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Savage襲来編

20.オーク襲来

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 POLICEというロゴを背中に刻み、黒いプロテクターで身を覆う者たち。

 彼らは内部からの救援に応じて投入された県警機動隊だ。銃器対策を担当する彼らはタイヤ付きの黒いシールドで前面を防ぎ、ドイツ社の短機関銃を手にゆっくりと前進をする。

 いまだ煙のあがる駐車場を進む人数は、四十名前後。
 目指すべきショッピングモールには、信じられないことに未知数の存在がいるらしい。

 それは化物なのか宇宙人なのかは、誰であろうと分からない。
 しかし市民が殺されている以上、温厚な相手ではない事は確かだ。
 初動としては異例の早さであり、政府の判断にしては的確だった。しかし今回ばかりは勝手が異なる。

 ガラスの破片でぐしゃぐしゃになった入り口から、のそりと出てくる化物がいる。通称オークと呼ばれており、棍棒を手にしている事から下級だと分かる。
 身の毛もよだつような外見だが、彼ら機動隊もプロだ。

 左右に散開しつつ、無駄だと分かっている最終警告を送る。
 返事は、どしん、どしん、と駈け出してくる魔物の姿だった。すぐさまクロス状に弾幕が張られ、緑色の皮膚には無数の穴があく。

 ドオオーーッ!

 緑色の体液を飛び散らせながら、咆哮をあげる。
 魔物はすぐに事切れたが、これにより戦闘開始がオーク全軍に伝えられた。

 どどん、どん、どずん!

 窓から次々と飛び降りてくる彼らに、機動隊から焦りが感じられた。数が多く、対処しきれる量ではないと判断したのだ。
 すぐさま後退をしつつ、追いすがる魔物へと集中射撃を行う。

 大量の液体を吐き出して倒れてゆくが、やはりと言うべきか最初のほうに倒した魔物たちが徐々に身を起こす。
 残されたのは津波のように押し寄せてくる百体を優に越える軍勢たち。

 ショッピングモールの半円状の壁という構造により、どおおと耳をふさぎたくなるような声が反響して迫り来る。恐怖という言葉では語り尽くせない光景で、弾切れを起こし、弾倉交換に手間取る隊員らが続出した。

「後退ッ! 後退ッ! 急げッ!」

 青色の機動隊車両までの後退となり、かつ最後の防衛線でもある。
 そのような光景を呆然と見ていたのは、彼ら機動隊関係者のみならず再構築者アバターらも同様であった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 これは、何というか、言葉にならない。
 銃器を見るのは初めてだし、一斉射撃というものには迫力があった。
 しかしそれらがあっけなく崩壊してゆくまで、ものの10分ともたなかった事へ思考が停止しかけてしまう。

 他の者達も同様で、呆けた顔で戦場を眺めていた。
 そのとき、肩を柔らかく掴まれた。

「由紀ちゃん、ぼうっとしちゃ駄目。どうすべきか一緒に考えましょう」

 そこで初めて、自分の呼吸が乱れている事に気づいた。深く息を吸い、そしてゆっくりと吐く。まだ遠くでは怒号と銃撃音が響いているが、まずは落ち着かなければ話にならない。

「……ありがとう、翆姉さん。さて、これは厄介だぞ。警察と機動隊がやられたら、防衛線まで無くなってしまう。手助けをしようにも数が多い。何らかの陽動が必要だ」

 あえて口に出しながら思考する。頭を無理矢理に働かせ、どうにか思考停止を避けないといけない。
 幾人かがこちらを向いたが、僕も必死なので気にしない。向こうでは機動隊が無理矢理に盾で守り、襲撃に耐えているのだ。

「スズメバチの巣を突付いたような状況だね。オークのレベルは幾つだ。火力からして、たぶん5前後か。だったら巣を襲撃するのが早い。奴らに本能があるなら、まとめて戻ってくるはずだ」

 ぐるぐると頭が回り始める。
 アドレナリンの影響もあるだろうが、ひょっとしたら「知性」の能力値補正があったかもしれない。
 中学生らしからぬ言葉に、ようやく声を上げられたのは五十嵐さんだった。

「それをやってみよう。いや、それしか無い。見たところ奴らの足は遅いし、私の敏捷なら逃げ切れるはずだ。君たちは幾つだ?」

 僕と姉は、それぞれ「14」「12」と答え、五十嵐さんは頷く。たぶん狩人レンジャーである彼のほうが高かったのだろう。
 そしてゴスロリ調の誠さんはというと「ムリデス!」と顔を青ざめさせていた。いや勿論、まったく期待していなかったけど。

 悩む時間も相談する時間も無い。
 さっさと駐車場の柵を乗り越えると、僕ら3人はすみやかに任務を開始した。



 駐車場を駈け出してすぐにオークが見える。
 魔物は機動隊に集中しており、まったくこちらへ気づいていない。

 どくんと心臓が跳ねるのは、たぶんこれが実戦だからだ。チュートリアルを終えたいま、何が待っているかは分からない。

「翆姉さん、足を中心に狙ってくれるかな。僕は火炎ファイアレベル1だけを使っていくよ」
「分かったわ。由紀ちゃんは、もう少しMPがあると良いわねえ」

 まあね、僕の場合はMPをHPに還元しちゃってるから。最低レベルの火炎でも、十発ちょっとしか連続で撃てない。
 そういうビルドを選んだのだから、いまさら文句は言わないようにしないと。

 すぐさま姉は先行し、横合いからオークのアキレス腱を断つ。
 ぶづんという音が響き、遅れて火炎を解き放つ。それはアスファルトを焼きながら魔物に迫り、ごうっと側面に炎をあげた。

「――火炎ファイア、LEVELⅠ、詠唱開始……」

 通り過ぎざま魔物の悲鳴を聞いたが、ダメージを確認する暇もない。僕らに気づいた魔物達が、いっせいにこちらを向いたからだ。
 周囲にいるのは計5体。それぞれ機動隊に向けて進んでいた最中なので、攻撃態勢になるのはもう少し遅れる。

「邪魔をする奴だけ手を出そう。ただし足は止めないように」

 ぐるんと体ごと振り向いた姉は、すぐさま僕の右側に斬りかかる。大きな腕が僕を捕まえようと伸ばしていたらしく、それの指先が全て宙に飛んだ。

「こういう感じね、分かったわ。私もちょっと燃えてきた気がする」
「あ、う、うん、そうだね。いつも通り、なるべく落ち着いて行こう」

 正直、心臓がバクバクしてるけどね。男というのは、こういうとき見栄をはりたがるから困る。

 目前に迫ってくるオークだが、そいつには姉の剣が振られることは無かった。後方からのバンという射出音、そして頭部に指くらいの太さをした矢が突き刺さり、たまらずオークは悲鳴を上げたのだ。

 振り返るまでもなく、警察官である五十嵐さんの仕事だろう。走りながらの射撃など難度は高いだろうに、なかなかやる。

 なるべく密集していないエリアを駆けてゆく。ルートは姉に任せているが、彼女は目が良いので的確に突き進む。
 邪魔な者の足を切り、頭を燃え上がらせ、ルートをこじ開けてゆく。周囲を見回す余裕も生まれてきた。

 僕らに向かって1割くらいの奴らが追ってきている。
 目標であるショッピングモールの入り口まで、残り二百メートルくらいか。このまま行けば、30秒ほどで辿り着けそうだ。

 どかどかと駆けながら、思考だけを働かせる。
 奴らが慌てて戻るくらいの火力で入り口を襲いたい。その為には火炎レベル4がいる。必要MPは32、今の残りは26。となると数少ないMP回復薬をどこかで浪費しなければ。

「最低レベルの火炎を撃てるのは残り4発、か。やっぱりMPはもっと欲しい」

 そうボヤきながら、右手から迫る魔物を燃え上がらせる。球状に放ることも出来るが、アスファルトを焼きながら飛ばしたほうが目立つ。
 あちこちで炎と黒煙があがり始めるとオークらは異変に気づいたらしく、見る間に機動隊への攻撃は薄まってゆく。

 そしてどうやら五十嵐さんの弓は、魔法とは異なる物理ダメージだと分かった。見たところ威力としては【火炎】よりも下だが、連続して撃てる点、そして一瞬で遠距離攻撃できる点が強みだろう。
 一方で誘導性は無いので外れるリスクがつきまとう。

「――剣術《ソードアーツ》、疾風《ツイスト》」

 ぶわんと姉の身体が揺らぎ、即座に前方2体の背後へ回りこむ。ざくざくアキレス腱を切り刻み、辿り着くころには道が出来上がっていた。

 翆姉は、こと戦闘になると人が変わる。
 普段は甘えたがりなのに、ゲーマーとしての血を存分に発揮していた。しかしそれでも左手から大波のように迫り来る一団には「無理」という表情を見せる。

「全速で走って! 魔法が届く距離になったら、大きいのをすぐに打ち込むから!」

 返事をする余裕もなく、姉はこくりと頷いた。
 前方にはまだ敵が多数おり、彼女は幾体も切り刻まないといけない。

「――アイテムセット・下級MP回復薬」

 全力で駆けながら貴重なMP回復薬を使う。空中にあらわれた青い箱を掴み、そのまま握りつぶした。みるみる回復してゆくMPゲージと、とめどなく流れる汗。

「――火炎《ファイア》、LEVELⅣ、詠唱開始……」

 そう命じた瞬間、いつにない速度でMPが減少してゆく。
 ほぼ全ての技能ポイントを注いだこの魔法は、威力が今までの比ではない。周囲は陽炎のように揺らぎ、幾筋もの光が僕の手に集まってゆく。

 詠唱完了まであと十秒!

 ここからが本番だと姉の瞳が見開かれる。
 長い黒髪をたなびかせ、前傾姿勢で極めて効率的にオークらの足を斬る。密集している相手であろうと、どかどか身体を叩かれても、姉は決して折れなかった。

「――剣術《ソードアーツ》、轟斬撃《スラッシュ》LEVELⅢ!」

 己へのダメージエフェクトを散らせながら、横一文字に剣は薙ぐ。同時に横3体の頭部が一斉に落ちてゆく光景に、思わずぽかんと口を開いた。

 しかし建物に近づくほど脅威は増す。
 二階の窓からずらりと覗くのは多数の弓矢で、すぐさま軌道を描いて降り注ぐ。

 ばんっ、ばばばんっ――――ぎゃりっ、ざんっ! ばちちっ!

 周囲一帯には矢の雨が降り、アスファルトに火花を散らす。
 どすんと腹にやってきた衝撃は、親指くらいの太さをした矢だった。
 飛び散る赤色のダメージエフェクト。ぐんと減ったHPは残り半分に迫っている。

 いや、怖いよ。腹から矢が生えているのは。
 走れないほどの痛みでは無いが、確実に死が見え始めている。
 おまけにショッピングモールの入り口には、他の奴らとあからさまに異なる鉄製武器を持った奴が出てきた。

『 ゴロデ! ヤヅラ、ゴロデ! 』

 話せる個体もいるのか!
 うーん、怖い。怖いし、さっさと逃げないと。
 だからそのいかつい顔をロックして、僕はこう呟いた。

「――奔《はし》れ、火炎《ファイア》LEVELⅣ」

 どぎゅり、とMPがほぼ丸々吸われる。
 肘から先は炎に飲まれ、それでも目標から外れないよう1ミリも動かさない。

 周囲から迫る魔物は姉と五十嵐さんに任せ、どん!と車ぐらい大きな炎を吐き出した。
 これは時速50キロほどで飛翔し、周囲の酸素を吸いながら熱をまき散らす。直線上にいたオークらは燃え上がり、悲鳴を響かせながら4秒足らずで着弾する。

 どおお!とショッピングモール入り口は燃え上がり、膨張した熱により残っていたガラスは吹き飛ぶ。紅蓮の炎は球状に広がり、真っ黒い大量の煙を吐き出した。
 どう見ても、まるっきり映画の光景だ。

「撤収! 撤収! みんな、ぼけっとしてないで移動! もうMP無いよ!」

 どどお、という鈍い爆発音の響くなか、回れ右をして駈け出した。腹に矢が刺さっているままだけど、命のほうが大事なので超全力疾走だ。

 生存本能というのはすさまじくて、突撃するときより逃げるときの方が機敏だったりする。おかげで幾体かに捕まりかけたものの、わあわあ言いながらどうにか敷地外へと逃げることが出来た。

 いつの間にやら機動隊への攻撃はやみ、皆はぽかんとしていたらしい。
 一般人が入り込んでいるという報告に色めきたったものの、結果的に彼らから救われたという事を、数時間後に機動隊らは知った。

 ずあーー、終わったーー!
 今日のお仕事はもうお終い!
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