19 / 33
【第1章】異世界転移
【18話】敗走
しおりを挟む
死にたくない! 死にたくない! 死にたくない!
死にたくない!!!
頭は死ぬ事への恐怖で一杯だった。
息が切れる、カラカラで喉が張り付く、足は千切れそうになる、それでも止まれなかった。
途中からは人一人抱えていることも忘れてしまっていた。ただ〈迷宮〉から逃げ出したい一心だった。
そして、入り口に辿り着き無我夢中で来た時と同じ黒いモニュメントに触れた。すると視界がホワイトアウトした……。
記憶はここで途切れている。
♢♢
次に目覚めたときには俺たちは城に運ばれていた。俺達が〈迷宮〉から戻った時のために、〈迷宮〉の入り口付近に国が配置していた兵士が、倒れている俺とカレンを見つけて城へ連れ帰ったらしい。
記憶もなく城の中にいたので、何だか異世界に来たばかりのときを思い出した。
「ああ、コウ殿。目が覚められましたか」
気がつくと兵士長がベッドに横たわる俺を見下ろしていた。
「〈迷宮〉で何があったのかは一緒に戻ったエマーソンから聞きました。今回のことは……残念です」
「そうだ、フレッドは! フレッドは無事なんですか!?」
そうだ、俺達だけ先に脱出して……、それからどうなった?
「……いえ、戻ったのはあなたとエマーソン特別任官のみ。フレッド殿やホフマン達は恐らくもう……」
「そんな……」
「あなただけでも無事でよかった。では、私はこれで。ゆっくり休んで下さい」
フレッドが戻ってきていない。
つまりあの後フレッド達はあそこに残ったまま脱出できなかったということだ。
「畜生ォ……」
涙が溢れた。
フレッドが死んだ。
こんな訳の分からない世界で。
悔しさと自己嫌悪で顔が歪む。
しかし、最も自分を嫌悪させたのはあのとき何も出来なかったことよりも、今生き残ったことに心底安堵していることだ。
フレッドが死んだことへの悲しみや悔しさと同じくらい、自分が死ななかったことへの安堵が胸を占めていた。そのことが何よりも嫌だった。
ぐちゃぐちゃに感情が入り混じったまま、時は過ぎていった……。
部屋には夕日がさし始めていた。
目覚めたのが朝だったから、だいぶ長い時間こうしていたらしい。
目を泣き腫らして、もう涙も出ない。
少し落ち着いてくると、次は不安が湧いてきた。
これから俺はどうなるのだろう。元の世界へ帰りたい……。しかし、そのためには〈迷宮〉を攻略しなければならない。
そんなことを考えていると、ノックの音が聞こえた。兵士が一人、部屋に入ってくるなり俺に告げた。
「王がお呼びです」
俺は一人、大広間に通された。
王が俺に向かって言った。
「今回は、残念でしたな。有望な兵達とかけがえのない勇者様一名を失う結果となってしまった」
「……」
「では、早速ですが次の遠征はいつに致しますかな?」
「な、『次』だって!? またあの地獄に戻れっていうのか!」
「ええ、国に差し迫った危機は待ってはくれませんからね」
王は事も無げにそう告げた。
うそだ、そんなに早くあそこに戻るのか?
そう意識した途端、また恐怖が舞い戻ってきて、全身が身震いする。
「勇者様も元の世界へ帰りたいのならば、攻略のための方策をかんがえることですな。でなければ貴方がたに最上級の武器を与え、国賓待遇で迎えている意味がない」
王は最初の頃とは打って変わって冷徹な口調だった。
俺は思わず怒りを覚えた。
「何が『意味がない』だ! お前らの都合で呼び寄せて、戦わせて! そのせいでフレッドは……!」
声を荒げたが、あくまで王は冷静だった。
「私たちもね、後がないんですよ。どの道、貴方の運命は二つに一つです。〈迷宮〉を攻略し英雄となるのか、魔物の群れに襲われ国と共に滅びるのか」
死にたくない!!!
頭は死ぬ事への恐怖で一杯だった。
息が切れる、カラカラで喉が張り付く、足は千切れそうになる、それでも止まれなかった。
途中からは人一人抱えていることも忘れてしまっていた。ただ〈迷宮〉から逃げ出したい一心だった。
そして、入り口に辿り着き無我夢中で来た時と同じ黒いモニュメントに触れた。すると視界がホワイトアウトした……。
記憶はここで途切れている。
♢♢
次に目覚めたときには俺たちは城に運ばれていた。俺達が〈迷宮〉から戻った時のために、〈迷宮〉の入り口付近に国が配置していた兵士が、倒れている俺とカレンを見つけて城へ連れ帰ったらしい。
記憶もなく城の中にいたので、何だか異世界に来たばかりのときを思い出した。
「ああ、コウ殿。目が覚められましたか」
気がつくと兵士長がベッドに横たわる俺を見下ろしていた。
「〈迷宮〉で何があったのかは一緒に戻ったエマーソンから聞きました。今回のことは……残念です」
「そうだ、フレッドは! フレッドは無事なんですか!?」
そうだ、俺達だけ先に脱出して……、それからどうなった?
「……いえ、戻ったのはあなたとエマーソン特別任官のみ。フレッド殿やホフマン達は恐らくもう……」
「そんな……」
「あなただけでも無事でよかった。では、私はこれで。ゆっくり休んで下さい」
フレッドが戻ってきていない。
つまりあの後フレッド達はあそこに残ったまま脱出できなかったということだ。
「畜生ォ……」
涙が溢れた。
フレッドが死んだ。
こんな訳の分からない世界で。
悔しさと自己嫌悪で顔が歪む。
しかし、最も自分を嫌悪させたのはあのとき何も出来なかったことよりも、今生き残ったことに心底安堵していることだ。
フレッドが死んだことへの悲しみや悔しさと同じくらい、自分が死ななかったことへの安堵が胸を占めていた。そのことが何よりも嫌だった。
ぐちゃぐちゃに感情が入り混じったまま、時は過ぎていった……。
部屋には夕日がさし始めていた。
目覚めたのが朝だったから、だいぶ長い時間こうしていたらしい。
目を泣き腫らして、もう涙も出ない。
少し落ち着いてくると、次は不安が湧いてきた。
これから俺はどうなるのだろう。元の世界へ帰りたい……。しかし、そのためには〈迷宮〉を攻略しなければならない。
そんなことを考えていると、ノックの音が聞こえた。兵士が一人、部屋に入ってくるなり俺に告げた。
「王がお呼びです」
俺は一人、大広間に通された。
王が俺に向かって言った。
「今回は、残念でしたな。有望な兵達とかけがえのない勇者様一名を失う結果となってしまった」
「……」
「では、早速ですが次の遠征はいつに致しますかな?」
「な、『次』だって!? またあの地獄に戻れっていうのか!」
「ええ、国に差し迫った危機は待ってはくれませんからね」
王は事も無げにそう告げた。
うそだ、そんなに早くあそこに戻るのか?
そう意識した途端、また恐怖が舞い戻ってきて、全身が身震いする。
「勇者様も元の世界へ帰りたいのならば、攻略のための方策をかんがえることですな。でなければ貴方がたに最上級の武器を与え、国賓待遇で迎えている意味がない」
王は最初の頃とは打って変わって冷徹な口調だった。
俺は思わず怒りを覚えた。
「何が『意味がない』だ! お前らの都合で呼び寄せて、戦わせて! そのせいでフレッドは……!」
声を荒げたが、あくまで王は冷静だった。
「私たちもね、後がないんですよ。どの道、貴方の運命は二つに一つです。〈迷宮〉を攻略し英雄となるのか、魔物の群れに襲われ国と共に滅びるのか」
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
異世界で生きていく。
モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。
素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。
魔法と調合スキルを使って成長していく。
小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。
旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。
3/8申し訳ありません。
章の編集をしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる