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【第1章】異世界転移

【18話】敗走

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死にたくない! 死にたくない! 死にたくない!
死にたくない!!!

 頭は死ぬ事への恐怖で一杯だった。
 息が切れる、カラカラで喉が張り付く、足は千切れそうになる、それでも止まれなかった。
 途中からは人一人抱えていることも忘れてしまっていた。ただ〈迷宮あそこ〉から逃げ出したい一心だった。
 そして、入り口に辿り着き無我夢中で来た時と同じ黒いモニュメントに触れた。すると視界がホワイトアウトした……。
 記憶はここで途切れている。


  ♢♢


 次に目覚めたときには俺たちは城に運ばれていた。俺達が〈迷宮〉から戻った時のために、〈迷宮〉の入り口付近に国が配置していた兵士が、倒れている俺とカレンを見つけて城へ連れ帰ったらしい。
 記憶もなく城の中にいたので、何だか異世界に来たばかりのときを思い出した。

「ああ、コウ殿。目が覚められましたか」

 気がつくと兵士長がベッドに横たわる俺を見下ろしていた。

「〈迷宮〉で何があったのかは一緒に戻ったエマーソンから聞きました。今回のことは……残念です」

「そうだ、フレッドは! フレッドは無事なんですか!?」

 そうだ、俺達だけ先に脱出して……、それからどうなった?

「……いえ、戻ったのはあなたとエマーソン特別任官のみ。フレッド殿やホフマン達は恐らくもう……」

「そんな……」

「あなただけでも無事でよかった。では、私はこれで。ゆっくり休んで下さい」

 フレッドが戻ってきていない。
 つまりあの後フレッド達はあそこに残ったまま脱出できなかったということだ。

「畜生ォ……」

 涙が溢れた。
 フレッドが死んだ。
 こんな訳の分からない世界で。
 悔しさと自己嫌悪で顔が歪む。
 しかし、最も自分を嫌悪させたのはあのとき何も出来なかったことよりも、今生き残ったことに心底安堵していることだ。
 フレッドが死んだことへの悲しみや悔しさと同じくらい、自分が死ななかったことへの安堵が胸を占めていた。そのことが何よりも嫌だった。
 ぐちゃぐちゃに感情が入り混じったまま、時は過ぎていった……。


 部屋には夕日がさし始めていた。
 目覚めたのが朝だったから、だいぶ長い時間こうしていたらしい。
 目を泣き腫らして、もう涙も出ない。
 少し落ち着いてくると、次は不安が湧いてきた。
 これから俺はどうなるのだろう。元の世界へ帰りたい……。しかし、そのためには〈迷宮〉を攻略しなければならない。
 そんなことを考えていると、ノックの音が聞こえた。兵士が一人、部屋に入ってくるなり俺に告げた。

「王がお呼びです」

 俺は一人、大広間に通された。
 王が俺に向かって言った。

「今回は、残念でしたな。有望な兵達とかけがえのない勇者様一名を失う結果となってしまった」

「……」

「では、早速ですが次の遠征はいつに致しますかな?」

「な、『次』だって!? またあの地獄に戻れっていうのか!」

「ええ、国に差し迫った危機は待ってはくれませんからね」

 王は事も無げにそう告げた。
 うそだ、そんなに早くあそこに戻るのか?
 そう意識した途端、また恐怖が舞い戻ってきて、全身が身震いする。

「勇者様も元の世界へ帰りたいのならば、攻略のための方策をかんがえることですな。でなければ貴方がたに最上級の武器を与え、国賓待遇で迎えている意味がない」

 王は最初の頃とは打って変わって冷徹な口調だった。
 俺は思わず怒りを覚えた。

「何が『意味がない』だ! お前らの都合で呼び寄せて、戦わせて! そのせいでフレッドは……!」

 声を荒げたが、あくまで王は冷静だった。

「私たちもね、後がないんですよ。どの道、貴方の運命は二つに一つです。〈迷宮〉を攻略し英雄となるのか、魔物の群れに襲われ国と共に滅びるのか」

 
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