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客取り
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しおりを挟むベッドに乗ってきた客の城崎が優輝の唇にキスをする。表面を舐めちゅうっと軽く吸い上げてから顔を離した彼が、少し驚いた声を出した。
「ん? 優輝くん、どうしたんだい?」
見下ろした優輝の目尻に透明の雫がいっぱい溜まっていた。瞬きの度に溢れる涙がぽろぽろとクッションに零れ落ちていく。出入口近くにいた真柴がすかさず枕元に寄ってきた。
「申し訳ございません。なにぶん初めてのお客様ですので、優輝も些か緊張しているようです。いつものように退室する予定でおりましたが、落ち着かせる為に僕も暫く同席してお手伝いさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
伺いを立てる彼に、城崎は快く頷く。
「その方が優輝くんも安心するのなら構わないよ。折角の愉しい時間なんだ。私も、彼に悲しい顔はして欲しくないからね。真柴さんのやり方で緊張を解してあげてくれ」
「ありがとうございます」と礼を述べる真柴。優輝の顔を覗き込み、睫毛を濡らす雫を拭ってやる。震える白い左手を握り、雄の一人に目配せをした。
「…っあ! はあぁっっ」
背を反らし見悶え始める裸身。リモコン操作で作動を開始した淫具が前立腺を攻め立てる。切れ切れに熱い吐息を漏らす優輝に、真柴は穏やかな声音で言い聞かせた。
「優輝くん。不安になる必要は何もないんだよ。ほら、いつも通り、とっても気持ちいいだろう? 城崎様はお優しい方だし、初めてのお相手としてこんなに理想的なお客様はいないんだ。体が感じるまま、安心してすべてを曝け出していいんだよ」
揺れ始めた腰に手を伸ばし、下肢の付け根をするりと撫でる。
「さぁ、リラックスして、もっと脚を大きく開いてごらん。犯されているペニスと下のお口を、しっかりお客様にお見せしなくちゃね」
促すように内腿を摩ってやると、その角度が少しずつ開いていく。はぁはぁと喘ぎながら、優輝は真柴の言葉をなぞり客の前に恥部を晒していった。
「気持ち良くて、涙も止まったみたいだね。――ああ、なんて可愛いお尻の孔だ。どれどれ、中の具合を調べさせて貰おうかな」
城崎は己の唾液で濡らした指を眼前の蕾に近付ける。ぬぷりと入り込んだ人差し指と中指が優輝の直腸内でゆっくりと蠢いた。
「あぁんっ」
粘膜を擦り襞を捏ねられ、内部を吟味するような指の動きに甘い声を上げる。前の刺激も相俟って、ひとりでにうねる腰が客の指をもっと深く呑み込もうと高く浮いていった。狭間からクチュクチュと湿った音を響かせつつ、柔らかな双丘が城崎の手を挟み込み美味そうに食む。
「いい感じだよ、優輝くん。今凄く色っぽい顔をしてる」
しっかりと手を握ってくれる真柴の声と体温に、強張っていた身体から無駄な力がふっと抜ける。一瞬きゅうと食い締められた指を抜き、城崎は感嘆の息を漏らした。
「――誘うみたいに波打ったかと思うと、しっとり指に絡み付いてくる。素晴らしいね。こんなに性急に欲しくなったことなんてないのに、もう挿れたくて堪らないよ」
びんびんになった屹立を持て余した城崎が、優輝の膝裏に手を掛ける。グッと持ち上げ後孔に切っ先を押し当てて、高まる興奮のまま一気に彼の中へと侵入した。
「ああぁぁぁっっ!!」
淫具の律動に嬲られる最奥に熱い男根が突き挿さり、反り返った優輝の身体がピクピクと痙攣する。勢いに任せ彼の尻孔に全て収めた城崎は、己を鎮めるかのように一旦ふーっと息をついた。ほどなく始まる抽挿。前後のピストンでグニグニと揉みしだかれた優輝の前立腺は、我を忘れそうなほどの快感を絶え間無く彼に与えた。
「ひっ、あひっっ、ひぃぃっっ!!」
身も世も無く口を衝く嬌声。恥ずかしいのに、みっともないと分かっているのに、悦びに打ち震える声を我慢することが出来ない。リズム良く腰を打ち付けながら、城崎が陶酔するような表情で呟いた。
「……ああ、蕩けてしまいそうだ。…素敵だよ、優輝くん。君のお尻は最高だ」
称賛の声を遠くに聴きつつ、優輝の霞む瞳が真柴の顔を捉える。ベッド脇に片膝を突きこちらを見詰める眼差しは、とても優しかった。突き上げに揺すられ乱れる髪をそっと梳いてくれる彼。そのもう一方の手は、ずっと優輝の左手を握り続けていた。
「――優輝くん。城崎様の肉棒は美味しいかい?」
コクコクと頷く。その間にも力強い攻めが間断無く優輝を翻弄し、快楽に呑まれた心身はあっと言う間に高みへと追い上げられてしまう。全身を震わせ絶頂を告げる優輝の声が、艶めく唇から迸った。
「あぁっ! も、イっちゃ…っ、やっ、やぁぁっ、イくっ、イくぅぅっっ!!」
自分の手を握り締めて達した彼のイき顔に、真柴は白い歯を見せて笑う。その面は本心からの喜色を載せていた。
「気持ち良くイけたみたいだね、いい子だ。何も怖くなかったろう? 今のように城崎様がたっぷり可愛がって下さるから、沢山イって可愛い赤ちゃんを孕むんだよ。――大好きな肉棒をお腹いっぱい食べられて子種ミルクも飲み放題。本当に君は俗世の誰より幸せで贅沢な人生を歩んでいると思う。折角授かった才能なんだ。だから、君自身もそれを愉しむんだよ。自分は選ばれた人間なんだってね」
余韻に朦朧とする優輝の頬に手を当てる真柴。うっとりと見上げてくる双眸を見返して、彼は徐に立ち上がった。
「――城崎様。もう大丈夫のようですから、僕はこの辺で失礼致します。どうぞごゆっくりお愉しみ下さい」
動き続ける淫具の刺激に啜り啼きながらも、優輝は客に一礼する真柴の動きを懸命に目で追う。複雑な感情に揺れる視線が彼の色香を増幅させていた。イったばかりの優輝の方へ気を取られていた城崎は、掛けられた声にハッとして顔を上げる。
「あ、ああ。そうさせて貰うよ。…自分のモノでこの子をイかせられるってことが、こんなにも充足感を得られるものだとは――。優輝くん、もっともっとイかせてあげるからね。何もかも飛んでしまうほど悦がって乱れる君を、私に見せてくれ」
ドアの向こうに消えていく真柴の背中を見送る優輝。その内奥を、興奮冷めやらぬ城崎の怒張が再び穿ち始めた。
――真柴の言葉は実に巧みに優輝の脳内に浸透する。快楽に溺れている最中に何度も何度も聴かせることで、身体の快感と連動するように、心もその言葉が真実ではないかと思い込まされるのだ。そして本人にとってはそれがいずれ真実となる。
真柴の狙い通りに身も心も作り変えられていく優輝。己の本性を突き付けられる苦しさと哀しさ、そして事後の虚しさは変わらないが、こんな性活を享受する自分の身体は本当に幸せを感じているのかも知れないと、頭の何処かで微かに思い始めていた――。
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