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大切なことは勇気を持って踏みだすこと
クリスマスを超えた私は一歩前へ踏み出した
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目が冷めて最初に覚えた違和感は部屋の寒さだ。
体を起こしてベッドの周りを確認すると、間違いなく私の部屋だった。
「サンタさんの嘘つき。本当は窓からでも入れたんじゃない……」
部屋の寒さの正体は開け放たれた窓が原因のようだった。
おそらくそこから私は部屋に運び込まれたのだろう。
煙突からしか家に入れないというサンタさんの言い訳は、サンタ服のように真っ赤な嘘だったのだ。
「うぅ、寒い……。おなかすいた……」
私はめんどくささをこらえつつ、部屋から降りて台所に向かう。
そして、適当に何か食べようと冷蔵庫を開け、途方にくれた。
「しまった、冷蔵庫の中からっぽだったか」
気持ち的には眠っていたかったが、お腹がグーグーとうるさいので仕方なく外に出る決意をする。
「外出る前に着替えないとだから、また部屋に戻んなきゃ」
なんと無駄な行動の多いことか。
私は自分のだらしなさに呆れつつ、再び寝室への階段を上がる。
「なにこれ……? プレゼント? いつの間に……」
寝室に戻った私は枕元にプレザントの箱が置かれているのを見つけた。
「そういえば、トナカイのナカイさんが言ってたっけ? プレゼントもらえるかもよって」
これがそのプレゼントか。サンタ村じゃもらえなかったもんな。
それにしても、本物のサンタさんのプレゼントかぁ! 期待で胸がワクワクしちゃうな!
私は素早く包装をほどき、胸を高鳴らせながらプレゼントの箱を開けてみた。
箱の中にはシンプルだが質のいい買い物袋が1つ折りたたまれている。
広げてみると、持ち手の部分に筋肉ムキムキの猫のストラップがつけられていた。
「うわぁ! すごく高そうな買い物袋だ! しかも、私が好きな漫画キャラのストラップもついてる!」
節約がちな生活を送る私にとっては、とてもありがたいプレゼントだ。
今使ってるのは相当ボロっちくなっていたからなぁ。
「あれ? そういえば、このストラップ最近どこかで見たような……?」
買い物袋にぶら下がる私のお気に入り、抹茶猫のマッチョッチョくんのストラップに妙な既視感を感じる。
……あと少しで思い出せそうなんだけどなぁ?
「ま、いっか! ありがとうサンタさん!」
私は遠い空に向かってお礼を述べ、ウキウキ気分で外に出て、すぐに家に引き返した。
「やばっ! 服着替えるの忘れてた!」
私は急いで部屋着から着替えを済ませ、足取り軽くスーパーを目指した。
◇◇◇
スーパーに行くと、思わぬ人物と出くわしてしまった。
「あれ? あかりちゃんじゃん! やっほー!」
「ひ、平野さん!? どうしたのこんなところで??」
私が昨日サンタの手伝いをしていたときに、声を上げ起こしてしまったクラスメイトの平野さんだ。
どうやらあの夜の出来事は何も覚えてはいないらしい。
「別に? 買い物だけど……あかりちゃんも? ……って!?」
平野さんは私……ではなく、私の持つ買い物袋を見て目を大きくひらいた。
そして、ササッと素早く近くに来て、持ち手についたストラップを手に取る。
「えっ!? これ、抹茶猫のマッチョッチョくんじゃん! ヤバっ! うちも同じストラップ持ってるよ!」
「ええ!? そうなの!?」
どこかで見たと思ったら、平野さんの家だったか!
そういえば、暗闇の中、やけに気を引かれたストラッブがあったっけ? あれか!?
「好きなの? 抹茶猫」
「大好きだよ! 謎にムキムキなのが可愛いんだよねぇ」
平野さんはグッと拳をにぎって抹茶猫への愛を表現している。
これは相当ハマっているな。
抹茶猫といえば、ちょうど今、映画が公開されているはずだ。
「そういえば、最近、抹茶猫の映画始まったよね」
「そうそう! うちまだ見に行けてないんだー。あかりちゃんは?」
「私もだよ。まだ見れてない……」
平野さんも見てないなら、一緒に見ることもできるってことか。
ドクンドクンと不安で心臓がうるさくなる。
私はギュッと買い物袋を持つ手に力を入れた。
大切なのは勇気を持つこと……だよね? サンタさん?
私はバレないようにこっそり深呼吸をし、勇気をふりしぼって平野さんに声をかけた。
「えっとさ、あの、平野さんさえ良ければなんだけど……今度一緒に見に行かない? 抹茶猫の映画」
私の言葉を聞いた平野さんは驚きで目を見開き、それから太陽のようなまぶしい笑顔を見せ、私の手を両手でつかんだ。
知らなかった。平野さんの手って、こんなに温かいんだ。
「うん! 行こう行こう! なんなら、今から行こうよ!!」
「いや、今はちょっと……って、うわぁ!? 平野さん!?」
平野さんはつかんだ私の手をグイッと引っ張って歩き出す。
私は平野さんに引きずられてゆく形で、その後ろを歩き始めた。
このまま映画館まで突っ走って行くのかな?
そう思ったけれど、平野さんは何かを思い出したように少し立ち止まって、パッと振り返ってニコッと笑う。
「そうだ! うちのことはにこって呼んでよ! あかりちゃんって、うちはとっくに下の名前で呼んでるし!」
下の名前で呼ぶ……か。これまた少し勇気が必要そうだ。
でも、なんだか今ならさらっと言ってしまえそうな気がする。
「え、えっと、よろしくね、にこちゃん!」
にこちゃん、と私が名前で呼ぶとにこちゃんはより一層と嬉しそうに笑い、つないだ手をブンブンと上下させる。
「うんうん! じゃ、行こっか! れっつごー!!」
「って、やっぱり今から行くの!?」
強引なにこちゃんに少し戸惑いながらも、ドキドキと期待が胸を打っている。
その中にはきっと楽しみという感情だけでなく、不安な気持ちもふくまれているのだろう。
けれど、私はちっとも怖くはなかった。
だって、大切なことはもう分かっているから。
「大切なのは勇気を持つこと……だよね」
「ん? 何か言った、あかりちゃん?」
「ううん。なんでもないよ、にこちゃん」
残念ながら、この日、スーパーに行くという私の目的は果たせなかった。
だけど、もっと大切な時間を私は手に入れた。
こうして、クリスマス前から始まった私のドタバタな日常は無事、幕を下ろしたのだ。
体を起こしてベッドの周りを確認すると、間違いなく私の部屋だった。
「サンタさんの嘘つき。本当は窓からでも入れたんじゃない……」
部屋の寒さの正体は開け放たれた窓が原因のようだった。
おそらくそこから私は部屋に運び込まれたのだろう。
煙突からしか家に入れないというサンタさんの言い訳は、サンタ服のように真っ赤な嘘だったのだ。
「うぅ、寒い……。おなかすいた……」
私はめんどくささをこらえつつ、部屋から降りて台所に向かう。
そして、適当に何か食べようと冷蔵庫を開け、途方にくれた。
「しまった、冷蔵庫の中からっぽだったか」
気持ち的には眠っていたかったが、お腹がグーグーとうるさいので仕方なく外に出る決意をする。
「外出る前に着替えないとだから、また部屋に戻んなきゃ」
なんと無駄な行動の多いことか。
私は自分のだらしなさに呆れつつ、再び寝室への階段を上がる。
「なにこれ……? プレゼント? いつの間に……」
寝室に戻った私は枕元にプレザントの箱が置かれているのを見つけた。
「そういえば、トナカイのナカイさんが言ってたっけ? プレゼントもらえるかもよって」
これがそのプレゼントか。サンタ村じゃもらえなかったもんな。
それにしても、本物のサンタさんのプレゼントかぁ! 期待で胸がワクワクしちゃうな!
私は素早く包装をほどき、胸を高鳴らせながらプレゼントの箱を開けてみた。
箱の中にはシンプルだが質のいい買い物袋が1つ折りたたまれている。
広げてみると、持ち手の部分に筋肉ムキムキの猫のストラップがつけられていた。
「うわぁ! すごく高そうな買い物袋だ! しかも、私が好きな漫画キャラのストラップもついてる!」
節約がちな生活を送る私にとっては、とてもありがたいプレゼントだ。
今使ってるのは相当ボロっちくなっていたからなぁ。
「あれ? そういえば、このストラップ最近どこかで見たような……?」
買い物袋にぶら下がる私のお気に入り、抹茶猫のマッチョッチョくんのストラップに妙な既視感を感じる。
……あと少しで思い出せそうなんだけどなぁ?
「ま、いっか! ありがとうサンタさん!」
私は遠い空に向かってお礼を述べ、ウキウキ気分で外に出て、すぐに家に引き返した。
「やばっ! 服着替えるの忘れてた!」
私は急いで部屋着から着替えを済ませ、足取り軽くスーパーを目指した。
◇◇◇
スーパーに行くと、思わぬ人物と出くわしてしまった。
「あれ? あかりちゃんじゃん! やっほー!」
「ひ、平野さん!? どうしたのこんなところで??」
私が昨日サンタの手伝いをしていたときに、声を上げ起こしてしまったクラスメイトの平野さんだ。
どうやらあの夜の出来事は何も覚えてはいないらしい。
「別に? 買い物だけど……あかりちゃんも? ……って!?」
平野さんは私……ではなく、私の持つ買い物袋を見て目を大きくひらいた。
そして、ササッと素早く近くに来て、持ち手についたストラップを手に取る。
「えっ!? これ、抹茶猫のマッチョッチョくんじゃん! ヤバっ! うちも同じストラップ持ってるよ!」
「ええ!? そうなの!?」
どこかで見たと思ったら、平野さんの家だったか!
そういえば、暗闇の中、やけに気を引かれたストラッブがあったっけ? あれか!?
「好きなの? 抹茶猫」
「大好きだよ! 謎にムキムキなのが可愛いんだよねぇ」
平野さんはグッと拳をにぎって抹茶猫への愛を表現している。
これは相当ハマっているな。
抹茶猫といえば、ちょうど今、映画が公開されているはずだ。
「そういえば、最近、抹茶猫の映画始まったよね」
「そうそう! うちまだ見に行けてないんだー。あかりちゃんは?」
「私もだよ。まだ見れてない……」
平野さんも見てないなら、一緒に見ることもできるってことか。
ドクンドクンと不安で心臓がうるさくなる。
私はギュッと買い物袋を持つ手に力を入れた。
大切なのは勇気を持つこと……だよね? サンタさん?
私はバレないようにこっそり深呼吸をし、勇気をふりしぼって平野さんに声をかけた。
「えっとさ、あの、平野さんさえ良ければなんだけど……今度一緒に見に行かない? 抹茶猫の映画」
私の言葉を聞いた平野さんは驚きで目を見開き、それから太陽のようなまぶしい笑顔を見せ、私の手を両手でつかんだ。
知らなかった。平野さんの手って、こんなに温かいんだ。
「うん! 行こう行こう! なんなら、今から行こうよ!!」
「いや、今はちょっと……って、うわぁ!? 平野さん!?」
平野さんはつかんだ私の手をグイッと引っ張って歩き出す。
私は平野さんに引きずられてゆく形で、その後ろを歩き始めた。
このまま映画館まで突っ走って行くのかな?
そう思ったけれど、平野さんは何かを思い出したように少し立ち止まって、パッと振り返ってニコッと笑う。
「そうだ! うちのことはにこって呼んでよ! あかりちゃんって、うちはとっくに下の名前で呼んでるし!」
下の名前で呼ぶ……か。これまた少し勇気が必要そうだ。
でも、なんだか今ならさらっと言ってしまえそうな気がする。
「え、えっと、よろしくね、にこちゃん!」
にこちゃん、と私が名前で呼ぶとにこちゃんはより一層と嬉しそうに笑い、つないだ手をブンブンと上下させる。
「うんうん! じゃ、行こっか! れっつごー!!」
「って、やっぱり今から行くの!?」
強引なにこちゃんに少し戸惑いながらも、ドキドキと期待が胸を打っている。
その中にはきっと楽しみという感情だけでなく、不安な気持ちもふくまれているのだろう。
けれど、私はちっとも怖くはなかった。
だって、大切なことはもう分かっているから。
「大切なのは勇気を持つこと……だよね」
「ん? 何か言った、あかりちゃん?」
「ううん。なんでもないよ、にこちゃん」
残念ながら、この日、スーパーに行くという私の目的は果たせなかった。
だけど、もっと大切な時間を私は手に入れた。
こうして、クリスマス前から始まった私のドタバタな日常は無事、幕を下ろしたのだ。
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