19 / 31
18.
しおりを挟む
翌日、ダンジョンへ入ったエレミアは、リオンと冒険者一行の強さにただ驚くことになった。
彼らは着いて早々最下層と呼ばれる地下九十一階へと転移装置を使って降り、慣れた様子で戦闘を始めた。
「好きに攻撃して良い」と言われて戸惑うエレミアの護衛としてついてくれたのは、最高ランクの冒険者の一人、回復役の女性だった。
ジェーンと名乗り、今まさに戦闘しているロイという名の戦士と結婚していると言い、子供が一人いて今は両親が見てくれているらしい。
「結婚して子供が出来てから、泊まり込みの依頼は滅多に受けられなくなっちゃってね、ほら、やっぱ子供心配じゃん?だから日帰りできる護衛とか、次期元首サマがダンジョンでストレス発散したい時に便乗して、戦利品もらったりとかで稼いでてね~!あ、もちろん国からの正式な依頼とか来ちゃったらね~、報酬次第で泊まりの依頼も受けるけどね。他国にも出向くよ~!でもエレミアちゃんの国はダンジョンないし、冒険者があの国行ってもなんていうか、ものすごく余所者感半端なくてさ~!仕事もないし、観光がてら一回行ったらもういいかなって感じで。…あっ!悪く思わないでね!エレミアちゃんの出身国だからって、エレミアちゃんを悪く言ってるわけじゃなくて、えーっとぉ…」
「あの、大丈夫ですわ。わかっておりますし、皆様とてもお強くて立派な冒険者でいらっしゃいますもの」
「あっそう言ってくれると助かる~!」
怒濤の勢いで話をしながらも、戦闘しているメンバーの回復はしっかりしつつ、強化魔法まで使っている。
エレミアもまた、リオンを始めメンバーが戦っている後方から、徐々に魔法の威力を上げて、どの程度敵に通用するかを確認作業中である。
横から立て板に水の如く話しかけられ、なかなか集中する事が難しい。
最高ランクの冒険者って、すごいのね。
尊敬する。
そんな中に混じっているリオンとは一体何者なのか。
最高ランク冒険者はこの回復役の女性を含めて五人。
聖王国の聖騎士団は、数十人単位で戦闘し、交代要員も大量に引き連れてダンジョンの最深部の維持管理をしているというのに。
リオンを加えて六人で最深部へと到達しようというのだった。
しかも日帰りで。
エレミアはおまけのようなものなので、人数には含んでいない。
「皆様は、勇者の血を引いていらっしゃったり…?」
「え、いやぁ、うちの旦那は勇者の末裔らしいよ。帝国出身なんだけどね。お祖父さんは皇族の一人だったとかなんとか」
「ああ、どうりでとてもお強いと思いました」
「でっしょ~?私もね~、聖女様の末裔なんだ~」
「えっ」
「といっても、遠い遠いご先祖様に、王族のご落胤がいたとかなんとか。今では末端の貴族なんだけど~!貴族っていっても下手したら平民より貧乏なんじゃ?って感じでさ、だから冒険者なんてやってるんだけどね!」
「そ、そうなんですね…」
「オレグは魔導王国出身だし、イワンは皇国出身でさ、ビリーは私と同じ聖王国出身だけどみんなてんでバラバラなの。でもかつての魔王討伐の時の勇者パーティーの末裔っていうのは共通してるんだ。不思議でしょ~?」
「よくそんな方々と出会って、パーティーを組めましたね?」
「元々は皆、別のパーティーだったんだ。それをさ、次期元首サマが「一緒にダンジョン潜らないか、稼がせてやる」って声かけてくれて~」
「彼が?」
「そーそー。彼曰く、うちらは冒険者として抜きんでた能力を持っているのに、今のパーティーじゃその能力を発揮できずに力の持ち腐れだぞ、機会損失だ、とかなんとか言っちゃってさ。最初はうさんくさー!って思ったんだけど~、まぁほら、冒険者も毎日やってるわけじゃないじゃん?試しに、って参加してみたら、今のメンバーがいて、ホント皆なんか、他の連中と違ったんだよね~。うーん、光るモノがあったっていうの?自分で言うのも恥ずかしいけどね!」
「彼の見る目があったんですね」
「そうそう、おまけに本人めちゃ強じゃん?何だよ~勇者の生まれ変わりか、魔王の生まれ変わりかよー!って」
「え、そういうの、わかるんですか?」
「いや全然わかんないけど。けどうちら今最高ランクじゃん?最高ランクって、すごいってことじゃん?そんなすごいうちらを見出してくれた同じくらい強い次期元首サマだって、タダ者じゃないと思うんだよね~」
「な、なるほど、確かにそうですね~」
「でしょ~?不思議なんだけどさ、次期元首サマと一緒に行動してるとなんつーの、ものすごい優秀な指揮官に指揮されてる感あるっていうかぁ」
「あぁ、わかります~」
「お、マジで~!?話わかるぅ~!」
思わずつられて語尾が伸びてしまったが、なるほど彼らの戦いはリオンを中心に回っていた。
普段は戦士ロイがリーダーらしいのだが、明らかにリオンを立てて指示を聞いており、そして上手く回っていた。
リオンはいつの間にこれだけの強さを手に入れていたのだろう。
我が公爵家の人間は、初代の力のおかげか、皆魔力量は豊富であり剣も魔法も得意である。女性はあまり積極的に剣の稽古はしないけれども、運動神経は良く、困ることはない。男性陣は鍛えれば鍛えるだけ強くなれるので、歴代の直系男子で努力した者は、出身によらず己の実力のみで他国の騎士団長や将軍になることすら可能だった。次兄レヴィも、将来の聖騎士団長であると目されており、実力は聖騎士団一である。
リオンは人間であり、公爵家の血が入っているとはいえ、勇者の血筋であるとか、そんな由来はないはずだ。
たまたま公爵家の血が濃く出たのだろうか。
ともに活動している勇者パーティーの末裔だという、彼らのように。
実力も勇者達の末裔と変わりないように見えるのが、恐ろしいところだ。
おかげで商業国家のダンジョンは、リオンと最高ランクの冒険者を中心として維持管理がなされている為、冒険者達にとって、「冒険者」という職業が憧れのものであるという。
いいことだと思う。
「それにしてもエレミアちゃんってホント美人すぎない?エレミアちゃんが今まで見た人間の中で一番美人だと思う。あ、次期元首サマも美人だけど~、でもなんていうか次期元首サマは美人っていうか強すぎて格好いいって言わなきゃいけない気になるよね。だから除外。でもエレミアちゃんと同じく人外って感じがする~!親戚なんだっけ?」
「血は少し遠いですけれど」
「あー美人の家系かー!うっらやましぃ~!」
「憧れの冒険者」のイメージが崩れそうな喋り具合に、エレミアは苦笑混じりになる。
「おそらく、勇者の末裔と呼ばれる皆様にも、我が家の血は入っているんじゃないかと思います」
「えっ?そーなの?」
「はい。我が家は初代の時からずっと、各国の王族や上位貴族と血縁関係がありますので」
「ま、マジかー!知らなかったぁー!えっじゃぁ何で私、美人じゃないのかな?あっでも可愛いとは言われるよ!ねっ」
「あ、はい」
「血が遠いからかなぁ。あーでもちょっと希望が見えてきたかな。子供がほら、もしかしたら奇跡が起こって美人になるかもしれないじゃんね?」
「そうですね」
おそらく今最高ランクとして活躍している彼らが、「勇者の末裔」としての血と能力を色濃く継いでいる人達であるから、いつかは公爵家の血を濃く反映する者が生まれてもおかしくはないかもしれない。
そんな話をしながらも順調に攻略は進んで行く。
信じられないかもしれないが、最深部を目指しているパーティーなのだった。
移動や休憩の時にはリオンがやって来て、気遣ってくれる。
メンバー達も皆親切で、今日参加出来て本当に良かったと思った。
エレミアの魔法の威力は、おそらくチートと言われる類のものではないかと思う。
冒険者は経験を積み、レベルを上げて行く。
魔法の威力も初心者魔道士であれば、たいしたことはない。仮に最上級魔法を知っていたとしても、魔力が足りず、経験が足りずに発動することすら不可能だ。
だがエレミアは最初から最上級魔法を唱えることができた。
もちろん慣れるまでは威力を最小限に抑え、攻撃範囲も狭く設定して誤爆を防ぐことに尽力したが、魔法の詠唱から発動までを何度も繰り返すうちに、コツがわかってきたのだった。
最深部である百階に到達する頃には、知っている魔法は過不足なく唱えることが出来るようになっていた。おそらく初代の加護を持つ、虹色の瞳持ちだからこそだろうと思われたが、誰もツッコミを入れてくることはなかった。
次期元首の連れ、ということで気にしないでいてくれるのかもしれない。
リオンの強さは最高ランクの冒険者と遜色ないもので、最深部に到達してなお余裕があるのが恐ろしい。
「今日は楽しかったよ~!ありがと~次期元首サマー!エレミアちゃんもありがとねー!」
戦利品の山を魔道具のバッグに片づけ、見かけは軽装に見える冒険者達の表情は明るかった。最深部のボスまで倒し、分配しても数か月は暮らしていける程の稼ぎになったと大喜びである。
「こちらこそ、一緒に連れて行って下さってありがとうございました」
「エレミアちゃんったら最初はめっちゃ遠慮してたでしょー?最後らへんはぶっぱできて良かったねー!」
「ぶっぱ…?あ、ええ、ぶっ放しできて、楽しかったです」
「ふふーん!こっちこそたくさん稼がせてくれてありがとね!皆も大満足ー!」
「ありがとうございました」
「お疲れ。明日からはまた護衛を頼む」
リオンの言葉に皆は元気良く頷いていた。
「了解ー!明日は旦那とー、オレグが行くからよろしくね!」
「ああ」
転移装置前で別れ、リオンと二人で元首邸へと戻る。
今日の護衛役であったイワンとビリーも今日は終了ということで別れた。
「疲れてないか?一日移動しっぱなしの戦いっぱなしだったろう。辛そうな様子がなかったからいつものように進んでしまったが…」
「大丈夫。魔法をたくさん使って精神的には疲れているけれど、体力的には回復しながら移動していたから平気」
「ああ…無理しなくて良かったのに」
「いいえ、とても楽しくて充実した一日だった。本当にありがとうリオン兄様!」
笑顔を向ければ、苦笑された。
「そうか。ならいいが。明日も少し出かけようと思うんだが、平気かな?」
「もちろん。リオン兄様が強くて本当に驚いたわ。どうして隠していたの?」
「隠していたつもりはないが…見せる機会がなかったから、かな。でもエレミアがこの国に来るなら、またダンジョンに行こう」
「とても魅力的なお誘いね」
「それは良かった」
「じゃあ、今日はこれで帰るわね。本当にありがとう。リオン兄様がいたからダンジョンも楽しく過ごすことができたわ」
「嬉しいことを言ってくれるね。また明日」
「ええ、また明日」
元首邸に設置されている転移装置で自宅へと戻るエレミアの足取りは軽かった。
彼らは着いて早々最下層と呼ばれる地下九十一階へと転移装置を使って降り、慣れた様子で戦闘を始めた。
「好きに攻撃して良い」と言われて戸惑うエレミアの護衛としてついてくれたのは、最高ランクの冒険者の一人、回復役の女性だった。
ジェーンと名乗り、今まさに戦闘しているロイという名の戦士と結婚していると言い、子供が一人いて今は両親が見てくれているらしい。
「結婚して子供が出来てから、泊まり込みの依頼は滅多に受けられなくなっちゃってね、ほら、やっぱ子供心配じゃん?だから日帰りできる護衛とか、次期元首サマがダンジョンでストレス発散したい時に便乗して、戦利品もらったりとかで稼いでてね~!あ、もちろん国からの正式な依頼とか来ちゃったらね~、報酬次第で泊まりの依頼も受けるけどね。他国にも出向くよ~!でもエレミアちゃんの国はダンジョンないし、冒険者があの国行ってもなんていうか、ものすごく余所者感半端なくてさ~!仕事もないし、観光がてら一回行ったらもういいかなって感じで。…あっ!悪く思わないでね!エレミアちゃんの出身国だからって、エレミアちゃんを悪く言ってるわけじゃなくて、えーっとぉ…」
「あの、大丈夫ですわ。わかっておりますし、皆様とてもお強くて立派な冒険者でいらっしゃいますもの」
「あっそう言ってくれると助かる~!」
怒濤の勢いで話をしながらも、戦闘しているメンバーの回復はしっかりしつつ、強化魔法まで使っている。
エレミアもまた、リオンを始めメンバーが戦っている後方から、徐々に魔法の威力を上げて、どの程度敵に通用するかを確認作業中である。
横から立て板に水の如く話しかけられ、なかなか集中する事が難しい。
最高ランクの冒険者って、すごいのね。
尊敬する。
そんな中に混じっているリオンとは一体何者なのか。
最高ランク冒険者はこの回復役の女性を含めて五人。
聖王国の聖騎士団は、数十人単位で戦闘し、交代要員も大量に引き連れてダンジョンの最深部の維持管理をしているというのに。
リオンを加えて六人で最深部へと到達しようというのだった。
しかも日帰りで。
エレミアはおまけのようなものなので、人数には含んでいない。
「皆様は、勇者の血を引いていらっしゃったり…?」
「え、いやぁ、うちの旦那は勇者の末裔らしいよ。帝国出身なんだけどね。お祖父さんは皇族の一人だったとかなんとか」
「ああ、どうりでとてもお強いと思いました」
「でっしょ~?私もね~、聖女様の末裔なんだ~」
「えっ」
「といっても、遠い遠いご先祖様に、王族のご落胤がいたとかなんとか。今では末端の貴族なんだけど~!貴族っていっても下手したら平民より貧乏なんじゃ?って感じでさ、だから冒険者なんてやってるんだけどね!」
「そ、そうなんですね…」
「オレグは魔導王国出身だし、イワンは皇国出身でさ、ビリーは私と同じ聖王国出身だけどみんなてんでバラバラなの。でもかつての魔王討伐の時の勇者パーティーの末裔っていうのは共通してるんだ。不思議でしょ~?」
「よくそんな方々と出会って、パーティーを組めましたね?」
「元々は皆、別のパーティーだったんだ。それをさ、次期元首サマが「一緒にダンジョン潜らないか、稼がせてやる」って声かけてくれて~」
「彼が?」
「そーそー。彼曰く、うちらは冒険者として抜きんでた能力を持っているのに、今のパーティーじゃその能力を発揮できずに力の持ち腐れだぞ、機会損失だ、とかなんとか言っちゃってさ。最初はうさんくさー!って思ったんだけど~、まぁほら、冒険者も毎日やってるわけじゃないじゃん?試しに、って参加してみたら、今のメンバーがいて、ホント皆なんか、他の連中と違ったんだよね~。うーん、光るモノがあったっていうの?自分で言うのも恥ずかしいけどね!」
「彼の見る目があったんですね」
「そうそう、おまけに本人めちゃ強じゃん?何だよ~勇者の生まれ変わりか、魔王の生まれ変わりかよー!って」
「え、そういうの、わかるんですか?」
「いや全然わかんないけど。けどうちら今最高ランクじゃん?最高ランクって、すごいってことじゃん?そんなすごいうちらを見出してくれた同じくらい強い次期元首サマだって、タダ者じゃないと思うんだよね~」
「な、なるほど、確かにそうですね~」
「でしょ~?不思議なんだけどさ、次期元首サマと一緒に行動してるとなんつーの、ものすごい優秀な指揮官に指揮されてる感あるっていうかぁ」
「あぁ、わかります~」
「お、マジで~!?話わかるぅ~!」
思わずつられて語尾が伸びてしまったが、なるほど彼らの戦いはリオンを中心に回っていた。
普段は戦士ロイがリーダーらしいのだが、明らかにリオンを立てて指示を聞いており、そして上手く回っていた。
リオンはいつの間にこれだけの強さを手に入れていたのだろう。
我が公爵家の人間は、初代の力のおかげか、皆魔力量は豊富であり剣も魔法も得意である。女性はあまり積極的に剣の稽古はしないけれども、運動神経は良く、困ることはない。男性陣は鍛えれば鍛えるだけ強くなれるので、歴代の直系男子で努力した者は、出身によらず己の実力のみで他国の騎士団長や将軍になることすら可能だった。次兄レヴィも、将来の聖騎士団長であると目されており、実力は聖騎士団一である。
リオンは人間であり、公爵家の血が入っているとはいえ、勇者の血筋であるとか、そんな由来はないはずだ。
たまたま公爵家の血が濃く出たのだろうか。
ともに活動している勇者パーティーの末裔だという、彼らのように。
実力も勇者達の末裔と変わりないように見えるのが、恐ろしいところだ。
おかげで商業国家のダンジョンは、リオンと最高ランクの冒険者を中心として維持管理がなされている為、冒険者達にとって、「冒険者」という職業が憧れのものであるという。
いいことだと思う。
「それにしてもエレミアちゃんってホント美人すぎない?エレミアちゃんが今まで見た人間の中で一番美人だと思う。あ、次期元首サマも美人だけど~、でもなんていうか次期元首サマは美人っていうか強すぎて格好いいって言わなきゃいけない気になるよね。だから除外。でもエレミアちゃんと同じく人外って感じがする~!親戚なんだっけ?」
「血は少し遠いですけれど」
「あー美人の家系かー!うっらやましぃ~!」
「憧れの冒険者」のイメージが崩れそうな喋り具合に、エレミアは苦笑混じりになる。
「おそらく、勇者の末裔と呼ばれる皆様にも、我が家の血は入っているんじゃないかと思います」
「えっ?そーなの?」
「はい。我が家は初代の時からずっと、各国の王族や上位貴族と血縁関係がありますので」
「ま、マジかー!知らなかったぁー!えっじゃぁ何で私、美人じゃないのかな?あっでも可愛いとは言われるよ!ねっ」
「あ、はい」
「血が遠いからかなぁ。あーでもちょっと希望が見えてきたかな。子供がほら、もしかしたら奇跡が起こって美人になるかもしれないじゃんね?」
「そうですね」
おそらく今最高ランクとして活躍している彼らが、「勇者の末裔」としての血と能力を色濃く継いでいる人達であるから、いつかは公爵家の血を濃く反映する者が生まれてもおかしくはないかもしれない。
そんな話をしながらも順調に攻略は進んで行く。
信じられないかもしれないが、最深部を目指しているパーティーなのだった。
移動や休憩の時にはリオンがやって来て、気遣ってくれる。
メンバー達も皆親切で、今日参加出来て本当に良かったと思った。
エレミアの魔法の威力は、おそらくチートと言われる類のものではないかと思う。
冒険者は経験を積み、レベルを上げて行く。
魔法の威力も初心者魔道士であれば、たいしたことはない。仮に最上級魔法を知っていたとしても、魔力が足りず、経験が足りずに発動することすら不可能だ。
だがエレミアは最初から最上級魔法を唱えることができた。
もちろん慣れるまでは威力を最小限に抑え、攻撃範囲も狭く設定して誤爆を防ぐことに尽力したが、魔法の詠唱から発動までを何度も繰り返すうちに、コツがわかってきたのだった。
最深部である百階に到達する頃には、知っている魔法は過不足なく唱えることが出来るようになっていた。おそらく初代の加護を持つ、虹色の瞳持ちだからこそだろうと思われたが、誰もツッコミを入れてくることはなかった。
次期元首の連れ、ということで気にしないでいてくれるのかもしれない。
リオンの強さは最高ランクの冒険者と遜色ないもので、最深部に到達してなお余裕があるのが恐ろしい。
「今日は楽しかったよ~!ありがと~次期元首サマー!エレミアちゃんもありがとねー!」
戦利品の山を魔道具のバッグに片づけ、見かけは軽装に見える冒険者達の表情は明るかった。最深部のボスまで倒し、分配しても数か月は暮らしていける程の稼ぎになったと大喜びである。
「こちらこそ、一緒に連れて行って下さってありがとうございました」
「エレミアちゃんったら最初はめっちゃ遠慮してたでしょー?最後らへんはぶっぱできて良かったねー!」
「ぶっぱ…?あ、ええ、ぶっ放しできて、楽しかったです」
「ふふーん!こっちこそたくさん稼がせてくれてありがとね!皆も大満足ー!」
「ありがとうございました」
「お疲れ。明日からはまた護衛を頼む」
リオンの言葉に皆は元気良く頷いていた。
「了解ー!明日は旦那とー、オレグが行くからよろしくね!」
「ああ」
転移装置前で別れ、リオンと二人で元首邸へと戻る。
今日の護衛役であったイワンとビリーも今日は終了ということで別れた。
「疲れてないか?一日移動しっぱなしの戦いっぱなしだったろう。辛そうな様子がなかったからいつものように進んでしまったが…」
「大丈夫。魔法をたくさん使って精神的には疲れているけれど、体力的には回復しながら移動していたから平気」
「ああ…無理しなくて良かったのに」
「いいえ、とても楽しくて充実した一日だった。本当にありがとうリオン兄様!」
笑顔を向ければ、苦笑された。
「そうか。ならいいが。明日も少し出かけようと思うんだが、平気かな?」
「もちろん。リオン兄様が強くて本当に驚いたわ。どうして隠していたの?」
「隠していたつもりはないが…見せる機会がなかったから、かな。でもエレミアがこの国に来るなら、またダンジョンに行こう」
「とても魅力的なお誘いね」
「それは良かった」
「じゃあ、今日はこれで帰るわね。本当にありがとう。リオン兄様がいたからダンジョンも楽しく過ごすことができたわ」
「嬉しいことを言ってくれるね。また明日」
「ええ、また明日」
元首邸に設置されている転移装置で自宅へと戻るエレミアの足取りは軽かった。
1
お気に入りに追加
298
あなたにおすすめの小説
【完結】『婚約破棄』『廃嫡』『追放』されたい公爵令嬢はほくそ笑む~私の想いは届くのでしょうか、この狂おしい想いをあなたに~
いな@
恋愛
婚約者である王子と血の繋がった家族に、身体中をボロボロにされた公爵令嬢のレアーは、穏やかな生活を手に入れるため計画を実行します。
誤字報告いつもありがとうございます。
※以前に書いた短編の連載版です。
どうして私にこだわるんですか!?
風見ゆうみ
恋愛
「手柄をたてて君に似合う男になって帰ってくる」そう言って旅立って行った婚約者は三年後、伯爵の爵位をいただくのですが、それと同時に旅先で出会った令嬢との結婚が決まったそうです。
それを知った伯爵令嬢である私、リノア・ブルーミングは悲しい気持ちなんて全くわいてきませんでした。だって、そんな事になるだろうなってわかってましたから!
婚約破棄されて捨てられたという噂が広まり、もう結婚は無理かな、と諦めていたら、なんと辺境伯から結婚の申し出が! その方は冷酷、無口で有名な方。おっとりした私なんて、すぐに捨てられてしまう、そう思ったので、うまーくお断りして田舎でゆっくり過ごそうと思ったら、なぜか結婚のお断りを断られてしまう。
え!? そんな事ってあるんですか? しかもなぜか、元婚約者とその彼女が田舎に引っ越した私を追いかけてきて!?
おっとりマイペースなヒロインとヒロインに恋をしている辺境伯とのラブコメです。ざまぁは後半です。
※独自の世界観ですので、設定はゆるめ、ご都合主義です。
傷物令嬢シャルロットは辺境伯様の人質となってスローライフ
悠木真帆
恋愛
侯爵令嬢シャルロット・ラドフォルンは幼いとき王子を庇って右上半身に大やけどを負う。
残ったやけどの痕はシャルロットに暗い影を落とす。
そんなシャルロットにも他国の貴族との婚約が決まり幸せとなるはずだった。
だがーー
月あかりに照らされた婚約者との初めての夜。
やけどの痕を目にした婚約者は顔色を変えて、そのままベッドの上でシャルロットに婚約破棄を申し渡した。
それ以来、屋敷に閉じこもる生活を送っていたシャルロットに父から敵国の人質となることを命じられる。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
幼馴染みに婚約者を奪われ、妹や両親は私の財産を奪うつもりのようです。皆さん、報いを受ける覚悟をしておいてくださいね?
水上
恋愛
「僕は幼馴染みのベラと結婚して、幸せになるつもりだ」
結婚して幸せになる……、結構なことである。
祝福の言葉をかける場面なのだろうけれど、そんなことは不可能だった。
なぜなら、彼は幼馴染み以外の人物と婚約していて、その婚約者というのが、この私だからである。
伯爵令嬢である私、キャサリン・クローフォドは、婚約者であるジャック・ブリガムの言葉を、受け入れられなかった。
しかし、彼は勝手に話を進め、私は婚約破棄を言い渡された。
幼馴染みに婚約者を奪われ、私はショックを受けた。
そして、私の悲劇はそれだけではなかった。
なんと、私の妹であるジーナと両親が、私の財産を奪おうと動き始めたのである。
私の周りには、身勝手な人物が多すぎる。
しかし、私にも一人だけ味方がいた。
彼は、不適な笑みを浮かべる。
私から何もかも奪うなんて、あなたたちは少々やり過ぎました。
私は、やられたままで終わるつもりはないので、皆さん、報いを受ける覚悟をしておいてくださいね?
ふしだらな悪役令嬢として公開処刑される直前に聖女覚醒、婚約破棄の破棄?ご冗談でしょ(笑)
青の雀
恋愛
病弱な公爵令嬢ビクトリアは、卒業式の日にロバート王太子殿下から婚約破棄されてしまう。病弱なためあまり学園に行っていなかったことを男と浮気していたせいだ。おまけに王太子の浮気相手の令嬢を虐めていたとさえも、と勝手に冤罪を吹っかけられ、断罪されてしまいます。
父のストロベリー公爵は、王家に冤罪だと掛け合うものの、公開処刑の日時が決まる。
断頭台に引きずり出されたビクトリアは、最後に神に祈りを捧げます。
ビクトリアの身体から突然、黄金色の光が放たれ、苛立っていた観衆は穏やかな気持ちに変わっていく。
慌てた王家は、処刑を取りやめにするが……という話にする予定です。
お気づきになられている方もいらっしゃるかと存じますが
この小説は、同じ世界観で
1.みなしごだからと婚約破棄された聖女は実は女神の化身だった件について
2.婚約破棄された悪役令嬢は女神様!? 開国の祖を追放した国は滅びの道まっしぐら
3.転生者のヒロインを虐めた悪役令嬢は聖女様!? 国外追放の罪を許してやるからと言っても後の祭りです。
全部、話として続いています。ひとつずつ読んでいただいても、わかるようにはしています。
続編というのか?スピンオフというのかは、わかりません。
本来は、章として区切るべきだったとは、思います。
コンテンツを分けずに章として連載することにしました。
妹よりも劣っていると指摘され、ついでに婚約破棄までされた私は修行の旅に出ます
キョウキョウ
恋愛
回復魔法を得意としている、姉妹の貴族令嬢が居た。
姉のマリアンヌと、妹のルイーゼ。
マクシミリアン王子は、姉のマリアンヌと婚約関係を結んでおり、妹のルイーゼとも面識があった。
ある日、妹のルイーゼが回復魔法で怪我人を治療している場面に遭遇したマクシミリアン王子。それを見て、姉のマリアンヌよりも能力が高いと思った彼は、今の婚約関係を破棄しようと思い立った。
優秀な妹の方が、婚約者に相応しいと考えたから。自分のパートナーは優秀な人物であるべきだと、そう思っていた。
マクシミリアン王子は、大きな勘違いをしていた。見た目が派手な魔法を扱っていたから、ルイーゼの事を優秀な魔法使いだと思い込んでいたのだ。それに比べて、マリアンヌの魔法は地味だった。
しかし実際は、マリアンヌの回復魔法のほうが効果が高い。それは、見た目では分からない実力。回復魔法についての知識がなければ、分からないこと。ルイーゼよりもマリアンヌに任せたほうが確実で、完璧に治る。
だが、それを知らないマクシミリアン王子は、マリアンヌではなくルイーゼを選んだ。
婚約を破棄されたマリアンヌは、もっと魔法の腕を磨くため修行の旅に出ることにした。国を離れて、まだ見ぬ世界へ飛び込んでいく。
マリアンヌが居なくなってから、マクシミリアン王子は後悔することになる。その事実に気付くのは、マリアンヌが居なくなってしばらく経ってから。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
【完結】気づいたら異世界に転生。読んでいた小説の脇役令嬢に。原作通りの人生は歩まないと決めたら隣国の王子様に愛されました
hikari
恋愛
気がついたら自分は異世界に転生していた事に気づく。
そこは以前読んだことのある異世界小説の中だった……。転生をしたのは『山紫水明の中庭』の脇役令嬢のアレクサンドラ。アレクサンドラはしつこくつきまとってくる迷惑平民男、チャールズに根負けして結婚してしまう。
「そんな人生は嫌だ!」という事で、宿命を変えてしまう。アレクサンドラには物語上でも片思いしていた相手がいた。
王太子の浮気で婚約破棄。ここまでは原作通り。
ところが、アレクサンドラは本来の物語に無い登場人物から言い寄られる。しかも、その人物の正体は実は隣国の王子だった……。
チャールズと仕向けようとした、王太子を奪ったディアドラとヒロインとヒロインの恋人の3人が最後に仲違い。
きわめつけは王太子がギャンブルをやっている事が発覚し王太子は国外追放にあう。
※ざまぁの回には★印があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる