半神の守護者

ぴっさま

文字の大きさ
上 下
71 / 81

第63話 父親と再会

しおりを挟む
ロードスター辺境伯であるアルフレッドは辺境伯家の嫡男に生まれた。

アルフレッドには武の才が無く、武の風潮を重んじる辺境伯領においてはマイナス評価であったが、後継者とはもくされていないため問題視はされず、主に文学と芸術にはげむ毎日であった。

なぜ嫡男であるのに後継者ではないのか。

それは辺境伯の甥でありアルフレッドから見ると従兄じゅうけい(父母の兄弟の子、自分より歳上)が、先代辺境伯との約束で後継者とされていたからである。

当初、その従兄じゅうけいの父(辺境伯の兄)が跡を継ぐ予定であったが、直前に事故により命を落としたため、現辺境伯が代わり跡を継いだ形になった為であった。

文人肌であるアルフレッドには後継者になりたいなどの野心は無く、複雑な後継者問題も納得しており、主に文学と芸術にはげむ毎日であった。

やがて青年になった頃、書籍探しで訪れた子爵領で、どこか陰のある少女ティファニーと恋に落ち、やがて婚約するまでに至った。

その後文官として辺境伯領で仕えるようになって生計を得ると、ティファニーと結婚し、そのティファニーが子供を身籠って男子が誕生し、と順風満帆の人生であった。

だが、あと数年もすれば既に騎士団長である従兄じゅうけいが新たな辺境伯となるという矢先に、騎士団の遠征先での不慮ふりょの事故で亡くなり、アルフレッドは急に辺境伯領の後継者とされたのであった。

従兄じゅうけいは遠い親戚でもあるブランドル伯爵家から妻をめとっており、その間に子も一人いたが、従兄じゅうけいが亡くなった為にその妻は子と共に生家せいかに帰される事となった。

ブランドル伯爵家は納得が行かないようであったが、アルフレッドの父がこれ幸いと、爵位の継承順位が上であるアルフレッドを後継者にしたからである。

武に才能の無いアルフレッドではあったが、品行方正で頭も人柄も良く、既に将来の後継である男子まで得ているので、周囲に反対の声は上がらなかった。

そして数年後、老齢であった辺境伯が亡くなると正式にアルフレッド・ロードスター辺境伯となり、爵位を引き継いだのであった。

その間、アルフレッドとティファニーはさらに一女を授かった。

だがその後、避暑に出掛けた先で毒虫に刺されてしまい、結果としてティファニーは病死し、ジュリアンは盲目となってしまった。

再び後継者問題に悩まされる辺境伯家であるが、ティファニーを心底愛していたアルフレッドは、後妻をめとる事は無かったのである。

ーー

アルフレッドが自領を離れ王都を訪れたのは、近年狂ったように拡大政策を進める帝国に対して対策を練るための貴族会議が、王都で開催されるためであった。

王都に着いたアルフレッドは、初日にブランドル伯爵の訪問を受けた。

因縁浅からぬ家ではあるが親戚でもあり耳を傾けたところ、なんと王都にとても優れた薬師が滞在しており、その者がジュリアンの盲目を治せるかもしれないと言う事であった。

アルフレッドは大層喜び、すぐにジュリアンとジョアンナが王都に来れるよう手配したのである。

だがその数日後、会議に出席していたアルフレッドは、突如帝国と内通していた疑いを掛けられ拘束される事になってしまったのだ。

無実を叫ぶも、ブランドル伯爵が内通の証拠の手紙を保持しているとの事で、取り合ってもらえず、辺境伯領から嫡男であるジュリアンが着き次第、揃って裁判に掛けられる事になったのである。

今更ながら、ブランドル伯爵に嵌められた事を認識したアルフレッドであるが、どうにもならず牢内でジュリアンとジョアンナの無事を祈るのみであった。


ーーーーー

ロッド達は王都にあるロードスター辺境伯の屋敷に〔瞬間移動テレポート〕で現れた。

「ここは! 王都のロードスター辺境伯家の屋敷ですな!」
ローモンドが興奮した様子で話す。

「ああ。ローモンド子爵の記憶イメージから入手出来た位置だ。辺境伯がどの辺りにいるか、見当がつくか?」
ロッドは一番詳しそうなローモンドに尋ねた。

「恐らく王城の貴族用の地下牢だと思います。あれが王城です!」
ローモンドが窓から遠くに見える城を指さして言った。

「分かった。ここから探し出してみよう。少し待ってくれ!」

ロッドはそう言うと、超能力の応用技である〔自在の瞳〕で王城に目を向け、視線を地下に下げてゆく。

そしてそれほど深くない地下に、まさしく貴族用と思われるような小綺麗な大き目の牢があり、その中に一人の中年男性がとらわれているのを発見した。

「いたぞ! ジュリアンの面影おもかげがあるし、恐らくこの人物が辺境伯だろう。どうする、皆で飛ぶか? 大騒ぎになるかもしれないが」
ロッドが皆に相談する。

「ロッド様、看守などがいれば私の魔法で排除致しましょう。この神域の杖スタッフオブサンクチュアリがあれば一瞬で制圧可能です」
アイリスが手に持った杖を掲げて提案する。

ロッドが皆を見回し、うなずくのを確認して言う。
「分かった。邪魔者がいたらアイリスに任せる。だが、なるべく殺さないようにしてくれ。では行くぞ!」

そしてロッドは皆を連れ、地下牢まで〔瞬間移動テレポート〕するのであった。

ーー

ロッド達は王城にある地下牢に〔瞬間移動テレポート〕で現れた。
そこには辺境伯=アルフレッドが気力の無い様子で、ベッドに腰掛けていた。

「お父様っ!」
ジョアンナは父親を見つけると、一目散に泣きながら駆け寄って抱きついた。
今までずっと口には出さなかったが、やはり父親の事が心配だったのだ。

アルフレッドはいきなり誰かに抱きつかれた事に驚くが、その誰かを見てさらに一層驚いた。
「アンナ! どうやってここに!」

アルフレッドが大声を出した為、牢の看守達が反応する。
「なっ! 貴様等、どうやってここへ入った!」
「一体何者だ!」
「お、応援を呼べ!」

看守達が騒然となり、さらに応援を呼びに行こうとした時、アイリスの持つ杖から魔法が発動する。

睡眠の雲スリープ・クラウド

アイリスの保持する神域の杖スタッフオブサンクチュアリの能力で貯蔵ストックしてある魔法が、無詠唱で高速に発動・展開された。

薄い雲のような煙のような物がまたたく間に広がって、看守達を包み込む。

一般の兵士が、アイリスの高い魔力属性値で発動された、高階級の魔法を抵抗レジスト出来るわけがない為、バタバタと倒れて全員が眠りについた。


=============== 《睡眠の雲スリープ・クラウド
魔法階級は上級魔法。
睡眠特性のある雲を発生させ、効果範囲内にいる者を眠らせる魔法である。
呼吸の有無は関係なく、雲を直接吸い込まなくても効果は発揮されるが、抵抗レジストされた場合には全く効果を発揮しない。
魔力属性値にもよるが、効果範囲は発動時にある程度制御可能である。
クラウド系の範囲魔法は敵味方の区別なく効果を発揮するので、味方を巻き込まないように注意する必要がある。
==============================


その光景に呆気に取られるアルフレッドだったが、この状況でも視界に入っている無視できない者を見て叫んだ。
「ジュリアン!」

呼ばれたジュリアンは父親の方を見て、微笑んで駆け寄った。
「父上! ご無事で何よりです!」

にっこりと目が合いながら微笑むジュリアンを見て、アルフレッドはまたもや、そして今日一番に驚愕する事になった。
「ジュリアン! 目が、目が見えているのか?」

ジュリアンは微笑みながら説明する。
「はい。色あって、そこにいるロッドさん達に助けてもらい、目も完全に治療してもらいました」

「そうか……良かった。良かった……」
アルフレッドは涙で目をにじませ、ジュリアンとジョアンナを優しく抱き締めながら嗚咽おえつらした。

ジュリアンとジョアンナも涙を流し、父親を抱き返した。

牢の中は、しばし親子3人だけの感動の再会の場となるのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ
ファンタジー
少年はひたすら逃げた。突如変わり果てた街で、死を振り撒く異形から。そして逃げた先に待っていたのは絶望では無く、一振りの希望――魔剣――だった。 逃げた先で出会った大男からその希望を託された時、特別ではなかった少年の運命は世界の命運を懸ける程に大きくなっていく。 なれば〝ヒト〟よ知れ、少年の掴む世界の運命を。 銘無き少年は今より、現想神話を紡ぐ英雄とならん。 時き継幻想(ときつげんそう)フララジカ―――世界は緩やかに混ざり合う。 【概要】 主人公・藤咲勇が少女・田中茶奈と出会い、更に多くの人々とも心を交わして成長し、世界を救うまでに至る現代ファンタジー群像劇です。 現代を舞台にしながらも出てくる新しい現象や文化を彼等の目を通してご覧ください。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」  勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。  ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。  そんなある日のこと。  何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。 『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』  どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。  ……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?  私がその可能性に思い至った頃。  勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。  そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……

処理中です...