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2、はじめまして、王子様
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隣国・エルドラドの王宮に着いたフィリアは、王様に挨拶をし、その日は第五王子に会うことなく就寝した。
てっきり熱烈な歓迎を受けるものだと思っていたので拍子抜けである。
「フィリア様のお世話をさせていただくイレーネと申します」
引き合わされた侍女はフィリアと同じくらいの年頃のようだが、きっちりと髪を結い上げ、メイド服の着こなしにも一部の隙もない。絵にかいたような真面目な女性だった。
「これからよろしくね、イレーネ」
最初が肝心だとフィリアはにこやかに笑いかける。だが、イレーネには「よろしくお願いします」と事務的に頭を下げられただけだった。
イレーネは見た目通り優秀で、フィリアの身の回りのことをてきぱきとこなすと、あとは邪魔にならないように静かに控えている。フィリアとしてはもう少し打ち解けたいところなのだが……。
「第五王子が面会をお望みです」
翌日、自室で寛いでいたフィリアの元に王子付きのメイドがやってきた。
ようやくご対面か。フィリアが立ち上がり、王子を出迎えようとすると「お召し替えを」と止められる。
フィリアの今の服装は王宮で用意してもらったドレスだ。最高級のドレス以上の服なんてない。きょとんとするフィリアに渡されたのは、動きやすいこざっぱりとしたワンピースに、これまた頑丈そうなブーツ。スカートを膨らませるクリノリンもない。
(町でお忍びでデート……とか?)
それにしても、初対面でいきなり出かけるのもおかしな話だ。
イレーネによって着替えさせられると、フィリアはあっという間に「行ってらっしゃいませ」と自室から見送られてしまった。
メイドにこちらです、と案内されたのは明るい日の差し込む庭――を通りすぎた、落ち着いた雰囲気のテラス――を通りすぎた、重々しい石造りの階段を下った先。すなわち地下だ。
なにこれ、私、暗殺されるの?
そもそも第五王子の呼び出しっていうのも本当?
いざとなれば攻撃呪文で城を破壊して逃げるかと身構えていると、メイドは至ってにこやかに「第五王子がお待ちです」と先を示した。開けた場所は訓練場のような空間だった。
「ダリル様、フィリア様をお連れしました」
「ああ、ご苦労。下がっていい」
え、ちょっと待っていきなり王子と二人!?とフィリアは動転する。取り合えず、挨拶をしなければと膝をついて頭を垂れる。
「はじめまして。アルカディア国から参りました、オフィーリア・ウォーレンと申します」
「顔をあげてくれ、オフィーリア。この度はよく私の元へきてくれた」
はい――と顔を上げてはじめてダリル王子と対面する。
フィリアが最初に抱いた感想は、完全に兄王子の暗殺でも企んでいそうな悪役顔だ! である。
黒髪に濃いブルーの瞳。
背が高いせいで普通にしていても威圧されているように感じる。
顔立ちは整っているものの、彼の纏う冷たいオーラと冷酷そうな瞳のせいでかなり近寄りがたい。
「オフィーリア」
「はい……」
「お前は杖や武器は使わないのか」
「……はい?」
何を言われているのかわからず一瞬きょとんとする。魔法を使う時の話だ、と言われて「ああ」と頭と口を動かす。
「はい、私は主に詠唱や呪印を使います。杖や武器ですと、魔力に耐えられずに壊れてしまうこともありますので」
「そうか。ならば、そのからだがお前の武器ということか」
ダリルは納得したように頷くと、腰に携えていた剣を抜いた。
「オフィーリア・ウォーレン。私とお手合わせ願おう」
「……どうしてですか!?」
「心配するな。全力でかかってこい」
まったく意味がわからないし話が噛み合っていない。どうしてそうなるんですかと訴えかける前にダリルは斬りかかってくる。
この王子、私が以前婚約を断ったことを実は根にもっているんじゃなかろうか。
突っ立っていては斬られてしまうので、フィリアは素早く風の魔法を足に付与した。すんでのところで剣を交わすと、ダリルはニヤリと悪役顔を歪ませて笑った。
「なるほど、おもしろいな」
「おもしろくありません!」
なんで婚約者に襲われなきゃならないのか。
逃げ惑うフィリアにダリルは剣技を繰り出す。
「攻撃してこないのか? 逃げているだけでは俺は倒せんぞ」
「どうして私がダリル王子を攻撃しないといけないんですか!」
「お前の魔法が見たいからだ」
ええい、もうどうなってもしらん!
フィリアは氷のクナイを飛ばすと、ダリルは軽々と避ける。続けてもう一撃――今度は追跡するように呪文をかけると、ダリルは驚いたようだった。
「なるほど――こういう使い方もあるのか。これがお前の全力か?」
「まさか! 全力でやったら城が吹き飛びます」
冗談ではなく本気だ。ダリルは「お前の全力が見たい」というと今までの非ではないスピードでこちらへと斬りかかってくる。
申し訳ないが、これでは埒があかない。
フィリアは素早く呪印をきると、ダリルの足元へ氷の魔法をかける。一瞬にして凍りついた彼の足元は床に縫い止められるように固定された。
「非礼をお許しください、ダリル様」
フィリアは術を解くとダリルの前に頭を垂れた。これ以上戦うつもりはないという意思表示に、ダリルの方も剣を鞘におさめた。
「ふむ。やはりお前は俺が見込んだ通りの女だ。その魔力、ぜひ我が国で生かすといい」
「……あの、ダリル様。どうして私をお選びになったんでしょう。お聞き及びかと思いますが、私は社交的ではありませんし、王子のお妃としては異質な存在ではないかと思うのですが……」
魔力を生かすも何も、妃に望まれるのは元気な世継ぎを産むことだ。間違っても魔法で戦うことではない。
「社交? 心配するな、俺も人付き合いは好きじゃない」
「はあ……」
「オフィーリア。お前には私と共にこの城を護る近衛兵たちを率いて欲しいんだ」
てっきり熱烈な歓迎を受けるものだと思っていたので拍子抜けである。
「フィリア様のお世話をさせていただくイレーネと申します」
引き合わされた侍女はフィリアと同じくらいの年頃のようだが、きっちりと髪を結い上げ、メイド服の着こなしにも一部の隙もない。絵にかいたような真面目な女性だった。
「これからよろしくね、イレーネ」
最初が肝心だとフィリアはにこやかに笑いかける。だが、イレーネには「よろしくお願いします」と事務的に頭を下げられただけだった。
イレーネは見た目通り優秀で、フィリアの身の回りのことをてきぱきとこなすと、あとは邪魔にならないように静かに控えている。フィリアとしてはもう少し打ち解けたいところなのだが……。
「第五王子が面会をお望みです」
翌日、自室で寛いでいたフィリアの元に王子付きのメイドがやってきた。
ようやくご対面か。フィリアが立ち上がり、王子を出迎えようとすると「お召し替えを」と止められる。
フィリアの今の服装は王宮で用意してもらったドレスだ。最高級のドレス以上の服なんてない。きょとんとするフィリアに渡されたのは、動きやすいこざっぱりとしたワンピースに、これまた頑丈そうなブーツ。スカートを膨らませるクリノリンもない。
(町でお忍びでデート……とか?)
それにしても、初対面でいきなり出かけるのもおかしな話だ。
イレーネによって着替えさせられると、フィリアはあっという間に「行ってらっしゃいませ」と自室から見送られてしまった。
メイドにこちらです、と案内されたのは明るい日の差し込む庭――を通りすぎた、落ち着いた雰囲気のテラス――を通りすぎた、重々しい石造りの階段を下った先。すなわち地下だ。
なにこれ、私、暗殺されるの?
そもそも第五王子の呼び出しっていうのも本当?
いざとなれば攻撃呪文で城を破壊して逃げるかと身構えていると、メイドは至ってにこやかに「第五王子がお待ちです」と先を示した。開けた場所は訓練場のような空間だった。
「ダリル様、フィリア様をお連れしました」
「ああ、ご苦労。下がっていい」
え、ちょっと待っていきなり王子と二人!?とフィリアは動転する。取り合えず、挨拶をしなければと膝をついて頭を垂れる。
「はじめまして。アルカディア国から参りました、オフィーリア・ウォーレンと申します」
「顔をあげてくれ、オフィーリア。この度はよく私の元へきてくれた」
はい――と顔を上げてはじめてダリル王子と対面する。
フィリアが最初に抱いた感想は、完全に兄王子の暗殺でも企んでいそうな悪役顔だ! である。
黒髪に濃いブルーの瞳。
背が高いせいで普通にしていても威圧されているように感じる。
顔立ちは整っているものの、彼の纏う冷たいオーラと冷酷そうな瞳のせいでかなり近寄りがたい。
「オフィーリア」
「はい……」
「お前は杖や武器は使わないのか」
「……はい?」
何を言われているのかわからず一瞬きょとんとする。魔法を使う時の話だ、と言われて「ああ」と頭と口を動かす。
「はい、私は主に詠唱や呪印を使います。杖や武器ですと、魔力に耐えられずに壊れてしまうこともありますので」
「そうか。ならば、そのからだがお前の武器ということか」
ダリルは納得したように頷くと、腰に携えていた剣を抜いた。
「オフィーリア・ウォーレン。私とお手合わせ願おう」
「……どうしてですか!?」
「心配するな。全力でかかってこい」
まったく意味がわからないし話が噛み合っていない。どうしてそうなるんですかと訴えかける前にダリルは斬りかかってくる。
この王子、私が以前婚約を断ったことを実は根にもっているんじゃなかろうか。
突っ立っていては斬られてしまうので、フィリアは素早く風の魔法を足に付与した。すんでのところで剣を交わすと、ダリルはニヤリと悪役顔を歪ませて笑った。
「なるほど、おもしろいな」
「おもしろくありません!」
なんで婚約者に襲われなきゃならないのか。
逃げ惑うフィリアにダリルは剣技を繰り出す。
「攻撃してこないのか? 逃げているだけでは俺は倒せんぞ」
「どうして私がダリル王子を攻撃しないといけないんですか!」
「お前の魔法が見たいからだ」
ええい、もうどうなってもしらん!
フィリアは氷のクナイを飛ばすと、ダリルは軽々と避ける。続けてもう一撃――今度は追跡するように呪文をかけると、ダリルは驚いたようだった。
「なるほど――こういう使い方もあるのか。これがお前の全力か?」
「まさか! 全力でやったら城が吹き飛びます」
冗談ではなく本気だ。ダリルは「お前の全力が見たい」というと今までの非ではないスピードでこちらへと斬りかかってくる。
申し訳ないが、これでは埒があかない。
フィリアは素早く呪印をきると、ダリルの足元へ氷の魔法をかける。一瞬にして凍りついた彼の足元は床に縫い止められるように固定された。
「非礼をお許しください、ダリル様」
フィリアは術を解くとダリルの前に頭を垂れた。これ以上戦うつもりはないという意思表示に、ダリルの方も剣を鞘におさめた。
「ふむ。やはりお前は俺が見込んだ通りの女だ。その魔力、ぜひ我が国で生かすといい」
「……あの、ダリル様。どうして私をお選びになったんでしょう。お聞き及びかと思いますが、私は社交的ではありませんし、王子のお妃としては異質な存在ではないかと思うのですが……」
魔力を生かすも何も、妃に望まれるのは元気な世継ぎを産むことだ。間違っても魔法で戦うことではない。
「社交? 心配するな、俺も人付き合いは好きじゃない」
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