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第32話 オルヴァリオの剣②
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「……ふむ」
オルヴァリオは、いくつか机に並べられた内のひと振りを軽く振るう。その姿はもう、『素人感』のある佇まいではなかった。バルセスでの冒険を経て、『一人前の剣士』になったのだ。
「軽いな」
「駄目? 一応『上級トレジャー』なんだけど。水を流すだけで刃溢れが治るって未知の技術の」
「それは便利だが、まだ俺の技術じゃすぐ折りそうだ」
「じゃ、こっちね。重くてあたしには扱えないけど。はい」
ひとつひとつ、リディが選ぶものを振る。
「おう。良い重厚感だな」
「振り遅れて負けたらダサいわよ?」
「だが敵を一撃で倒せる。俺にはこっちが合うと思う」
「……ま、そうね。気に入ったのならそれが縁でしょ。その剣も『上級トレジャー』。加工できないほど硬い金属で加工された、古代文明の『ただの剣』よ」
オルヴァリオは武器を決めた。これまで使っていた鉄の剣より厚く、大きいものだった。
「じゃ、この剣は交換ね」
「え?」
リディはオルヴァリオの鉄剣を、彼の新しい剣のあった場所に設置した。
「良いのか? こんな高価なもの本当に」
「今『交換』したから、もうそれあたしのじゃないわよ」
「は?」
「あのね。オルヴァリオ。『他人から貰った高級な剣』なんて意識があったら、非常時に手元が迷うかもしれないでしょ? タダではあげられないから、交換。それはもうあんたの剣よ」
「……いや待て。釣り合うかよ。それ普通の安い、その辺で手に入る剣だろ。一緒に買ったろうが」
このリディの主張に困惑するオルヴァリオ。だが彼女は譲らなかった。
「何言ってんのよ。これは『バルセスの猛獣を何体も切り刻んだ』『オルヴァリオの剣』じゃない。こんな格好いい剣、あたしにコレクションさせなさいよ」
「!」
オルヴァリオは目をぱちくりさせた。本当に、この『上級トレジャー』を、タダ同然で譲渡するつもりなのだ。
「手入れが大変だから最初は教えるけど、後はもう知らないからね。あんたの剣だから」
「……!」
妙な屁理屈を持ち出してまで。オルヴァリオは背中がぞくぞくする感覚に襲われた。まだ何も為していない、たった一度冒険しただけの自分が。トレジャーハンターとして駆け出しも良い所の自分が。『上級トレジャー』の武器をいきなり手に入れてしまった。
「……ああ。この剣に相応しい剣士になる。ありがとな、リディ」
「ええ。期待してるわ」
リディも、にっこりと。自分のことのように嬉しそうに笑った。
「サスリカは、どう? 何か良さそうな武器は見付けた?」
続いて、リディはサスリカを見た。彼女も部屋をうろうろしながら、コレクションを眺めていたのだ。
『いえ。ワタシは武器は市販のナイフで充分です。それよりワタシは、工具なんかがあれば嬉しいです』
「工具? 釘とかハンマーとか?」
『ハイ。今のところ、機械人形は世界にワタシだけで、技師はひとりも居ません。ワタシが故障した際に直せる手段が無いのです』
「!」
「……確かにそうだよな」
人間には医者が要る。ロボットにも技師が必要なのだ。クリューはふむと頷いた。
『1万年振りに起動したので、あちこちガタが来ているのが分かります。一度全身をメンテナンスしたいのですが、ワタシの部品の規格に合う工具やスペアパーツもありませんから。このままではいずれまた、活動を停止してしまいます』
「それは急務だな。どうする?」
「市場や工務店で、使えそうな物を買いましょう。道具さえあれば、やり方は分かるの?」
『ハイ。ですがひとりではできません。皆様にご協力いただければ』
「ああ分かった。暗くなる前に行こうか」
少し、焦った。サスリカは数ヶ月、冬の間ずっと稼働していた。一度のメンテナンスも無く。金銭的に気を遣って、今まで黙っていたのだろう。
オルヴァリオが手を挙げた。
「じゃあ俺が付いていく。リディはクリューの武器を選んでやっていてくれよ」
「そうね。3人とも、今日はウチに泊まると良いわ。メイドに伝えておくから。はいお金。銃の弾とかもついでに買ってきてくれる?」
「おう」
『よろしくお願いいたします。オルヴァリオ様』
新たな剣を背中に担いだオルヴァリオと、サスリカが街へ出ていった。
オルヴァリオは、いくつか机に並べられた内のひと振りを軽く振るう。その姿はもう、『素人感』のある佇まいではなかった。バルセスでの冒険を経て、『一人前の剣士』になったのだ。
「軽いな」
「駄目? 一応『上級トレジャー』なんだけど。水を流すだけで刃溢れが治るって未知の技術の」
「それは便利だが、まだ俺の技術じゃすぐ折りそうだ」
「じゃ、こっちね。重くてあたしには扱えないけど。はい」
ひとつひとつ、リディが選ぶものを振る。
「おう。良い重厚感だな」
「振り遅れて負けたらダサいわよ?」
「だが敵を一撃で倒せる。俺にはこっちが合うと思う」
「……ま、そうね。気に入ったのならそれが縁でしょ。その剣も『上級トレジャー』。加工できないほど硬い金属で加工された、古代文明の『ただの剣』よ」
オルヴァリオは武器を決めた。これまで使っていた鉄の剣より厚く、大きいものだった。
「じゃ、この剣は交換ね」
「え?」
リディはオルヴァリオの鉄剣を、彼の新しい剣のあった場所に設置した。
「良いのか? こんな高価なもの本当に」
「今『交換』したから、もうそれあたしのじゃないわよ」
「は?」
「あのね。オルヴァリオ。『他人から貰った高級な剣』なんて意識があったら、非常時に手元が迷うかもしれないでしょ? タダではあげられないから、交換。それはもうあんたの剣よ」
「……いや待て。釣り合うかよ。それ普通の安い、その辺で手に入る剣だろ。一緒に買ったろうが」
このリディの主張に困惑するオルヴァリオ。だが彼女は譲らなかった。
「何言ってんのよ。これは『バルセスの猛獣を何体も切り刻んだ』『オルヴァリオの剣』じゃない。こんな格好いい剣、あたしにコレクションさせなさいよ」
「!」
オルヴァリオは目をぱちくりさせた。本当に、この『上級トレジャー』を、タダ同然で譲渡するつもりなのだ。
「手入れが大変だから最初は教えるけど、後はもう知らないからね。あんたの剣だから」
「……!」
妙な屁理屈を持ち出してまで。オルヴァリオは背中がぞくぞくする感覚に襲われた。まだ何も為していない、たった一度冒険しただけの自分が。トレジャーハンターとして駆け出しも良い所の自分が。『上級トレジャー』の武器をいきなり手に入れてしまった。
「……ああ。この剣に相応しい剣士になる。ありがとな、リディ」
「ええ。期待してるわ」
リディも、にっこりと。自分のことのように嬉しそうに笑った。
「サスリカは、どう? 何か良さそうな武器は見付けた?」
続いて、リディはサスリカを見た。彼女も部屋をうろうろしながら、コレクションを眺めていたのだ。
『いえ。ワタシは武器は市販のナイフで充分です。それよりワタシは、工具なんかがあれば嬉しいです』
「工具? 釘とかハンマーとか?」
『ハイ。今のところ、機械人形は世界にワタシだけで、技師はひとりも居ません。ワタシが故障した際に直せる手段が無いのです』
「!」
「……確かにそうだよな」
人間には医者が要る。ロボットにも技師が必要なのだ。クリューはふむと頷いた。
『1万年振りに起動したので、あちこちガタが来ているのが分かります。一度全身をメンテナンスしたいのですが、ワタシの部品の規格に合う工具やスペアパーツもありませんから。このままではいずれまた、活動を停止してしまいます』
「それは急務だな。どうする?」
「市場や工務店で、使えそうな物を買いましょう。道具さえあれば、やり方は分かるの?」
『ハイ。ですがひとりではできません。皆様にご協力いただければ』
「ああ分かった。暗くなる前に行こうか」
少し、焦った。サスリカは数ヶ月、冬の間ずっと稼働していた。一度のメンテナンスも無く。金銭的に気を遣って、今まで黙っていたのだろう。
オルヴァリオが手を挙げた。
「じゃあ俺が付いていく。リディはクリューの武器を選んでやっていてくれよ」
「そうね。3人とも、今日はウチに泊まると良いわ。メイドに伝えておくから。はいお金。銃の弾とかもついでに買ってきてくれる?」
「おう」
『よろしくお願いいたします。オルヴァリオ様』
新たな剣を背中に担いだオルヴァリオと、サスリカが街へ出ていった。
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