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本編

⒐その頃聖女は

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クソクソクソクソ
何でこうなった?

本来なら今頃自分は、
馬鹿な悪役令嬢が閉じ込められている牢獄に
カビて腐る直前のパンでも届けさせておいて

私自身は美しい宝石をつけて、私に似合う素敵なドレスを着て
豪華な食事を取りながら
優越感に浸って船上でハーレムメンバーを侍らせて
優雅にパーティを楽しんでいるはずだった。

それが今のこの状況はどうだ。
元々少しくせっ毛でストレートパーマをかけていた髪は
海水に長い間浸っていたからバサバサに。

丹念に化粧をしていたが、
今は全部落ちてしまい、成分の一部が化学反応を起こしたのか
単純に塩水のせいか分からないが少しヒリヒリする。
着ていた豪華なドレスは、ところどころ破けて
フリルをふんだんにしていたせいか、余計に浜辺の砂や泥が入って気持ち悪い。

何より許せないのが自分が目を覚ましたのに
今だに転がっている男ども

(普通逆じゃない?)

なんて使えない男ども何だろう。
全員起こして回るのは億劫なので
体力馬鹿の脳筋おとこに全部任せて自分は傍観でも決め込むか。

そう言えば周りをみわたしても私が前世で一推しキャラだった
王国筆頭魔術師のデュークが見当たらない。

浜辺に打ち上げられる前に溺れて死んでしまったのだろうか?

いや、まだ明確にゲームエンドが確定していない以上は
彼ほどのシナリオキーマンが死ぬわけがない

悪役令嬢の義兄である彼は、どのルートにおいても
死んでしまう事は無かったはずだ。
別の場所に打ち上げられて今頃必死に私を探しているのだろう。

少なくとも私の前で今だに転がっている男共より余程好感がもてる。

そう言えば城にいる間も忙しい仕事の合間を縫って
私に会いにきたほど私にむちゅうだった彼は
何故かこの嵐が起こった際に急に取り乱していた。

まさかと思うが、あの悪役令嬢のそばにいるのだろうか?

そんなはずもないか、みためも評判も頗る悪く
私を毒殺しようとして断罪されたあの女と

美しく評判も良い聖女の私。
あれ程私に執着していた彼があの女を選ぶはずも無い。

そもそもこれは私の為の乙女ゲーム
モブ悪役令嬢が幸せになるはずがない

どのエンディングいや、ノーマルエンディングを除くが
それ以外のエンディングであれば、あの女はどのルートでも不幸になるのだから。
王太子が行方不明になったのだから、
そのうちに王国の兵士が迎えに来るだろう。
それまでの間のは、煩わしい仕事に戻る前に
バカンスが伸びたと思ってせいぜい羽を伸ばそう。

この時彼女は気づいて無かったのだ。
本来であれば確かにこのゲームは、一人プレイ専用の乙女ゲーム
だが彼女が途中から強引にシナリオを変えてしまった事で
この世界に二人目のプレイヤーが呼ばれてしまった。
まるで世界がどちらのプレイヤーを残すのか決める為の様に。

単純なイベント攻略の乙女ゲームは終わってしまったのだ。
今のゲームはどちらのプレイヤーが生き残るか生存を賭けたサバイバルゲーム。
決着が着くまで助けなど現れるはずも無い。

もう既に相手プレイヤーは、重要攻略キャラを一人仲間に確保して
今後の活動に必要な資材も独り占めしてしまっている。
さらにサバイバルゲームのボーナス特典の神獣フェンリルまで手に入れてしまっていたのだ。

なまじ前世でこのゲームを熟知して、このゲームのだと
思っている彼女は、致命的にスタートダッシュに遅れてしまってたのだ。

この時彼女は気づいていない。
否、生来の傲慢な性格ゆえ気づけなかったのだ。


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