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月夜のお茶会
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(やっぱり、人が大勢居るところは苦手だわ……)
ルルはソッと人混みから離れ、式典会場の端に移動します。
カーテンの影に立てば、あまり目立たないだろう思ったのです。
両親と一緒に、たくさんの人たちから挨拶をされて、ルルは疲れていました。
この式典には太陽と月の王国の親交を図るため、他の国からも参加者が訪れています。
太陽の国の姫として、恥ずかしくないようにと、精一杯の笑顔で応じていましたが、元々が人見知りなので、緊張で倒れてしまいそうでした。
「ルル姫」
カーテンの影で、うつ向きふうっと息を吐いていると、ルルを呼ぶ声がしました。
顔をあげると、月の国の者の特徴である黒い髪に黒い瞳の青年が立っています。
ルルは青年に見覚えがありました。
月の国で最初に挨拶した王様の隣にいた青年──月の国の王子サクヤです。
「あ、サクヤ王子……」
あいさつは済ませているため、何と続けたら良いのかわからなくなり、ルルは口ごもりました。
「少し疲れているみたいだったので、声をかけました。良かったら、庭園で風にあたりませんか?」
サクヤはにこやかに、ルルへ手を差し出しました。
普段のルルだったら、この誘いを断っていたと思います。
だけど、何故でしょうか?
(この人と話をしてみたい……どうしてだろう。すごく懐かしい感じがする)
そんな気持ちになったのです。
「はい」
ルルは少し躊躇い勝ちに、そっとサクヤの手を取りました。
サクヤに手を引かれ、庭園へと繋がる扉の前に来ました。
外に広がる暗闇に、一瞬ルルの足が止まります。
「暗いのは、少し苦手で」
太陽の国はいつでも明るいのです。
慣れない暗闇は、本能的に怖いと思ってしまうのでしょう。
「大丈夫ですよ。目が慣れてくれば、以外と暗くはないんですよ」
サクヤはルルの不安を取り除くように、先程よりも少し強く手を握ってくれました。
ルルはサクヤの言葉を信じて、一度深呼吸をして気持ちを整えると、暗い庭園に足を踏み入れました。
真っ暗だと感じた外の世界に、サクヤの言う通り少しずつ目が慣れてきました。
そうすると、意外にも月の光だけでもサクヤの姿がはっきりと見えることにルルは驚きました。
(月の光って、こんなに明るいのね)
太陽の元とは違う外の景色は、ハッキリと見えない分、神秘的な雰囲気です。
少し歩くと、庭園の中にテーブルと椅子が見えてきた。
「こちらへどうぞ」
サクヤに促され、ルルは椅子に腰掛けました。
疲れていた体がふっと楽になり、ルルはホッと小さく息を吐きます。
ルルは、目を閉じてみました。
頬を優しく撫でる風の感触。
サワサワと微かに揺れる草花の声が聴こえてきました。
心と体が心地好く凪いでいきます。
ふわりと、甘い香りがルルの鼻をくすぐったため、瞼を持ち上げると、サクヤがお茶を用意してくれていました。
「月の国で採れる果物を使ったお茶ですよ」
疲れが癒されますようにと、サクヤから受け取ったティーカップには、月が映し出され、まるで月を贈られたみたいです。
「いい香り」
果物の甘い香りとお茶の爽やかな香りに、サクヤが言うように、疲れが癒されていくような感じがしました。
ルルが表情を緩めると、サクヤが嬉しそうにその様子をみています。
「式典に来て下さって、ありがとうございます」
「あの……私に招待状をくださったのは、サクヤ王子なのですか?」
サクヤの物言いに、もしかしてと、ルルは尋ねます。
「はい。私が送りました」
「どうして、私に?」
サクヤとは初対面のはずです。
招待状を個人的にもらう理由が思い当たりませんでした。
「もう一度、逢いたかったのです」
もう一度という言葉に、ルルは首を傾げます。ルルとサクヤは、以前出逢ったことがあるのでしょうか?
記憶を手繰り寄せてみますが、ルルは思い出せません。
「すみません、サクヤ王子と逢ったことがあるのは、私なのでしょうか? 姉たちの誰かではなく?」
もしかしたら、二人の姉のどちらかと間違えたのではないだろうかと、ルルは思いました。二人の姉はルルと違って社交的なので、どこかで出逢っていても不思議ではありません。
もしそうなら、人違いで申し訳ないとルルは思います。
「いいえ、ルル姫ですよ。逢ったといっても、ルル姫はとても小さかったので、覚えていないのも無理はありません」
しかし、サクヤは過去を懐かしむように、出逢ったのはルルだと、微笑んで告げました。
「ルル姫と逢ったのは、太陽の国で催された式典に参加したときでした。式典期間中、子供同士ということで、一緒に過ごすことが多かったのです」
その話は聞いた事がありました。
当時から人見知りが激しく、家族以外には泣いて隠れていたルルが、一人だけ懐いた人物がいたという話です。
式典期間の間、ずっとその子の服を掴んで離れず、式典が終了してその子が帰ってしまうと、しばらく大泣きして過ごしていたという話でした。
幼かったルルに、その時の記憶は残っておらず、自分が家族以外に懐くことが想像出来なかったので、冗談かと思っていました。
(お母さまが言っていたのは、サクヤ王子の事だったのね)
サクヤから感じた懐かしさは、そのためだったのかとルルは納得しました。
「その後、ルル姫と逢う機会がなく……またお会いしたいと思って招待状を送ったのですよ」
末姫のルルは、式典への参加は強制ではなかったので、いつも不参加だったのです。
(わざわざ、招待状を送ってくれるほど私に逢いたいと思って下さったのね)
ルルは心が温かくなりました。
嬉しさと気恥ずかしさで、ルルは顔が熱くなっていきます。
(ここが外で良かったわ)
月の光だけでも明るいとはいえ、太陽の光よりも淡い明るさなので、きっと顔が赤くなってしまったのは気が付かれないはずだと安心しました。
「招待してくださって、ありがとうございます」
サクヤが招待状を送ってくれなかったら、ルルはいつものように式典に参加することはありませんでした。
大勢の人の中が苦手で、初めはやむ無く月の国に赴いたルルでしたが、式典に参加したからこそ、こうやって和やかにサクヤと話が出来ているのです。
(不思議、サクヤ王子となら、もっと沢山お話したいって思えるわ)
初対面に近い相手に対して、そう思ったのは初めてでした。
幼かったルルが、サクヤに懐いたのも頷けます。
ルルはソッと人混みから離れ、式典会場の端に移動します。
カーテンの影に立てば、あまり目立たないだろう思ったのです。
両親と一緒に、たくさんの人たちから挨拶をされて、ルルは疲れていました。
この式典には太陽と月の王国の親交を図るため、他の国からも参加者が訪れています。
太陽の国の姫として、恥ずかしくないようにと、精一杯の笑顔で応じていましたが、元々が人見知りなので、緊張で倒れてしまいそうでした。
「ルル姫」
カーテンの影で、うつ向きふうっと息を吐いていると、ルルを呼ぶ声がしました。
顔をあげると、月の国の者の特徴である黒い髪に黒い瞳の青年が立っています。
ルルは青年に見覚えがありました。
月の国で最初に挨拶した王様の隣にいた青年──月の国の王子サクヤです。
「あ、サクヤ王子……」
あいさつは済ませているため、何と続けたら良いのかわからなくなり、ルルは口ごもりました。
「少し疲れているみたいだったので、声をかけました。良かったら、庭園で風にあたりませんか?」
サクヤはにこやかに、ルルへ手を差し出しました。
普段のルルだったら、この誘いを断っていたと思います。
だけど、何故でしょうか?
(この人と話をしてみたい……どうしてだろう。すごく懐かしい感じがする)
そんな気持ちになったのです。
「はい」
ルルは少し躊躇い勝ちに、そっとサクヤの手を取りました。
サクヤに手を引かれ、庭園へと繋がる扉の前に来ました。
外に広がる暗闇に、一瞬ルルの足が止まります。
「暗いのは、少し苦手で」
太陽の国はいつでも明るいのです。
慣れない暗闇は、本能的に怖いと思ってしまうのでしょう。
「大丈夫ですよ。目が慣れてくれば、以外と暗くはないんですよ」
サクヤはルルの不安を取り除くように、先程よりも少し強く手を握ってくれました。
ルルはサクヤの言葉を信じて、一度深呼吸をして気持ちを整えると、暗い庭園に足を踏み入れました。
真っ暗だと感じた外の世界に、サクヤの言う通り少しずつ目が慣れてきました。
そうすると、意外にも月の光だけでもサクヤの姿がはっきりと見えることにルルは驚きました。
(月の光って、こんなに明るいのね)
太陽の元とは違う外の景色は、ハッキリと見えない分、神秘的な雰囲気です。
少し歩くと、庭園の中にテーブルと椅子が見えてきた。
「こちらへどうぞ」
サクヤに促され、ルルは椅子に腰掛けました。
疲れていた体がふっと楽になり、ルルはホッと小さく息を吐きます。
ルルは、目を閉じてみました。
頬を優しく撫でる風の感触。
サワサワと微かに揺れる草花の声が聴こえてきました。
心と体が心地好く凪いでいきます。
ふわりと、甘い香りがルルの鼻をくすぐったため、瞼を持ち上げると、サクヤがお茶を用意してくれていました。
「月の国で採れる果物を使ったお茶ですよ」
疲れが癒されますようにと、サクヤから受け取ったティーカップには、月が映し出され、まるで月を贈られたみたいです。
「いい香り」
果物の甘い香りとお茶の爽やかな香りに、サクヤが言うように、疲れが癒されていくような感じがしました。
ルルが表情を緩めると、サクヤが嬉しそうにその様子をみています。
「式典に来て下さって、ありがとうございます」
「あの……私に招待状をくださったのは、サクヤ王子なのですか?」
サクヤの物言いに、もしかしてと、ルルは尋ねます。
「はい。私が送りました」
「どうして、私に?」
サクヤとは初対面のはずです。
招待状を個人的にもらう理由が思い当たりませんでした。
「もう一度、逢いたかったのです」
もう一度という言葉に、ルルは首を傾げます。ルルとサクヤは、以前出逢ったことがあるのでしょうか?
記憶を手繰り寄せてみますが、ルルは思い出せません。
「すみません、サクヤ王子と逢ったことがあるのは、私なのでしょうか? 姉たちの誰かではなく?」
もしかしたら、二人の姉のどちらかと間違えたのではないだろうかと、ルルは思いました。二人の姉はルルと違って社交的なので、どこかで出逢っていても不思議ではありません。
もしそうなら、人違いで申し訳ないとルルは思います。
「いいえ、ルル姫ですよ。逢ったといっても、ルル姫はとても小さかったので、覚えていないのも無理はありません」
しかし、サクヤは過去を懐かしむように、出逢ったのはルルだと、微笑んで告げました。
「ルル姫と逢ったのは、太陽の国で催された式典に参加したときでした。式典期間中、子供同士ということで、一緒に過ごすことが多かったのです」
その話は聞いた事がありました。
当時から人見知りが激しく、家族以外には泣いて隠れていたルルが、一人だけ懐いた人物がいたという話です。
式典期間の間、ずっとその子の服を掴んで離れず、式典が終了してその子が帰ってしまうと、しばらく大泣きして過ごしていたという話でした。
幼かったルルに、その時の記憶は残っておらず、自分が家族以外に懐くことが想像出来なかったので、冗談かと思っていました。
(お母さまが言っていたのは、サクヤ王子の事だったのね)
サクヤから感じた懐かしさは、そのためだったのかとルルは納得しました。
「その後、ルル姫と逢う機会がなく……またお会いしたいと思って招待状を送ったのですよ」
末姫のルルは、式典への参加は強制ではなかったので、いつも不参加だったのです。
(わざわざ、招待状を送ってくれるほど私に逢いたいと思って下さったのね)
ルルは心が温かくなりました。
嬉しさと気恥ずかしさで、ルルは顔が熱くなっていきます。
(ここが外で良かったわ)
月の光だけでも明るいとはいえ、太陽の光よりも淡い明るさなので、きっと顔が赤くなってしまったのは気が付かれないはずだと安心しました。
「招待してくださって、ありがとうございます」
サクヤが招待状を送ってくれなかったら、ルルはいつものように式典に参加することはありませんでした。
大勢の人の中が苦手で、初めはやむ無く月の国に赴いたルルでしたが、式典に参加したからこそ、こうやって和やかにサクヤと話が出来ているのです。
(不思議、サクヤ王子となら、もっと沢山お話したいって思えるわ)
初対面に近い相手に対して、そう思ったのは初めてでした。
幼かったルルが、サクヤに懐いたのも頷けます。
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