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第16話
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リサとのことで、琴音は今まで以上に智之を監視した。
智之が帰宅すると無表情で「携帯」と短く言い放つので、智之は素直に差し出す。
食事中も就寝前も、智之が携帯をいじっていると目を光らせていた。
そんな家が苦痛になったとある休日、智之は散歩に行くと告げて近所をぷらぷら歩いていた。
目的はない。宛てもない。
ただ家から抜け出したかった。
散歩と言う智之の言葉を琴音は疑った。迅と一緒に行くのなら許可を出す、と一歩譲ので迅と一緒に散歩に出かけた。
琴音は今、家で一人。寛いでいることだろう。
いい身分だな、と琴音の顔を思い出して苛つく。
「散歩つまんないねー」
「そうか?パパは楽しいぞ」
「えー、つまんないよ」
琴音は迅を監視役として智之につけたのだが、迅は楽しくなさそうに唇を尖らせる。
家を出る前に迅は行きたくないと言っていたのだが、琴音の圧に負けて追い出されたのだった。
智之は近所の人間から恨みを買っていないか、通りがかる家を見て記憶を蘇らせる。
普段から近所付き合いをしていないので、智之が実際に関わったことのある人間はごくわずかだ。挨拶を交わす程度で、顔と苗字が一致しているだけ。そんな人間に恨みを抱かれる覚えはない。
無意識のうちに何かをしたのかもしれない、と詳細に思いだしてみるがやはり挨拶程度の仲である。
リサの一件は、琴音に悪意を持っている人間の行いか、或いは正義感の強い人間が琴音のためを思い暴露したのか。
どちらにせよ、そんな人間は近所にいないはずだ。琴音が近隣と深く関わっているのなら話は別だが、そんな琴音は見たことがない。世間話にすらそれほど出てこない。浅い関係を築けているのだろう。
近所の犯行という線は薄い。
となると、やはり智之に好意を寄せている女が夫婦仲を壊そうと企み決行したのではないか。そんな想像が頭を占める。
美沙以外に好意を抱いている女がいるのか。いるとすれば会社くらいだが心当たりはない。
最近、新人の山崎が懐いてくれていると感じるが、まさか山崎の仕業だろうか。にこにこと好意的な笑顔で近寄ってくるし、話す頻度も増えた。仕事の話だけではなく、世間話もするようになり、新人の中では一番話しやすい存在だ。
山崎くらいしか、会社で思い当たる人間はいない。
まさか本当に山崎なのか。
琴音に言われるがまま、左手の薬指には指輪を嵌めている。智之に妻子がいることは部署内で知らない人はいない。妻から引き離すために、写真を送ってきた。美沙の写真がないのは、山崎が美沙と仲が良いからと考えるのが自然だ。しかし、山崎と美沙は関りがないはず。それに、仲が良いからといって、遠慮するだろうか。
山崎の可能性が高いが、腑に落ちないので恐らく違う。
考えても分からない。
これで犯人が見知らぬ人ならば、尚更考えても仕方がない。
「はぁ」
「パパ、疲れたの?帰る?」
「も、もうちょっと散歩しようか」
「えー、まだぁ?」
迅は早く帰りたそうに、嫌そうな顔をする。
苦笑しながら迅の背中を軽く叩き、歩くよう促す。
隣で文句を言う迅の言葉を聞いていると、通りすがりの四十代くらいに見える女と目が合った。軽く会釈をすると、女は俯き帽子を深く被り直した。
感じが悪い。
睨むように女を見ていると、迅が「あのおばさん」と通り過ぎた女を振り向いて確認しながら呟いた。
「なんだ、迅。知ってる人か?」
「ママの知り合い」
「ママの?近所の人か?」
「そうだよ。ママ、偶にあの人と喋ってる」
「あの人とママは仲が良いのか?」
「仲が良い…うーん、よく分からない」
即答しないので、目立って仲が良いわけではなさそうだ。
先程の態度は、まさかパパ活の写真を送りつけた張本人だからではないだろうか。バツが悪くなって俯いた。そう受け取れる。
偶に喋る仲である琴音のために智之の悪事を伝えた。と、考えるがそれだと美沙の写真がないことの説明がつかない。
やはり近所の人間の犯行ではない。
しかし、それならば何故先程の女は顔を隠すような、智之を視界に入れないような態度をとったのか。
「迅、あの人と挨拶するのか?」
「うん」
「良い人か?挨拶は返してくれるのか?」
「うん。おはようございますって言ったら、おはようって言ってくれる。学校から帰る時は、おかえりって言ってくれるよ」
「そうか」
子どもには優しいが、大人相手だと人見知りする性格なのかもしれない。
あの写真の一件があってからというもの、怪しい人間はすべて目につき、疑ってしまう。
よくない傾向だ。
いくら疑っても犯人は分からない。職場の人間か、琴音の知り合いか、美沙の知り合いか。犯人候補を挙げるとキリがない。
写真や封筒の指紋を調べれば犯人が分かるのかもしれないが、そこまで大事にするつもりはないし、こんなことのために指紋なんて誰が調べてくれるというのだ。
犯人を捜すことよりも、今後気をつける方が大切だ。
同じ失敗はしないようにしなければ。
美沙との関係はなんとしてでも秘密にし、墓場まで持っていく。
琴音の監視が強くなったが、監禁されているわけではないのだから、美沙との浮気に支障はない。
今頃美沙は何をしているのだろうか。そんなことを考えていると、「この前学校でねー、ゆうやくんとよしきくんとボール遊びしたときにねー」と陽気な迅の声が聞こえた。
智之が帰宅すると無表情で「携帯」と短く言い放つので、智之は素直に差し出す。
食事中も就寝前も、智之が携帯をいじっていると目を光らせていた。
そんな家が苦痛になったとある休日、智之は散歩に行くと告げて近所をぷらぷら歩いていた。
目的はない。宛てもない。
ただ家から抜け出したかった。
散歩と言う智之の言葉を琴音は疑った。迅と一緒に行くのなら許可を出す、と一歩譲ので迅と一緒に散歩に出かけた。
琴音は今、家で一人。寛いでいることだろう。
いい身分だな、と琴音の顔を思い出して苛つく。
「散歩つまんないねー」
「そうか?パパは楽しいぞ」
「えー、つまんないよ」
琴音は迅を監視役として智之につけたのだが、迅は楽しくなさそうに唇を尖らせる。
家を出る前に迅は行きたくないと言っていたのだが、琴音の圧に負けて追い出されたのだった。
智之は近所の人間から恨みを買っていないか、通りがかる家を見て記憶を蘇らせる。
普段から近所付き合いをしていないので、智之が実際に関わったことのある人間はごくわずかだ。挨拶を交わす程度で、顔と苗字が一致しているだけ。そんな人間に恨みを抱かれる覚えはない。
無意識のうちに何かをしたのかもしれない、と詳細に思いだしてみるがやはり挨拶程度の仲である。
リサの一件は、琴音に悪意を持っている人間の行いか、或いは正義感の強い人間が琴音のためを思い暴露したのか。
どちらにせよ、そんな人間は近所にいないはずだ。琴音が近隣と深く関わっているのなら話は別だが、そんな琴音は見たことがない。世間話にすらそれほど出てこない。浅い関係を築けているのだろう。
近所の犯行という線は薄い。
となると、やはり智之に好意を寄せている女が夫婦仲を壊そうと企み決行したのではないか。そんな想像が頭を占める。
美沙以外に好意を抱いている女がいるのか。いるとすれば会社くらいだが心当たりはない。
最近、新人の山崎が懐いてくれていると感じるが、まさか山崎の仕業だろうか。にこにこと好意的な笑顔で近寄ってくるし、話す頻度も増えた。仕事の話だけではなく、世間話もするようになり、新人の中では一番話しやすい存在だ。
山崎くらいしか、会社で思い当たる人間はいない。
まさか本当に山崎なのか。
琴音に言われるがまま、左手の薬指には指輪を嵌めている。智之に妻子がいることは部署内で知らない人はいない。妻から引き離すために、写真を送ってきた。美沙の写真がないのは、山崎が美沙と仲が良いからと考えるのが自然だ。しかし、山崎と美沙は関りがないはず。それに、仲が良いからといって、遠慮するだろうか。
山崎の可能性が高いが、腑に落ちないので恐らく違う。
考えても分からない。
これで犯人が見知らぬ人ならば、尚更考えても仕方がない。
「はぁ」
「パパ、疲れたの?帰る?」
「も、もうちょっと散歩しようか」
「えー、まだぁ?」
迅は早く帰りたそうに、嫌そうな顔をする。
苦笑しながら迅の背中を軽く叩き、歩くよう促す。
隣で文句を言う迅の言葉を聞いていると、通りすがりの四十代くらいに見える女と目が合った。軽く会釈をすると、女は俯き帽子を深く被り直した。
感じが悪い。
睨むように女を見ていると、迅が「あのおばさん」と通り過ぎた女を振り向いて確認しながら呟いた。
「なんだ、迅。知ってる人か?」
「ママの知り合い」
「ママの?近所の人か?」
「そうだよ。ママ、偶にあの人と喋ってる」
「あの人とママは仲が良いのか?」
「仲が良い…うーん、よく分からない」
即答しないので、目立って仲が良いわけではなさそうだ。
先程の態度は、まさかパパ活の写真を送りつけた張本人だからではないだろうか。バツが悪くなって俯いた。そう受け取れる。
偶に喋る仲である琴音のために智之の悪事を伝えた。と、考えるがそれだと美沙の写真がないことの説明がつかない。
やはり近所の人間の犯行ではない。
しかし、それならば何故先程の女は顔を隠すような、智之を視界に入れないような態度をとったのか。
「迅、あの人と挨拶するのか?」
「うん」
「良い人か?挨拶は返してくれるのか?」
「うん。おはようございますって言ったら、おはようって言ってくれる。学校から帰る時は、おかえりって言ってくれるよ」
「そうか」
子どもには優しいが、大人相手だと人見知りする性格なのかもしれない。
あの写真の一件があってからというもの、怪しい人間はすべて目につき、疑ってしまう。
よくない傾向だ。
いくら疑っても犯人は分からない。職場の人間か、琴音の知り合いか、美沙の知り合いか。犯人候補を挙げるとキリがない。
写真や封筒の指紋を調べれば犯人が分かるのかもしれないが、そこまで大事にするつもりはないし、こんなことのために指紋なんて誰が調べてくれるというのだ。
犯人を捜すことよりも、今後気をつける方が大切だ。
同じ失敗はしないようにしなければ。
美沙との関係はなんとしてでも秘密にし、墓場まで持っていく。
琴音の監視が強くなったが、監禁されているわけではないのだから、美沙との浮気に支障はない。
今頃美沙は何をしているのだろうか。そんなことを考えていると、「この前学校でねー、ゆうやくんとよしきくんとボール遊びしたときにねー」と陽気な迅の声が聞こえた。
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