30 / 56
Stage1_C
ウイジンキネン_ゼン_2
しおりを挟む
突然の嘉壱からの指名に、思わず改はたじろいだ。まだ、一度もマイクをオンにして喋ったことはない。司会どころか、司会のサポートさえしたことがなかった。ただ独り言を呟いては、モニタに向かってオーバーリアクションをしていただけである。
「声が出ないとなると、仕事のできない期間が長引くことになるかもしれない。そうすると、丙やもがなの負担が大きくなってしまう」
「それは、確かに……」
「他のチームに救援要請しても良いが、せっかく、戦力としての改君がいるんだ。ここは任せてみたいと思ってね」
「僕が、ついに、司会……」
「りんごの持っていた仕事は、一対一の対決だ。早く決着のつくことも多いし、追う人間は二人だけ。比較的司会は簡単な部類に入る」
「で、でも……いきなり……大丈夫でしょうか……」
「むしろ、幸運だと思ってもらって良い。一対一は、行われる数が今少ないんだ。それに、お互いの標的がお互いだからね。他に邪魔も入らないし、カメラの台数と動きも少ないから、分かり易いと思うんだ」
嘉壱の言葉に、改はグッと唾を飲み込んだ。……正直、不安しかないと改は思っていた。自分の言葉で、人の生死を観客に伝えるのだ。その過程も、結果も、全部。それがすべて、Angeliesの評価へと繋がり、今後の活動へも影響してくることは、よくよくわかっていた。自分の失敗が、Angelies全体の失敗になってはいけない。
「今回は、直前にはなってしまうが、新人投入を宣伝したいと思う」
「あー、観客のみんなも、新人なら割と大目に見てくれるよね」
「改君も、なんとなく気が付いているとは思うが、司会によって観客の性別や年齢層、掛け金や人数が変わることもあってね。盛り上げるために、新人に次も頑張ろうと思ってもらうために、見に来てくれるお客さんもいるんだよ」
「そうなんですか……」
「……そうだね、嘉壱君の言う通り、今回のゲームで司会デビューするのは悪くない案だと私も思うよ。習うより慣れろ。それに、失敗して当たり前だと思って挑めば良い。なにかあれば、私ともがなちゃんでバックアップするからね」
「丙さんの言う通りです~。私たちもお手伝いしますから、一緒に頑張りましょう~?」
いつも一緒に仕事をしている先輩が、そう言ってくれているんだ――。改は覚悟を決めた。
「わかりました! やります! 僕に、やらせてください!」
多少の勢いはあったものの、改はりんごの分の司会をすることを決めた。
「……そうだ。前に話したコードネームは決まったかい?」
「あ、はい。その、【グレイ】にしようかと……」
「なるほど。君の苗字が灰根だからかな?」
「はい、そうです。この部屋の皆さん結構、ご自分の名前文字ってますよね……?」
「確かに。丙は【バニィ】でりんごは【リンリン】、もがなは【ペシェ】だから、言う通り文字っているよ」
「そのほうが、すんなり呼んだり、馴染むことができるのかなと思いまして……。あんまり、違和感のないものを、と。僕はグレイにしました」
「良いじゃないかグレイ! うんうん、改ちゃんに似合っていると思うよ! ちょっとクールなイメージが付きそうだね」
「うふふ。私も良いと思います~。分かり易いし、うっかり外で呼んでしまっても、お互い恥ずかしくなさそうですし~?」
「それじゃあ、改君のゲーム時の名前はグレイで登録しておこう。この部屋の中以外でも、使う場面や人が出てくるかもしれないからね」
安直だと改は思っていたが、予想外にみんなが受け入れたことに少し驚く。りんごがいたら『くだらない』だとか『簡単すぎ』などと言われた気もするが、彼女が休みの今日はそんなこともなく、少しの寂しさも感じていた。
「丙、改君に少し今回のゲームの説明をしておいてもらえるかな。機材の使用は、丙ともがなの二人で随時行ってほしい。俺は事前告知の連絡を入れに行ってくる」
「あぁ、わかった。……さぁ改ちゃん。楽しいゲームにしようじゃあないか」
「そうですよ~。初めての司会、上手くできるかより楽しめるかのほうが、大事だと思いますし~」
「もがなちゃんの言う通りだ。畏まらなくて良い。難しく考えなくて良い。今までと変わらずにやっていれば、なんとなく段々と掴めてくるものさ」
「そうですよぉ~。リラックスしてやりましょう~?」
「は、はいっ……!」
思わず声の裏返った改を見て、丙ともがなは優しく笑った。
――そして、ゲーム開始十分前。
「改ちゃん、トイレには行ったかい?」
「は、はい! いっ、行きました……!」
「めちゃくちゃ緊張してませんか~?」
「も、もうあと十分で始まるんだと思ったら、勝手に心臓がドクドク言い始めて、喉もカラカラで手も震えていて……」
「あらら。なんかの禁断症状みたいになってるな? そんなに緊張しなくて良いからね。――見てごらん。嘉壱君がちゃんと、告知を入れてくれたみたいだよ?」
早めにつけたモニタには、今回のゲームの会場と参加者、そしてオッズと共に、新人司会者が登場する旨がテロップで流れていた。それを見ただろう観客のコメントは、娯楽としてデスゲームを楽しんでいる人たちとは思えないくらい優しさで溢れたものだった。
「声が出ないとなると、仕事のできない期間が長引くことになるかもしれない。そうすると、丙やもがなの負担が大きくなってしまう」
「それは、確かに……」
「他のチームに救援要請しても良いが、せっかく、戦力としての改君がいるんだ。ここは任せてみたいと思ってね」
「僕が、ついに、司会……」
「りんごの持っていた仕事は、一対一の対決だ。早く決着のつくことも多いし、追う人間は二人だけ。比較的司会は簡単な部類に入る」
「で、でも……いきなり……大丈夫でしょうか……」
「むしろ、幸運だと思ってもらって良い。一対一は、行われる数が今少ないんだ。それに、お互いの標的がお互いだからね。他に邪魔も入らないし、カメラの台数と動きも少ないから、分かり易いと思うんだ」
嘉壱の言葉に、改はグッと唾を飲み込んだ。……正直、不安しかないと改は思っていた。自分の言葉で、人の生死を観客に伝えるのだ。その過程も、結果も、全部。それがすべて、Angeliesの評価へと繋がり、今後の活動へも影響してくることは、よくよくわかっていた。自分の失敗が、Angelies全体の失敗になってはいけない。
「今回は、直前にはなってしまうが、新人投入を宣伝したいと思う」
「あー、観客のみんなも、新人なら割と大目に見てくれるよね」
「改君も、なんとなく気が付いているとは思うが、司会によって観客の性別や年齢層、掛け金や人数が変わることもあってね。盛り上げるために、新人に次も頑張ろうと思ってもらうために、見に来てくれるお客さんもいるんだよ」
「そうなんですか……」
「……そうだね、嘉壱君の言う通り、今回のゲームで司会デビューするのは悪くない案だと私も思うよ。習うより慣れろ。それに、失敗して当たり前だと思って挑めば良い。なにかあれば、私ともがなちゃんでバックアップするからね」
「丙さんの言う通りです~。私たちもお手伝いしますから、一緒に頑張りましょう~?」
いつも一緒に仕事をしている先輩が、そう言ってくれているんだ――。改は覚悟を決めた。
「わかりました! やります! 僕に、やらせてください!」
多少の勢いはあったものの、改はりんごの分の司会をすることを決めた。
「……そうだ。前に話したコードネームは決まったかい?」
「あ、はい。その、【グレイ】にしようかと……」
「なるほど。君の苗字が灰根だからかな?」
「はい、そうです。この部屋の皆さん結構、ご自分の名前文字ってますよね……?」
「確かに。丙は【バニィ】でりんごは【リンリン】、もがなは【ペシェ】だから、言う通り文字っているよ」
「そのほうが、すんなり呼んだり、馴染むことができるのかなと思いまして……。あんまり、違和感のないものを、と。僕はグレイにしました」
「良いじゃないかグレイ! うんうん、改ちゃんに似合っていると思うよ! ちょっとクールなイメージが付きそうだね」
「うふふ。私も良いと思います~。分かり易いし、うっかり外で呼んでしまっても、お互い恥ずかしくなさそうですし~?」
「それじゃあ、改君のゲーム時の名前はグレイで登録しておこう。この部屋の中以外でも、使う場面や人が出てくるかもしれないからね」
安直だと改は思っていたが、予想外にみんなが受け入れたことに少し驚く。りんごがいたら『くだらない』だとか『簡単すぎ』などと言われた気もするが、彼女が休みの今日はそんなこともなく、少しの寂しさも感じていた。
「丙、改君に少し今回のゲームの説明をしておいてもらえるかな。機材の使用は、丙ともがなの二人で随時行ってほしい。俺は事前告知の連絡を入れに行ってくる」
「あぁ、わかった。……さぁ改ちゃん。楽しいゲームにしようじゃあないか」
「そうですよ~。初めての司会、上手くできるかより楽しめるかのほうが、大事だと思いますし~」
「もがなちゃんの言う通りだ。畏まらなくて良い。難しく考えなくて良い。今までと変わらずにやっていれば、なんとなく段々と掴めてくるものさ」
「そうですよぉ~。リラックスしてやりましょう~?」
「は、はいっ……!」
思わず声の裏返った改を見て、丙ともがなは優しく笑った。
――そして、ゲーム開始十分前。
「改ちゃん、トイレには行ったかい?」
「は、はい! いっ、行きました……!」
「めちゃくちゃ緊張してませんか~?」
「も、もうあと十分で始まるんだと思ったら、勝手に心臓がドクドク言い始めて、喉もカラカラで手も震えていて……」
「あらら。なんかの禁断症状みたいになってるな? そんなに緊張しなくて良いからね。――見てごらん。嘉壱君がちゃんと、告知を入れてくれたみたいだよ?」
早めにつけたモニタには、今回のゲームの会場と参加者、そしてオッズと共に、新人司会者が登場する旨がテロップで流れていた。それを見ただろう観客のコメントは、娯楽としてデスゲームを楽しんでいる人たちとは思えないくらい優しさで溢れたものだった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
すべて実話
さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。
友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。
長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる