恋するうさぎ

よしゆき

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雪村の場合

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 女子高生のやなぎには好きな人がいる。高校に入学し、同じクラスになった雪村ゆきむらだ。
 彼は柳の隣の席で、でも特に言葉を交わすこともなかった。
 最初のきっかけは、柳の落とした消しゴムを彼が拾ってくれた。消しゴムを差し出され、そのとき、柳は正面からまともに彼の顔を見た。クラス内で何度か彼の容姿について耳にしたことがあるが、なるほど整った顔立ちをしている。それが柳の感想だった。
 次のきっかけは、柳が教科書を忘れて雪村に見せてもらった。そのとき、はじめてちゃんと言葉を交わした。彼と音楽の趣味が同じことを知って、嬉しくなって休み時間も話してた。
 それから、毎日挨拶を交わすようになった。CDの貸し借りもたまにするようになった。席替えで席が離れても、その関係はつづいた。
 雪村は愛想のいいタイプではない。話し上手というわけでもない。どちらかというと口数は少なく、かといってそっけないわけでもない。柳が声をかければ、きちんと応えてくれる。表情の変化は乏しく、笑顔は滅多に見せない。けれど柳は、そんな雪村と話すのが好きだった。他愛ない話でも、彼となら楽しかった。
 だから、自然と彼に惹かれていった。好きだな、と思うようになっていった。友達から付き合ってるの? って訊かれて、違うよって答えながらもいつかそうなるかも、なんて思っていた。
 このまま二人の仲が深まって、そして雪村の方から告白してきて、そうなったらもちろん柳はOKして、晴れて恋人同士になり、イチャイチャカップルの誕生だ。なんて、そんな妄想をしていた。
 けれどそれは妄想に過ぎなかった。いい感じだなって思っていたのは柳の方だけだった。完全に柳の片想いだった。
 原因は、わからない。けれど、雪村は柳を避けるようになった。声をかけても、顔も合わせてくれない。こちらを見ようとしない。柳を視界に入れようともしない。柳という存在そのものを、拒絶していた。
 ショックだった。そもそも理由がわからない。全く思い当たることがない。なにがきっかけで避けられるようになったのかがさっぱりわからない。
 柳が意図せず、彼を不快にさせるようなことを言ってしまったのかもしれない。もしそうならば、きちんと彼に謝りたい。
 そう思って、一度、雪村に直接尋ねたことがある。帰宅途中の彼を強引に引き止め、自分はなにか怒らせるようなことをしてしまったのか、と。
 すると、彼は、柳はなにも悪くないと言った。柳はなにもしていない。原因は自分にあるのだと。じゃあその原因とはなんなのかを訊いても、言えないとしか答えない。頼むからもう近づかないでほしいと言い残し、雪村は立ち去ろうとした。
 納得できなくて、思わず彼の腕を掴んだ。
 すると、まるで嫌なものにでも触れられたかのように振り払われた。
 ショックで固まる柳に一言謝って、雪村はその場から走り去った。
 わけがわからない。
 柳は悪くないと言いながら、柳に触れられるのも、顔を見るのも嫌だと言わんばかりだ。
 せめて理由を話してほしい。
 原因は自分にあると雪村は言うが、やはり柳の方に問題があったのではないか。
 馴れ馴れしくし過ぎたのかもしれない。いつか告白されて恋人になれるかも、なんて柳の自惚れた考えを察して、そんなつもりはないんだと突き放したのだろうか。柳が彼を好きにならなければ、友達のままでいられたのだろうか。
 やるせない思いを抱えながら、二年に進級した。運の悪いことに、また雪村と同じクラスになってしまった。
 クラスが同じなので、どうしたって毎日彼の姿が視界に入る。忘れたくても忘れられない。
 二人の関係が中途半端なのもよくない。別に柳は、彼に告白してフラれたわけでもないのだ。フラれたようなものなのかもしれないが。
 いっそのこと、告白してしまおうか。フラれるのがわかっていて告白するなんておかしいけれど、その方がスッキリするはずだ。いつまでもズルズル気持ちを引きずるより、すっぱりフラれてさっぱりこの恋を終わらせて、さっさと次の恋を探すのだ。
 柳は雪村に告白する決意を固めていた。
 高校二年の、夏休み。柳の通う学校では、夏休みに毎年肝試し大会が行われる。三日間、学年ごとに集まり、ペアを組んで旧校舎の指定された場所まで行って戻ってくる。
 生徒同士の交流を深める催しだ。自由参加だが、参加者は学食の食券が貰える。食券目当てだったり、暇潰しなど目的は様々だが、毎回参加者は多い。
 旧校舎が実は本当に心霊スポットとなっているらしい、という噂も生徒の好奇心を擽るようだ。普段は立ち入り禁止なのに、幽霊の目撃情報は少なくないのだ。お化け役はおらず、驚かされることはないが、いわく付きの旧校舎だけに、中を歩くだけでも充分に怖い。
 柳は、お化けが苦手だ。肝試しもお化け屋敷もホラー映画も避けまくっている。だから去年の肝試しはもちろん不参加だった。今年も参加する意欲は一ミリもなかった。
 けれど、友達にどうしてもと頼まれてしまった。友達が好意を寄せている別のクラスの男子が参加するらしい。一人では参加しにくいから、柳にも来てほしいと言うのだ。どうしてもと頭を下げられれば、友達相手に断るのは難しい。
 斯くして柳は肝試し大会に参加することとなった。
 すっかり日も落ち、外は既に真っ暗だ。グラウンドは肝試しに参加する生徒で埋め尽くされている。
 そんな中、柳は自分の運の悪さを呪っていた。
 ペアはくじ引きで決められる。柳は見事、雪村のペアを引き当てたのだ。
 こんなことってあるだろうか。よりによって、一番ペアになりたくなかった相手が選ばれるなんて。クラスもそうだけれど、運が悪すぎる。
 いや、本来であれば喜ぶことなのだろう。好きな人が相手なのだから。
 けれどもちろん、柳は少しも喜べなかった。気まずすぎる。
 雪村はこういった行事には興味がなさそうだが、彼も友達に誘われ断れなかったようだ。
 雪村とペアになるとわかっていたら、なにがなんでも断っていたのに。そしてきっと、雪村もそう思っているのだろう。自分の考えに切なくなる。
 柳の気持ちなどお構いなしに、肝試し大会はスタートした。
 一組目のペアから、順番に旧校舎の中に消えていく。何事もなく、順調に進んでいった。
 そして柳達の番がやってくる。教師から渡された懐中電灯を手に、旧校舎へ向かった。
 グラウンドを離れると、喧騒は遠く辺りは静かになる。
 旧校舎の前にやって来た。暗闇に包まれたその建物は、数割り増しに不気味に見えた。
 怖い。恐怖に足が竦みそうになる。けれど立ち止まれなかった。雪村がずんずん進んでいくから。躊躇いもなく、さっさと旧校舎に足を踏み入れる。
 彼は一度も柳を見ない。なにも言わない。話しかけるな近づくなオーラが凄い。
 だから柳も声をかけられない。本当はもう少しゆっくり歩いてほしい。腕とまでは言わないから、服の端を掴ませてほしい。
 けれど柳を拒絶する彼の背中を見て、なにも言うことができなかった。
 彼に告白しようという決心も揺らいだ。これだけ態度で示されているのだ。既にフラれているも同然だろう。
 旧校舎の中は真っ暗だ。懐中電灯を持った雪村は数歩先を歩いていて、柳の周りにその光はほとんど届かない。聞こえるのは二人の足音だけ。
 雪村は振り返りもせず歩いていく。
 悲しみと恐怖で柳は泣きそうだった。
 怖い怖い怖い。目に写るもの全てが恐ろしく見えてくる。
 柳の歩くスピードは徐々に落ちていく。雪村の背中が遠くなる。
 待って。行かないで。大声で叫び、泣いて縋りたい。
 じわりと涙が滲む。
 柳の恐怖心はピークに達していた。
 そんなとき、ふと、視界の端でなにかが動いたような気がして。

「ひぃっ」

 悲鳴を上げ、柳は尻餅をついた。
 恐怖で足が震える。

「柳?」

 悲鳴に気づき、雪村が振り返った。座り込む柳を見て、こちらに近づいてくる。
 
「どうした? 転んだのか?」
「あ……」

 声を出そうとして、聞こえてきた音に愕然とした。
 しょろろろ……と、水が流れる音。同時に、下半身が濡れる感触。

「あ、あ……っ」

 止めたくても止まらない。体を震わせながら、柳は尿を漏らしつづけた。
 雪村は既に目の前まで近づいていた。匂いと音で、柳がどんな状態なのか気づいただろうか。
 もう嫌だ、と柳は心の中で嘆いた。どうしてこうなるのだ。どうしてよりによって、彼の前で。
 柳は顔を真っ赤に染め、ぼろぼろと涙を零した。

「うぅっ、ひっ、……お願い、見ないで……」
「…………」
「先に、行って……っふ……う……雪村くん、お願い……っ」

 泣きじゃくりながら、一刻も早く彼が立ち去ってくれることを願った。
 柳の願いとは裏腹に、雪村は動かない。俯いていても、彼の視線を感じる。
 引いているのか。呆れているのか。驚いているのか。突然目の前でお漏らしされたら、どうしていいのかわからないのかもしれない。
 情けなくて恥ずかしくて、涙が止まらない。
 唐突に、雪村が柳の前に膝をついた。それから、柳の両肩を強く掴む。
 びっくりして、柳は雪村を見た。
 彼は険しい顔でこちらを凝視している。
 もしかして怒っているのだろうか。こんなみっともない醜態を晒してしまった柳に。
 更に涙が溢れてしまう。

「ご、ごめん、なさい……っ」
「柳……」
「ごめ、なさっ……んん!?」

 前触れもなく、唇を塞がれた。雪村の唇で。
 柳は目を見開いた。
 なにが起きているのだろう。自分の唇に触れる、雪村の唇。これはキスというものではないのか。なぜ自分は彼にキスをされているのだろう。
 呆然として、柳は彼のキスを受け入れる。
 雪村の掌が頭の後ろに回され、より深く口づけられる。

「んぅっ……ふ……ん、ん……っ」

 酸欠になりそうになったところで、唇が離れた。
 懸命に呼吸を繰り返す柳を、雪村がじっと見つめている。
 雪村はTシャツの上に着ていたシャツを脱いだ。そしてそれで、柳の脚を拭った。

「だ、だめ、汚いよ、汚れちゃうっ」

 柳は慌てて止めようとするが、雪村は強引にスカートの中に手を突っ込み、濡れた脚を拭いてしまう。
 それから彼はポケットからスマホを取り出し、どこかへ電話をかけた。

高松たかまつか? ああ、俺。柳が体調崩したから、リタイアする。俺達、このまま帰るから。……ああ、頼んだ」

 高松とは、雪村と一緒に来ていた友人だ。
 通話を終え、雪村はスマホをポケットに押し込んだ。

「立てるか?」

 雪村に問われ、柳は立ち上がろうとするが足に力が入らなかった。
 それでもこれ以上彼に迷惑をかけたくなくて、柳は無理にでも立とうとした。
 よろける柳を、雪村が支える。懐中電灯を手渡され、柳はなにも考えず受け取った。

「無理するな」
「ひゃあっ!?」

 雪村は躊躇いなく柳を抱き上げた。

「雪村くんだめ! 汚れちゃうから!」
「いいから、じっとしてろ」

 自分が汚れるのも厭わずに、しっかりと柳を腕に抱き、雪村は歩き出した。
 そのまま、非常口から外へ出る。生徒のいるグラウンドは避けて校舎内に入り、やって来たのはシャワー室だった。
 服を着たまま中に入り、向かい合わせで立った二人の頭上から、温いシャワーが降り注ぐ。すぐに全身がぐっしょりと濡れ、衣服が肌に張り付く。

「柳……」

 熱っぽく名前を囁き、雪村は再びキスをする。
 驚いて後退ると、背中に壁が当たった。壁と雪村に挟まれ、逃げ場がない。
 柳は慌てて顔を背けた。

「ちょ、ま、待ってよ、なんで、こんな……」
「悪い、もう、止まらない、我慢できないんだ」
「な、なにを……」
「好きだ、柳」
「っ……」

 なんで。どうして。雪村の方から離れていったくせに。雪村が柳を突き放したくせに。
 今になって、急に、そんなことを言われてもどうしていいかわからない。
 柳は今でも、彼が好きだ。雪村への気持ちをずっと引き摺っている。
 でも、だからと言って、いきなり好きだと言われてそれを素直に受け入れることなどできない。
 けれど、拒むこともできなかった。
 真っ直ぐに向けられる雪村の視線は真摯で、その言葉が嘘ではないと伝わってきたから。

「柳、柳、好きなんだ、柳が、好きだ」

 誰でもいいわけでなく、ただひたすらに、柳だけを求めていたから。
 だから、拒めなかった。好きな人に必死で求められて、拒むことができなかった。
 唇が重なっても、柳はもう抵抗しなかった。唇を開き、伸ばされた舌を受け入れる。

「ふぅ、んんっ……ぁ……ぅんん……っ」

 口腔内をぐちゃぐちゃに蹂躙される。口の中を舐め回され、舌を吸われ、貪るようなキスに柳は懸命に彼にしがみついた。
 開きっぱなしの唇からは、だらだらと唾液が溢れて顎を伝う。
 唇が離れると、互いに荒い呼吸を繰り返した。

「柳、柳……好き、好きだ」

 雪村の方が息が乱れているかもしれない。吐き出される彼の息は熱い。
 瞳が潤み、頬は紅潮していて、辛そうに眉を寄せるその表情は、ゾクリとするほど色気を纏っていた。
 まるで発情しているようだ、と柳は思った。
 彼の熱にあてられ、柳の体も熱を持ちはじめる。

「ゆき、むらくん……」

 とろんとした顔を向ければ、やや乱暴にTシャツをたくしあげられた。
 ブラジャーに覆われた乳房が雪村の眼前に晒される。
 今日どんなブラつけてたっけ、と柳は一瞬焦った。見られると想定していなかったから、適当に選んだものを身につけている。
 さっと視線を落として確認すれば、比較的可愛いブラジャーだったのでほっとした。
 ほっとした次の瞬間にはブラジャーをずらされ、隠されていた部分が露になる。
 恥ずかしくて隠そうとするが、それよりも先に雪村がそこに手を伸ばした。

「ふわぁっ……!」

 びっくりして、色気のない声を上げてしまう。
 胸を触られてる。いや、揉まれている。
 雪村の大きな掌に包まれて、指が胸に食い込む様子はひどく卑猥だ。
 雪村の手は、熱があるかのように熱かった。

「あっ、んん……雪村、くん……っ」
「はっ……やわらか……」

 感触を楽しむように、何度も揉まれる。なんだかむずむずしてきて、柳は体をくねらせた。

「ここ、固くなってきた」
「ひんっ」

 乳首を摘ままれ、背を反らせた。

「あっ、あっ、だめ、そこ」

 くりくりと捏ねられ、快感が走り抜ける。
 雪村は胸に顔を寄せた。赤く膨らんだ突起をぺろりと舐め、唇に含んで吸い上げる。

「ひぁっ、あぁんっ」

 あられもない嬌声が響いた。
 雪村は胸を愛撫しながら、下肢へと手を伸ばす。
 スカートの中に差し込まれた手が、太股を撫で上げ脚の付け根をなぞる。

「ふあぁっ、そこ、だめ、汚いの……っ」

 柳の訴えは無視され、雪村の指がショーツの内側に入ってくる。 

「んあっ、あっ、雪村くぅんっ」

 蜜に濡れた秘所を撫で上げられ、ぞくぞくっと背筋が震えた。

「濡れてる……」

 雪村の漏らした呟きは、吐息となって乳首にかかる。それが刺激となり、また蜜が溢れた。
 蜜をなすりつけるように、陰核を擦られる。

「ひぃんっ」

 強い刺激に、がくがくと足が震える。

「だめ、雪村くん、立ってられないのっ、お願い、ぎゅってして……っ」
「柳……」

 腕を伸ばせば、雪村は胸から顔を離し、しっかりと片腕で抱き締めてくれた。柳は彼の首にしがみつく。
 
「柳、柳、好きだ……っ」

 柳の顔にキスを降らせながら、雪村は差し込んだ指で膣を解す。
 蜜穴は充分に濡れていて、指を増やされてもあまり痛みは感じなかった。
 なんだか奥が切なくなって、きゅうきゅうと指を締め付けてしまう。

「あっ、雪村くん、雪村くぅんっ」
「はっ、柳、俺、もう、やばい……っ」

 焦れた手つきで、雪村が性器を取り出した。柳の片足を持ち上げる。
 勃起したそれが、花弁に押し当てられた。
 触れる陰茎の大きさに、思わず視線を向けてしまう。目に写し、柳は狼狽えた。

「ど、どうしよう、入らないかも……」
「大丈夫、たぶん、入る」
「でも、大きいよ……?」
「っ……はあ、頼む、入れさせて。痛いと、思うけど……いや、絶対痛いけど」
「入る……?」
「うん。ゆっくり、入れるから……はっ……」
「んんぅっ」

 先端が、ゆっくりと埋め込まれる。
 柳は痛みに顔を顰めた。

「くぅっんん……うあっ、はう……っ」
「柳、息吐いて……」
「ん、はあっ……あっ、入っ、てる……?」
「っく、はあっ……うん、一番、太いとこは、入った……っ」

 雪村の額には汗が浮かんでいて、彼の顔も辛そうに歪んでいる。耐えるように歯を食い縛り、必死に欲望を抑えているようだった。
 とても苦しそうで、自分の痛みよりも、彼のことで胸がいっぱいになる。

「大丈夫、だから……もっと、奥まで、全部、入れて……」
「っ柳……!」

 ズズッと肉棒が突き入れられる。先端が、奥に突き当たるのを感じた。

「あ、は、入った、全部……?」
「ああ、悪い、一気に……」
「大丈夫、そん、なに、痛くない、から……っ」

 膣内にぎちぎちに雪村の熱が埋め込まれている。
 痛いのに、まるで離したくないというように膣壁が陰茎に絡みつく。

「はっ、く……柳、柳っ」
「雪村くん、動いて、いいよ……我慢しないで……」
「柳、柳、好きだっ……う、はあっ」

 雪村が腰を振り立てる。体を密着させ、激しく柳の唇を奪った。
 必死なまでに求められているのが伝わり、柳の心は満たされた。
 抱きすくめられ、乳首が彼の胸に擦れる。押し付けられた彼の下腹に、陰核が磨り潰される。
 痛みが徐々に快楽に代わり、気づけば柳ははしたなく喘ぎ、身をくねらせていた。

「ああっ、雪村くん、好き、あっ、大好きっ」
「柳っ、ぅあっ、好き、だ……あ、もう、出る……っ」
「私も、いっちゃ、あっ、いくっ、雪村くぅんっ」
「ぐっ……く、うっ……」

 二人はほぼ同時に果てた。
 腹の奥で熱が弾けるのを感じ、柳はうっとりと目を閉じた。



 着ていた服はびしょ濡れになってしまったので、柳は雪村が保健室から持ってきてくれた予備のジャージに着替えた。同じくジャージを着た雪村は、脱衣所のベンチに座る柳から離れた場所に立ち、事情を説明してくれた。
 雪村には兎の血が流れていて、好きな人の傍にいると発情してしまうのだという。
 そんな嘘みたいな話を、真剣な顔で彼は語った。
 俄には信じがたいが、嘘だとも思えない。彼が冗談を言っているようには見えないし、そんな冗談を言うタイプにも見えない。
 柳は彼の話を信じることにした。

「つまり、雪村くんは私のことが好きなの?」

 確かに、抱かれているとき何度も言われたけれど。
 雪村は「ああ」と頷く。

「じゃあ、私のこと避けてたのって……」
「柳の近くにいると、すぐに発情するからだ。正直、顔を見ただけでもヤバいときがある」
「っ……そ、そう、なの?」
「ああ」
「前に、腕掴んだとき振り払われたのは……」
「近くにいるだけでも危ないんだ。触られるなんてもってのほかだ。その場で押し倒したくなる」
「っ……」

 真面目な顔で言われ、柳は耳まで赤く染めた。
 知らなかった。てっきり嫌われているのだと思っていた。そう思われるように、わざと冷たい態度をとっていたのだと言う。柳が近づかないように。自分から離れていくように。
 
「でも、あの、私のこと、その、襲わないように、避けてたんだよね……?」
「そうだ」
「それなのに、どうして、こんなことに……?」
「それは、あのとき、柳が……」

 あのとき? 言われて思い出す。自分の人生最大の失態を。
 忘れていたが、自分は彼の前で漏らしてしまったのだ。

「わー!! 待って待って、思い出さないで、もう忘れて!!」
「無理だ。あのとき、真っ赤になって漏らしてる柳を見て、すごい興奮した。それで発情して、抑えられなくなって……」
「わーわーわー!!」

 大声で雪村の話を遮る。
 なんてことだろう。あれがきっかけになってしまったなんて。雪村は柳を避けることで自分の衝動を抑えてきた。それなのに、柳が彼の今までの我慢を台無しにしてしまったというのか。
 っていうか、どうしてあれで興奮するのだ。ドン引きされるよりいいのかもしれないけれど、とても複雑な気持ちだった。少なくとも嬉しくはない。

「本当に、悪かった。謝って済むことではないが……」

 雪村は悲痛な顔をして項垂れた。
 彼の態度に柳はムッとする。

「どうして謝るの?」
「俺は、無理やり柳を抱いた。今まで、冷たく突き放していたくせに。それで柳が傷ついていると知っていた。それなのに今さら、好きだと言って、許されることじゃない」
「無理やりじゃないし! 本気で嫌だったら股間蹴って逃げてるし! 私が雪村くんに抱かれたいって思ったから抵抗しなかっただけだし!」
「柳……それは……でも」
「もー! 謝らないで! 好きって言って! ちゃんと告白して! 私を雪村くんの彼女にしてよ!」
「いや……いいのか? 俺はこんな体質なんだぞ。柳の傍にいれば、すぐに発情する。人前じゃ、まともに会話もできない」

 つまりそれが、告白はせず、柳から離れようとした理由なのだ。告白したところで、雪村の体質を知れば柳が拒むと思ったから。
 確かに、受け入れられない人もいるだろう。普通にデートすることも難しいのだから。
 それでも、柳は彼と一緒にいたいと思った。
 何度も好きだと言って、必死に自分を求めてくれた彼の気持ちに応えたい。

「好きって言って。そしたら、雪村くんのこと、全部、受け入れるから」

 覚悟を決めたように、雪村は柳を真っ直ぐ見つめた。

「好きだ、柳。俺はずっと、柳が好きだ」
「うん、私も、好き」
「俺の彼女になってくれ」
「うん」

 笑顔で頷くと、雪村も微笑んだ。
 滅多に見られない彼の優しい微笑に、胸がきゅんとなった。
 柳は彼に向かって腕を広げる。

「じゃあ、ぎゅってして」
「は、いや、だから、それは」

 戸惑う雪村も、珍しい。
 可愛くて、更にきゅんきゅんした。もう抱き締めてもらわなくては気が済まない。

「いいから、して」
「っ……わかった」

 雪村はベンチに座る柳に近づいた。
 恐る恐る腕を伸ばし、ふわっとした強さで柳の体を包む。
 柳はぎゅうっと雪村に抱きついた。

「や、柳……」
「雪村くんも、ぎゅってするの」

 有無を言わせず、抱き締めさせる。隙間なく体を密着させた。
 ぐりぐりと、彼の胸に顔を埋める。
 そうしていると、やがて、彼の一部が固くなっていることに気づいた。
 体を離し、柳は衣服の上からそこに触れる。

「柳……っ」
「ほんとに、発情するんだ……」
「こら、離せ……」

 切羽詰まった彼の声音に、ぞくぞくしてしまう。
 性感を煽るように、熱を持ったそこを撫でる。

「柳、もう離せ……」
「やだ」
「襲われたいのか?」
「うん」

 頷くと、肯定されると思っていなかったのか、雪村は僅かに目を見開いた。

「ちゃんと、恋人になった雪村くんと、したい……」
「っ…………たく、お前は」
「雪村くん、好き」
「俺も、好きだ」

 微笑むと、彼も微笑み返してくれた。
 そして二人はもう一度抱き締め合い、キスを交わした。




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読んでくださってありがとうございます。



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