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暗闇イベント――???編①
しおりを挟む鳴っては止まない雷。停電は続いたままです。こちら、ですわね。
「ヒューゴ殿?いらっしゃるかしら?」
ノックをしても返事は無し。失礼、ヒューゴ殿。入りましてよ。
「ああ……」
部屋の隅で体を丸めていたのは彼、ヒューゴ殿。苦手……ですものね。
前のように、あなたを支えてあげられたら。私はそう願って、彼に近づいて。そして、手を握ろうと――。
「近づかないで……ください」
「……ヒューゴ殿?」
ここで拒絶の言葉ですの?彼の振り絞る声に、私は困惑してしまい。
「……逃げ、て」
「え」
近づくな、逃げろ?ヒューゴ殿、それは一体――。
「……」
「!?」
突然でした。ヒューゴ殿の体はがくっと力が抜けたかのよう、それから瞳を閉じられてしまって。
「ヒューゴ殿……?」
ここ最近、体調不良やら様子のおかしさやら。ヒューゴ殿、病か何か患っていらっしゃるのかしら?ひとまず呼吸を確認し、お医者様を呼びましょう……!
「ヒューゴ殿、大丈夫ですの――」
私は彼の肩にそっと触れようとした時――。
「――はい、大丈夫です」
「……」
ヒューゴ殿は急にしっかりとされました。切れ長の瞳は私を見ていて、さっきまで怯えていた方とは思えないほどで。
「それでしたら……ご無理はなさらないでくださいまし」
「はは、心配性だなぁ……でもって、妬けるというか」
「……ヒューゴ殿?」
トラウマなんてない、そのような感じでした。それにです。
喋り方も笑い方も違うのです。ええ、違っていて。
私の目の前にいるのは、姿はヒューゴ殿であってもそうではないと。そう思えてならなくて――。
「あなたは……どなたですの?」
あなたはヒューゴ殿ではない、そうでしょう。
「……わかってくれないんですか」
「!」
悲しそう、泣きそうな声。ヒューゴ殿ではない、別の誰か。なら誰だと――。
「……待って、そんな」
私は何を考えているの。そんなはずないでしょう。違う、そんなわけがない。
でも。
「……ユウ君?」
そうとしか思えなくなった。なんでユウ君が?彼がなんでこの世界にいるの。その方がおかしいはずなのに、
そうとしか思えなくなっていて。
「姉さん!」
彼の嬉しそうな声、顔。『私』をそう呼ぶ彼。
――それが答えだった。
「なんで……どうして……」
目の前の彼がユウ君、それはわかっても。わかってもだけど。どうして?なんで?ユウ君がこうしているの?わからない、わからないよ。
「姉さんと一緒です。俺もこうしてやってきました」
「それって……」
ユウ君も転生したってこと、そういうこと。彼は生を終えて――。
「……まあ、最期とかは記憶がないんですけど。俺が意識を取り戻したのも、ここ最近でもあって」
「そう、なんだ……」
私、素の喋りになってしまっていた。ユウ君、その方が嬉しそうにしている。私も今は取り繕えなくなっている……。
うん……死に際の記憶、思い出して欲しいわけじゃない。でも、聞いておきたいこともあって。ここ最近って……。
「ユウ君。ここ最近っていつからなの?ヒューゴ殿となにか関係してる?」
ヒューゴ殿の調子が優れない時からだったら。ユウ君が目覚めたことが関係しているのだとしたら。
「……姉さん」
あれだけ笑顔だった彼が――無表情になった。
「……この男の方が大事なんですか?」
表情は無いのに、声だけが怒りに満ちていて。
……怖い。ユウ君が怖い、だけど聞かないと。
「……。どっちが大事などではありませんわ。ヒューゴ殿が突然消えられたのです。友人として心配するのは当然でしょう?」
私はあえて口調を変えました。ユウ君、より険しい雰囲気となりましたが、それでもです。
「……はあ、別に消えたわけじゃないです。姉さんと同じケース――俺の中で眠ってます」
「なんてこと……」
私とアリアンヌ様と一緒ですか。それはもう――ユウ君が乗っ取ったも同然だと。
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