただけですぐにそれを離して、


「白雪は?」


 と、呟いた。


「……はい?」
「俺のこと、好き?」


 大路君のことが、好きか。

 ……そんなの、


「そんなわけありません」
「んだとコラ」
「……でも、」


 ぷいと顔を背けて、一言だけ付け足した。


「……『大嫌い』と言ったのは、撤回します」


 今もどきどきとうるさい心臓は、“嫌い”なんて思っていないから。

 好きではありません。絶対違います。
 でも、『大嫌い』でもありません。

 少しの間を置いて、大路君はくつくつと笑いながら言葉を落とした。


「ツンデレ姫め」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

ねえ、私の本性を暴いてよ♡ オナニークラブで働く女子大生

花野りら
恋愛
オナニークラブとは、個室で男性客のオナニーを見てあげたり手コキする風俗店のひとつ。 女子大生がエッチなアルバイトをしているという背徳感! イケナイことをしている羞恥プレイからの過激なセックスシーンは必読♡

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

処理中です...