上 下
79 / 103
6.未来に向けて

10.国王夫妻の夜 3

しおりを挟む
「…チャールズ」

 今日のチャールズは、エリザベスの方を向いてくれた。何か、気持ちの切り替えができたのだろうか。黙って待っていると、目を合わせてはくれないチャールズが教えてくれた。

「…ルークの、記録魔術を見た。私の想像を超えていた。頭が上がらない。立場上、そうも言っていられないが、私が許容できないことをやらせてしまった」
「ルークにもミアにも、そんな考えはないと思うけど」
「それを分かっていても、まだ区切りをつけられない」

 チャールズは公私の切り替えを上手くやれる、歴代でも誇れるセントレ王国国王だと、エリザベスはずっと思っていた。その職を生まれつき背負うチャールズを少しでも支えたくて、顔を見せてもらえなくてもそばに居続けた。

 オッドアイ魔術師の番が結婚してすぐのころは、ルークのミアへの反応を見て、大笑いしていた。あれは、国王の姿では見ないもので、私的な空間にいるときのチャールズだ。これから起こることを予知で先に見てしまうチャールズは、そうすることでしかあのふたりを直視する手段がなかった。

 だから、その予知を実現させた今、結果として残ってしまったその任務に、笑って発散できるような余裕もなく、切り替えの希望を記録魔術に託したものの、それすら上手くいかなかったのだ。

 今、エリザベスの目の前にいるチャールズは、国王ではない。私情の部分だけど、それでも公に出てしまえば、国王として立たなければならない。

 国王として、ルークに褒賞で国家への貢献を認めることはできても、友人からの感謝とは、受け取ってもらえないだろう。だって、チャールズは国王なのだから。

 チャールズの予知は、チャールズの意思とは関係がない。見たい未来を見れるものではないからこそややこしく、思い悩むことになる。少し、チャールズがルークという親友に、囚われすぎているような気もした。

「…今日、ミアは泣いていたの」
「何かあったのか」

 ミアのことは、結局ルークに繋がってしまうけれど、今辛いのはチャールズだけではないのが伝わるだろうか。チャールズに話しながら、ルークが迎えに来たときのミアの様子を思い出す。それから、ミアを見て驚いていた、ルークの表情も。

 衛兵から見えてしまう廊下だったのに、ルークの動揺ははっきりと見て取れた。きっと、ミアが思っていたことなんて、想像もしていなかったのだろう。

「それでも、今日は記録魔術を見たんだぞ?」
「それを知らずに、待たされるのも辛いの。この一年、ずっとルークと一緒に、今年二十歳の子が頑張ってきたの。帰ってきてゆっくりふたりの時間を過ごしていたかと思えば、急に呼び出されて、あのミアの様子だとルークはかなり緊張していたんじゃない? ルークのことを想うなら、ミアのことも気遣ってあげて」
「…善処する」

 それなら、と、ここぞとばかりに言葉を続ける。

「また五人で食事会を開いては? ルークの様子も、私も直接見たい」
「分かった、明日手配しよう」

 エリザベスは、チャールズの性格をよく分かったうえで、自身の希望を伝えている。チャールズが断らない自信があった。だって、こうやってあのオッドアイ魔術師ふたりを支えることは、国を支えることでもあり、チャールズを支えることにも繋がるから。

(それが、王妃としての私の役目でしょう?)

 王宮に住むようになってすぐのころは、実家であるゴードン家を懐かしく思うこともたくさんあった。使用人たちは皆顔馴染で、特別緊張することもなかったけど、今日のミアが感じていた疎外感や、対等に話せる人がいないことなど、慣れるまでは大変だったのだ。

 それを知ってか知らずか、チャールズが心を砕いてくれたことも理解している。エリザベスを王妃にすると予知で見えていたとしても、現実にするにはそれなりに手順を踏んだはずだ。その仕掛けに、エリザベスは堕とされてしまった。後悔はしていないし、その経験があるから今、こうして隣にいてあげられる。そのときのチャールズを知っているぶん、今回の余裕の無さにはこれでも驚いているのだ。

 ルークとミアが、エスト王国で受けたことを、言葉としては聞いていて、確かに命令したチャールズには辛いことではある。エリザベスは、その記録魔術を見ようとは思わない。

 ふたりとも、チャールズに恨みなんて持っていない。チャールズも、分かっているはず。どうしたら、その肩の荷を下ろしてあげられるのだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

『番外編』イケメン彼氏は警察官!初めてのお酒に私の記憶はどこに!?

すずなり。
恋愛
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の身は持たない!?の番外編です。 ある日、美都の元に届いた『同窓会』のご案内。もう目が治ってる美都は参加することに決めた。 要「これ・・・酒が出ると思うけど飲むなよ?」 そう要に言われてたけど、渡されたグラスに口をつける美都。それが『酒』だと気づいたころにはもうだいぶ廻っていて・・・。 要「今日はやたら素直だな・・・。」 美都「早くっ・・入れて欲しいっ・・!あぁっ・・!」 いつもとは違う、乱れた夜に・・・・・。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんら関係ありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...