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6.未来に向けて
10.国王夫妻の夜 3
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「…チャールズ」
今日のチャールズは、エリザベスの方を向いてくれた。何か、気持ちの切り替えができたのだろうか。黙って待っていると、目を合わせてはくれないチャールズが教えてくれた。
「…ルークの、記録魔術を見た。私の想像を超えていた。頭が上がらない。立場上、そうも言っていられないが、私が許容できないことをやらせてしまった」
「ルークにもミアにも、そんな考えはないと思うけど」
「それを分かっていても、まだ区切りをつけられない」
チャールズは公私の切り替えを上手くやれる、歴代でも誇れるセントレ王国国王だと、エリザベスはずっと思っていた。その職を生まれつき背負うチャールズを少しでも支えたくて、顔を見せてもらえなくてもそばに居続けた。
オッドアイ魔術師の番が結婚してすぐのころは、ルークのミアへの反応を見て、大笑いしていた。あれは、国王の姿では見ないもので、私的な空間にいるときのチャールズだ。これから起こることを予知で先に見てしまうチャールズは、そうすることでしかあのふたりを直視する手段がなかった。
だから、その予知を実現させた今、結果として残ってしまったその任務に、笑って発散できるような余裕もなく、切り替えの希望を記録魔術に託したものの、それすら上手くいかなかったのだ。
今、エリザベスの目の前にいるチャールズは、国王ではない。私情の部分だけど、それでも公に出てしまえば、国王として立たなければならない。
国王として、ルークに褒賞で国家への貢献を認めることはできても、友人からの感謝とは、受け取ってもらえないだろう。だって、チャールズは国王なのだから。
チャールズの予知は、チャールズの意思とは関係がない。見たい未来を見れるものではないからこそややこしく、思い悩むことになる。少し、チャールズがルークという親友に、囚われすぎているような気もした。
「…今日、ミアは泣いていたの」
「何かあったのか」
ミアのことは、結局ルークに繋がってしまうけれど、今辛いのはチャールズだけではないのが伝わるだろうか。チャールズに話しながら、ルークが迎えに来たときのミアの様子を思い出す。それから、ミアを見て驚いていた、ルークの表情も。
衛兵から見えてしまう廊下だったのに、ルークの動揺ははっきりと見て取れた。きっと、ミアが思っていたことなんて、想像もしていなかったのだろう。
「それでも、今日は記録魔術を見たんだぞ?」
「それを知らずに、待たされるのも辛いの。この一年、ずっとルークと一緒に、今年二十歳の子が頑張ってきたの。帰ってきてゆっくりふたりの時間を過ごしていたかと思えば、急に呼び出されて、あのミアの様子だとルークはかなり緊張していたんじゃない? ルークのことを想うなら、ミアのことも気遣ってあげて」
「…善処する」
それなら、と、ここぞとばかりに言葉を続ける。
「また五人で食事会を開いては? ルークの様子も、私も直接見たい」
「分かった、明日手配しよう」
エリザベスは、チャールズの性格をよく分かったうえで、自身の希望を伝えている。チャールズが断らない自信があった。だって、こうやってあのオッドアイ魔術師ふたりを支えることは、国を支えることでもあり、チャールズを支えることにも繋がるから。
(それが、王妃としての私の役目でしょう?)
王宮に住むようになってすぐのころは、実家であるゴードン家を懐かしく思うこともたくさんあった。使用人たちは皆顔馴染で、特別緊張することもなかったけど、今日のミアが感じていた疎外感や、対等に話せる人がいないことなど、慣れるまでは大変だったのだ。
それを知ってか知らずか、チャールズが心を砕いてくれたことも理解している。エリザベスを王妃にすると予知で見えていたとしても、現実にするにはそれなりに手順を踏んだはずだ。その仕掛けに、エリザベスは堕とされてしまった。後悔はしていないし、その経験があるから今、こうして隣にいてあげられる。そのときのチャールズを知っているぶん、今回の余裕の無さにはこれでも驚いているのだ。
ルークとミアが、エスト王国で受けたことを、言葉としては聞いていて、確かに命令したチャールズには辛いことではある。エリザベスは、その記録魔術を見ようとは思わない。
ふたりとも、チャールズに恨みなんて持っていない。チャールズも、分かっているはず。どうしたら、その肩の荷を下ろしてあげられるのだろう。
今日のチャールズは、エリザベスの方を向いてくれた。何か、気持ちの切り替えができたのだろうか。黙って待っていると、目を合わせてはくれないチャールズが教えてくれた。
「…ルークの、記録魔術を見た。私の想像を超えていた。頭が上がらない。立場上、そうも言っていられないが、私が許容できないことをやらせてしまった」
「ルークにもミアにも、そんな考えはないと思うけど」
「それを分かっていても、まだ区切りをつけられない」
チャールズは公私の切り替えを上手くやれる、歴代でも誇れるセントレ王国国王だと、エリザベスはずっと思っていた。その職を生まれつき背負うチャールズを少しでも支えたくて、顔を見せてもらえなくてもそばに居続けた。
オッドアイ魔術師の番が結婚してすぐのころは、ルークのミアへの反応を見て、大笑いしていた。あれは、国王の姿では見ないもので、私的な空間にいるときのチャールズだ。これから起こることを予知で先に見てしまうチャールズは、そうすることでしかあのふたりを直視する手段がなかった。
だから、その予知を実現させた今、結果として残ってしまったその任務に、笑って発散できるような余裕もなく、切り替えの希望を記録魔術に託したものの、それすら上手くいかなかったのだ。
今、エリザベスの目の前にいるチャールズは、国王ではない。私情の部分だけど、それでも公に出てしまえば、国王として立たなければならない。
国王として、ルークに褒賞で国家への貢献を認めることはできても、友人からの感謝とは、受け取ってもらえないだろう。だって、チャールズは国王なのだから。
チャールズの予知は、チャールズの意思とは関係がない。見たい未来を見れるものではないからこそややこしく、思い悩むことになる。少し、チャールズがルークという親友に、囚われすぎているような気もした。
「…今日、ミアは泣いていたの」
「何かあったのか」
ミアのことは、結局ルークに繋がってしまうけれど、今辛いのはチャールズだけではないのが伝わるだろうか。チャールズに話しながら、ルークが迎えに来たときのミアの様子を思い出す。それから、ミアを見て驚いていた、ルークの表情も。
衛兵から見えてしまう廊下だったのに、ルークの動揺ははっきりと見て取れた。きっと、ミアが思っていたことなんて、想像もしていなかったのだろう。
「それでも、今日は記録魔術を見たんだぞ?」
「それを知らずに、待たされるのも辛いの。この一年、ずっとルークと一緒に、今年二十歳の子が頑張ってきたの。帰ってきてゆっくりふたりの時間を過ごしていたかと思えば、急に呼び出されて、あのミアの様子だとルークはかなり緊張していたんじゃない? ルークのことを想うなら、ミアのことも気遣ってあげて」
「…善処する」
それなら、と、ここぞとばかりに言葉を続ける。
「また五人で食事会を開いては? ルークの様子も、私も直接見たい」
「分かった、明日手配しよう」
エリザベスは、チャールズの性格をよく分かったうえで、自身の希望を伝えている。チャールズが断らない自信があった。だって、こうやってあのオッドアイ魔術師ふたりを支えることは、国を支えることでもあり、チャールズを支えることにも繋がるから。
(それが、王妃としての私の役目でしょう?)
王宮に住むようになってすぐのころは、実家であるゴードン家を懐かしく思うこともたくさんあった。使用人たちは皆顔馴染で、特別緊張することもなかったけど、今日のミアが感じていた疎外感や、対等に話せる人がいないことなど、慣れるまでは大変だったのだ。
それを知ってか知らずか、チャールズが心を砕いてくれたことも理解している。エリザベスを王妃にすると予知で見えていたとしても、現実にするにはそれなりに手順を踏んだはずだ。その仕掛けに、エリザベスは堕とされてしまった。後悔はしていないし、その経験があるから今、こうして隣にいてあげられる。そのときのチャールズを知っているぶん、今回の余裕の無さにはこれでも驚いているのだ。
ルークとミアが、エスト王国で受けたことを、言葉としては聞いていて、確かに命令したチャールズには辛いことではある。エリザベスは、その記録魔術を見ようとは思わない。
ふたりとも、チャールズに恨みなんて持っていない。チャールズも、分かっているはず。どうしたら、その肩の荷を下ろしてあげられるのだろう。
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