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シェイテの慈悲

狩人だったんだ

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 メイナは椅子に座り足をぶらつかせ、ライリが暖炉で湯を沸かすのを見た。

 ライリは手際よく火を熾すと、水を入れた鍋を台に置いた。鍋の水には気泡が立ち始めている。

 となりに座るリティは黙ったまま、まだライリへの警戒を解いていない様子だ。

 メイナはふと、アズナイがいた日々のことを思った。アズナイもたまに、薬草の煎じ茶を淹れてくれた。

 『さあ、薬だと思って飲むんだ。体を温めて、病を払ってくれるんだ』

 そんな風に供された、アズナイの煎じ茶は苦かった。そのぶん、においは格別に香ばしかった。――メイナはその味を舌の上に思い出す。

 ふとリティを見ると、なぜか目を細めて、テーブルに視線を落としていた。メイナは心の中でつぶやく。

(きっと、同じことを思ってるんだね、リティ……)

 ライリは布に黒麦を包むと、それを鍋の湯に浸した。しばらくすると黒ずんだ包みを引き上げ、三つの木のコップに茶が注がれた。深く香ばしい匂いが漂ってきた。

「お待たせ。熱いから気をつけて」

 ライリはそう言うと、テーブルにコップを並べた。


 メイナは音をたてながら少しずつ茶を吸い込んだ。

 一方でリティは戸棚に視線を向けていた。その視線の先には、小ぶりのナイフと、反り刃の短剣があった。

 ライリは微笑しながら言った。

「ああ、物騒で悪かったね……。今朝方、刃物を研いで、そこで乾かしてたんだよ。まさか、こんな茶会が催されるとは思ってもみなかったからさ」

 するとライリは立ち上がって、戸棚の前に移動すると、「さて、片付けるとしよう」と呟いた。

 そこで、ずっと黙っていたリティが口を開いた。

「変わった短剣ですね」

 メイナはあらためて短剣を見た。たしかに反った片刃の短剣はなかなか見ない気がした。それに、刃の根本の三日月の刻印も特徴的だ。

 ライリはにっこりと笑って、その短刀を布にくるんで棚の隅に置いた。ついで横のナイフをとって、暖炉の横の小棚の上に移した。――きっと、そこが本来の置き場所なのだろう。

 リティはライリの行動をずっと目で追っていた。ライリは席に戻ると、コップを手にして口につけた。茶を飲み下すと、

「僕は昔から、狩人をしていね。もっとも、氷の年のあとは、獲物なんていないけどさ。獲物を処理したり、枝を払ったり、あの短剣にはお世話になったよ。森に入るときは、いまでもたまに持っていくよ」
「そっかー。狩りなら得意そうだね。すばしっこそうだよね!」
「逃げ足だけは誰にも負けないよ。ふふっ」

 そうしてライリはコップの茶を飲むと、さて、と続けた。

「きみたちは、北に向かっているのかい?」

 メイナはうなずいて、

「そうだよ。人を探してね」
「なるほど。それにしたって、氷の年をよく、生き抜いたものだよ。雪ネズミだって凍えるあの年を」
「あー、それね。師匠に、守ってもらったんだ。結晶のアズナイって、知ってる?」
「おお、夜風にかけて! 聞いたことがあるよ。王都じゃ、仕事の仲間も一目置いていたよ」

 メイナは少しいい気分になって、にやけながら茶の残りを飲んだ。沈んでいた麦の粒が口に入ってきて、それを指でとった。

「つまり、こういうことかい。きみたちは、お師匠のアズナイ殿を探して、北に向かっていると」

 メイナは顔を上げて、

「まあね。ライリさんは、氷の年の前にアズナイさまを見た? ここら辺も、通ったかもしれなくて……」

 ライリは申し訳なさそうに首を振った。

「いいや、あいにくだね。氷の年の前は、この辺りにいなかったから」
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