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3-2.※(……どう、解釈すればいいんだ)
しおりを挟む「マジで、上手いね…」
「そう?」
「先週もだけど、オレ、フェラでイけると思ってなかった。これできるの、ふーちゃんだけだよ。そもそも女の子の前でイったことなかったし」
「言ってたね。こんな優良物件、手放す女いるんだ」
「優良物件?」
社内ですれ違うことはあっても、まともに話すのは今日が二回目だ。基本、楓羽は禅からの質問攻めに遭っているし、楓羽にも言いたいことはあるのだろう。
「ぜんくんって不感じゃないから、ちゃんと刺激すればイけるでしょ? 背も高くて顔も整ってて、引き抜かれるほどの仕事人、普通は一生繋ぎ止めておきたいんじゃない」
「へえ」
「響いてないね」
「現実味がないからね、ずっと振られ続けてるし」
「可愛い顔に、サイズが見合わないって?」
「…まあ、そんな感じ」
禅と楓羽の関係は、セフレだ。「そんなにはっきり口に出さなくても」と思っても、楓羽にメンタルケアまで求めるのは違う。求めすぎて、捨てられるほうが堪える。
「悪く言いたいわけじゃないけど…、相手にも問題あったんじゃない? 一回目がダメでも、何回かトライしてゆっくり慣らせばできるようになる。私だって最初からこうだったわけじゃないし。好きな人とセックスしたいなら、工夫も忍耐も要るよ」
「ん、そうだろうね」
何度も考えたことがある。行為ができず気まずくなって別れるのは、禅だけの責任ではないと。それでも、平均的な大きさなら、どの元交際相手とも関係を続けられたのかもしれない。結果的に、今は楓羽がいるけど。
楓羽と初めてホテルに入った先週の今日、もし上手くできなくても特別凹みはしなかったと思う。「いつものことだから、気にしないで」と伝えて、ゆっくり添い寝していただろう。付き合っていないから、大きなショックを受けずにそれができたはず。
今の楓羽の言葉を聞けば、もしできなくても、二回目のホテルはあったのかもしれない。楓羽が、できるように導いてくれただろう。今までずっと、行為が上手くいかないのは禅の凶悪的なサイズのせいだと、元交際相手みんなに同じように責められて、その通りだと納得していた。禅を認める考え方をする女の子は、楓羽が初めてだった。
「あと…、あんまりイきすぎると、ナカが締まるらしいよ」
「え?」
「ぜんくん、すごく尽くすでしょ。前戯でイかせてたんなら、締まって入りにくかったのもあるのかなって」
「…それは、何のアドバイス? オレが、ふーちゃん以外とすることあるの?」
「あるでしょ、セフレだもん」
すぐに、言葉が出てこなかった。分かっているつもりだった。楓羽にとっては、禅はただの性欲処理の相手で、その一時でも禅が必要とすれば、それで楓羽は満たされる。
「ねえ、ここどんな感じ?」
少し会話を挟んだにも関わらず、未だ落ち着かず軽く勃ったままの逸物に、手を這わされる。楓羽の細い親指が、出口に触れる。
「っ、ダメ、もうイったよ…!」
禅の言葉は無視され、再度しゃがんだ楓羽にさらっと咥えられ、出口を舌がつついてくる。
「はあっ……」
「バキバキになった」
「……マジでヤバい。ふーちゃん、後悔しない?」
「なにに?」
「もうちょっと奥まで、がんばれそ?」
「ん…」
線引きしているのだと思っていたけど、言葉にしてみると断られず、楓羽がより奥まで咥えてくれた。その動きに合わせて、腰を揺らす。突きすぎないように気をつけるものの、強めてしまう。心配しているのに、快感を追うのを止められない。
「んっ…、っ、うっ」
「ごめん、もうちょっと…」
「んん…」
楓羽の頭を手で押し付け抽送し、さっきのと合わせて二回とも、口で果ててしまった。出し切ったあと、当然のように濁液を飲み込んだ楓羽はやはり苦しかったのだろう、涙目だった。顔を両手で包み唇を吸うと、笑ってくれた。
「私でイってくれるの、嬉しいからいいんだよ、そんな顔しなくても。キスも、無理にしなくていい。味、嫌いでしょ」
「そう…?」
「うん。したいときは、言って」
ベッドで上手くいかなかった禅でも、楓羽となら複数回吐き出せる。楓羽と、身体の相性は最高に良いと、認めるしかなかった。
◇
シャワーをして戻ると、楓羽はソファ代わりにベッドの縁に座って後ろに倒れたのだろう、寝転んでいるものの、膝から下はベッドの外で折られていた。禅の家に連れ込んで、気を張るかと思っていたけど、やはり慣れている。くつろげるなら何よりだ。
「ぜんくん、私に会いたかった?」
「会いたかった?」
意図が分からず、そのまま聞き返した。ペットボトルから一口飲んだあと、隣に寝転ぶ。
「抜いて欲しかった?」
「あー、抜くのはどっちでもよかった。添い寝して欲しいとは思ってた」
「ふーん」
本心だ。二回も抜いてもらったあとで、説得力がないのも分かっている。
「先週、めちゃくちゃ疲れ取れたんだよ。一応寝れなくはないんだけど、ふーちゃんとは圧倒的に寝やすかった」
「抜けば寝れるの? 運動?」
「いや、ふわふわしててあったかいのがいいんだと思う」
「太ってるって言いたいの?」
「違うよ、ふーちゃんがオレ好みの身体してるってこと。こう、収まってるのがいい」
楓羽の身体を引き寄せる。腕の中に楓羽がいると、痩せすぎず太すぎず、大抵の男が好きそうな柔らかい身体を全身で感じられる。行為のときの相性はいいし、その最中でなくても心地良い。楓羽の言う通り吐精できていることも、睡眠と無関係ではないと思うけど、口に出して認めたくはなかった。
抱き締めて顔が見えないから、少し楓羽を探ってみようと思った。楓羽は生理中で、脱ぐことはない。ホテルよりずっと、ピロートークに割ける時間がある。
「ふーちゃんは、なんでそんなにえっち好きなの。セフレで構わないんでしょ?」
「んー、なんて言ったらいいのかな。リアルで会う人たちは、誰も地味な私に目もくれない。通り過ぎるだけ、背景の一部みたいな。でもネットで会う人は、マッチングした時点で私を認識してくれてる。求めてくれる。認められない世界から逃げられる」
(……?)
ゆっくり、咀嚼するしかない。楓羽とは、性に関して共通の価値観を持っていないのだから。
確かに、楓羽は見た目も落ち着いているし、積極的に話すタイプでもない。オフィスの壁際で淡々と仕事を処理しているのも、禅のイメージ通りだった。入社してひと月程度だとしても、休憩室で会うまでは存在に気付いていなかった。
「…オレは?」
「ほぼ当てはまるよ。会社ですれ違っても挨拶程度、周りから見ても何も思われないだろうし。こうやってふたりになったときだけ、見てくれる。昔から知ってる人なのも大きいかな」
おそらく、小学校の同級生だったからこの関係になったけど、そうでなければ会話すらしていなかった。あの休憩室で偶然会わなければ、楓羽は他の誰かに抱かれようとして、アプリを彷徨ったのだろう。
「じゃあ、セフレと彼氏の違いって何だったの」
「リアルで知り合ってたかどうか、かな。あとはホテル行くまでにご飯とか買い物だけのデートが何回かあったとか。あ、分かりやすく告白があったかどうかかも」
「そっか」
どうやらその線引きは、楓羽にも不確かなようだった。
(……どう、解釈すればいいんだ)
回した腕に力が入る。一体、禅と関わらなくなってから、何を見てどう感じて、そんな価値観になったのだろう。楓羽は禅の腕から逃げようとはしない。嫌われてはいないと、思っていいのだろうか。
◇
翌朝、楓羽は旅行用のスキンケア用品や生理用ナプキン、さらに洗濯物の下着を、禅の家に置いて帰った。これからも、ホテルに行かない日は自宅に泊まってくれるのが分かって、動悸を感じつつ洗い方を調べ、楓羽の私物を入れるためのカゴをひとつ、注文した。「生理以外の日でも、泊まっていいのに」とは、言えなかった。
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