あたるくんの食事事情

よしゆき

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23 告白後

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 エロなし。真の母親が目立ってる話です。





 真が三人と円満にお付き合いをはじめて数ヵ月が経った。不安もあったけれど交際は順調に進んでいる。というか、付き合う前とあまり変わらない。
 そして今日は、はじめて四人でデートする。二人や三人で出かけることはあったが、四人揃って一緒に外で遊ぶのははじめてだ。
 真はドキドキしながら家で待っていた。三人が真の家まで迎えにきてくれるのだ。

「真ってばソワソワしちゃって……。昨日はちゃんと眠れたの? 楽しみすぎて寝れなかったんじゃない?」

 リビングをうろうろしていたら母にからかわれた。
 母には報告はしていないのに恋人ができたことはすぐにバレた。隠すつもりはなかったので別にいいのだが、こうして冷やかされるのは恥ずかしい。

「ちゃんと寝たよ! 遠足前の子供じゃあるまいし!」

 と言い返しつつなかなか眠りにつけなかった真だ。早めに布団に入ったので寝不足にはならなかったが。
 頬を染めて何度も時間を確かめる真を、母は微笑ましく見つめていた。
 彼女は息子に恋人ができたことを心から喜んでいる。なにせ自分のせいで真は普通とは違う体なのだ。恋愛には疎く奥手な真は童貞処女だった。それなのに恋愛をすっ飛ばし、性行為なんてできないのではないかと心配していた。
 だが、彼は見事やり遂げた。精気を食べるだけではなく、その相手と愛を育み恋人になることができたのだ。これで食事に困ることはないだろうと、母は一安心した。
 さすが、優秀サキュバスである自分の血を継ぐ息子だ。誇らしい気持ちでいっぱいになる。
 真に恋人ができたことは知っているが、母はどんな相手かまでは知らない。家に来るというので、今日はしっかり挨拶をしておこうと思っていた。
 純粋な真の恋人だ。きっと相手も真面目で誠実な好青年タイプなのではないか。
 真と恋人の初々しい姿を想像し、母は口元を緩める。
 その時、インターフォンが鳴った。真はすぐさま玄関へ向かい、母はゆっくりと後を追う。
 ドアを開ける音、それから複数の声が聞こえてきた。そのことに、母は首を傾げる。どう考えても声の数が多い。
 不思議に思いつつ玄関へ向かえば、そこには息子と三人の少年がいた。
 母の頭には更に疑問符が浮かぶ。
 今日は恋人とデートのはずだ。それなのに、友達も来てしまったのだろうか。とすれば、三人の中の一人が真の恋人なのだろう。
 母は離れた場所から観察する。三人とも想像とは随分違うタイプだ。一人は不良っぽいし、一人はチャラそう、もう一人は無表情。好青年タイプはいない。
 一体あの中の誰が息子の恋人なのか。声をかけることも忘れ頭を悩ませていると、視線に気づいた真がこちらを振り返る。

「お母さん? なんでそんな離れたところにいるの……?」
「えっ……あ、ああ、ごめんごめん」

 我に返った母は笑顔を浮かべ、そちらに近づく。
それから三人に向かって挨拶をした。三人もそれぞれ挨拶を返してくる。けれど、誰も自分が真の恋人だとは言わない。
 なので母は息子へ問い掛ける。

「と、ところで真……その、誰があなたの恋人なのかしら?」
「え、みんな恋人だよ」
「え!?」

 瞠目する母を見て真は、そういえば恋人がいることは知られているが、三人いるということは教えていなかったな……と今更ながら気づいた。母が驚くのも無理はない。

「ごめん、言うの忘れてた……。あの、でも、三人とはちゃんとお付き合いしてて……変な関係じゃなくて……みんな、僕の大切な恋人なんだ」

 三人も恋人がいるなんて、どう考えても普通ではない。だが、真にとっては間違いなく三人とも恋人で、かけがえのない存在だ。
 ふしだらな関係だと誤解されたくなくて、真は真摯な気持ちを母に伝えた。

「そ、そうなの……」

 息子の言葉を否定はしなかった母だが、内心は疑心で溢れていた。
 ひょっとして、真は彼らに遊ばれているのではないか、と。純粋で真面目な真を騙し、恋人面して真をいいように扱っているのでは……。そんな疑念が渦巻いていた。
 もしそうならば、一刻も早く別れさせなければ。

「じゃあ、行ってくるね」
「ちょっと待って!!」

 恋人達とデートに向かおうとする息子を慌てて止める。

「どうしたの、お母さん?」
「私も行くわ!!」
「え……?」
「私も、お父さんとデートするの!! あなた達と一緒に行く!! 人数が多い方が楽しいでしょ!? ちょっと待っててお父さん連れてくるから!!」
「ええっ!?」

 そうして母は、殆ど無理やり彼らのデートに同行することになった。





 やって来たのは遊園地だ。休日だけあって園内は賑わっている。
 真は両親がついてきてしまったことに、ずっと申し訳なさそうにしている。そんな真を、恋人の三人は気にしてないから気にするなと慰めていた。
 恐縮している真には悪いけれど、でも、どうしても確かめなければならないのだ。この三人が本気で真のことが好きなのか。遊びで付き合っているのではないのか。
 三人ともかなり容姿が整っていて、さぞやモテるのだろう。きっと好意を寄せてくる相手を手玉に取るなど容易いはずだ。素直で可愛い真を騙すことなど簡単にできてしまう。
 しっかりと見極めなくてはならない。母は厳しい視線を三人に送る。

「母さん、一体どういうつもりなんだい? 真のデートについてくるなんて」

 困り顔で声をかけてくるのは、真の父親だ。彼は一応反対したのだが、強引に押しきりこうしてここまで連れてきた。

「あなた……これは真の為なの。お願いだから協力してちょうだい」
「協力って……なにをするつもりだい?」
「あなたは、真と遊園地を回っててくれればいいから」
「え……?」
「真ー! ちょっとこっち来てー!」

 ぶんぶん手を振って息子を呼ぶ。真は素直にこちらへ来た。

「なに、お母さん?」

 真が恋人達と離れたところで、母は魔力を発動した。幻術を使い、真と父と恋人の三人をお互い視認できないようにしたのだ。
 サキュバスとして高い魔力を持っていればこれくらいは簡単にできる。

「あ、あれ? みんながいない……? もしかしてはぐれちゃったの……?」
「おや? 母さんの姿も見えないな……」

 真と父はきょろきょろと辺りを見回している。
 そして、二人から離れた場所にいる真の恋人達も、同じように見えなくなった真の姿を捜していた。
 彼らはすぐにスマホを出して連絡を取ろうとするが、それも魔力を使って阻害する。
 真は父に任せ、母は三人のもとへ駆け寄った。

「今井くん、佐野くん、上原くん!」
「あ、真ちゃんのお母さん」
「なんかはぐれちゃったみたいね」
「そうですね。電話も通じないし……」
「仕方ないから、私達四人で行動して真とお父さんを捜しましょう」

 今井と上原は無口なようで、受け答えするのは佐野だけだ。
 彼らを誘惑し、反応を見る。それが母の作戦だ。誘惑に乗ってくるようならば、彼らは真の恋人失格である。
 自分で言うのもなんだが、優秀サキュバスなだけあって顔もスタイルもかなり秀でている自信がある。何千という人間の男を誘惑してきた実績もある。現に、周りの男達は見惚れるように母を見ている。あまり周囲から注目されると面倒なので、また魔力を使って関係のない人間には自分の姿を視認しにくくしておく。

「それにしても人が多いわね。きゃっ……」

 人とぶつかったフリをして、佐野の腕に抱きつく。たわわな胸をしっかりと押し付けた。大抵の男はこうすれば鼻の下を伸ばし、下心丸出しの目で見てくる。

「ごめんなさい……よろけちゃって……」

 上目遣いで佐野を見つめる。

「大丈夫ですか? 気をつけてくださいね」

 佐野はにっこり微笑んで気遣ってくれる。全く動揺していない。かなり女慣れしているようだ。態度は優しいが、下心は一切感じられない。というか、笑顔だけれど感情がない。
 次に今井に抱きつこうとしたが、素早く避けられた。
 上原に抱きついても、彼はこちらには目もくれない。話しかければ返事はするが、彼の視線は真を捜すのに忙しい。母のことなど気にかけていない。
 彼らの反応を見る限り、三人とも母には全く魅力を感じていないようだ。
 だがまだ安心はできない。彼らは年上の女性に興味がないだけかもしれないのだ。
 なので次の段階へと移行することにした。
 母はそっと三人から離れ、魔力を使って自分の姿を変える。ベテランサキュバスは相手の好みに合わせられるように、自分の姿を変化させられるのだ。
 母は美少年へと外見を変える。性別までは変えられないが、裸を見せるわけではないので問題ない。衣服を男物にして髪も短く、体型もシュッとさせ顔を少年にすれば見た目は完全に男だ。
 その状態で母は駆け出した。そして、三人の前で派手に転ぶ。

「あー、転んじゃったー! いたーい! 足首捻ったかもー!」

 わざとらしく訴える。声もきちんと少年のものになっている。
 痛みなど感じない足首を押さえ、今井達にチラチラと視線を向けた。

「うう……痛くて立てないぃ……」

 うるうると涙目で三人を見つめる。
 この誘惑に飛び付いてくるようなら、もちろん真の恋人失格だ。

「すみません、僕を抱えて医務室へ連れていってもらえませんか……?」

 媚びた仕種で懇願すれば、三人は目を見合わせた。

「今井、連れていってあげなよ」
「はあ!? なんで俺が!? お前が行きゃいーだろッ」
「俺は真ちゃん以外の男は抱かないって決めてるから」
「意味違うだろ」
「いや違わないから。とにかく俺はムリだから」
「だったら上原、お前が連れてけよ。お前が一番力あんだろ」
「いや俺は真を捜すのが忙しい。真を捜すのは俺だから、他のことはしてられない」
「なんで真を捜すのはお前って決まってんだよッ」
「俺が一番背が高いから、きっと真は俺を捜してるはずだ」
「いやいや、三人の中で一番目を引くのは俺でしょ。二人と違って華があるし。真ちゃんは多分俺を捜してると思うよ」
「はああ!? んなわけねーだろ! アイツが捜してんのは俺だ!」
「………………」

 三人のやり取りを母は地面に座り込んだまま傍観する。もしかしなくても、押し付け合いになっているのではないか。誰一人手を差し伸べようともしないとは──。まあそれは、母の演技がわざとらしすぎたのが原因だろう。
 しかし、体目当ての誰にでも見境なく手を出すような人間なら、この見え見えの誘いにまんまと乗ってきたはずだ。
 母は立ち上がり、衣服の汚れを払う。

「すみません、足、捻ってなかったみたいです。もう痛みも引きました」
「あ、ホント? それならよかった」

 すぐにでも立ち去ってしまいそうな三人に、母はすかさず声をかける。

「ま、待ってください! よければ連絡先、交換しませんか? できればまた会いたいなって、思って……」

 今、彼らは一応デート中なのだ。それで遠慮しているだけかもしれない。
 そう邪推してみたが、三人の答えはノーだった。食い下がってみたが、誰も首を縦には振らなかった。
 去っていく三人の後ろ姿を見送る。
 どうやら彼らは誰とでも遊びまくるような人間ではないようだ。
 ならば、次は彼らがどれだけ真のことを思っているのか。それを確かめなくては。
 母は美少年の姿から、今度は強面の屈強な男へと外見を変える。見た目は完璧なムサイ男だが、衣服の中の体は女のものでなんとも不思議な状態だ。
 この姿のまま、三人の前で真をナンパする。それで彼らが真を助けるかどうかを確かめるのだ。この厳つい男の恫喝にも逃げず立ち向かえば、彼らの真への気持ちは本物だと認めよう。
 その前に真を見つけて彼らと合流させなければ……と息子を捜していると。

「母さん? そんな姿でなにしてるんだい?」
「きゃっ、お父さん……!?」

 普通に声をかけられて、母はビクッと肩を竦ませる。父は呆れたような目で屈強な男の姿になっている母を見つめていた。

「なにをしていたのか知らないけど、今日は真が楽しみにしていたデートなんだよ? 僕らが邪魔しちゃダメだ」
「……どうして私ってわかったの?」

 窘められて、拗ねたように唇を尖らせつつ母は元の姿へと戻る。

「昔から、あなたには姿を変えても私だってバレちゃうのよね……。完璧に別人になってるのに」
「それはもちろん、君を愛してるからだよ」
「あなた……っ」

 母はキラキラと瞳を輝かせ愛する夫と見つめ合う。
 一方真は、無事に恋人達と合流し四人で観覧車に乗っていた。

「ホントにごめんね……。折角のデートだったのに……」
「お前が謝ることじゃねーだろ」
「そうそう。デートだったらまたできるしね」
「それに、まだ時間はある。充分遊べるだろ」

 両親が同行してきただけでも申し訳ないのにはぐれてしまうなんて……と落ち込む真を三人は気にしなくていいと慰めてくれた。
 優しい恋人達に見つめられ、真は表情を和らげた。けれどすぐに、後ろめたさに俯いてしまう。
 すると、正面に座る今井に足をつつかれた。
 顔を上げれば、こちらをまっすぐに見据える彼と目が合う。

「今井くん……?」
「お前、またしょーもないこと考えてんだろ」
「えっ……」
「言ってみろよ」
「でも……」
「いいから」

 有無を言わせない雰囲気で促され、真はおずおずと口を開く。

「実は、少しだけ不安だったんだ……」
「不安って?」

 今井の隣に座る佐野が首を傾げる。

「皆に、お母さんを会わせるの……」
「え?」
「僕が言うのもなんだけど、お母さんって美人だし、スタイルいいし、出掛けたらしょっちゅう声かけられるし……。だから、皆も、僕よりもお母さんの方がいいって……思うんじゃ、ないかって……」
「はあ!? んなわけねーだろッ」

 ぼしょぼしょと小声で胸の内を打ち明ければ、真っ先に今井に怒鳴られた。
 もちろん、そんなことを考えるなんて三人に対して失礼だとわかっている。信用していないということなのだから。それでも、ほんの少しの不安が拭えなかった。

「ご、ごめんなさい……」

 肩を落として謝る真を、隣の上原がぎゅっと抱き締める。
 視線を向ければ、彼は柔らかく微笑んでいた。

「不安に思うほど俺のことが好きだってことだろう? なら嬉しい」
「上原くん……」
「さりげなく『俺のこと』って限定してんじゃねーよ」
「『俺らのこと』が大好きなんだよねー、真ちゃんは」
「うん……。好き」
「可愛い。俺も好きだ」

 上原にぐりぐりと頬擦りされ、真は擽ったさに目を細める。

「てか上原、どさくさで真に触りすぎだッ」
「っわ……!?」

 今井に引っ張られ、真は彼の膝の上へと移動させられる。

「い、今井く……は、恥ずかしい、よ……」
「うるせーな。お前がくだらないこと考えるからだろ」
「う、うぅ……」
「まだ全然わかってねーみてーだから、俺の気持ちたっぷりわからせてやんねーとな」

 含みのある笑みを浮かべる今井に、真は頬を紅潮させる。

「今井も触りすぎー。真ちゃん、今度は俺の膝においで」
「俺はいいんだ。お前はダメだ」
「もー、今井は横暴なんだから」
「もっと広い心を持たないと大きくなれないぞ、今井」

 いつものやり取りを繰り広げる三人に真は笑みを零した。
 そしてふと地上へ視線を落とし、目に入った光景にギョッとする。
 観覧車の真下、人の溢れる遊園地内で両親が抱き締め合いキスをしていたのだ。
 真は思わず立ち上がり窓に張り付く。

「ひいぃ!? なにしてるのお父さんお母さーん!?」

 注目を浴びながらもキスを続ける両親に血の気が引く。
 突然叫びだした真に、何事かと三人も窓の下を覗き込む。
 真はおろおろとドアと窓を交互に見た。

「どどどどうしよう、止めなきゃ……!」
「落ち着いて、真ちゃん。今スタッフが止めに行ってるよ」

 佐野の言葉に下を見れば、両親が係員に怒られていた。

「ううぅ……恥ずかしい……」

 どうして真が、こんな居たたまれない気持ちにさせられなければならないのか。

「仲良いんだね、真ちゃんのご両親」
「うん……」

 さすがにあれは恥ずかしいけれど、でも。

「皆とも、お父さんとお母さんみたいに、これからもずっと仲良くいれたらいいな……」

 そんな呟きがぽつりと零れる。
 それに応えるように三人の腕が伸びてきて、真を優しく抱き締めてくれた。




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