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Stage1_C

ウイジンキネン_ゼン_2

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 突然の嘉壱からの指名に、思わず改はたじろいだ。まだ、一度もマイクをオンにして喋ったことはない。司会どころか、司会のサポートさえしたことがなかった。ただ独り言を呟いては、モニタに向かってオーバーリアクションをしていただけである。

「声が出ないとなると、仕事のできない期間が長引くことになるかもしれない。そうすると、丙やもがなの負担が大きくなってしまう」
「それは、確かに……」
「他のチームに救援要請しても良いが、せっかく、戦力としての改君がいるんだ。ここは任せてみたいと思ってね」
「僕が、ついに、司会……」
「りんごの持っていた仕事は、一対一の対決だ。早く決着のつくことも多いし、追う人間は二人だけ。比較的司会は簡単な部類に入る」
「で、でも……いきなり……大丈夫でしょうか……」
「むしろ、幸運だと思ってもらって良い。一対一は、行われる数が今少ないんだ。それに、お互いの標的がお互いだからね。他に邪魔も入らないし、カメラの台数と動きも少ないから、分かり易いと思うんだ」

 嘉壱の言葉に、改はグッと唾を飲み込んだ。……正直、不安しかないと改は思っていた。自分の言葉で、人の生死を観客に伝えるのだ。その過程も、結果も、全部。それがすべて、Angeliesの評価へと繋がり、今後の活動へも影響してくることは、よくよくわかっていた。自分の失敗が、Angelies全体の失敗になってはいけない。

「今回は、直前にはなってしまうが、新人投入を宣伝したいと思う」
「あー、観客のみんなも、新人なら割と大目に見てくれるよね」
「改君も、なんとなく気が付いているとは思うが、司会によって観客の性別や年齢層、掛け金や人数が変わることもあってね。盛り上げるために、新人に次も頑張ろうと思ってもらうために、見に来てくれるお客さんもいるんだよ」
「そうなんですか……」
「……そうだね、嘉壱君の言う通り、今回のゲームで司会デビューするのは悪くない案だと私も思うよ。習うより慣れろ。それに、失敗して当たり前だと思って挑めば良い。なにかあれば、私ともがなちゃんでバックアップするからね」
「丙さんの言う通りです~。私たちもお手伝いしますから、一緒に頑張りましょう~?」

 いつも一緒に仕事をしている先輩が、そう言ってくれているんだ――。改は覚悟を決めた。

「わかりました! やります! 僕に、やらせてください!」

 多少の勢いはあったものの、改はりんごの分の司会をすることを決めた。

「……そうだ。前に話したコードネームは決まったかい?」
「あ、はい。その、【グレイ】にしようかと……」
「なるほど。君の苗字が灰根だからかな?」
「はい、そうです。この部屋の皆さん結構、ご自分の名前文字ってますよね……?」
「確かに。丙は【バニィ】でりんごは【リンリン】、もがなは【ペシェ】だから、言う通り文字っているよ」
「そのほうが、すんなり呼んだり、馴染むことができるのかなと思いまして……。あんまり、違和感のないものを、と。僕はグレイにしました」
「良いじゃないかグレイ! うんうん、改ちゃんに似合っていると思うよ! ちょっとクールなイメージが付きそうだね」
「うふふ。私も良いと思います~。分かり易いし、うっかり外で呼んでしまっても、お互い恥ずかしくなさそうですし~?」
「それじゃあ、改君のゲーム時の名前はグレイで登録しておこう。この部屋の中以外でも、使う場面や人が出てくるかもしれないからね」

 安直だと改は思っていたが、予想外にみんなが受け入れたことに少し驚く。りんごがいたら『くだらない』だとか『簡単すぎ』などと言われた気もするが、彼女が休みの今日はそんなこともなく、少しの寂しさも感じていた。

「丙、改君に少し今回のゲームの説明をしておいてもらえるかな。機材の使用は、丙ともがなの二人で随時行ってほしい。俺は事前告知の連絡を入れに行ってくる」
「あぁ、わかった。……さぁ改ちゃん。楽しいゲームにしようじゃあないか」
「そうですよ~。初めての司会、上手くできるかより楽しめるかのほうが、大事だと思いますし~」
「もがなちゃんの言う通りだ。畏まらなくて良い。難しく考えなくて良い。今までと変わらずにやっていれば、なんとなく段々と掴めてくるものさ」
「そうですよぉ~。リラックスしてやりましょう~?」
「は、はいっ……!」

 思わず声の裏返った改を見て、丙ともがなは優しく笑った。

 ――そして、ゲーム開始十分前。

「改ちゃん、トイレには行ったかい?」
「は、はい! いっ、行きました……!」
「めちゃくちゃ緊張してませんか~?」
「も、もうあと十分で始まるんだと思ったら、勝手に心臓がドクドク言い始めて、喉もカラカラで手も震えていて……」
「あらら。なんかの禁断症状みたいになってるな? そんなに緊張しなくて良いからね。――見てごらん。嘉壱君がちゃんと、告知を入れてくれたみたいだよ?」

 早めにつけたモニタには、今回のゲームの会場と参加者、そしてオッズと共に、新人司会者が登場する旨がテロップで流れていた。それを見ただろう観客のコメントは、娯楽としてデスゲームを楽しんでいる人たちとは思えないくらい優しさで溢れたものだった。
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