上 下
6 / 33
【第1章】異世界転移

【5話】カレン・エマーソン

しおりを挟む
 広大な大広間、玉座に座る王が再び口を開いた。

「勇者のお二方もお疲れでしょうし、詳しい話は明日にしましょう。お部屋を用意しておりますので、是非そちらでお寛ぎください」

 王が合図をすると傍から侍女が進み出て、会釈をしながら「ご案内します」と言った。

「王よ、少しよろしいでしょうか?」

 王の右側に控えていた甲冑を着た大男が言った。

「おお、ランドルフ。申してみよ」

「ありがとうございます、陛下。これは提案なのですが、今後の事を考え勇者様達のお側に一名、私が推薦する者を世話役として置かせて下さい」

「ほう……して、その者とは?」

「エマーソン特別任官、前へ」

 促されて兵士の中から女性が一人、前に進み出た。服装が他の兵士とは全然違っていた。

「彼女は特別任官のカレン・エマーソンです。治癒魔術に長けており、勇者様方に不測の事態が起ころうとも万全の対応が可能です」

 紹介を受けて跪いていたカレンが顔を上げた。

「ふむ、治癒魔術か。よかろう、其の者を勇者様方の側付きに任ずる」

「はい!」

「よし、では今日のところは今度こそここまでとしましょう。お二人ともゆっくりお休みください」

 王はそう告げると大広間を後にしていった。大勢いた周りの人間もゾロゾロと奥へ引っ込んでいった。
 王と話していた大男は一言、「エマーソン、あとは任せたぞ」とだけ告げて去っていった。
 大広間には俺たち二人とカレンと侍女一人だけが残された。

「勇者様、今日からお二人のお世話をさせて頂きます、カレン・エマーソンです。よろしくお願いします」

 カレンは俺たちに深々と頭を下げた。

「ああ、よろしく、エマーソンさん」

「エマーソン『さん』なんてそんな! 『カレン』か『エマーソン』とお呼びください」

「おう、よろしく、カレンちゃん!」

 フレッドは早速カレンの名を呼んだ。コイツのこの馴れ馴れしさ、もとい人当たりの良さはむしろ尊敬してしまう。

「よろしく、カレン」

 挨拶を交わし終えたところで、侍女が「よろしいでしょうか?」と声を掛けてきた。

「では、お部屋へ案内いたします」

 そう言って侍女は俺たち二人を先導して歩き始めた。俺たちとカレンはその後に続いた。


夜伽の話題→否定→緊張解ける→元の世界の質問

「なあ、俺たちに「様」なんて付けなくていいぜ? なんだかむず痒いや」

 フレッドが唐突にカレンに言った。
 それを聞いてカレンは慌てた様子で、

「そ、そんな! 勇者様をそのように気軽にはお呼びできません!」

「いや、フレッドの言う通り、普通に呼んでくれた方がありがたいな」

 そう聞くとカレンは少しばかり押し黙って、また顔を上げて答えた。

「うぅ……わかり、ました。コウさん、フレッドさん」

「おう、よろしく!」

 そう答えると、フレッドは俺の側に寄ってきた。そして顔を近づけて耳を貸せとジェスチャーしてきた。

「おい、コウ。カレンちゃんめちゃくちゃ可愛いじゃん。さすが異世界、サービスいいぜ!」

 フレッドは少し離れて歩くカレンに聞かれないように俺に耳打ちした。

「なんだよ、いきなり」

 俺も小声で返事をした。
 確かにカレンは美人だ。少し幼さの残り顔立ちだが、目鼻立ちざハッキリしている。

「どうかされましたか?」

 カレンが尋ねてくる。
 俺はフレッドに言われて改めてカレンの容姿をよく見た。背中まで伸びる明るめな粟色の髪、細身な体、色白な肌、……うん、文句なく美人だ。

「いや、なにも!」

 慌てて答えて少し声が上ずる。

「ふふ、そうですか。困ったことがあればなんでも言ってくださいね。ランドルフ様から仰せつかっていますから。雑用でも話し相手でも、よ、夜伽のお相手でもなんでも……」

 カレンは顔を真っ赤にして言った。

「よ、よよよ、夜伽なんてそんな! け、結構です!」

「よとぎ??」

 フレッドが素っ頓狂な声を発した。
 カレンは赤面したまま俯いてしまった。

「着きました。こちらのお部屋です」

 侍女が部屋の扉の前で立ち止まって言った。

「ベッドメイクなどは済んでおります。では、おやすみなさいませ」

 そう言って侍女は去っていった。

「では、私もここで……。おやすみなさい」

 カレンは俯いたまま、足早に去っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

俺、貞操逆転世界へイケメン転生

やまいし
ファンタジー
俺はモテなかった…。 勉強や運動は人並み以上に出来るのに…。じゃあ何故かって?――――顔が悪かったからだ。 ――そんなのどうしようも無いだろう。そう思ってた。 ――しかし俺は、男女比1:30の貞操が逆転した世界にイケメンとなって転生した。 これは、そんな俺が今度こそモテるために頑張る。そんな話。 ######## この作品は「小説家になろう様 カクヨム様」にも掲載しています。

処理中です...