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Stage1_D

ショウカクシケン_コウ_1

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 「僕、実川さんがどうなろうと知ったことじゃないんですよ。……ただ、奥さんとお子さんはね。心配ですけどね」
「あ……あぁぁ……!」

 死んだ魚のような目をしていた実川の瞳に光が宿った。彼には妻と息子と娘が一人ずつがおり、特に娘を溺愛していた。

「娘さん、可愛い盛りですよね。3歳、でしたっけ?」
「お、前……む、むすめ、には……」

 実川は改を睨みつけた。しかし、改は涼しい顔をしている。

「イヤイヤ期があっても、まだまだ言うこと聞いてくれますもんね? ……言うこと聞かなくなったら、奥さんや息子さんみたいに、暴力と暴言でねじ伏せるんですか?」
「なっ……」

 嘉壱が部下に調べさせた結果、実川は仕事で荒れているだけではなく、家庭内でも難ありの人間だった。俗に言う【モラハラ】や【DV】を行っていたらしく、子どもを守りたいがゆえに従順に過ごしている妻と、物心ついて反抗も主張もできるようになった息子が、主だった被害者だった。娘を溺愛しているのは本当で、元々女の子を希望していた実川にとって、その存在は特別だった。反対に息子の存在はどうでも良いもので、小さな傷や痣をそのまだ幼い身体に抱えていた。
 仕事と家庭で横暴な態度に出る実川は『自分より上』だと認識した相手に対してのみ、物腰柔らかで気の利く男だった。反対に『自分より下』だと認識した場合は、同じように横暴な態度をとった。それは外出時や友人間でも同じことで、よく店に対してクレームもつけている。自分に有益だと思う相手にも猫を被っているが、利用した後はゴミのように捨てるか、もっと頑張らせるために煽てていった。

 ……こんな男と、なぜ結婚したのかと、多くの人は疑問に思うかもしれない。結婚し子供を産むまでは、妻は実川にとって【自分に有益だと思う相手】だったのだ。しかし、息子が生まれたことで実川の中で妻は自分より下の相手に成り下がり、男の子である息子は不要だった。妻を道具としてなんとか娘を産ませた後、その娘だけを可愛がっている。
 妻と息子はそれでも必死に毎日を過ごしていたが、擦り切れて消え果た愛情と、傷ついて壊れた心はもうどうにもならなかったらしい。

 恐ろしいのはこれを実川は当たり前のことだと思って、一切疑問に思っていないということだった。会社でのパワハラは何度か通達と指導が入ったようだが、会社自体がブラックで形式的な物のみだったためか気にも留めなかった。モラハラとDVに関しては、最初のうちは妻が窘めたり話し合いの場を設けたり、時には反抗もしていたが、その度に酷くなるためとっくに諦めていた。

 ――妻の実家や自分の実家の人間の前では一切行わず、妻の友人の前でも【素敵な旦那さん】であり【素敵なお父さん】で通っていた。外面良く自分を守り愛することを実川は知っていた。

 幸いだったのは、こんな父親がいても息子と娘は真っ直ぐ育ったことだろうか。母を見下すことなく、娘を疎むこともなく、愛情をもってお互いに接している。

 『ダークヒーローなんかになるつもりはなかった』が、実川のその行いを嘉壱から聞き、できあがった資料を読んだ改の心は冷え切っていた。

「なんで離婚しないのかな? って思ったんですけど、奥さん正社員で働いていたのに、アナタの意志でパートにしたみたいですね? 本当は、専業主婦にさせたかったとか。……奥さん、仕事してなかったら、収入ないから二人の子を引き取るの難しそうですもんね……。シェルターに入ったり通報しなかったのは、子どものためを思ってか、それともアナタが怖かったからか……」
「う、るさい……」
「ま、それももう過去の話になるんですよね。アナタは死ぬから家族は解放される。恨みが残るかもしれないけど、どっかで野垂れ死ぬみたいな扱いになりますし、保険には入っているみたいだから保険金は残るし、家のローンもチャラかな? 家族への最後のプレゼント、なかなか良いモノ残すじゃないですか」
「し、ね、シネシネシネシネ灰根……!!」
「はぁ。これだけ汚れてたら、もっと汚れても良いよね、別に。ごめんね、誰か代わりにルーレット回してくれないかな? いちいち戻るのが不便で」

 三人いたうちの一人がその役をかって出てくれた。ルーレットを回して、止まったのは足首。

「この串、いっぱいあったんですよね。みんな、バーベキュー好きなのかな? せっかくたくさんあるんだから、有効活用しないと」
「な、なに……? なぁ、っ……」
「足首って、骨大きいから上手く刺さないといけないよね。 ひゃあ、難しい」
「ひっ、や、あ、やめ……ぅあぁぁぁぁぁぁぁ――!!」

 改は左足首に串を刺した。長い串はズブズブと奥まで入り込んでいく。

「あ、引っかかった。これ骨? ずらせばいけるかな?」
「や、やべで……!! っがあぁぁぁぁぁ――!!」

 少し串を引いてみたり、肉の中で角度を変えてみたりして、ようやく一本目の串が足首を貫通して反対側にその先端を見せた。傷口は汚くなっており、何度もやり方を変えたせいか穴も広がっていている。

「意外と難しいなぁ」
「うー……うぅぅ――……」
「次のルーレットお願いします!」
「も……やめ……」
「――次は頬、か」
「た、たのむ……やめ……」
「貫通できそうですね、両頬」
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