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16 行方不明
しおりを挟む夜になって、イレーヌの父クレガ子爵とトレーニ伯爵ご子息フィリップが我が家に押しかけてきた。
二人とも、どうも私がアランとの仲を邪推して彼女を攫ったのでは無いかと疑っている。
イレーヌさんのお父様と女の敵に、彼女と待ち合わせしてただけで、私がイレーヌを攫ってないことを説明した。
「それこそ、貴方の女性関係じゃありませんの?」
「くっ…、それについては調査中だ」
フィリップの目が泳ぐ。
ふう~ん、 自分でも心当たりがあるのね?
「それで、私じゃないって分かったらどう責任を取って下さいますの?」
「なんでも言うことをひとつ聞く」
「楽しみですわね」
子爵とフィリップの二人にはなんとか帰ってもらった。
二人とも納得してない様子だったが、格上の侯爵家に何の根拠もないのに、これ以上詰め寄る訳にも行かなったのだろう。
おまけにフィリップは悔しげな顔で、
「イレーヌに何かあったら、お前を許さないからな!」と、捨て台詞を残して去っていった。
――ねえ、聞いて? だから、私じゃないって!!
二人が帰ったあと、セバスが、眉をひそめながらこう言った。
「エリーゼ様、犯罪行為だけはいけません!」
――いや、だから、してないって! コラ! セバスため息つくなっ!
**
「あれ? ルー、旅行は取りやめたのかい?」
今朝も爽やかにやってきたお兄様に昨日のあらましを話す。
「本当に、ルーがやってないの?」
ワトソン君め、ニヤニヤした顔でとんでもないことを言う。
「まあ! お兄様ったらわたくしを疑ってますの?」
ルイーゼは眉をつり上げる。
「だって、ルーがアランに近づく女性にワインを浴びせたり、足を引っかけたり、つるし上げたりしたって有名だよ」
オウ、ノー。
そういえば、前世を思い出す前、アランにまとわりつく女性ムシを追い払おうとワインを持つ手にスナップかけ、ベタベタする女性めぎつねにちょっぴりつま先が伸び、愛人でも良いんですぅ~という女性もさを裏庭に呼び出し一般常識について話し合ったことがあったっけ……。
そんなことをしてれば、誘拐くらい、ああ、やりそう!って、日頃の行いよねえ……
ルイーゼは頭を抱えた。
「ふふふ、冗談だよ。ルーは直接対決派だもんね。扇で殴っても、こっそり攫ったりなんてしないよね」
そんな派閥があったとは……
なんだかあまり嬉しくない理由でエディお兄様の信頼を得た私である。
ちなみに、扇を投げつけただけで、扇で殴ったことはないんだ。ワトソン君。
「じゃあ、これから僕のお姫さまの濡れ衣を晴らさないとね」
エディお兄様はウィンクした。
時々、うちのお兄様はトビキリ格好いい。
さて、どうやってイレーヌさんを探せば良いのか?
「影を使えば良いよ」
こともなげにお兄様が言う。
おおう、侯爵家うちにそんな忍者軍団のようなものがあったんだ。
「あれ? 知らなかったの? うちの情報部隊だよ」
首をかしげる私に、お兄様が「叔父様、ルーにはまだ内緒だったのかな?」と呟く。
お兄様はセバスを呼ぶと、テキパキと指示を出す。
私はダリアさんに会って商人関係の情報収集と協力をお願いした。
「イレーヌ様のためですもの、もちろん協力するわ。でも、念のため聞くけど、攫ったの貴女じゃないわよね?」
――違います。
**
夜になってアランが家に駆け込んできた。
馬を飛ばしてきたのか、髪は乱れ息も切れている。
頬も赤みがさして不謹慎だが色っぽい。
あれ? アランにイレーヌが行方不明って連絡したっけ?
「こんなものが来たんだ」と、手に握りしめた紙を差し出した。
『 イレーヌは預かった。返して欲しくば、アラン一人で指定の場所へ来るように。
場所と日時は追って連絡する。 王都にて待て』
――皆さん、誘拐事件、発生です!!
アランは、いぶかしげに私をみつめると、こう言った。
「イレーヌを攫ったのは君?
何でも君の言うことを聞く。頼むから、彼女には手を出さないでくれ」
――アラン、お前もかっ!
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