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目が合っただけなのに 4
しおりを挟むそれはクリスマスが間近に迫ったある日の事だった。
スマホを弄っていた友人が、突然頭を抱える。
「ヤバい、どうしよう……!!」
「えっ、ど、どうしたの急に……?」
一緒にご飯を食べていた美織は手を止めて声をかける。
「クリスマス、カレシがバイト休めないとか言うから、だったら私もバイトしてやるって思って単発のバイト入れたんだけど、カレシがなんか急にやっぱりバイト休めるって言ってきてー!」
「ええ……!?」
「もー、どうしよう……!!」
困り果てた様子の友人を見て、美織は少し考えてから口を開いた。
「それって、なんのバイトなの?」
「よくあるじゃん。外でクリスマスケーキ販売してるの。その売り子」
「それなら、代わりに私が行こうか?」
美織の提案に、隣にいた杏奈が驚いたようにこちらを見てきた。
彼女がなにかを言う前に、友人が声を上げる。
「ほんと!? いいの、美織!?」
「うん。私は別になにも予定ないし」
「あーん! ありがと、美織ー! 大好き! このお礼は必ずするから!」
「そんなの、別に気にしなくていいよ」
昼食を終え、二人になったところで杏奈が声をかけてきた。
「ちょっと美織、大丈夫なの?」
「え? なにが?」
「クリスマス! ホントに予定ないの?」
なにやら必死な様子の杏奈に、美織はきょとんと首を傾げる。
「ないけど……」
「…………あの人に、誘われたりするんじゃないの?」
杏奈が声を潜めてそう言ってくる。
彼女の表情から、「あの人」というのが礼一のことなのだと察せられた。
「それは大丈夫。忙しいから暫く会えないって言ってたし」
「あ、そういえば恭司も会えないって言ってたっけ……」
杏奈は思い出したように呟いて、納得した様子で頷いた。
「そっか。なら大丈夫ね」
美織のことなのに、杏奈の方が気を揉んでいるようだ。
胸を撫で下ろす杏奈に、美織は苦笑を浮かべた。
そしてクリスマス当日。美織はサンタ帽をかぶってクリスマスケーキを売っていた。
外は寒いが、笑顔でケーキを買っていく人達を見るとほっこりする。素敵なクリスマスを過ごしてほしいと願いながら、ただひたすらにケーキを売り続けた。
バイトが終わる頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。
寒空の下、美織はもらった売れ残りのケーキを片手に駅に向かって歩いていく。
繁華街のこの辺りは、空は暗くても店の明かりで道は暗くはない。
早く帰ってお風呂に浸かって温まりたい。美織は早足で路地裏へと入った。
そこで思わず足を止め反射的に身を隠してしまったのは、見覚えのある車が停めてあったから。
美織も何度も乗せられた高級車。つい、同じ車を見ただけで警戒してしまうようになってしまった。
咄嗟に隠れてしまったが、ただ同じ種類の車が停まっているだけだ。
そう思い直し一歩踏み出そうとして、硬直した。
車から降りてきたのは紛れもなく礼一だったから。
そして彼の隣には、綺麗に着飾った美しい女性が寄り添っていた。女性は礼一に腕を絡ませ、ぴったりと密着している。
礼一はそんな彼女をエスコートするように建物の中へ入っていった。
見上げると、そこはホテルだった。
一瞬頭が真っ白になって、なにも考えられなかった。
呆然とそこに立ち尽くしていた美織だが、吹き付ける冷風に我に返り、漸く動き出した。
踵を返し、別の道から駅へと向かう。
心臓が、ドクドクと嫌な感じに脈打っている。
女性と腕を組む礼一の姿が脳裏をちらつき、胸がざわざわした。
どこからどう見てもお似合いのカップル、という雰囲気だった。ホテルに入っていったのだから、そうなのだろう。なにせクリスマスなのだ。
わかっていたことだ。彼にとって美織は遊びに過ぎない。気まぐれにちょっかいをかけられているだけなのだ。散々遊んで、飽きたら捨てる。その程度の存在だろう。
あんなに綺麗な恋人がいながら、美織にも手を出したのだろうか。それとも、最近出会ったばかりなのだろうか。彼女に会うから、美織には忙しくて会えないと言っていたのか。
それとも、あの女性も美織も、礼一にとっては遊びなのか。
どちらにせよ、これで確信した。自分の考えは間違いではなかったのだと。
何度も体を重ね、高価なプレゼントを買い与えられ、美味しい食事をご馳走されてきたけれど、礼一からすればそれは大したことではなく。自分は彼の特別でもなんでもない。
わかっていたはずなのに、ずっとモヤモヤして嫌な感じがつきまとう。
今、礼一は美織のことなど思い出しもしていないだろうに、自分の頭は彼のことでいっぱいで。彼は美女とホテルの部屋で二人きりのクリスマスを楽しんでいるだろうに、自分は一人で。
考えると虚しくなって、けれど虚しいと感じることすらおかしいのだと自分に言い聞かせる。
決して寂しくなどない。
会いたいだなんて思わない。
彼があの女性に夢中になって、美織のことなど忘れてくれた方がいいのだから。
礼一のことなどもう考えたくなくて、それを振り切るように美織は駅までの道のりを走った。全力疾走したせいで家で箱を開けるとケーキが崩れて酷い状態で、美織は泣きたくなった。
礼一から「会おう」と連絡がきたのは正月が過ぎてからだった。
正直に言えば会いたくはなかった。顔を合わせたくない。
あの美女とはどうなったのだろう。ひょっとして、もう会えないとかそういう事をわざわざ伝えようというのだろうか。
意図はわからないが、美織に断ることなどできない。逆らうことは許されない。
約束した当日。礼一は車で家の近くまで迎えにきた。向かった先は、彼のマンションだ。
彼の態度は、今までと一切なにも変わってはいなかった。あの現場を目撃していなければ、美織はなにも気づけなかった。
他の女性と関係を持ちながら、彼は平然と美織と顔を合わせることができる。
彼が誰となにをしようと、美織には関係ないけれど。美織はただ彼に従うだけなのだから。
それなのに、ずっとモヤモヤが晴れない。なんとも言えない嫌な気持ちが胸の辺りに蟠っている。
部屋に入り二人きりになると、息が詰まるような居心地の悪さを感じる。今までだって決して安らいでいたわけではないけれど、でも今までよりもずっと落ち着かない気持ちになった。
「美織ちゃん、腹減ってる? なんか食う?」
礼一が上着を脱ぎながら訊いてくる。
やはり、彼の様子はいつもと変わらない。
「いえ、大丈夫です……」
「そっか。じゃあとりあえず、ゆっくりしようか」
言いながら、美織の上着を脱がせてくれる。
スマートな動作に美織が遠慮する隙はない。
普段は傲慢で命令する立場だろうけれど、こういう気遣いは怠らない。女性の扱いに慣れているのだろう。
また胸がざわざわして、不快感が沸き上がる。美織はそれを懸命に押し込めた。
「美織ちゃん」
「えっ……ぁっ……」
ぼうっとしていると、礼一に抱き締められた。嗅ぎ慣れてしまった彼の香りに包まれる。
「っあー、漸く美織に触れる」
噛み締めるような呟きが耳に届き、抱き締める腕の力が強くなる。
「れっ……ぃち、さ……」
どうすればいいかわからず戸惑う美織から、彼は僅かに体を離した。
大きな掌に頬を包まれ、見上げると彼と目が合う。
「あ……」
徐々に顔が近づいてくる。
「いやっ……!!」
美織は反射的に顔を背け礼一を突き飛ばしていた。突き飛ばすといっても、ほんの少し二人の間に距離ができただけだったが。
「美織?」
低く冷ややかな声音で名前を呼ばれ、美織はハッと我に返る。
顔を向け、静かに、けれど確かな憤りを孕んだ礼一の瞳を見て、自分がとんでもない失態を犯してしまったことに気づく。一気に全身から血の気が引いていった。
「っあ……」
「美織、お前、自分がなにしたかわかってる?」
「っ、っごめ、す、すみませ……っ」
恐怖に、謝罪の言葉すらまともに紡げない。
ガタガタ震える美織の肩に、礼一の手が触れる。それだけでビクンッと体が跳ねてしまった。
「美織チャン?」
「は、いっ……」
「怒らないから言ってごらん。なんで拒んだ?」
「あ……ぁの……」
下手な言い訳など許さないというプレッシャーを感じた。
美織は言葉が出てこない。
キスされそうになって、礼一が女性とホテルに入っていく光景を思い出し、あの女性も同じように抱き締めキスをしたのかと思うと、咄嗟に拒絶反応が出てしまったのだ。
けれど、そんなことを正直に伝えることはできない。彼が誰となにをしようと彼の自由で、美織がそれにどうこう思うことなどおかしい。どうこう思ったところで、それを礼一の前で態度に出すなどあってはならない。
言い淀む美織に、礼一の視線が突き刺さる。このままうやむやにすることなど、許すつもりはないのだろう。
「今日、最初から態度おかしかったよな」
「そん、そんな、こと……」
「無意識かもしれないけど、俺の顔を見ないようにしてたし、近づくのを避けてるようにも見えた」
美織はそんなつもりは全くなかった。いつも通り振る舞っているつもりで、気づかぬうちに不審な態度を取ってしまっていたのだろう。
「今まで、一度だって拒んだことねーのに。どうして急にそうなった? なにがあった?」
「なにも、なにも、ない、です……」
動揺がはっきりとあらわれている言葉に、なんの説得力もない。
実際、礼一は微塵も信じていなかった。
「美織ちゃん、今のうちに正直に吐いといた方が身のためだと思うけど?」
そう言ってにっこり微笑むけれど、眼鏡の奥の双眸は一切笑っていない。
ゾクッと悪寒が走り、恐怖に足が竦む。
それでも、本当の事を口にすることはできなかった。
「ほ、本当に、なにも、なくて……。久しぶりだったから、びっくりしてしまっただけ、なんです……。すみません、あ、謝ります、だから……」
「美織ちゃんさぁー」
「っ……」
「それで許されるって本気で思ってんの?」
「あ、あの……」
「思ってねーよな? だからそんな怯えてんでしょ」
「そんな、わ、私……」
「まあいーや。じゃあ、美織ちゃんが話したくなるまで待つよ」
礼一は唇の端を吊り上げ、悪辣に微笑んだ。
思わず後退りしてしまう美織の肩を、彼はガッチリと掴む。
逃げることは許されず、美織は窮地に追い込まれているのだと悟った。
寝室に連れていかれ、全裸にされ、ベッドに転がされた。その上両手首を頭上で拘束され、両脚も閉じられないようにベルトでM字に固定された。
そんな恥ずかしい状態で、恥ずかしいことをされ、美織は羞恥に泣きたくなった。というか既に泣いていた。
「んひうぅぅぅ~~っ、あっんっんぁああっ」
ヴヴヴ……と振動するローターをローションで濡らされた乳首に当てられ、拘束された状態で快楽に身悶える。部屋に響く自分の恥ずかしい嬌声に、更に羞恥を煽られた。
「あーあ、そんなに気持ちい? 乳首勃起しちゃって、やらしーなぁ」
「ひあぁっあうぅんんっ、あっ、そんな、おしつけちゃ、あっあっあっあっ……」
もう充分過ぎるほど刺激を与えられ敏感になったそこを、容赦なくローターでグリグリと押し潰される。ぬるぬるとぬめった感触が気持ちよくて、体がもっとと刺激を求めてしまう。するとローターはそこから離れ、乳輪をぐるぐると回りはじめるのだ。
「あっ、ううぅう……」
「どーしたの、美織ちゃん? もしかして、もっと乳首に当ててほしかった?」
「ち、違っ、い、ます……っ」
「そーお? 物足りなさそうな顔してたから、もっと乳首いじめてほしいのかと思った」
「あぅんっ」
ピンッと乳首を指で弾かれ、鋭い快感が走る。
だらしなく口を開き、美織ははーっはーっと荒い呼吸を繰り返す。
「もうそんな蕩けた顔しちゃって……。あーあ、おまんこもトロトロだな」
「あ、ぅ……っ」
隠すこともできず晒された秘所は、漏らした蜜で既に濡れそぼっていた。ひくひくと震え、快感を与えられるのを待ち望んでしまっている。
「クリも触る前から勃起させちゃって。ほんとエロいよな、美織は」
「うっ、ううぅ……」
「ま、俺が美織をそんな体にしたんだけどな」
「ひっぅんんっ」
クリトリスの先端を指で撫でられ、それだけでビクンッと腰が跳ねた。すりすりと優しく擦られて、痺れるような快感が走り抜ける。
「あっあっあっ、そこ、だめぇっ」
「ダメって言いながら腰揺らしちゃって。まんこからもぬるぬるが溢れてるよ?」
「ひんっ、んっあっあっあっ、い、くっ、いっちゃぁっ、っ、あっ……?」
体は絶頂へ向けて駆け上がっていたが、そこに辿り着く前に礼一の指が離れていった。絶頂の直前で快感を取り上げられ、体が物足りないと訴えている。
呆ける美織を見下ろし、礼一は悪辣に微笑んだ。
「ははっ、その顔可愛いな」
「はっ、は、へ……」
状況を飲み込めずにいる美織の下肢に、再び礼一の手が伸ばされた。
「んひっ、うぅううっ、んあっあっあっ……」
「スゲー気持ちよさそうな顔」
こりゅこりゅと指の腹でクリトリスを捏ね回され、蕩けるような快楽に美織は陶然となる。固く膨らんだ肉粒をぬるぬるにされ弄られるのが堪らなく気持ちいい。
けれど、絶頂を迎えそうになるとまたそこで愛撫を止められてしまう。
「んゃっあっあっ……」
じんじんと熱を持ったクリトリスが、もどかしい刺激に疼く。
中途半端に高められては放り出され、それを繰り返されて美織は涙を流し身悶えた。
ローターの弱い振動がクリトリスの根元をぐるぐると回る。気持ちよくて、でも刺激が緩すぎて絶頂に達するには足りない。先端に押し付けてくれれば、それだけで達することができるのに。
「ひっやっ、あっあっ、んゃぁあっ」
何度も寸止めを食らい、体はいきたくていきたくて我慢できなくなる。無意識にはしたなく腰を揺らしてしまうけれど、そうすると刺激は遠ざけられた。
「あっ、はーっ、あっあっ、ふっ、ふうぅっ」
「いい顔になってきたなぁ、美織」
焦点の合わない美織の瞳を見下ろしながら、礼一は楽しそうに唇の端を吊り上げる。
美織の体を知り尽くしている彼は絶妙な力加減で刺激を与え、決して絶頂を迎えることは許さない。
「れ、ぃちさ、ぁあんっんっんひぅんんっ」
「あー、中、とろっとろでぎゅうぎゅう」
愛液でぬかるんだ膣穴に、ぬぷりと指を挿入された。差し込まれた一本の指に、内壁が物欲しげにきつく絡み付く。
内部は期待に蠢くけれど、埋め込まれた指はやはり温い刺激しか与えてはくれなかった。さらさらと撫でる程度の力で肉壁を擦られ、物足りない快感に胎内は激しく疼いた。
「んひっ、くぅぅんっ、んっあっあっあっ」
「あは、イきたくてたまんねーの? 必死に腰ガクガクさせて、俺の指、気持ちいいとこに擦り付けようとしてんだ」
「あっあっやぁあっ、ごめ、なさ、あぁっあっんっんんんぅっ」
「でもダメ。まだイかせてあげない」
「んぁああんっ」
ただひたすらに焦れったくなるような刺激だけを与え、指はそこから離れていく。膣壁がきゅうきゅうと吸い付き追い縋るけれど、あっさりと引き抜かれてしまった。
胎内が切なく疼く。一度でも強い快感を得ることができれば絶頂まで届くのに、いきたくてもいけないギリギリのところで制御されている。
「次はコレ使おうな」
そう言って礼一が手に取ったのは、細いスティックタイプのローターだ。
見ただけで体が勝手に期待して、秘所からとろりと蜜を溢れさせる。
きゅんきゅんと収縮する蜜口に、そのローターが押し込まれた。けれど、気持ちいい箇所に届くか届かないかという場所で止められてしまう。
もう少し奥に入れてほしいのに、それ以上埋め込まれることはなく、スイッチを入れられ弱い振動がはじまった。
「んっあっあっあっ、んぅうううんっ」
いくには足りない快感で胎内を刺激され、生殺しのような状態に美織は甘く苦しめられた。
「どーお? 気持ちいい、美織ちゃん?」
「ひっ、あっんっんーっ」
敏感な箇所をわざと外して、ローターでぐりぐりと内壁を擦られる。微弱な振動はあまりにも物足りなく、ただ美織を苛んだ。M字に脚を固定され、殆ど身動きの取れない状態で平坦な弱い快感だけを与えられるのは辛い。
「もっとって顔してんな。じゃあ、クリも可愛がってあげるね」
「んひぁっあっ、やっ、やああぁっ」
またローターの弱い振動でクリトリスの根元だけを刺激され続ける。気持ちよくて、けれど絶頂を迎えることはできない。緩やかな快感を延々と与えられ、絶頂に達せないもどかしい状態がひたすら続き、美織は頭がおかしくなりそうだった。
陰部を突き出すように腰を揺らし、はしたない痴態を晒すことに羞恥を感じる余裕もない。
恥も外聞もなく礼一に縋りつきそうになったとき、無機質な電子音が部屋に響いた。
現実に引き戻され、美織はビクッと肩を震わせた。
礼一は動じることもなく、片手でローターを動かしながらもう片方の手で取り出したスマホを操作する。そのまま耳に当て、会話をはじめた。
ほんの少し、クリトリスの先端をローターが掠める。甲高い声を上げそうになり、美織は唇を噛み締め必死にそれを耐えた。
「んっ、ふっ、ぅうっんっんっ、あっふぅうっ」
悶える美織の姿を楽しげに眺めながら、礼一は電話の相手と会話をしている。その間も美織を攻める手は緩めず、クリトリスの根元をローターがくるくると回っていた。
やがて礼一は電話を切る。そしてにこりと美織に笑いかけた。
「ごめんなー、美織ちゃん。俺、仕事でちょっと出てくるわ」
「は……え……?」
なにを言われたのかわからなくて、美織はぼうっと彼を見上げる。
「そんなに時間はかからないと思うから、美織ちゃんはこのままここで待っててな」
「へ……? えっ……待つ? って、え……?」
礼一はクリトリスをいじめていたローターのスイッチを切って放り、胎内に入れたローターはそのままにベッドから立ち上がる。
漸く事態を飲み込めた美織は、慌てて声を上げた。
「っや、待って、礼一さん……っ」
「んー?」
振り返り、礼一は微笑む。けれど眼鏡の奥の瞳は決して笑ってはいなかった。
彼の視線に、美織は自分の状況を思い出す。自分が何故こんなことをされているのかを。やめてほしいと頼んだところで、それが聞き入れられることはないのだ。
口を噤む美織に、礼一は目を細めた。
「じゃあ行ってくるから。いい子で待ってろよ」
引き止めることは許されず、美織は寝室から出ていく彼の背中を見送ることしかできなかった。
しんと静まり返る室内で、自分の息遣いと微弱なローター音だけが耳に届く。
散々弄ばれ、ぷっくり膨らんだクリトリスが刺激を求めて疼いている。
煽られるだけ煽られて放り出された体はじくじくと燻り、ただ快感だけを欲し蓄積した熱をもて余す。
「んっ、はっ、うっぁっ、んっんんっ」
膣穴に埋め込まれたローターから与えられる快楽は、余計に美織を苦しめた。ローターの振動を強くして、感じる箇所に思い切り押し付けたい。その願望とは裏腹に、ローターは的外れな場所で些細な振動を送り続けるだけだ。
ぎゅうぎゅうと中を締め付けても、得られる快感は微々たるものだ。蜜だけは次から次へと溢れ、滴り落ちてシーツを汚す。
「はーっ、ふっ、ふぅっ、んっあっ、やっ」
艶を帯びた荒い呼吸を繰り返す。
熱は冷めることなく、じわじわと美織を追い詰めていった。
つんと尖った乳首も赤く膨れ上がったクリトリスも、めちゃくちゃに弄り回されたいと訴えている。
胎内も激しく疼き、犯されたいと望んでいた。
中をいっぱいに満たしてほしい。熱く硬い肉棒で思い切り擦り上げられたい。最奥を亀頭でごりごりと抉り、強く突き上げて、他のことなど考えられないくらいの快楽に浸りたい。
その悦びを美織の体はもう知っているのだ。散々教え込まれ刻まれた。そしてその愉悦を与えてくれるのは礼一しかいない。
「はっひっ、んっ、んんっ、れぃいち、さっ、ぁん……っ」
礼一の欲望で満たされる快感を思い出し、腰が揺れる。誰もいない室内で、一人、媚びるように身をくねらせた。
こんな小さなローターの刺激では全然足りない。
早く、奥まで彼の熱を埋め込んでほしい。彼の欲望をぐっぽりと嵌めて、膣内をぐちゅぐちゅに蹂躙されたい。
体を繋げキスをして、どろどろに溶け合うような悦楽を味わいたい。
一体どれほど時間が過ぎたのか。もう時間の感覚もわからなくなる。満たされないもどかしさに思考は霞んでいった。
いきたくて堪らない。全身を駆け抜けるような快感が欲しくて、それ以外のことはなにも考えられなくなっていく。
やがてガチャリとドアの開く音が聞こえて、美織は無意識にそちらへ顔を向けた。
礼一が部屋の中に入ってきて、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
「お待たせ、美織ちゃん」
「れ、ぃちさ……っ」
「その顔は、いい子でお留守番できてたみたいだな」
満足げに微笑む礼一に、縋るような視線を向ける。頭で考えることもなく口を開いていた。
「あっんっ、れいいちさ、おねがぁっ……おねがぃします、いきたい、いかせてくださいぃっ、んんっ、なか、なかに、れぃ、ちさんのっ、ほしい、いれて、いれてほしい、ですっ、れぃいちさぁっ、ぁんっ、れいいちさんの、でっ、いっぱい、して、ほしっ、んっんっんぅっ」
理性をなくし、ただ己の欲望のままに礼一を求める。
そんな美織を見下ろし、彼は恍惚とした笑みを浮かべた。
「素直におねだりできて偉いなー、美織は」
ベッドに上がった礼一は美織の手首の拘束を外す。
「いい子の美織は、なんでお仕置きされてるのか覚えてるよな?」
「おし、おき……っんんぅうう……っ」
にゅぽんっとローターが引き抜かれ、蜜口が物欲しげにぱくぱくと開閉する。
「あっ、うぅ……っ」
「美織?」
「わ、私が、れいいちさ、の、こと、拒んだ、から……」
既に美織の頭には一刻も早くこのもどかしさから解放されたいという思いしかなかった。この疼きを満たしてほしくて、ただその一心だった。
「そうだよなぁ。どうしてそんなことしたのか、正直に話せるよな?」
礼一の手が、脚を固定したベルトも外す。
くたりと力の入らない美織の体を彼が優しく起こした。美織は彼と向かい合う形でベッドに座る。
「できたら好きなだけイかせてやるよ。俺のちんぽ美織のまんこに突っ込んで、いっぱい擦ってあげる」
「あっ……」
取り出された礼一の陰茎を目に映し、美織は期待にぶるりと震えた。それは固く勃ち上がりドクドクと脈打っている。
早く、これで胎内をいっぱいに満たされたい。
好物を前に涎を垂らすように、秘所からじゅわっと蜜が溢れた。
「ほしぃっ……れぃいち、さんのっ……」
「じゃあ教えてごらん。何があった?」
あれだけ頑なに口を閉ざしていたのに、理性を手放した美織はあっさりと口を割った。
「礼一、さん、が、女の人と、ホテルに入っていくのを、見て……それで、あの人とも、キスとか、してる、って……思ったら……嫌な、気持ちになって、それで……」
「ホテル? それっていつの話?」
「クリスマスの、夜に……」
「あー、あれか……。てか美織ちゃん、あんな時間にあんな場所にいたの?」
「バイトの、帰りで……」
「バイトぉ? ……まあ、それは後でじっくり聞くか」
脇の下に手を入れ美織をひょいっと持ち上げ、自分の膝の上に移動させる。礼一の顔はすっかり上機嫌になっていた。
「そっかぁ。美織ちゃん、ヤキモチ焼いてたのかぁ」
「んっひっ、あっあっあっ……」
ぐちゅぅっと、亀頭が蜜口にめり込んでくる。そのまま、ぐぷぷぷぷっと陰茎を埋め込まれた。
「あっひっ、──~~~~~~~~っ!」
反り返った楔に胎内を貫かれ、美織は一気に絶頂へと上り詰めた。強烈な快感に襲われ、全身を痙攣させる。
「っは……すげーイき方。まんこの締め付けエグいな。そんなちんぽ欲しかった?」
「ひっあっあっあっ、い、くっ、いっちゃ、あっあっあっあ~~~~っ」
いっている状態で下からずんずんと腰を突き上げられ、美織は連続で絶頂を迎える。
身も心も快楽に塗り潰され、ただただ気持ちいいということしかわからなくなる。
「心配しなくても、あの女とはなにもねーよ。情報引き出したくてホテルに連れ込んだだけ。美織ちゃんが考えてるようなキスとか、そういうことは一切してねーから」
「んひっいっくぅっ、んっんっ、ひっううぅうんっ、あっあーっ」
「ははっ、まんこ気持ちよすぎて全然聞いてねーの」
話ながらも礼一は腰の動きを止めず、ぱちゅっぱちゅっぱちゅっぱちゅっと腰を打つ。
「正直に言えたから、美織ちゃんの好きなところいっぱい擦ってあげるよ」
「ひぅうんっんっひっあっあっ、~~~~っ」
ごりゅうっと亀頭で敏感な箇所を押し潰すように擦られ、ぷしゃっと潮を噴いた。ごりごりと刺激される度に潮が噴き出し、礼一の一目で高級とわかるスーツに染みを作る。快感に翻弄される美織は、それを気にする余裕などなかった。体を揺さぶられ、喘ぐことしかできない。
「クリでもイこうなー」
「っはひ、ぃっひっあっあっあ────っ」
礼一は膣内の奥をぐりぐりと刺激しながら、クリトリスを摘まんでちゅこちゅこと扱く。
痺れるような快感が全身を駆け抜け、目を見開き絶頂を迎えた。
強すぎる快楽を立て続けに与えられ、頭がくらくらする。
「ひあっあっあっ、れ、ぃちしゃっ、あっあっ、きしゅ、きしゅしてぇっ、んっあっあぁっ、きしゅっ、したぃっ、れぃ、ちしゃ、ぁっんっんっんっんっ」
しがみついてキスをねだれば、噛みつくように唇を重ねられた。
「はあっ、かわい、美織……っ」
「んっんっ、はっ、ぅんっ、ふぁっ、んんんっ」
動き回る舌に口の中をねぶり尽くされる。犯されているような激しいキスに、美織は陶然となった。無防備に口を開いて明け渡し、されるがまま口内を蹂躙される。口の中を唾液でどろどろにされ、彼の舌を吸いながらそれを嚥下する。
「はっぁんっ、きもち、いっ、れー、ぃちしゃぁっあっあっんっんっ」
「ちっちゃい舌いっぱい伸ばしちゃって……。俺のキス好き?」
「す、きっ、しゅき、んっんっ、しゅき、きしゅぅっ、れいいちしゃ、ぁんーっんっんっはぅんんっ」
「ん、はっ……あー、ヤベ、加減できなくなりそう」
激しく唇を貪られ、じゅるじゅると音を立てて舌を吸い上げられる。
胸を揉まれ、指先で乳首をくりくりと捏ねられ、膣内をきつく締め付けながら美織はまたいった。
「っく、はあっ……まんこの吸い付きすごすぎ。そんなんされたらもたねーって……っ」
興奮に息を乱し、礼一は体を離して後ろ手にベッドに手をつく。
彼の腰に跨がった状態で下からじゅぽっじゅぽっじゅぽっじゅぽっと強く突き上げられ、美織は胸を揺らしながら快感に喘ぐ。
「んひっひぁあっあっ、いくっ、いくっ、いっ、~~~~っ、あっあっあっ、──ああぁっ、ひっあっあっあーっ」
ぷしゃぷしゃと、いくたびに潮が噴き出す。自分の痴態に気づくこともなく、美織はただ快楽に溺れた。
子宮口をとちゅとちゅとちゅとちゅっと断続的に刺激され、強烈な快感が背筋を駆け抜ける。
「きもちぃっ、いいっ、あっあっんぁあああっ、れぃ、ちいしゃぁあっあっあっ、また、いっ、んう~~~~っ、ひっはっぁあああっ」
「っ……はっ、はあっ、美織、いく、出すぞ……っ」
「ひはぁああっあっ、そんな、あっあっ、おくぅっ、いっぱい、されたらぁっあっあっあっ、はげしっ、んひぁっあっ、きもちいぃっ、おく、おくぅっ、いくっいっちゃ、あっあっあ~~っ」
「っく、ぁっ、出る……っ」
ぎゅうぅっと締め付けた膣内に、どぷどぷっと体液を注がれた。熱いそれがじわりと胎内に広がる感覚に、美織は陶酔したように瞳をとろりとさせる。
肉襞が歓喜に蠢き、陰茎にしゃぶりつく。息を詰め射精の快楽を味わう礼一に、美織は腕を伸ばした。
「れーぃちさ、ぁっ、もっと……」
甘く掠れた声でねだれば、埋め込まれたままの欲望がびくりと跳ねた。
「ぎゅって、してぇ……いっぱいきす、したい……れぃいちしゃぁ……っ」
腕を引っ張られ、礼一の胸に抱き締められる。
「放置プレイはあんま好きじゃねーんだけど、こうなるならまたしてもいいかもな」
口づけと共に落とされた呟きを、美織は既に理解できなくなっていた。
それよりも、彼のキスに応えるのに夢中だった。
「んっんっ、れ、ぃちしゃ、ぁんっんっ、はっ」
「はーっ、かわいすぎてヤバい。抱き潰しちまうなー、これ」
「んぁっ、やっ、れーぃちさ、もっとぉっ」
彼の体にしがみつき、もっととせがむ。
正気に戻ったときどれほど後悔することになるかなど、このときの美織は知る由もなかった。
───────────────
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