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2024年
10月の記録
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◇『神無月』
その社には、内気な神様が住んでいました。
「あーあ。外に出たいな。でも、神様だってバレたらどうしよう」
神様は考えました。
どうすれば、自由に外を出歩けるだろうか?
「そうだ!今月は留守だって知らせて、僕はこっそり街に行こう!」
こうして、神無月が生まれたのです。
◇『人手不足』
寝つけないので、羊を数えてみた。
「羊が一匹、羊が二匹、羊が……あれ?こないぞ?」
どうしてだろう? 3匹目の羊が現れない。
そう思っていると、柵を飛びこえた羊たちが戻ってきた。
「すみませんもこ。うちも人手不足もこでして」
どこも大変だなと、疲れがたまり僕は眠った。
◇『きりん座』
ある日、娘と星座の話をした。
「どうして星空にぞう座はないの?」
「星座になるには神様の助けがいるんだ。さすがに、ぞうは重すぎて持ち上がらなかったんだろう」
娘は「あれ?」と頭をかたむけた。
「じゃあどうして、きりん座はあるの?」
「首がつかみやすかったんだろうね」
◇『略すな』
「へり!……おかしいな。反応しない」
変わり者の友達が手に持った機械に向けて謎の呪文を唱えている。
彼は不思議そうに俺を見た。
「このスマホ壊れてるぞ」
「へい、Siri! を略そうとするからだ」
ピコン! と、スマホが俺の声に反応し、お助けAIを起動させる。
「ほらな」
「むぅ」
◇『クモの意図』
クモは賢い生き物だ。エサが通りそうな場所を選んで巣を張っている。クモの巣、クモの糸にはクモなりの意図があるのだ。
「よし! クモの巣撤去完了! って、うわぁっ!」
通り道のちょうど顔の高さに糸が張られて引っかかる。
(良い住処だったのに)
クモの声が聞こえた気がした。
◇『猫の温泉』
森の奥地、冷たく静かな廃墟に俺は来ている。ここには、猫しか入れないと言われる幻の温泉があるらしい。
「ここか?」
横穴を見つけ、奥へ進むと確かに温泉がある。
「人間でも入れるじゃん。湯加減も最高」
ふと視線を落としてみると、水面に映る自分の姿が猫の姿になっていた。
◇『月見』
「月がキレイですね」
これは愛の告白である、という見方がある。だからだろう、隣に座る先輩が僕を見た。
「どっちの意味だ?」
「どっちもです」
僕が答えると、先輩はキョトンとほうけたあと、クスリと笑った。
「だんごやるよ」
そんな短いやりとりをして、僕らはまた月を見上げた。
◇『秋雨』
先日の雨で道が綺麗になった。枯葉が雨に流されたのだ。
さらには、木の葉がはがされ、立木もすっかり冬の装いをしている。
「まるで若い冬が早めの代替わりをしているみたいだ」
ふと、遠くに立ちのぼる白い煙を見る。
「お互い頑張ろうな」
僕は同じ道をゆく冬を応援することにした。
◇『分からない』
最近、毎日本を読んでいる。実用書やら、小説やら、絵本まで幅広く。
「この部屋にある本を全て読み終えたら、少しはあなたのことが分かるかな?」
大切な人の遺した大切な本たち。その中から一冊を手に取り、私は今日も読書をする。
あなたのことを少しでも多く知りたいから。
◇『ゴミなし地蔵』
深い森にやって来た。うわさ通り、ここには周囲のきれいなゴミなし地蔵がある。
けれど、地蔵本体は土で汚れひどい有様だった。
俺は試しにゴミを捨てて帰ってみることにした。
その夜、ゴゴゴという音を鳴らして、ゴミなし地蔵が家までやって来た。
俺が捨てたゴミを携えて。
◇『アサリさん』
同窓会で友達と再会した。
「久しぶり浅利さん」
「佐藤君すごい!私の名前、きちんと思い出せたんだ!」
当たり前だろ、何言ってるんだ。と、口に出そうとした時だ。
「久しぶり~!あ~シジミさん!」
少し遠くから声がかかった。
「ほらね」
浅利さんと俺は顔を合わせて笑った。
◇『ハロウィンの隠し味』
ハロウィンに焼くパイの味がどうにも物足りない。
そこで私は、母にレシピを聞くことにした。
すると、「唐辛子入れた?」と返事がきた。そういえば、と昔を思い出す。
「私のイタズラで、逆に美味しくなったんだっけ?」
私はもう一度パイを焼いた。
「うん。美味しい」
#140字小説
その社には、内気な神様が住んでいました。
「あーあ。外に出たいな。でも、神様だってバレたらどうしよう」
神様は考えました。
どうすれば、自由に外を出歩けるだろうか?
「そうだ!今月は留守だって知らせて、僕はこっそり街に行こう!」
こうして、神無月が生まれたのです。
◇『人手不足』
寝つけないので、羊を数えてみた。
「羊が一匹、羊が二匹、羊が……あれ?こないぞ?」
どうしてだろう? 3匹目の羊が現れない。
そう思っていると、柵を飛びこえた羊たちが戻ってきた。
「すみませんもこ。うちも人手不足もこでして」
どこも大変だなと、疲れがたまり僕は眠った。
◇『きりん座』
ある日、娘と星座の話をした。
「どうして星空にぞう座はないの?」
「星座になるには神様の助けがいるんだ。さすがに、ぞうは重すぎて持ち上がらなかったんだろう」
娘は「あれ?」と頭をかたむけた。
「じゃあどうして、きりん座はあるの?」
「首がつかみやすかったんだろうね」
◇『略すな』
「へり!……おかしいな。反応しない」
変わり者の友達が手に持った機械に向けて謎の呪文を唱えている。
彼は不思議そうに俺を見た。
「このスマホ壊れてるぞ」
「へい、Siri! を略そうとするからだ」
ピコン! と、スマホが俺の声に反応し、お助けAIを起動させる。
「ほらな」
「むぅ」
◇『クモの意図』
クモは賢い生き物だ。エサが通りそうな場所を選んで巣を張っている。クモの巣、クモの糸にはクモなりの意図があるのだ。
「よし! クモの巣撤去完了! って、うわぁっ!」
通り道のちょうど顔の高さに糸が張られて引っかかる。
(良い住処だったのに)
クモの声が聞こえた気がした。
◇『猫の温泉』
森の奥地、冷たく静かな廃墟に俺は来ている。ここには、猫しか入れないと言われる幻の温泉があるらしい。
「ここか?」
横穴を見つけ、奥へ進むと確かに温泉がある。
「人間でも入れるじゃん。湯加減も最高」
ふと視線を落としてみると、水面に映る自分の姿が猫の姿になっていた。
◇『月見』
「月がキレイですね」
これは愛の告白である、という見方がある。だからだろう、隣に座る先輩が僕を見た。
「どっちの意味だ?」
「どっちもです」
僕が答えると、先輩はキョトンとほうけたあと、クスリと笑った。
「だんごやるよ」
そんな短いやりとりをして、僕らはまた月を見上げた。
◇『秋雨』
先日の雨で道が綺麗になった。枯葉が雨に流されたのだ。
さらには、木の葉がはがされ、立木もすっかり冬の装いをしている。
「まるで若い冬が早めの代替わりをしているみたいだ」
ふと、遠くに立ちのぼる白い煙を見る。
「お互い頑張ろうな」
僕は同じ道をゆく冬を応援することにした。
◇『分からない』
最近、毎日本を読んでいる。実用書やら、小説やら、絵本まで幅広く。
「この部屋にある本を全て読み終えたら、少しはあなたのことが分かるかな?」
大切な人の遺した大切な本たち。その中から一冊を手に取り、私は今日も読書をする。
あなたのことを少しでも多く知りたいから。
◇『ゴミなし地蔵』
深い森にやって来た。うわさ通り、ここには周囲のきれいなゴミなし地蔵がある。
けれど、地蔵本体は土で汚れひどい有様だった。
俺は試しにゴミを捨てて帰ってみることにした。
その夜、ゴゴゴという音を鳴らして、ゴミなし地蔵が家までやって来た。
俺が捨てたゴミを携えて。
◇『アサリさん』
同窓会で友達と再会した。
「久しぶり浅利さん」
「佐藤君すごい!私の名前、きちんと思い出せたんだ!」
当たり前だろ、何言ってるんだ。と、口に出そうとした時だ。
「久しぶり~!あ~シジミさん!」
少し遠くから声がかかった。
「ほらね」
浅利さんと俺は顔を合わせて笑った。
◇『ハロウィンの隠し味』
ハロウィンに焼くパイの味がどうにも物足りない。
そこで私は、母にレシピを聞くことにした。
すると、「唐辛子入れた?」と返事がきた。そういえば、と昔を思い出す。
「私のイタズラで、逆に美味しくなったんだっけ?」
私はもう一度パイを焼いた。
「うん。美味しい」
#140字小説
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