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その後の話2 サラとスカイレッド
しおりを挟む「サラ様、お茶がはいりましたわ」
侍女頭の声に、サラは憔悴しきった顔で頷いた。
自室にて謹慎中のサラの側には侍女頭がひとり。何人も侍らせていた侍女たちがいないと火が消えたように静かだ。
(私はただ、スカイレッド様にもっと側にいてほしかっただけなのに)
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
あの日、ほんの出来心でマジックアイテムを使ったサラはすぐに気を失った。
気がつくと心配そうな顔をした侍女頭とスカイレッドがサラを覗きこんでいて。
――私は大丈夫ですわ。
そう言って身を起こしたサラは、周囲の喧騒と、スカイレッドの背後で王宮に火の手が上がっているのを見てゾッとした。
見れば侍女頭の服は煤だらけで、自分のドレスも汚れている。彼女はスカイレッドにマジックアイテムの件を話したと大泣きしながらサラに詫びた。
「……とにかく、詳しい話は後で聞かせてもらう。ブラントンがまだ王宮に取り残されているんだ」
「ス、スカイレッド様っ、わ、私っ」
スカイレッドの強張る顔に、サラは一気に冷水を浴びた心地になった。
私のせいじゃない。マジックアイテムが。魔法使いが。パニックになるサラを置いて、スカイレッドはどこかへ行ってしまう。
「あなたのせいよ!」
侍女頭に怒鳴り、泣きじゃくり、気がつけばどこかの客間で寝かされていた。彼女が摘んできたのか、野花が枕元に生けられていた。
「サラ様……」
意識を取り戻したサラに気がついた侍女頭が側に寄る。あなたのせいで、と八つ当たりしたい気持ちと、彼女しか自分の味方はいないという気持ちがない交ぜになり、嗚咽を噛み殺す。
第九王子はどうなってしまったのだろう。もし――もしものことがあればサラの責任だ。
侍女頭が温かいお茶を淹れてくれたものの、サラは真っ青になって俯くしか出来ない。
やがて、ノックの音と共に、今いちばん会いたくない人の声が聞こえる。硬く強ばった声は、耳を塞ぎたくなるほど悲しい。
「サラ、気分はどうだ」
「……ス、スカイレッド様……、申し訳ありません……っ」
「顔を上げろ。ちゃんと話を聞くと約束しただろう」
サラはぽろぽろと涙をこぼしながら、第九王子付きの魔法使いからマジックアイテムを貰ったこと、スカイレッドに気にかけて欲しくて使ったこと、火事になるなんて知らなかったと打ち明けた。
「ブラントン付きの魔法使いとは以前から知り合いだったのか?」
「とんでもありません! あの方が勝手にサラ様に話しかけてきたのです」
憤慨する侍女頭の言葉にサラも頷く。こんな騒ぎを起こすと知っていたら絶対に関わらなかった。
サラの言葉に、スカイレッドはほっと息を吐いた。
「そうか。お前が例の魔法使いと通じているのではないかと言う輩もいてな。お前が何も知らなかったならそれでいい」
「私、何も知りませんわ! スカイレッド様、信じて下さい!」
「ああ。信じる」
切実な訴えを、スカイレッドは拍子抜けするほどあっさりと受け入れた。
「自分の婚約者の言葉は信じるに決まっているだろう? それから……、寂しい想いをさせて済まなかった。俺の責任だ」
謝るスカイレッドに、サラは目を見開いた。そしてはじめて、自分のしでかしてしまったことを深く恥じた。
スカイレッドはサラのことをちゃんと信じてくれているのに、自分はなんてものをこの人に返してしまったのだろう。
涙を流すサラの身体をスカイレッドは優しく抱きしめた。
「泣くな。お前はあの魔法使いにつけこまれただけだろう」
「いいえ……。私の心が弱かったから……、スカイレッド様のことをきちんと信じられなかった私のせいなのです。どんな罰も受けます」
スカイレッドはサラのことを庇ってくれるだろうが、王位を狙う彼の足を引っ張ってしまったことには変わりない。サラは婚約破棄されても仕方がないと思った。
「罰か。それならば、ちゃんとやり直そう。二人で」
スカイレッドの言葉に顔を上げる。
「二人で……?」
「ああ。俺は王位を諦めていないし、これから信頼を取り戻していくつもりだ。サラ、お前と婚約破棄をするつもりはないが、結婚の予定は延ばすことになるだろう。それでも、待っていてくれるか?」
思っても見なかった言葉に目を見開く。
ただスカイレッドに気に入られたくて上り詰めた婚約者の座。思えば、はじまりから間違っていたのだ。
今、本当にこの人に相応しくありたいと強く思う。
「スカイレッド様が許して頂けるのなら、私、どんな努力も致します。ですから……」
どうか、捨てないでください。
みっともなく泣きじゃくるサラを、スカイレッドは抱き締めてくれていた。そうして涙も枯れ果てた頃、怖くて聞けなかった質問を口にする。
「あの……、第九王子は……」
「無事だ。ダリルと、あいつの婚約者が助けてくれた」
良かった、とまた涙がこぼれる。
たくさん意地悪をしてしまったフィリアの顔を思い浮かべて、サラは心の内で何度も何度も詫びた。
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