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しおりを挟む手を引かれて連れてこられたのはクリスの私室だった。王子様の部屋だけあって、豪華で広い。
「まずはお風呂に入ろうね」
と、まっすぐ浴室へ連行された。牢屋の汚い地面の上をごろごろ転がって汚れているので体は洗いたいのだけど、当然のようにクリスも入ってくるのをすんなりと受け入れることはできない。
制服を脱がせようとするクリスの手を止める。
「あの、お風呂なら僕一人で入れるけど」
「もちろんわかってるよ。でも一緒に入ろうね」
有無を言わさず全裸にされて、同じように衣服を脱ぎ捨てたクリスに浴室に連れ込まれる。
ここでまた彼を殴って昏倒させたら逃げられるだろうか。そんな考えがふと頭を過ったが、城内には兵士が配置されているだろうし、見つからずに抜け出すのは無理だろう。さすがに二度も殴ったら、今度こそ問答無用で処刑されてしまうかもしれない。
叶愛は我慢してクリスに体を洗われた。
首から上だけをすげ替えられたような感覚だったけどもちろんそんなことはなくて、やはり体も前とは違う。美しさを保つ為に毎日手入れしていたときのような滑らかさがないし、前は陶器のように白かったのに今は少し日に焼けている。
あんなに頑張って美貌を磨いてきたのに、死んでしまえばこんなにあっさり失ってしまうのだ。
自分の体を見下ろしながらそんなことを考えていると、クリスがふと話しかけてきた。
「ところで、叶愛はどうしてうちの敷地の中で倒れてたの? どこから入ってきたんだ?」
「えっと……わかんない。気づいたらあそこにいた」
色々と端折ってはいるが、それが事実だ。
ものすごい雑な説明だが、クリスは納得してくれたようだ。
「そうか。もしかしたら、叶愛は神様から私への贈り物なのかもしれないね」
なんて勝手に都合よく解釈している。
もし本当にそうだとしたら、贈り物なんかにしてくれやがった神様を一生恨んでやると叶愛は心に誓う。
さっぱりして浴室を出ると、クリスが体をタオルで拭いてくれた。そしてタオルで包んで叶愛の体をベッドへ運ぶ。
ベッドに下ろされ、タオルを剥かれ、別に今更全裸を晒すことに抵抗はないので叶愛は大人しくしていた。
「はい、果実水だよ」
そう言ってクリスはグラスに注いだそれを差し出してくる。
「ありがと」
叶愛は受け取り、こくりと飲んだ。
こくこくと飲んでいる間に、クリスは小さな瓶を取り出し、その中身を叶愛の肌に塗り込める。
「なにそれ?」
「ボディクリームだよ」
「ふーん。いい匂いだね」
「ほんと? 気に入ってもらえたならよかった」
クリスはにこにこしながらクリームを叶愛の体に丁寧に塗っていく。
王子という立場にありながらクリスは当然のように叶愛の世話を焼き、そして甘やかされることに慣れきっている叶愛はそれを当然のように受け入れていた。
それが終わると、クリスは叶愛の手から空のグラスを取り上げ元の場所に戻す。そして叶愛に顔を向け、にっこりといい笑顔で微笑んだ。
「さあ、叶愛。私達の記念すべき初夜だよ」
「ええ!? まだ結婚してないよね!?」
「でもいずれ必ず結婚するんだから、初夜を先に済ませても問題はないよ」
笑顔は本当に王子様のようにキラキラ輝いているのに、その瞳には隠しきれない情欲が宿っている。
(こんな平凡モブ顔に欲情するなんて……)
好みは人それぞれだけれど。もし美少年のまま生まれ変わっていたら、この変態に目をつけられることもなかったのだろう。そう思うと、この顔に生まれ変わらせた神様を心の底から呪いたくなる。
「叶愛……」
他のことを考えていた叶愛は、あっさりと唇を奪われた。
はむはむと唇を啄まれても、最初より抵抗感はなかった。どうせ一度キスされてしまったのだ。二度三度奪われたところでもうなにも変わらない。
もし、生前だったなら死に物狂いで抵抗しただろう。叶愛は自分の美しさを命よりも大事にしていた。それを他人にけがされるなんて絶対に許せなかった。相手を殺してでも自分を守った。
けれど、今は守るべき美貌もない。守ったところでなんの意味もない。下手に抵抗してクリスに怪我を負わせでもしたら、それこそ大変なことになってしまう。
だから、仕方ないか、という気持ちだった。いずれ逃げるチャンスが訪れるかもしれないが、とりあえず今を生き抜く為に体を差し出すくらい、耐えられないわけではない。
そんな風に考えて、叶愛はクリスのキスを受け入れた。
舌で唇を割られ、慣れていないからびくびくしてしまうけど、口内に舌を差し込まれても我慢した。
「んっ、ふぁっ、んっんっ……」
どうすればいいのかわからないから、叶愛はされるがままだ。
ぴちゃぴちゃと濡れた音が鳴って恥ずかしい。口の中をぬるぬると舐め回される感触に、嫌悪ではなく背筋がぞくぞくした。
クリスの舌は、まるで知り尽くさなければ気が済まないというかのように隅々まで叶愛の口内を探っていく。舌の裏側、頬の内側、歯の一本一本をねぶり、上顎を舌先でなぞる。
「はぁっんっ、ふっんっんっ」
上顎を舐められるとぶるっと震えが走り、じっとしていられず叶愛は身を捩った。するとそんな叶愛の反応をもっと引き出そうと、クリスは執拗に上顎を舌で擦る。
「んぁっ、んっんっんんっ」
体がどんどん火照ってきて、頭がぼうっとしてくる。
一度口を離してほしくてクリスの舌を舌で押し返そうとすれば、なにを勘違いしたのか今度は舌をべろべろに舐め回された。舐めしゃぶられて引き出されてぢゅるるっと卑猥な音を立てて吸われた。
「んっふぅっ、んんっ」
さすがに耐えきれなくなり、叶愛はクリスの肩を叩く。意図に気づいて、彼は漸く唇を離してくれた。
解放され、叶愛は荒い呼吸を繰り返す。
「はあっ、はーっ、はふっ……」
「ああ、ごめんね、苦しかった?」
「苦しいよ、少しは手加減して……っ」
「……叶愛、はじめてだったの?」
「そうだよ……」
叶愛は潤んだ瞳でクリスを睨んだ。
「はじめてなんだから、ちゃんと優しくして。僕、痛いのやだから、絶対絶対痛くしないでよ」
叶愛は自分が大好きだったから、恋愛などしたことはない。性的なことにも疎かったが、自主的に知識を得ようとしなくても情報は勝手に入ってくる。男同士で体を繋げる場合、どこを使うのかくらいは知っている。貞操を守るのは諦めたが、痛い思いはしたくないのだ。
強く念を押せば、クリスは息を呑み目を瞠る。そして、うっとりと微笑んだ。
「うん、もちろん。大切に抱くよ」
とりあえずその言葉を信じるしかない。叶愛は体から力を抜いた。自分の発言がこの行為を無駄に長引かせることになるとも知らず、目の前の男に身を委ねたのだ。
クリスの手が、するりと皮膚の上を滑る。ふにゃりと薄い胸を揉まれ、叶愛はぴくりと肩を震わせた。
「僕、女の子じゃないけど……」
「そうだね」
女ではないから胸を触っても楽しくないだろうと言いたかったのだが、クリスは表情いっぱいに愉悦を浮かべ叶愛の揉み心地のない胸を揉む。
痛みを感じない強さで、ふにふにと優しく揉み込まれ、なんとも言えない感覚に叶愛はもぞりと身動いだ。
「んっ、ふぅんんっ」
なんだかだんだん変な感じがしてきて、声が漏れそうになって慌てて唇を噛む。
するとクリスは顔を近づけて噛み締める唇を舐めた。ぬるぬると唇の上を舌が這い、思わず口を開けばすかさず舌を挿入される。
「んっはっ、ぁんっんっんぅっ」
舌に舌を絡めながら、クリスは叶愛の胸を揉む。
キスも、触れる手付きも甘くて、叶愛の思考は徐々に蕩けていく。
胸を揉んでいた指が、不意に小さな突起を摘まんだ。
「ひゃんっ」
軽い刺激だったのに、叶愛はびくんと反応して背中を浮かせる。
「ぁっ、んっ、はぁっんんっ、んんっ」
喘ぐ叶愛の口の中をねぶりながら、クリスの指は摘まんだ乳首をくり、くり、と捏ねる。
肌がぞくぞくと粟立って、びくびくと背筋が震える。きゅうっと乳首を押し潰され、びくんっと一際大きく体が跳ねた。
「んゃあっ、あっ、だめ、そこっ、弄んないでぇ……っ」
「んー? ダメなの? 気持ちよさそうなのに?」
「やぁんっ、きもち、よくなんて、ないぃっ」
かぶりを振って否定する叶愛に、クリスは目を細めて笑う。
「ふふ。嘘ばっかり。叶愛のここは、気持ちいいって言ってるよ?」
「ひゃあんっ」
クリスが手を伸ばした先には、叶愛のペニスがあった。そこはひくりと頭を擡げ、彼の言葉が正しいのだと如実に伝えていた。
クリスは勃ち上がったペニスを掌に包み込み、緩やかに上下に擦る。
「あんっ、だめぇっ、触らないでぇっ」
「触らなくていいの? とろとろって蜜が溢れてきたのに? このまま放っておいていいの?」
「あぅっ……」
クリスは優しく微笑みながら、ペニスを扱く手の動きを止める。
中途半端に刺激され、熱を吐き出せないもどかしさに叶愛の瞳にじわりと涙が浮かぶ。
「ひ、ぅっ……んっ……」
無意識に腰が揺れ、ペニスの先端からたらりと先走りが垂れる。
下腹部に蓄積した熱は、ぐるぐると渦巻き叶愛を苦しめた。この熱を解放したいのに、それができずにひくりと喉を震わせる。
「やっ、やぁ……っ」
顔を真っ赤にして悶える叶愛を見下ろすクリスの笑みは蕩けるほどに甘く、けれど嗜虐が見え隠れしていた。まるで弱る獲物を見て楽しんでいるかのように、舌舐めずりする。
「辛そうだね、叶愛? 本当におちんちん触らなくていいの?」
「っふ、うぅ……っ」
「私は叶愛を苦しめたいわけじゃないんだよ? ほら、どうしてほしいのか素直に言ってごらん?」
「うっ、うー……っ」
叶愛が恥辱にぽろぽろと涙を流せば、クリスの笑みはいっそう深くなる。そしてぺろぺろと流れる涙を舐め取った。
「ああ、そんな可愛い泣き顔を見せないで。興奮してしまうよ」
「ひぃっ……」
うっとりとした囁きに叶愛は肩を竦ませる。
「ごめんごめん、叶愛ははじめてだからまだ上手におねだりできないよね。これから少しずつ覚えていこうね」
「ぃ、んあぁっ」
嫌だ、と突っぱねる前にきゅっとペニスを擦られ、拒絶は言葉にできなかった。
「おちんちん、このまま擦ってほしい? 頷くだけでいいよ」
「っ、っ……」
ここで首を横に振れば、今度こそ本当に熱を吐き出せないまま放っておかれ、いじめ抜かれるかもしれない。一見穏やかで優しそうなこの変態王子には、そう思わせるSっ気をひしひしと感じる。
そこまで意地を張ることもできない叶愛は、こくりと小さく頷いた。
それを見て、クリスは艶然と微笑む。
「いいよ。おちんちん、気持ちよくしてあげるね」
「ふぁんっ」
ぺろりと乳首を舐めながら、クリスはペニスをくちゅくちゅと扱く。舌先で乳首をくにくにと転がし、ペニスの先端を指の腹でぬるぬると擦る。
「ひぁっあっ、そんな、一緒に弄っちゃ、あぁっあっあぁんっ」
胸からも下肢からも強い快感が走り抜け、叶愛は身悶えた。自分の口から漏れる甘ったるい喘ぎ声が恥ずかしいのに、それを抑える余裕もない。
「あんっあっあぁっ、い、いくっ、も、出ちゃうぅっ」
すぐに限界は訪れ、間近に迫る絶頂に内腿が痙攣する。
じゅぅっと強く乳首を吸われ、激しくペニスを刺激され、叶愛は呆気なく射精した。
「あっ、ああああぁっ」
びくんびくんっと腰が浮き、ペニスから体液が弾け飛んだ。
今まで味わったことのない強烈な快楽に、叶愛は放心したようにただ荒い呼吸を繰り返す。
呆ける叶愛を、クリスは情欲にまみれた瞳でねっとりと見つめた。
「蕩けた顔、可愛いね。ああ、叶愛のミルク、美味しそう……」
恍惚と呟き、クリスは叶愛の体に飛び散る精液を舐める。胸元から下腹部まで丁寧に舐め回し、それからとろりと残滓を垂らすペニスをパクリと口に咥えた。
「んひぃっ……!?」
射精したばかりで敏感になっているそこをぬめった粘膜に包まれ、痺れるような快感に叶愛の意識は呼び戻される。
クリスの口の中に自分の欲望が飲み込まれているのを見て、叶愛は激しく動揺した。
「ひっ、あっ、ばかぁっ、な、なにしてっ、あっやだぁっ、ぺろぺろしないでっ、あっあっ、だめぇっ」
ちゅうっと尿道に残る残滓を吸い上げ、ねっとりと糸を引きながらクリスの唇は離れていった。
満足そうな笑みを浮かべる彼を、叶愛は恨みがましげに見上げる。
「ひっく、うぅ……ばか、ばかっ、変なこと、しないでよ……っ」
「変なことじゃないよ。愛し合う二人が行う普通のことだよ」
「うそだもん、そんなの……」
「叶愛は子供だからまだ知らないんだね。これからたくさん覚えていこうね」
「やだよ……」
ふいっと顔を背けるのに、クリスは酷く楽しそうだ。
「楽しみだなぁ……。なにも知らなかった叶愛が、私の手で淫らに成長していくのか」
耳に届いた不穏な独り言に、叶愛は今すぐここから逃げ出したくなった。自分は選択を誤ったのかもしれない。もしかしたら、処刑を選ぶべきだったのかもしれない。この男に身を任せたら、とんでもないことになってしまうのかもしれない。
けれど、もう遅い。
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