ぼくたちのついた嘘

チタン

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わたしのついた嘘

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 ミーンミーンと外で蝉が鳴いている。
窓の外を見ると日が暮れかかってきていて、室内は薄暗くなってきた。夕陽が差し込む窓辺だけがポツンと取り残されたように明るかった。

 赤い夕陽の光を見てあなたのことを思い出す。
あなたに別れを告げたときもこんな夕暮れ時だった。
 そんな風に一度思い出すと、あなたのことが頭から離れなくなる。「ナオ」とあなたがわたしを呼ぶ声がひどく懐かしくなる。

 忘れようと思ったはずなのに。寂しさに耐えきれなくて別れを告げたはずなのに。今でもあなたからの、来るはずのないメッセージを待ち続けている。

 日が沈むにつれ窓辺の日なたも小さくなっていく。それと同じように記憶の中の思い出もどんどん小さくなってしまう。
 今ではもうあの頃の温かい気持ちを思い出せなくなった。あなたに会えない寂しさは消えてくれないのに……。


 そもそもわたしが嘘をついたのが始まりだった。
寂しいのに、ずっと彼にそれを隠して、平気なフリをした。

 あのとき「行かないで」と言えたら、「寂しい」と素直に伝えられたら今も隣にいられただろうか?


  ♢♢


 黄昏時、日が沈みきった。

 そのとき携帯の通知音が鳴った。


『植木 正也:今から会いに行ってもいい?』


 それは来るはずのないメッセージだった。


  ♢♢
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