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第15話
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ぜえぜえはあはあ言いながら、一華は必死で山を登っていた。
景色なんて視界に入らず、ただ長く続く道のりを恨めしく踏みしめる。
隣では流星が「春とか秋なら綺麗だっただろうなー」と寒そうな木々を眺めながら歩を進める。
流星の足の長さを考えれば、もっと速く歩けるだろうに、自分の歩幅に合わせて歩かせている。時折一華を見つめては「大丈夫?」と心配そうに聞いてくるのだが、一華はその度に「うるさい」「黙って」「歩けてるでしょ」と可愛げのない言葉を浴びせる。
その様子をおかしそうに撮影するものだから、一華は何度か「もう!!」と叫んだ。
「あ、パンフレットだとここだね、見晴らしのいいポイント」
そこには樹木で造られたテーブルがいくつか置かれ、人為的に木が伐採されている。ちらほらと若者がそのテーブルでお菓子やサンドイッチを頬張っており、ピクニックのために作られた場所のようだった。
それまで土だった地面が砂利になり、人の手で作られたことを強く感じる。
「見晴らしはいいけど、なんか、あれじゃん。あれだよね」
山から見える景色を綺麗とは言わず、「あれじゃん」で誤魔化しながら流星に同意を求める。
花見や紅葉の時期に来るのが正解であり、この時期から見える景色は、ただ村を上から見るだけになる。遠くに見える山は緑色というより黒く濁っており、ただ冷たい風が吹くだけの今、「わあ、綺麗だね」の一言が出せない。
「はは、今度は冬以外に来よう」
「絶対この時期じゃなかった」
期待外れの景色に、いやそもそも期待はしていなかったが、「見晴らしがいい」と聞いていたので、どんなものかと思っていたら本当に大したものではなかった。
付近の山々を眺めていると、流星は子どもの姿を見つけた。
ここからは少し遠く、顔も姿も鮮明に見えないが、目を細めてみるとやはり子どもの姿が山の中に見える。視力は悪い方ではないが、距離があるため本当に子どもかどうか怪しいところだが、動き回っているので恐らく子どもだろう。一人や二人ではないので、遊び場があの辺りにあるのだと推測する。
隣に視線を移すと一華が飽きたようにぼけーっと遠くを見ていたため、戻ろうかと声をかけ、休憩をすることもなく来た道を引き返す。
土を踏みながら下っていくが、大きな石に躓き男のような低い声を出しながら、一華は転倒した。
幸いにも地面は土で怪我はなく、服も破れていない。いたた、と足を擦っていると、流星が苦笑しながら「大丈夫?」と手を差し出した。
一華は手を伸ばすが、自分の手に土がついていることに気付き、土を払うがこびりついているようで、なかなか取れない。
これでは流星の手は握れないなと思い、自力で立ち上がり服についた汚れも払う。
握られることのなかった流星の手は虚しく下げられるが、手を取らなかった一華の行動に、何故かどきりとした。
きっと麗奈なら、いたーいと喚きながら両手を上げて立たせろと言うはずだ。一華は何も言わなかったが、手に土がついていたから自分の手を取らなかったのだろう。土をつけてしまっては申し訳ないという気持ちからの行動だった。それが自分の中の何かに触れたような気がした。
「流星?」
「え、あ、なんでもない」
「帰りは下りだから、登る時より速く歩けるよ」
親指を立てて自慢げに言う一華を見ていると、無意識のうちにスマートフォンを取り出し、シャッター音を出していた。
驚いた一華は「今なの?」と撮影のタイミングが分からない流星を笑う。
「写真の後はどうせ動画でしょ?」
「よく分かったね。丁度今動画を撮ってます」
「そんなに撮って容量大変なことにならない?」
「普段写真とか撮らないから平気だよ」
「じゃあその中、私だらけになるじゃん」
「はは、嬉しい?」
「うーん、微妙」
嬉しいような、麗奈に申し訳ないような意味を込めて「微妙」と言った。
山を下りるまでの間、流星は一華を後ろから、前から、横からと様々な角度から撮り続けた。
景色なんて視界に入らず、ただ長く続く道のりを恨めしく踏みしめる。
隣では流星が「春とか秋なら綺麗だっただろうなー」と寒そうな木々を眺めながら歩を進める。
流星の足の長さを考えれば、もっと速く歩けるだろうに、自分の歩幅に合わせて歩かせている。時折一華を見つめては「大丈夫?」と心配そうに聞いてくるのだが、一華はその度に「うるさい」「黙って」「歩けてるでしょ」と可愛げのない言葉を浴びせる。
その様子をおかしそうに撮影するものだから、一華は何度か「もう!!」と叫んだ。
「あ、パンフレットだとここだね、見晴らしのいいポイント」
そこには樹木で造られたテーブルがいくつか置かれ、人為的に木が伐採されている。ちらほらと若者がそのテーブルでお菓子やサンドイッチを頬張っており、ピクニックのために作られた場所のようだった。
それまで土だった地面が砂利になり、人の手で作られたことを強く感じる。
「見晴らしはいいけど、なんか、あれじゃん。あれだよね」
山から見える景色を綺麗とは言わず、「あれじゃん」で誤魔化しながら流星に同意を求める。
花見や紅葉の時期に来るのが正解であり、この時期から見える景色は、ただ村を上から見るだけになる。遠くに見える山は緑色というより黒く濁っており、ただ冷たい風が吹くだけの今、「わあ、綺麗だね」の一言が出せない。
「はは、今度は冬以外に来よう」
「絶対この時期じゃなかった」
期待外れの景色に、いやそもそも期待はしていなかったが、「見晴らしがいい」と聞いていたので、どんなものかと思っていたら本当に大したものではなかった。
付近の山々を眺めていると、流星は子どもの姿を見つけた。
ここからは少し遠く、顔も姿も鮮明に見えないが、目を細めてみるとやはり子どもの姿が山の中に見える。視力は悪い方ではないが、距離があるため本当に子どもかどうか怪しいところだが、動き回っているので恐らく子どもだろう。一人や二人ではないので、遊び場があの辺りにあるのだと推測する。
隣に視線を移すと一華が飽きたようにぼけーっと遠くを見ていたため、戻ろうかと声をかけ、休憩をすることもなく来た道を引き返す。
土を踏みながら下っていくが、大きな石に躓き男のような低い声を出しながら、一華は転倒した。
幸いにも地面は土で怪我はなく、服も破れていない。いたた、と足を擦っていると、流星が苦笑しながら「大丈夫?」と手を差し出した。
一華は手を伸ばすが、自分の手に土がついていることに気付き、土を払うがこびりついているようで、なかなか取れない。
これでは流星の手は握れないなと思い、自力で立ち上がり服についた汚れも払う。
握られることのなかった流星の手は虚しく下げられるが、手を取らなかった一華の行動に、何故かどきりとした。
きっと麗奈なら、いたーいと喚きながら両手を上げて立たせろと言うはずだ。一華は何も言わなかったが、手に土がついていたから自分の手を取らなかったのだろう。土をつけてしまっては申し訳ないという気持ちからの行動だった。それが自分の中の何かに触れたような気がした。
「流星?」
「え、あ、なんでもない」
「帰りは下りだから、登る時より速く歩けるよ」
親指を立てて自慢げに言う一華を見ていると、無意識のうちにスマートフォンを取り出し、シャッター音を出していた。
驚いた一華は「今なの?」と撮影のタイミングが分からない流星を笑う。
「写真の後はどうせ動画でしょ?」
「よく分かったね。丁度今動画を撮ってます」
「そんなに撮って容量大変なことにならない?」
「普段写真とか撮らないから平気だよ」
「じゃあその中、私だらけになるじゃん」
「はは、嬉しい?」
「うーん、微妙」
嬉しいような、麗奈に申し訳ないような意味を込めて「微妙」と言った。
山を下りるまでの間、流星は一華を後ろから、前から、横からと様々な角度から撮り続けた。
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