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悪役令嬢が可愛すぎる!! 

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 ここが恋愛小説の世界で、自分がヒロインに転生していることに気が付いたのは、つい最近のことだった。
(ヒロインかぁ……普通だったら「やった、ヒロインに転生したわ」ってなるんだろうけど……)
 小説自体は、何度も繰り返して読むくらい好きだった。恋愛の相手となる王太子も「思わず振り返って見とれるほど顔が良い」と書かれるだけあり、表紙や挿し絵に描かれていた王太子は美青年だった。
(イケメンは嫌いじゃないけど、それは読者側の視点だしなぁ。現実の恋愛をするなら性格が良い方が良いなぁ)
 王太子は、性格が良いかといえば微妙だった。
(私、俺様キャラって苦手だし……そもそも、私がヒロインって柄じゃないのが、一番の問題よね)
 ヒロインのアイラは、天真爛漫で心根の清らかな少女だ。思わず「助けてあげたい」と思わせるような、庇護欲をそそられるキャラだった。
 前世を思い出さなければ、アイラはきっと小説の通り天真爛漫な少女のままだったかもしれない。しかし、今のアイラは前世を思い出してしまった。性格が悪いわけではないが純情でもない。どちらかと言えばサバサバした性格で、思ったことはすぐに口に出すし、おしとやかさの欠片もない。
(そういえば、ライバルキャラ……今風にいえば悪役令嬢か。どうしよう、今の私だと意地悪されたらやり返しそうなんだけど)
 意地悪されて「至らない私のために、貴族社会のことを教えてくれている」とは絶対に考えられない。

 そんなことを、アイラは入学式中ずっと考えていた。

 入学式が終わり、教室へ向かう。
 この学園は、侯爵以上の大貴族や他国の王公貴族の割合が多い。
 アイラは、その中に入らない極少数の人間だった。
(下級貴族なのに、特級魔術師並みの魔力がある設定だったわよね)
 実際、入学前の魔力判定では、検査に立ち会った教師が思わず「おおっ!」と声を出すくらい好成績だったみたいだ。
(でも魔力のステータスが、小説と少し違っていたわ)
 小説では回復・防御魔法のステータスが高かったはずだ。その魔法特性と人柄から一部の者からアイラは「聖女さま」と呼ばれていたのだ。
 しかし、判定の結果、それらの特性はそこまで高くはなく(といっても平均よりは高い)、攻撃魔法や召喚魔法のステータスの方が高かった。
(前世を思い出したから、魔力特性も変わったのかしら? っと、ここが教室ね)
 「特A」と書かれた教室の前にたどり着く。
 成績優秀者の集まるクラス、いわば特進クラスである。ヒロインの恋愛相手となる王太子や悪役令嬢とも同じクラスのはずだ。
(まあ、なるようになるでしょう)
 性格が変わったことで、きっと小説の内容のようにはいかないし、すでに魔力特性も変わっている。どうこう悩んでも仕方がないので、アイラは、自分らしく学園生活を送ることにした。

「おはようございます」
 教室の扉を開け挨拶をするが、それに応じてくれる者は居なかった。
 少し遠巻きにアイラを眺めているだけだ。「あの子が噂の」「下級貴族のくせに、運が良いわね」などと囁かれている声が聞こえてきた。
(まあ仕方がないとはいえ、気持ちが良いものではないわね)
 高位貴族の集まる学園であるため、入学前からそれなりに顔見知り同士が多く、すでにある程度グループが出来ているのだ。そんな中に、貴族とは名ばかりの貧乏貴族が混ざれば、否応なく目立つ。魔力は高位貴族になるほど高いと言われているだけあって、下級貴族のアイラがトップクラスの魔力を持っていることは、やっかみの種にもなっていた。
(別に陰口叩くような人たちと仲良くなりたいとは思わないけど……誰か友達になれそうな人がいれば良いなぁ)
 クラス替えはないので、このまま三年間同じクラスで過ごすのだ。どうせなら、楽しく学園生活を送りたい。そう思いながら、アイラは席順を確認し、自分の席についた。


「よ、よろしくお願いしますわ」
 ホームルームまで時間が少しあるため、時間潰しのために、持ってきた小説を読むことにした。遠巻きに見られている視線も、これで紛れるだろうと、小説を開いたところで、小さく可愛らしい声がした。
 まさか自分に話しかけられたとは思わず、そのまま小説を読もうとすると「あ、あの」ともう一度、先程よりも少し大きめの声が聞こえ、アイラは顔をあげ、声の方向を向く。
 隣の席に座る、声と同様に大変可愛らしい少女が、少し困った表情でアイラの方を見ていた。
 絹のように滑らかな銀髪に、透き通る水面のような青い瞳の美少女だ。
「え? あっ、もしかして私に挨拶してくれていたんですか?」
「はい。その、隣の席なので……」
(遠巻きに見られている私にわざわざ声をかけてくれるなんて、良い子だわ)
 アイラが遠巻きにされていることは、見れば一目稜線だ。
「アイラ・ライトンです。よろしくお願いします」
「ええ、私はプリシラ・グランフィートですわ」
 挨拶を返すと、少女はにっこりと微笑んだ。
(わぁっ、かっ可愛い! それに名前まで可愛らしいわ!プリシラさん。ん?プリシラ?プリシラ・グランフィート?なんか、聞き覚えが……あっ!!)
 小説でアイラと王太子の恋路を邪魔し、色々な嫌がらせを仕掛けてくる悪役令嬢。
 その悪役令嬢の名前がプリシラ・グランフィートだったではないか。
(え? えー? 全然、悪役令嬢に見えないんだけど?ただの同姓同名?でも、同じクラスに同姓同名ってあり得るの?)
 挨拶を終え前を向いたプリシラの横顔を見る。確かに悪役令嬢の特徴も銀髪碧眼で、とても綺麗な顔立ちをした美少女だった。
(挿し絵に描かれてたプリシラは、もっと気が強そうで、可愛らしいって感じじゃなかったしなぁ)
 鞄の中を確認していたプリシラが、アイラの方を向く。
 ソッと横顔を盗み見ていたことがバレたのかと思ったが、そうではないようだ。
「あの、うちのシェフが作ったクッキーなのですが、良かったらどうぞ」
 差し出されたのは、可愛らしくラッピングされたクッキーだった。「ラッピングは私も一緒にしましたの」と、プリシラがはにかみながら付け加える。
「ありがとうございます」
(こんなに可愛い子が悪役令嬢なんて、ありえないわ)

 しかし、教師の出欠の確認の中にプリシラ・グランフィートという名は彼女しかいなかった。
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