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第63話 父親と再会
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ロードスター辺境伯であるアルフレッドは辺境伯家の嫡男に生まれた。
アルフレッドには武の才が無く、武の風潮を重んじる辺境伯領においてはマイナス評価であったが、後継者とは目されていないため問題視はされず、主に文学と芸術に励む毎日であった。
なぜ嫡男であるのに後継者ではないのか。
それは辺境伯の甥でありアルフレッドから見ると従兄(父母の兄弟の子、自分より歳上)が、先代辺境伯との約束で後継者とされていたからである。
当初、その従兄の父(辺境伯の兄)が跡を継ぐ予定であったが、直前に事故により命を落としたため、現辺境伯が代わり跡を継いだ形になった為であった。
文人肌であるアルフレッドには後継者になりたいなどの野心は無く、複雑な後継者問題も納得しており、主に文学と芸術に励む毎日であった。
やがて青年になった頃、書籍探しで訪れた子爵領で、どこか陰のある少女ティファニーと恋に落ち、やがて婚約するまでに至った。
その後文官として辺境伯領で仕えるようになって生計を得ると、ティファニーと結婚し、そのティファニーが子供を身籠って男子が誕生し、と順風満帆の人生であった。
だが、あと数年もすれば既に騎士団長である従兄が新たな辺境伯となるという矢先に、騎士団の遠征先での不慮の事故で亡くなり、アルフレッドは急に辺境伯領の後継者とされたのであった。
従兄は遠い親戚でもあるブランドル伯爵家から妻を娶っており、その間に子も一人いたが、従兄が亡くなった為にその妻は子と共に生家に帰される事となった。
ブランドル伯爵家は納得が行かないようであったが、アルフレッドの父がこれ幸いと、爵位の継承順位が上であるアルフレッドを後継者にしたからである。
武に才能の無いアルフレッドではあったが、品行方正で頭も人柄も良く、既に将来の後継である男子まで得ているので、周囲に反対の声は上がらなかった。
そして数年後、老齢であった辺境伯が亡くなると正式にアルフレッド・ロードスター辺境伯となり、爵位を引き継いだのであった。
その間、アルフレッドとティファニーはさらに一女を授かった。
だがその後、避暑に出掛けた先で毒虫に刺されてしまい、結果としてティファニーは病死し、ジュリアンは盲目となってしまった。
再び後継者問題に悩まされる辺境伯家であるが、ティファニーを心底愛していたアルフレッドは、後妻を娶る事は無かったのである。
ーー
アルフレッドが自領を離れ王都を訪れたのは、近年狂ったように拡大政策を進める帝国に対して対策を練るための貴族会議が、王都で開催されるためであった。
王都に着いたアルフレッドは、初日にブランドル伯爵の訪問を受けた。
因縁浅からぬ家ではあるが親戚でもあり耳を傾けたところ、なんと王都にとても優れた薬師が滞在しており、その者がジュリアンの盲目を治せるかもしれないと言う事であった。
アルフレッドは大層喜び、すぐにジュリアンとジョアンナが王都に来れるよう手配したのである。
だがその数日後、会議に出席していたアルフレッドは、突如帝国と内通していた疑いを掛けられ拘束される事になってしまったのだ。
無実を叫ぶも、ブランドル伯爵が内通の証拠の手紙を保持しているとの事で、取り合ってもらえず、辺境伯領から嫡男であるジュリアンが着き次第、揃って裁判に掛けられる事になったのである。
今更ながら、ブランドル伯爵に嵌められた事を認識したアルフレッドであるが、どうにもならず牢内でジュリアンとジョアンナの無事を祈るのみであった。
ーーーーー
ロッド達は王都にあるロードスター辺境伯の屋敷に〔瞬間移動〕で現れた。
「ここは! 王都のロードスター辺境伯家の屋敷ですな!」
ローモンドが興奮した様子で話す。
「ああ。ローモンド子爵の記憶イメージから入手出来た位置だ。辺境伯がどの辺りにいるか、見当がつくか?」
ロッドは一番詳しそうなローモンドに尋ねた。
「恐らく王城の貴族用の地下牢だと思います。あれが王城です!」
ローモンドが窓から遠くに見える城を指さして言った。
「分かった。ここから探し出してみよう。少し待ってくれ!」
ロッドはそう言うと、超能力の応用技である〔自在の瞳〕で王城に目を向け、視線を地下に下げてゆく。
そしてそれほど深くない地下に、まさしく貴族用と思われるような小綺麗な大き目の牢があり、その中に一人の中年男性が囚われているのを発見した。
「いたぞ! ジュリアンの面影があるし、恐らくこの人物が辺境伯だろう。どうする、皆で飛ぶか? 大騒ぎになるかもしれないが」
ロッドが皆に相談する。
「ロッド様、看守などがいれば私の魔法で排除致しましょう。この神域の杖があれば一瞬で制圧可能です」
アイリスが手に持った杖を掲げて提案する。
ロッドが皆を見回し、頷くのを確認して言う。
「分かった。邪魔者がいたらアイリスに任せる。だが、なるべく殺さないようにしてくれ。では行くぞ!」
そしてロッドは皆を連れ、地下牢まで〔瞬間移動〕するのであった。
ーー
ロッド達は王城にある地下牢に〔瞬間移動〕で現れた。
そこには辺境伯=アルフレッドが気力の無い様子で、ベッドに腰掛けていた。
「お父様っ!」
ジョアンナは父親を見つけると、一目散に泣きながら駆け寄って抱きついた。
今までずっと口には出さなかったが、やはり父親の事が心配だったのだ。
アルフレッドはいきなり誰かに抱きつかれた事に驚くが、その誰かを見てさらに一層驚いた。
「アンナ! どうやってここに!」
アルフレッドが大声を出した為、牢の看守達が反応する。
「なっ! 貴様等、どうやってここへ入った!」
「一体何者だ!」
「お、応援を呼べ!」
看守達が騒然となり、さらに応援を呼びに行こうとした時、アイリスの持つ杖から魔法が発動する。
〚睡眠の雲〛
アイリスの保持する神域の杖の能力で貯蔵してある魔法が、無詠唱で高速に発動・展開された。
薄い雲のような煙のような物が瞬く間に広がって、看守達を包み込む。
一般の兵士が、アイリスの高い魔力属性値で発動された、高階級の魔法を抵抗出来るわけがない為、バタバタと倒れて全員が眠りについた。
=============== 《睡眠の雲》
魔法階級は上級魔法。
睡眠特性のある雲を発生させ、効果範囲内にいる者を眠らせる魔法である。
呼吸の有無は関係なく、雲を直接吸い込まなくても効果は発揮されるが、抵抗された場合には全く効果を発揮しない。
魔力属性値にもよるが、効果範囲は発動時にある程度制御可能である。
雲系の範囲魔法は敵味方の区別なく効果を発揮するので、味方を巻き込まないように注意する必要がある。
==============================
その光景に呆気に取られるアルフレッドだったが、この状況でも視界に入っている無視できない者を見て叫んだ。
「ジュリアン!」
呼ばれたジュリアンは父親の方を見て、微笑んで駆け寄った。
「父上! ご無事で何よりです!」
にっこりと目が合いながら微笑むジュリアンを見て、アルフレッドはまたもや、そして今日一番に驚愕する事になった。
「ジュリアン! 目が、目が見えているのか?」
ジュリアンは微笑みながら説明する。
「はい。色あって、そこにいるロッドさん達に助けてもらい、目も完全に治療してもらいました」
「そうか……良かった。良かった……」
アルフレッドは涙で目を滲ませ、ジュリアンとジョアンナを優しく抱き締めながら嗚咽を漏らした。
ジュリアンとジョアンナも涙を流し、父親を抱き返した。
牢の中は、しばし親子3人だけの感動の再会の場となるのであった。
アルフレッドには武の才が無く、武の風潮を重んじる辺境伯領においてはマイナス評価であったが、後継者とは目されていないため問題視はされず、主に文学と芸術に励む毎日であった。
なぜ嫡男であるのに後継者ではないのか。
それは辺境伯の甥でありアルフレッドから見ると従兄(父母の兄弟の子、自分より歳上)が、先代辺境伯との約束で後継者とされていたからである。
当初、その従兄の父(辺境伯の兄)が跡を継ぐ予定であったが、直前に事故により命を落としたため、現辺境伯が代わり跡を継いだ形になった為であった。
文人肌であるアルフレッドには後継者になりたいなどの野心は無く、複雑な後継者問題も納得しており、主に文学と芸術に励む毎日であった。
やがて青年になった頃、書籍探しで訪れた子爵領で、どこか陰のある少女ティファニーと恋に落ち、やがて婚約するまでに至った。
その後文官として辺境伯領で仕えるようになって生計を得ると、ティファニーと結婚し、そのティファニーが子供を身籠って男子が誕生し、と順風満帆の人生であった。
だが、あと数年もすれば既に騎士団長である従兄が新たな辺境伯となるという矢先に、騎士団の遠征先での不慮の事故で亡くなり、アルフレッドは急に辺境伯領の後継者とされたのであった。
従兄は遠い親戚でもあるブランドル伯爵家から妻を娶っており、その間に子も一人いたが、従兄が亡くなった為にその妻は子と共に生家に帰される事となった。
ブランドル伯爵家は納得が行かないようであったが、アルフレッドの父がこれ幸いと、爵位の継承順位が上であるアルフレッドを後継者にしたからである。
武に才能の無いアルフレッドではあったが、品行方正で頭も人柄も良く、既に将来の後継である男子まで得ているので、周囲に反対の声は上がらなかった。
そして数年後、老齢であった辺境伯が亡くなると正式にアルフレッド・ロードスター辺境伯となり、爵位を引き継いだのであった。
その間、アルフレッドとティファニーはさらに一女を授かった。
だがその後、避暑に出掛けた先で毒虫に刺されてしまい、結果としてティファニーは病死し、ジュリアンは盲目となってしまった。
再び後継者問題に悩まされる辺境伯家であるが、ティファニーを心底愛していたアルフレッドは、後妻を娶る事は無かったのである。
ーー
アルフレッドが自領を離れ王都を訪れたのは、近年狂ったように拡大政策を進める帝国に対して対策を練るための貴族会議が、王都で開催されるためであった。
王都に着いたアルフレッドは、初日にブランドル伯爵の訪問を受けた。
因縁浅からぬ家ではあるが親戚でもあり耳を傾けたところ、なんと王都にとても優れた薬師が滞在しており、その者がジュリアンの盲目を治せるかもしれないと言う事であった。
アルフレッドは大層喜び、すぐにジュリアンとジョアンナが王都に来れるよう手配したのである。
だがその数日後、会議に出席していたアルフレッドは、突如帝国と内通していた疑いを掛けられ拘束される事になってしまったのだ。
無実を叫ぶも、ブランドル伯爵が内通の証拠の手紙を保持しているとの事で、取り合ってもらえず、辺境伯領から嫡男であるジュリアンが着き次第、揃って裁判に掛けられる事になったのである。
今更ながら、ブランドル伯爵に嵌められた事を認識したアルフレッドであるが、どうにもならず牢内でジュリアンとジョアンナの無事を祈るのみであった。
ーーーーー
ロッド達は王都にあるロードスター辺境伯の屋敷に〔瞬間移動〕で現れた。
「ここは! 王都のロードスター辺境伯家の屋敷ですな!」
ローモンドが興奮した様子で話す。
「ああ。ローモンド子爵の記憶イメージから入手出来た位置だ。辺境伯がどの辺りにいるか、見当がつくか?」
ロッドは一番詳しそうなローモンドに尋ねた。
「恐らく王城の貴族用の地下牢だと思います。あれが王城です!」
ローモンドが窓から遠くに見える城を指さして言った。
「分かった。ここから探し出してみよう。少し待ってくれ!」
ロッドはそう言うと、超能力の応用技である〔自在の瞳〕で王城に目を向け、視線を地下に下げてゆく。
そしてそれほど深くない地下に、まさしく貴族用と思われるような小綺麗な大き目の牢があり、その中に一人の中年男性が囚われているのを発見した。
「いたぞ! ジュリアンの面影があるし、恐らくこの人物が辺境伯だろう。どうする、皆で飛ぶか? 大騒ぎになるかもしれないが」
ロッドが皆に相談する。
「ロッド様、看守などがいれば私の魔法で排除致しましょう。この神域の杖があれば一瞬で制圧可能です」
アイリスが手に持った杖を掲げて提案する。
ロッドが皆を見回し、頷くのを確認して言う。
「分かった。邪魔者がいたらアイリスに任せる。だが、なるべく殺さないようにしてくれ。では行くぞ!」
そしてロッドは皆を連れ、地下牢まで〔瞬間移動〕するのであった。
ーー
ロッド達は王城にある地下牢に〔瞬間移動〕で現れた。
そこには辺境伯=アルフレッドが気力の無い様子で、ベッドに腰掛けていた。
「お父様っ!」
ジョアンナは父親を見つけると、一目散に泣きながら駆け寄って抱きついた。
今までずっと口には出さなかったが、やはり父親の事が心配だったのだ。
アルフレッドはいきなり誰かに抱きつかれた事に驚くが、その誰かを見てさらに一層驚いた。
「アンナ! どうやってここに!」
アルフレッドが大声を出した為、牢の看守達が反応する。
「なっ! 貴様等、どうやってここへ入った!」
「一体何者だ!」
「お、応援を呼べ!」
看守達が騒然となり、さらに応援を呼びに行こうとした時、アイリスの持つ杖から魔法が発動する。
〚睡眠の雲〛
アイリスの保持する神域の杖の能力で貯蔵してある魔法が、無詠唱で高速に発動・展開された。
薄い雲のような煙のような物が瞬く間に広がって、看守達を包み込む。
一般の兵士が、アイリスの高い魔力属性値で発動された、高階級の魔法を抵抗出来るわけがない為、バタバタと倒れて全員が眠りについた。
=============== 《睡眠の雲》
魔法階級は上級魔法。
睡眠特性のある雲を発生させ、効果範囲内にいる者を眠らせる魔法である。
呼吸の有無は関係なく、雲を直接吸い込まなくても効果は発揮されるが、抵抗された場合には全く効果を発揮しない。
魔力属性値にもよるが、効果範囲は発動時にある程度制御可能である。
雲系の範囲魔法は敵味方の区別なく効果を発揮するので、味方を巻き込まないように注意する必要がある。
==============================
その光景に呆気に取られるアルフレッドだったが、この状況でも視界に入っている無視できない者を見て叫んだ。
「ジュリアン!」
呼ばれたジュリアンは父親の方を見て、微笑んで駆け寄った。
「父上! ご無事で何よりです!」
にっこりと目が合いながら微笑むジュリアンを見て、アルフレッドはまたもや、そして今日一番に驚愕する事になった。
「ジュリアン! 目が、目が見えているのか?」
ジュリアンは微笑みながら説明する。
「はい。色あって、そこにいるロッドさん達に助けてもらい、目も完全に治療してもらいました」
「そうか……良かった。良かった……」
アルフレッドは涙で目を滲ませ、ジュリアンとジョアンナを優しく抱き締めながら嗚咽を漏らした。
ジュリアンとジョアンナも涙を流し、父親を抱き返した。
牢の中は、しばし親子3人だけの感動の再会の場となるのであった。
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