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 意識が浮上し、ゆらゆらと体が揺れていることにマリナは気づいた。
 ゆっくりと瞼を開けば、ユリウスの顔が目に入る。

「ユリウス……?」

 寝惚けたマリナは彼の名前を呼ぶ。
 ユリウスがこちらを見下ろし微笑んだ。

「目が覚めた?」

 徐々に意識が覚醒し、マリナははっと目を見開く。そこで漸く、自分がユリウスにお姫様抱っこで運ばれていることに気づいた。

「えっ!? なに、なんで!?」
「動かないで、落っことしちゃうよ」

 ユリウスに窘められ、ピタリと動きを止めた。
 混乱しながらも、どうしてこんな状況になっているのか記憶を遡る。そして、馬車の中で眠ってしまったことを思い出した。
 だから、ユリウスがこうして運んでくれているのだろう。

「す、すみません、お義兄さま……もう下ろしてください。私、自分で歩けます」
「ダメだよ。こうして捕まえてないと、マリナは逃げちゃうから」
「え……?」

 言葉の意味がわからず、ポカンと彼を見上げる。
 ユリウスは穏やかな笑顔を張り付けたまま、それ以上なにも言わない。
 やはり彼の様子がおかしい。
 目を逸らして、ふと気づく。てっきり屋敷に帰ってきたのだと思ったのに、ユリウスが歩いているのは見覚えのない廊下だった。

「お義兄さま? ここはどこですか……?」
「うちの別荘だよ」
「別荘? どうしてここに……?」
「ここなら、誰にも邪魔されずにマリナを僕のものにできるからね」
「………………え?」

 ユリウスの言っていることの意味がわからない。
 困惑している間に、ユリウスは部屋に入った。
 広く綺麗なその部屋の内装を見回す暇もなく、奥に置かれたベッドに下ろされる。

「お、義兄さま……?」

 暗い欲を孕んだ双眸に見下ろされ、マリナはぞくりと震えた。

「怯えてるの、マリナ? いつもの強気な態度はどうしたの?」

 ユリウスの笑顔が怖い。
 一体どうしてしまったというのだろう。こんなところにマリナを連れてきて、どうするつもりなのだろう。

「怖がってるマリナも可愛いけどね」

 ユリウスの掌が、するりとマリナの頬を撫でる。指先が耳を掠め、ピクリと肩を震わせれば、彼は笑みを零した。

「っふ……」

 耳朶を指で挟んですりすりと擦られて、まるで愛撫のようなその触れ方に、マリナの口から吐息のような声が漏れた。羞恥に、頬が赤く染まる。
 マリナの反応に、クスクスとユリウスが笑った。
 マリナは彼を睨み付ける。

「お義兄さま、からかうのはやめて下さい。こんなところに連れてきて、どういうつもりなんですの? 私はお義兄さまの悪ふざけに付き合うつもりはありません」

 自分で言いながら、その不自然さに気づいていた。
 彼は今まで一度もマリナをからかったことなどない。こんなたちの悪い悪ふざけをするような人間ではない。
 けれど、冗談でなければなんなのだ。
 強い口調で咎めても、ユリウスは笑みを崩さず、マリナに触れる手も離さない。
 耳を撫でながら、彼は言う。

「可愛いね、マリナ。ベッドに押し倒されたこんな状況で、なにをされるかわからないの?」

 わからないわけではない。そんなことをユリウスがマリナにするはずがないと思い込んでいるのだ。
 しかしそんなマリナの思い込みは覆される。
 覆い被さるユリウスの唇が、マリナのそれに重ねられた。
 しっかりと伝わる唇の感触に、マリナは瞠目する。
 わけがわからなくて呆然とキスを受け入れるマリナの唇を、ユリウスの舌がぬるりと舐める。
 僅かに開いた隙間から舌先を挿入されそうになった。その段階で、マリナは漸く抵抗する。

「ぃやっ……」

 両手で彼の胸を押し返そうとするが、両手首を掴まれシーツに押さえつけられる。
 声を上げて口を開いた隙に、舌を差し込まれた。

「んんっ……」

 口腔内を舐め回され、逃げ場のない舌を絡め取られる。くちゅくちゅと濡れた音が耳に届き、カッと体温が上がった。
 唾液が滴るほどの濃厚なキスに、マリナの頭は混乱した。
 どうして自分がこんなことをされているのだろう。
 ユリウスが好きなのはシルヴィエなのに。
 でも、シルヴィエが選んだのはラドヴァンだ。
 そのショックで、自棄になって、マリナをシルヴィエの代わりにしようとしているのだろうか。
 それとも、マリナへの腹いせだろうか。あのとき、ユリウスとシルヴィエのダンスを邪魔してしまったマリナを恨んでいるのかもしれない。
 どちらにしろ、彼はマリナが好きでこんなことをしているわけではないだろう。
 そう思うと悲しくて、なのに体は、彼のキスを喜んでいる。ずっと好きだった人から口付けられて、抵抗しなくてはいけないのに、どんどん体から力が抜けていく。

「ふぁっ……」

 つぅっ……と糸を引いて離れていく唇。
 ユリウスの熱を帯びた瞳と濡れた口許が艶っぽい。
 彼の顔を見ているだけで、ぞくんっと背筋が震えた。
 ユリウスの手が、マリナのドレスを脱がしていく。

「あっ……ダメ……っ」
「ダメ? 全然抵抗してないくせに」
「ゃっ…………」
「本気でやめさせたいなら、もっとちゃんと嫌がらないと」

 楽しそうな笑みを浮かべ、彼はマリナを裸に剥いていく。
 ユリウスの言う通り、ちゃんと抵抗しなければならないのに、体が思うように動かない。
 気持ちの伴わない行為など嫌なのに、心の奥底では、彼に抱かれることを望んでいるのだろうか。
 わからないのはユリウスの気持ちだけではない。マリナは自分の気持ちもわからなくなっていた。
 動揺し、満足な抵抗もできないまま、衣服を全て剥がされた。
 ユリウスに裸を見られていると思うと堪らなく恥ずかしく、腕で隠そうとするがまた手首を掴まれ押さえつけられてしまう。

「やっ、見なぃ、で……っ」
「ああ……マリナの恥ずかしがってる顔、凄く可愛い」

 ユリウスはうっとりと囁く。

「僕の前ではいつも表情を変えてくれなかったよね。他の人には簡単に笑顔を見せるのに、僕にはそっけない態度で、少しも笑ってくれない。僕はずっと君の笑顔が見たかった。ずっと、僕に笑いかけてほしいと思ってたのに」

 暗く翳った彼の双眸が、柔らかく細められた。

「でも、もういいんだ。笑顔を見れなくても。僕だけしか見れないマリナを見せてもらうから」
「ひぁっ……」

 首筋を舐められ、漏れた声に羞恥が込み上げる。
 その反応にユリウスはうっそりと微笑み、マリナの肌に舌を這わせていった。
 味わうように舐めて、強く吸い付き、痕を残す。
 首筋を辿って鎖骨に柔らかく歯を立て、彼の唇は更に下へ移動する。

「っあ、やっ……」

 胸の膨らみを舌がすべり、頂へと向かっていく。
 焦らすようにゆっくりと、淡く色づく突起に唇が近づく。

「ひぁんっ」

 ぬるりと舌で乳輪をなぞられ、その刺激に甘い声が勝手に口から上がってしまう。
 口を塞ぎたいが、手首を押さえつけられたままではかなわない。

「ふぅっ、んんっ、んぁあっ」

 必死に唇を噛み締めるけれど、音を立てて突起を吸い上げられ、声を我慢できないほどの快感に襲われた。
 たっぷりと唾液を含んだ口内に咥えられ、つんと尖った突起を舌で転がされ、しゃぶられる。

「あっ、あっ、あんっ」

 声を抑えるどころか、はしたない喘ぎ声を止められなくなっていた。
 どろどろと溶け出してしまったかのように体から力が抜けていき、拘束を解かれてももう腕を上げられなかった。
 片方の乳房をたっぷりと味わい、ユリウスはもう片方へと唇を移動させる。
 まだ柔らかい乳首を舌で刺激して尖らせながら、唾液に濡れた方は今度は掌でやわやわと揉み込む。

「ふあぁっ、あぁっ、あっ、やぁっ」

 唇で吸い上げられ、指で押し潰され、両方の乳首に同時に強い快感を与えられ、マリナは背中を仰け反らせた。
 下腹がじくじくと疼いて、脚の間からとぷとぷと蜜が溢れるのを感じる。
 マリナは内腿を擦り合わせ、必死にそれを隠そうとした。
 もじもじと腰を捩るその姿がユリウスの目を楽しませていることには気づかずに。
 散々乳房を嬲ったあと、ユリウスの唇は移動した。
 マリナの肌を吸い上げ、至るところに痕を残しながら、下半身へ向かう。
 ちゅうっと下腹に吸い付かれ、マリナはびくんっと反応した。
 もう彼の顔が陰部のすぐ傍まできている。ぴったりと脚を閉じ、必死にそこを守った。
 そんなマリナの反応を見て楽しそうに笑い、ユリウスは茂みに唇を落とす。

「やあっ、そんなところ……っ」

 嫌がるマリナの声を無視して、脚の付け根を舌がなぞる。
 ぬるりとした熱い粘膜の感触に、マリナはびくびくと震えた。
 ユリウスの唇は太股に移動し、柔らかい皮膚に吸い付きまた痕を残していく。
 かぷりと膝を甘噛みし、脛を舐め上げた。
 丁寧に、執拗に愛撫を施され、ユリウスの残した痕が散りばめられていく。
 与えられる甘やかな快感に、どんどん脚から力が抜けていってしまう。
 そして、簡単に持ち上げられた。
 
「ぃやっ、離してっ……」

 無意味だとわかっていながら、必死に声を上げる。
 マリナがそうやって反応すれば、それが拒絶であれ、彼を喜ばせる結果にしかならなかった。
 ユリウスは見惚れるほど綺麗な顔で微笑み、持ち上げたマリナの爪先に口づける。舌を伸ばしてねっとりと舐め上げ、足の指を口に含んで、味わうようにしゃぶりついた。
 途端に、ぞくぞくっと、嫌悪からではなく背筋が震えた。
 ちゅぱ……っと、足の指を吸い上げる卑猥な音を、マリナは信じられない思いで聞いていた。
 こんなことをする彼も、こんなことをされて快感を得る自分も信じられない。

「やっ、いやあっ、そんなことしないで、やめてぇっ」

 嫌がれば嫌がるほど、ユリウスの愛撫に熱が籠る。
 指の間や足の甲、隅々にまで舌を這わされた。足の裏をつう……っと舌先で辿られ、擽ったさに身を捩る。

「ひぁっ、んんっ……」

 擽ったいだけならばまだ耐えられたのに、マリナの体はしっかりと快楽を感じていた。下腹部の疼きはどんどん強くなり、はしたなく蜜を分泌させる。
 恥ずかしくて堪らないのに、体の熱は冷めることなく上昇していく。
 しっかりと両足舐め回され、乳房同様、彼の唾液でぬるぬるになってしまった。
 蛇に咬まれたふくらはぎは、特に念入りにねぶられ吸われた。
 恥ずかしくて、居たたまれなくて、瞳いっぱいに涙を溜め、懇願する。

「うっ……もう、いや……やめて……っ」
「今更やめるわけがないだろう? この程度で泣いてどうするの?」

 ユリウスはクスクスと笑って、すっかり力の抜けてしまったマリナの脚を広げる。





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