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「サーディン侯爵家のイメルダ!」

 声のほうを見ると、王太子殿下と側近候補さんたち VS 侯爵家のご令嬢の構図。

 たしか、ご令嬢は殿下の婚約者。

 そして、今、まさに王立学園の卒業パーティ!


 ま、まさか、これは婚約破棄!?


 滅多にみられるものじゃないしドキドキ。どうなるのかな。

 って、大変!

 殿下の腕に腕をからませて、脇腹に胸をおしつけてるのはあの子じゃない!


 あの子とわたしは幼なじみ。

 彼女は、金で男爵家の株を買った商人の娘。

 わたしは、ちょっとした貿易商人の娘。

 おとなりさん。

 パパ達は親友で商売仲間で、ママ達は姉妹。だから小さい頃からずっと一緒で仲良し。

 ふたりとも、いっしょうけんめい勉強して、この王立学園に入ったんだけど……。


 三ヶ月前、すごい熱を出して寝込んでから、あの子はかわっちゃった。

 上の方の貴族のご子息の方々のあとばかりをつけまわすようになって。

 いつのまにか、彼らとばかり一緒にいるようになって。

 最近では、わたしが近づくと見下げた目で見るし、追い払うし、凄い顔で怒鳴りつけるだけだけど、

 わたしがなにか悪いことしたのか、と考えてみてもわからない。かなしい。

 もうあの子は、わたしを友達とすら思っていないのかも……。


 でも、幼なじみだし見捨てられないよ!


「おっお待ち下さい! 最近、その子はおかしいだけなんです! きっと春が近づいてきたからなんです!」

「な、なんだお前は!」

 殿下に怒鳴りつけられた! こわい!

 えらいひとが話してるところに割り込むなんて、あとでどんな目にあうかわかんない。

 もしかしたら死刑にされちゃうかも。


 でも、あの子を救えるのは私だけ!


「その子は、最近、ちょっとへんなんです! へんなだけなんです!

 三ヶ月前に、すごい熱出して寝込んでからなんです! びょーきのせいなんです!

 その証拠に! まともでない行動ばっかりしてるんです!

 自分で噴水に飛び込んでみたり! 冬なのに!

 自分の教科書とかノートとか破いたり! 

 裏庭で火をつけたり、水につけてみたり! 自分の教科書をですよ! 変でしょう!

 火のほうは寒かったからかもしれませんが、普通なら自分のものにはつけないです!

 へんな証拠はほかにもいっぱいあります! 

 自分の机にひどい悪口を書いてみたり!

 根も葉もない噂を大声で喋ったりしてみたり!

 イメルダ様を驚かそうとしてうしろからしのびよって、足をすべらせて自分が階段から落ちちゃったり!

 わたしたちみたいな平民が、侯爵令嬢様をおどかそうとするなんて、頭がちょっとアレなんです!

 熱でおかしくなっちゃったんです! そのうえ春が近づいてるから変さがひどくなってるんです!

 春がいけないんです!

 その証拠に! 猫がさかるときみたいな甘い声でいろいろな男の人にちかづいて、くっついて。

 そういう季節にあてられちゃってるんです!

 だから、まわりの女の子はみんなその子を嫌いになっちゃってるんです!

 もう誰も話しかけないし、はぶしちゃってるんです!

 でも、みんな病気と陽気がいけないんです!

 ちょっとあたまがお花畑なだけなんです!

 だから、この子をしからないでください!」


 あ、よかった。

 真っ青になった王太子殿下があの子からはなれていく。

 側近候補さんたちもはなれていく。

 ああ。よかった。



 って、なんであの子、こわい顔で、わたしのことみてるの?

 え、ナイフ? なんでナイフなんか!?

 こっちに突進してくる!

 わわわっ! わたし刺されちゃうの!?

 そ、そうか、あの子、あたまがおかしいんだから、なにするかわからないんだ!


 かみさまー。


 あ、まわりのひとたちが飛びかかって押さえつけてくれた。

 た、たすかったー。

 こわかったー。


 わたしは尻餅をついたまま、あの子が会場からひきずりだされるのを見送りました。


 そのままあの子は、あたまがおかしい人の施設にいれられたらしいです。


 おかしくなったのが、なおるといいなぁ。

 なおったら、また、仲良しに戻れるといいな。


 だってあの子は、ちょっとおかしくなっていただけなんだから。



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