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姉妹誘惑のお宿編

お風呂、はいっちゃいましょう

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 ピンクの横縞シャツ、さらには太ももが全部見えそうな短パン姿は、たぶんギャルに片足を踏み込んでいると思う。だけど、ぴゃーっという奇声とともに両手をあげてきたら不思議と子供っぽくて微笑ましい。
 ちんちくりんな千夏ちゃんは、そんな姿でモニターを指差しながら唇を開いた。

「日間ランキング7位っ!」

「マジかぁ――っ!」

 これにはさすがの俺も大興奮を隠せない。
 なんといっても『3日後レイプ』を投稿したのは昨日であり、しつこいようだけどまだ丸一日も経っていない。予想では10位前後と考えていたのだが、意外や意外、まさかのトップ5入り目前である。
 くーっ、振り向いた笑顔の可愛いこと可愛いこと。ほっぺたを赤くして、にっこにっこの笑みをされては俺までいつの間にか笑っているし、頭をぐしゃぐしゃにしてあげるしか道はない。ここで甘やかさないでいつ甘やかすのか。

 そうそう、なんでこんな深夜にサイトを見ているのかというと、彼女から「すごいものを見せてあげる」と耳打ちされたんだ。
 ひょっとしてエッチなことじゃないだろうねと鼻の下を伸ばしながら問いかけたところ、いやらしさとは真逆のことを教えてくれた。
 いや、実際はエロ小説なんだからいやらしくはあるのか。高尚な趣味とは言えないだけでさ。

 2人そろって素っ裸でサイトを見るのはあまりに切ないし病的に過ぎるので、ついさっき着替え終えている。ついでに氷入りの飲み物も用意したぜ。夏はやっぱりこのキンキンに冷やしたサイダーだよな。もちろんコーラも捨てがたいぞ。

 さて、俺がすごいと思うのはなにも順位のことだけじゃない。壁を超えたかのように成長した彼女の文章力、それこそがいま最も褒めるべきことだ。
 ついこのあいだ、俺は「さっさと小説を諦めればいいのに」とひっそり心のなかで酷評した。でもその考えは本当に浅はかだったと思う。
 いや、違うんだ。あのときの小説は本当にクソだったんだ。天地がひっくり返ってもその評価だけはくつがえせない。
 しかし同時に思うのは、あの題材では彼女の強みを活かせなかったということだろう。

「んー、ちょっと読ませてもらっていい?」

 いーよと言いながら千夏ちゃんはつまさきを揃えて椅子から飛びおりる。活発な女の子らしい動きだなと思いながら背もたれに手を乗せた。
 席を譲ってもらい、どれどれと最新の小説に目を通していく。すると大人の俺でも唸るほどの絶妙な文章が待っていた。

「どう? どう?」

「うーん、うまくなってる。思わずおっきしちゃうくらいに」

 ぱあっと顔を輝かせているけれど、普通なら今の会話は通報案件だからね。そこだけは誤解しないように。
 ふむふむと唸りながらマウスを動かして小説の続きを目で追っていく。するとまるで自分がエッチをしているようなドキドキ感が待っていたんだ。
 振り返ると瞳を爛々と輝かせる千夏ちゃんがいる。褒めて欲しくてたまらなそうな彼女の目の前に、まず俺は人差し指を立てた。

「千夏ちゃん、小説で一番難しいことってなんだと思う?」

「へ? えーと、きれいな文章を書けること?」

 うーん、ちょっと違う。
 もちろん俺は小説を書いたことは無い。だけど読むだけでも分かることが……いや、読んでいるからこそ分かるのかな。
 それはとても簡単なことであり、かつ小説の本髄だと俺は思っている。

「感じたこと、思ったことをそのまま読者に伝えるのって、実はすごく難しいんだ。たぶん無意識なんだろうけど、千夏ちゃんは状況を説明してから人を動かしている。そういう風に段階的に情報を与えているからイメージしやすい。千夏ちゃんの面白いと思っていることがちゃんと俺に伝わる」

 だからこそ、ストーリーの先にある柔肌を指先でなでるような臨場感を楽しめる。
 異世界のお話はマジでクソだった。マジクソだった。
 だけどあれは自分で体験をしていない出来事だったから、なんとなくとか、人気作でそう書いているとか、そういう理由で組みあわさってしまった結果、完全なるクソができあがったのだと思う。

「あくまで俺の考えだけど、千夏ちゃんには感じたことをそのまま文章にする才能があるんだと思う」

 ぱちんっと瞳をまばたきさせて、だんだん彼女の頬は赤くなっていく。
 それは先ほどランキングで喜んでいた顔つきとはまた違う表情だと思う。そんな変化を起こしたのは、たぶん他の人にはない個性をちゃんと褒めたからだろう。

 テストの点数なんて周りとの背比べでしかない。
 そんなの記憶力と要領の良さだけの戦いだ。あんなものは授業でやったことをそのまま書き写しておくだけで自然と高得点になるんだからな。もちろん学校を卒業したあとは、点数がどうだったかなんて思い出す必要すらない。

 しかし才能というのは未来を変える。
 こうなりたいと思う幻想を、実際につかめるかもしれない。
 夢をつかんでみたい。
 そう思ったのか、千夏ちゃんはぶるっと身震いをしてから両手で俺の裾を握ってきた。すごく嬉しくて楽しみでたまらないという顔つきで。

「あ、なんだろう。よく分かんないな、恥ずかしいのかも」

 目が合った彼女は、そううつむきがちに答えてきた。
 たぶん意識をしていないのだろう。兄妹かと思うくらい距離がかなり近くて、ぱちぱちまばたきする瞳がすぐそばにある。すこしだけ早い呼吸をしている千夏ちゃんは、そのまま甘えるように肩に頭を乗せてきた。

「徹に褒められちゃった」

 うくく、という赤ちゃんみたいな笑い声が耳元に聞こえてきた。ぽかぽかの体温が伝わってくるのもちょっとだけ嬉しい。まったく意識せずにおっぱいを当てられていてはなおさらだ。
 ごしりと後ろ手で彼女の髪を撫でながら思う。
 褒められるのは、千夏ちゃんにとってたまらなく嬉しいことだ。才能があると褒められたのは初めてのことであり、いまという時間を心から楽しめている。

 楽しんで書く。
 楽しんで読んでもらう。

 それはとても楽しい遊びであり、かつ大人たちからは「なにが楽しいんだ?」と怪訝な顔をされるだろう。
 子供のころはずっとそうだった。大人たちの理解できない遊びをずーっとしてきて、ふと気づくと俺たちもそんな遊びから卒業している。

「子供のころに戻ったみたいだなぁ、こういうのって」
「うン、そうだね……なんかわくわくする。えへへ、今年の夏休みは楽しいね」

 そう熱っぽい声が聞こえてきた。言葉数が少なくてもちゃんと通じることもあるらしい。
 もちろん俺としてもおべっかを使ったり、意味もなく褒めたわけじゃない。実際にすごいと思ったんだ。

 例えばこのおまんこの描写だ。
 とろりと溢れる愛液で指がふやけてしまいそうないやらしさがある。指の動きに合わせて、やんやんと女の子が鳴いている声もまた妙なリアルさを感じる。
 感じたらダメなのに、いけないのにと思っていても、長時間の愛撫によって身体はとても正直になっており、きゅんきゅんする子宮を必死にこらえている顔なんて……。

「はああ、エッチだ。すごいよ千夏ちゃん、一皮むけてすごくエッチな文章になった」

「そ、そんなこと、ないっ。も、もう見ちゃだめぇ」

 やーんと泣きそうな声を出して、両手で首根っこに抱きつかれてしまった。
 なおも耳元に響く「もうおしまいなのっ!」という甘えるような声の可愛らしいことと言ったらもう、俺のほうがきゅんきゅんしちゃう! ぐわー、可愛いっ! 頬がゆるむっ!
 普段生意気なぶん、こういう恥じらいのある声を聞けると、なんかお父さんが甘やかしている気持ちもわかっちゃうなぁ。いつかご挨拶をするときに、そんな話もしてみたいものだ。

 そんな風にお互い笑っていたときに、きいいと戸が開かれた。
 あれ、どうしたんだろう、こんな時間に。そう思って振り返ると、背後には薄手の布団で身体を覆った茜ちゃんがいた。
 激高した顔つきで俺たちに人差し指を向けており、なにやら尋常ではない雰囲気だったのだが……。

「あっ……」

 空気を察したような声をわずかに漏らして、辺りをきょろきょろ眺める彼女は、整った清潔なベッド、氷入りのジュース、そしてノートパソコンと順に視線を向けてゆき、もう一度だけ「あっ」と言った。
 先ほどまであった険しい表情はあっという間にがらがらと砕けてゆき、こちらへ向けられた人差し指も力を失っていく。
 彼女は口をぱくぱくしながら俺たちを見たあとに、ゆっくりと顔を赤くしていくのだが? どうしたの?

「あっ、あの、お兄さん、失礼しました……」

 そんな消え入りそうな声とともに、すすすーとお尻から後退していくあの美少女はなんでしょうか。
 そう問いかける意味で隣に視線を向けると、千夏ちゃんは素早く「徹、お姉ちゃんにフォロー」と的確なアドバイスをくれた。
 ああ、いかん。驚きのあまり呆然としていたようだ。

 すぐに立ちあがって廊下に出ると、まだ日の出前の時刻とあってだいぶ薄暗い。背中を向けて歩いていく彼女は、どこか「このまま消え去りたい」というオーラをにじませていた。

「茜ちゃん」

 そう彼女に声をかけると、この距離でも分かるくらいビクンと肩を跳ねあげさせた。
 歩みを止めて、そーっと振り返ってくる表情の可愛いこと可愛いこと。恥ずかしさに涙をにじませており、しゅうと煙が出そうなほど顔が赤い。

 それはどこか子供っぽい表情であり、そういえばまだ学生だったなと当たり前のことを俺は思う。
 身体の成育が同年代の子よりもずっと進んでいて、瞳がぱっちりしているものだからつい大人びて見えるんだ。お姉さんらしい面倒見のいい性格もそれを助長しているのかな。

 たまらなく可愛いと思うのは出会ったころからなにも変わらない。
 いつだって守りたいと思うし、本当はもっと頼ってほしいなとも思う。だから無意識に手を差し伸べると、きっと彼女も無意識だったろう。きゅっと指先で握り返してきたあとに、瞳を大きくまばたきさせた。いつの間に手を握ったんだろうという疑問符を浮かべながら。

「ごめんね、起こしちゃって。やっぱりうるさかった?」

 少し考えたあとに、ううんと彼女は首を横に振る。
 そして一歩だけ近づいてきてくれて、まだ恥ずかしくて涙に濡れた瞳で俺を見あげてくる。星がまたたくように綺麗で、まつげに乗った涙のしずくがそれを手伝っているのだと思う。
 きれいだといつも感じるんだ。息を吸って吐いている姿を見るだけでそう思うし、その瞳にじっと見つめられていると意識するだけで鼓動が早まる。だからそんな気持ちを悟られないように、俺は優しく声をかけた。

「のど、乾かない?」

「……乾いた。私にも冷たいジュースがあると嬉しいわ、徹さん」

 もう一歩だけ近づいて、すりっと頬を当てながらそう呟いてくれる。背を抱くと抵抗のひとつも見せずにやわらかい身体で触れてきて、肩にころんと頭を乗せてくる。
 たったそれだけの仕草で、俺の心臓が撃ち抜かれるのを感じた。

 ん、あ、あ、あーー、可愛いっ。びっくりするくらい可愛い子から、こんなに懐かれているなんて!
 きゅっとくびれた腰に手を置くことを許されているだけで、俺はもう駄目だ。もう無理。さらさらでいい香りのする黒髪もそうだし、うまく言えないけど、ずっとそばにいて欲しいと思うんだ。

「それと汗の匂いが気になって仕方ないわ。いますぐお風呂に入りたい」

「うん、もうすぐ陽が昇るからちょうど景色を楽しめる時間かもしれない。じゃあせっかくだし一緒に入る?」

「んー、どうしよっかなー。今夜はもうくたくただから、エッチなことをしないって約束するなら考えてあげてもいいんだけどなー」

 まだ顔を見せるのは恥ずかしいらしく、首筋に頭をうずめながらそう囁いてくれた。
 俺は少しおかしいのかもしれない。だんだん彼女はわがままを言うようになってきて、それをすごく嬉しいと感じるんだ。
 以前も実はわがままだった。気に入らないことがあるとすぐに怒っていたし、執着心に近しいものを露わにしたこともある。
 大丈夫だよって言いたい。俺のことを邪魔だと思わない限り、ずっとそばにいるよって伝えたい。

 自然と絡み合ったお互いの指に気がついて、ふと見あげてきた彼女の唇とも重なりある。くすぐったいくらいのキスであり、いつもの性的なものではまったく無くて、だけどしっとり濡れた清らかな味には不思議と安心をする。

 再び肩に頭を乗せてきた茜ちゃんも、ほうと安心しきった息を吐いていた。ぴたりと身体を触れ合わせたまま俺に体重を預けて、力がだんだん抜けていくのまで正確に感じられるのは不思議だなと思う。
 そして瞳を閉じてゆき、彼女はいつになく素直に話をしてくれる。

「恥ずかしいわ、こんな格好で慰められるなんて。むずがって起きてしまった子供みたい。甘えるなんてよくないけど、たぶん徹さんはあやし上手だと思うから」

 うんうん、好きなだけ甘えていって。女の子が良い香りと一緒に、頬をすりすりしてくれるのはたまらなく嬉しいから。
 指先がしっかりと絡んでくる。
 吐き出された息が触れてくる。
 そしてぽやんとした瞳が開かれて、俺を真っ直ぐに見つめてくる。
 そんな仕草がみんな可愛くて、たぶん朦朧としていたと思う。少なくとも俺にとっては全て心臓を撃ち抜く会心の一撃クリティカルヒットだった。

「徹さん、もう一緒にお風呂、はいっちゃいましょう」

 ぽそりとそう呟かれたのもそうだ。甘えを含む声が鼓膜を震わせて、うなずく以外の選択肢がみんな消えていくのをただ感じる。
 こんなの無理だ。かないっこない。社会人だというのに、まるで中学生みたいに胸をときめかせているなんて。

 返事は?と問いかけるように覗き込まれて、うん、と頷いてからようやく俺は気がついた。身を包んでいる布団はだいぶずれ落ちており、見惚れるような乳房の膨らみがすぐ下にあることを。

 そんな表情の変化に気づかれた。一度まばたきをした彼女は視線を追って己の身体を見下ろすのだが、再びこちらに戻された表情は呆れているような、どこかほっとしているような感じだった。

 俺もそうだ。
 このときたぶん、ほっとして油断しきっていたんだと思う。
 社会人だし営業マンだし、そこそこの成績を収めているので、きっと年が離れた女の子と楽しく会話をしながらお風呂に入れると思っていた。
 でも決定的な失敗を、俺はしてしまった。

「私、馬鹿みたい。妹とエッチをしていると疑うなんて」

 唐突な問いかけに対して、俺もまた唐突に思い出す。
 ぬっぽりと千夏ちゃんの膣に入れたまま、振り返ったその子が汗に濡れた前髪を指先ですくっている表情を。これまでに見たことのない女の子の顔であり、また鎖骨から下には俺の精液がたくさん塗りたくられており……。
 思い出のなかで「シちゃったね」とその女の子から囁かれた。

 ぎっく、と肩は跳ね上がる。
 同時に「しまった」と俺は思う。
 昔から女性の勘というのはあなどれないと感じていた。相手が茜ちゃんであれば、もう予想もつかないほど鋭いものだろう。

 まだ身体を預けてくれたままの茜ちゃんは、硬質で冷たい気配を確かにまとっていた。先ほどの可愛らしい様子はいつの間にか消えており、まるで……そう、観察されているみたいだった。
 じいっと冷たい瞳で俺を眺めて、彼女のなかで淡々と審議は進められていく。有罪か無罪か、事実か嘘か、そして絶対にしてはならない浮気をしたのかどうか。
 やがて審議の結果は訪れる。

 ――パンッ!

 硬質な音が別荘の廊下に響いた。
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