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第四章
8.5 団子屋の娘、再び
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自宅へ戻った葉月は、靴を脱ぐと台所へと向かった。
事件は益々謎を孕んで来たと言うのに、葉月は気分が良いい。
それは、事件のスジ読みで西島に褒められたと言うのもあったが、一昨日に高知から戻ってからと言うもの、西島が自分から離れなくなったと感じているからだ。
毎日自宅まで送ってくれるし、朝も自宅の前で待っている。
過保護だと思えるほどであったが、大事にされている気がして、葉月は嬉しかった。
「お腹空いたな」
ここ最近帰り時間が不規則なため、母親の葉子に夕飯は用意しなくていいと言ってあったのだが──。
「うん、何もない」
残っているのは夕飯の残り香だけで、おかずは本当に何もなく、残念なことにレトルト食品すらなかった。
仕方なく冷凍庫からいつもの冷凍ご飯を出し、何かないかともう一度冷蔵庫を漁る。
すると、ひとかけ分のカレールウを発見した。
「ふむ」
しかし、カレーライスを作るのも面倒くさい。しかもひとかけである。
葉月は悩んだ末、即席カレーリゾットを作ることにした。
先ずは野菜室から使いかけの玉ねぎを取り出しスライスする。
ウインナーを1本輪切りにし、玉ねぎと一緒に小さなフライパンで炒め、そこに解凍したご飯と水、コンソメを入れて煮込む。
馴染んだところでカレールウを投下。
「ん~。いい匂いしてきた。カレー、最強」
最後にシュレッドチーズを入れ、余熱で溶かしたら乾燥パセリを振って出来上がりだ。
葉月はフライパンをテーブルの上の鍋敷きの上に乗せると、スプーンを突っ込んだ。
これで洗い物も減ると言うものである。
「いただきます!」
熱々のカレーリゾットは、夏場であっても何故か美味い。
水を吸ってご飯が膨れ上がり、予想外の量になってしまったが、葉月の手は止まらなかった。
そしてあっという間に、カレーリゾットは葉月の腹に収まった。
「ふう」
仕上げに、氷をたっぷり入れた水をごくごくと飲む。
カレーの後の水のなんと美味い事か。
「カレーリゾットだけどね。あ~でも美味しかった! 結婚とかしたら、毎日好きな人にご飯を作ってあげるんだよね」
結婚──。
食後で血糖値が上がり、心地良くなった葉月の脳内で、ネクタイを緩めながら団地と思しき家のダイニングに入ってくる西島が話し始めた。
──あ~。今日も疲れたよ。おっ? 今日はカレーか。久住の作るものは何でも美味いが、カレーはまた最高だな。
「もうっ、西島さんたらっ! いつまで久住って呼ぶんですかぁ。えへ」
──ああ、そうだったな。でも、お前もいつまでも西島さんはおかしいだろ。お前だって西島なんだから。葉月……。
「あっはー! いやぁあん! ちょ、いやああん!」
葉月は子供の頃から想像力が豊かで、妄想遊びの激しい娘だった。
思わず興奮して声が出てしまう。
「葉月!」
廊下の向こうの両親の寝室から、母親の怒りの声がした。
「やば……」
葉月はサッサと洗い物を済ませると、自室でスーツを脱いだ。
そしてふと気になる、鏡に映った自分の姿。
「え……。太った?」
先程のカレーリゾットのせいで腹が出ているのもあるのかもしれないが、高知出張で美味しいものを食べ過ぎたかもしれない。
「ヤバイ。ヤバイよ、これは」
最近西島との距離が益々縮まっている。
Xデーがいつ来るやもしれぬと言うのに、冗談じゃあない。
「お風呂の前に少し走ろ……」
葉月はひとつため息をつくと、クローゼットからジャージを取り出した。
事件は益々謎を孕んで来たと言うのに、葉月は気分が良いい。
それは、事件のスジ読みで西島に褒められたと言うのもあったが、一昨日に高知から戻ってからと言うもの、西島が自分から離れなくなったと感じているからだ。
毎日自宅まで送ってくれるし、朝も自宅の前で待っている。
過保護だと思えるほどであったが、大事にされている気がして、葉月は嬉しかった。
「お腹空いたな」
ここ最近帰り時間が不規則なため、母親の葉子に夕飯は用意しなくていいと言ってあったのだが──。
「うん、何もない」
残っているのは夕飯の残り香だけで、おかずは本当に何もなく、残念なことにレトルト食品すらなかった。
仕方なく冷凍庫からいつもの冷凍ご飯を出し、何かないかともう一度冷蔵庫を漁る。
すると、ひとかけ分のカレールウを発見した。
「ふむ」
しかし、カレーライスを作るのも面倒くさい。しかもひとかけである。
葉月は悩んだ末、即席カレーリゾットを作ることにした。
先ずは野菜室から使いかけの玉ねぎを取り出しスライスする。
ウインナーを1本輪切りにし、玉ねぎと一緒に小さなフライパンで炒め、そこに解凍したご飯と水、コンソメを入れて煮込む。
馴染んだところでカレールウを投下。
「ん~。いい匂いしてきた。カレー、最強」
最後にシュレッドチーズを入れ、余熱で溶かしたら乾燥パセリを振って出来上がりだ。
葉月はフライパンをテーブルの上の鍋敷きの上に乗せると、スプーンを突っ込んだ。
これで洗い物も減ると言うものである。
「いただきます!」
熱々のカレーリゾットは、夏場であっても何故か美味い。
水を吸ってご飯が膨れ上がり、予想外の量になってしまったが、葉月の手は止まらなかった。
そしてあっという間に、カレーリゾットは葉月の腹に収まった。
「ふう」
仕上げに、氷をたっぷり入れた水をごくごくと飲む。
カレーの後の水のなんと美味い事か。
「カレーリゾットだけどね。あ~でも美味しかった! 結婚とかしたら、毎日好きな人にご飯を作ってあげるんだよね」
結婚──。
食後で血糖値が上がり、心地良くなった葉月の脳内で、ネクタイを緩めながら団地と思しき家のダイニングに入ってくる西島が話し始めた。
──あ~。今日も疲れたよ。おっ? 今日はカレーか。久住の作るものは何でも美味いが、カレーはまた最高だな。
「もうっ、西島さんたらっ! いつまで久住って呼ぶんですかぁ。えへ」
──ああ、そうだったな。でも、お前もいつまでも西島さんはおかしいだろ。お前だって西島なんだから。葉月……。
「あっはー! いやぁあん! ちょ、いやああん!」
葉月は子供の頃から想像力が豊かで、妄想遊びの激しい娘だった。
思わず興奮して声が出てしまう。
「葉月!」
廊下の向こうの両親の寝室から、母親の怒りの声がした。
「やば……」
葉月はサッサと洗い物を済ませると、自室でスーツを脱いだ。
そしてふと気になる、鏡に映った自分の姿。
「え……。太った?」
先程のカレーリゾットのせいで腹が出ているのもあるのかもしれないが、高知出張で美味しいものを食べ過ぎたかもしれない。
「ヤバイ。ヤバイよ、これは」
最近西島との距離が益々縮まっている。
Xデーがいつ来るやもしれぬと言うのに、冗談じゃあない。
「お風呂の前に少し走ろ……」
葉月はひとつため息をつくと、クローゼットからジャージを取り出した。
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