半神の守護者

ぴっさま

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第58話 貴族と光翼

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ロッドは守護者スタイルで辺境伯城の中庭にいた。

「それじゃあ移動を始める! 皆、よろしく頼む!」

物質取得アポート〕連続発動!

ロッドは貴族連合の軍勢を〔自在の瞳〕で確認しながら、拉致されたと思われる女性達を片っ端から〔物質取得アポート〕で、城の中庭に次々と転移させていった。

転移させた者は例外なく驚きで固まっていたが、リーンステアの指揮で女性騎士達にも協力してもらい、綺麗に整列させてゆく。

この後は温かい食事を提供し、それぞれの事情を聞いた上でいずれは元いた場所に送り返す予定である。

中には拉致されたのではない者も多少含んでいたが、総勢300名近くを保護したのであった。

クレアと同じ村出身の者は、村の事情説明も含んでクレアに任せる事にしていた。

「守護者様、ありがとうございました。同じ村にいた者達は、誰一人欠ける事なく無事に会うことが出来ました」

クレアと後ろに控える女性達が頭を下げる。

「それは良かったな。村は残念だったが、これからはこの領都に住むと良いかもしれない。ここには復興需要や獣人需要もあるし、人手は多いほど良いだろう。良かったら俺から辺境伯家に話しておこうか?」
ロッドがクレアに尋ねる。

「守護者様。何から何まで、ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます。先程も皆で、ここに住もうかと話していました」
村娘が頭を下げながら話した。

「分かった。皆で住む土地と建物ぐらいは用意出来ると思う。明日にでも調整に入ろう」
ロッドがクレアや女性達に話した。

女性達にはまだ泣いている者もいるが、一旦は安心した様子となった。

「それと、今から村を襲った者達に罰を下してくる。拉致や殺害に関与した者は、恐らくほとんどが死ぬ事になるだろう。だからお前達は復讐に囚われず、この地で幸せになって欲しい」
ロッドが自分の想いを女性達に告げた。

「はい。皆にも村で殺された人は、イクティス神の下で安らかに眠っている事は伝えてあります。ですので守護者様の仰る通りに、生きてゆきたいと思います」

クレアと女性達全員が頭を下げる。

ロッドはそれを聞いて満足そうに頷くのであった。


ーーーーー

王国の貴族連合軍は、ロードスター辺境伯領の領都アステルを目指して進軍していた。

ブランドル伯爵の激で集まった貴族軍であったが、ブランドル伯爵自身は王都を離れられないという理由で参加していない。

貴族連合軍が遠征して来たのは、ロードスター辺境伯に帝国と通じた謀反の疑いがあり、辺境伯自身は現在王都で投獄されているが、武装解除を求めた王名の指示書に逆らって辺境伯家が未だに兵権を手放す意志を見せず、王都にも出頭してこないからであった。

各貴族家とも急な招集でなかなか兵が集まらないため、自前の戦力以外に傭兵や冒険者、裏町のならず者を雇うなどして、兵数をかさ増ししていた。

正規兵でない者は素行も悪く、進軍中は近隣の街や村で女を攫ったり村人を殺戮するなどして、傍若無人な振る舞いを行っていたが、貴族や軍の上官などは見て見ぬふりをしていたのであった。

一応、軍内で殺人などは認められないので、拉致した女性達には逃げられないようにした上で、自ら身体を開くように協力しないと食事を与えないなどのやり方で、女性を縛っていたのであった。

まだロードスター辺境伯の謀反のついては疑いがあるという状態であり、確定していないため王国軍は動かないが、ブランドル伯爵と王国の宰相との折衝でロードドスター辺境伯家打倒の暁には、領土や家財などをそれぞれの貴族家で分け合う事が既に決まっていた。

そのため、多少無理をしてでも参加して勝ち馬に乗り、おこぼれにあずかろうというブランドル伯爵家に近しい貴族家が、こぞって集まったのである。

もう夕方になり、進軍を止めて野営の準備を始めるが、少しして貴族達に奇妙な情報が上げられてきた。

ならず者達が拉致した女性達全員が、煙のように消えてしまったというのである。

拉致の実行犯はならず者であったが、貴族や騎士などもそれとわかった上で利用していたので、貴族達は探索の指示を出した。

だが探しても女達は見つからないので、とりあえず野営準備を始める貴族連合軍であった。

ーー

始まりは、夕食後に貴族連合軍の周囲で異変が起こった事であった。

軍の野営場所が、突如巨大な半円形の膜のような者に包まれたのである。

その膜は青白く輝き、兵たちから貴族への報告では武器でも、魔法でも全く破る事が出来ないという事であった。

「閉じ込められただと! 一体何が起こっている!」
貴族連合を纏める立場である大貴族が怒鳴り散らした。

「ふ、不明です! 突如として巨大な青白い膜のような物に囲まれていたのです!」
騎士がひざまずいて報告する。

「ふうむ。嫌な予感がしますな」
「やれやれ。早く辺境伯家を潰して利益にあずかりたいのだがね」
「冒険者に調べさせるのはどうだ、奴らの得意分野だろう?」
「捨て石という事であれば、裏町で募集して雇ったならず者達の方がいいのでは? 数も多い事ですし」
「女が、全部居なくなったというのは本当ですかな?」
「女なら占領する辺境伯領の領都でまた集めれば良いだろう? 何のために裏町の者を雇っている」
貴族達は思い思いに勝手に発言する。

「静まるのだ。ふうむ。やはり冒険者を使うか……」
大貴族が思案する。


「俺は〈半神の守護者〉という者だ。辺境伯領に進軍して来た者達に告げる! 俺はお前達に罰を与えに来た!」
急に貴族連合軍全員の頭の中に、誰かの澄んだ声が響き渡る。

驚いた者達が野営地の空を見上げると、中空に浮かび青白い光を纏っている者が見えた。

「繰り返す。俺は〈半神の守護者〉という者だ。辺境伯領に進軍して来た者達に告げる! 俺はお前達に罰を与えに来た! まずは、おとなしく武装を解除して俺の指示に従え!」

再度、声が全員の頭の中に響き渡る。
貴族連合軍全体も騒然となった。

「「「何だ?」」」
「声が頭の中で聞こえたぞ!」
「何者なんだ?」
「あれは魔法使いなのか?」
貴族たちも真っ白の仮面を被って空に浮かぶ者をいぶかしむ。

「むう。あの者が首謀者であろう、捕らえよ! 無理なら殺してしまえ!」
大貴族が命令するのであった。

ーー

ロッドは貴族連合軍が逃走できないように、あらかじめ巨大なサイコバリアで軍全体を囲っていた。

巨大な物は慣れていないので少し薄かったが、逃走防止程度なら丁度良いだろうと思われた。

次に〔念動力の翼〕で貴族連合軍と少し離れた中空に浮かび、全員の頭の中に〔精神感応テレパシー〕でメッセージを送信した。

メッセージを2度繰り返した後、貴族連合軍が攻撃の構えを見せた。

ロッドは攻撃される前に罪状を言っておこうと思い、続きを話す。
「俺がお前達を断罪する理由は、進軍途中での多数の女性の拉致らち、及びその後の半強制的な性的奉仕・凌辱りょうじょく、さらに村や街での物資の略奪、及びその証拠隠滅の為の無慈悲な殺戮だ。特に殺戮に関わった者は全員を死罪とする!」

ロッドが続けて話す。
「だが、ここにいる全員が関わっているとは思っていない。自分は関わっていないと主張する者で抵抗の意志が無い者は、武器を地に置いて膝をつけ。その者達は後から検査して無関係であれば放免しよう」

ここで貴族連合軍の弓部隊、魔法部隊から攻撃が放たれる。
戯言ざれごとにかまうな! あの仮面の者目掛けて撃て!」

仮面の者=ロッドに無数の矢や攻撃魔法が放たれるが、身体に沿って展開した〔サイコバリア〕に全て阻まれた。

矢や魔法が当たったにも関わらず、ダメージを受けた様子も無い事に、驚愕する貴族連合軍。

「その程度であれば無駄な攻撃だ。お前達に警告しておく。以後、俺を攻撃した場合は容赦なく死を与える! だが、お前達は実際にある程度が死んでからでないと分からないだろうな」

ロッドはそう告げると自分の背後の左右に、細く短い〔サイコジャベリン〕の縮小版、定義名〔サイコニードル〕を無数に発生させた。


=============== 《サイコニードル》
単体攻撃に特化した〔サイコジャベリン〕を、対人間用に〔サイコランス〕とは逆に小さく細くして省エネ化した物を定義した技である。
威力はかなり劣るが、元々〔サイコジャベリン〕は人間に対してはオーバーキル過ぎる技なので、縮小した方がほどよい威力となる。
また人間には急所が多く、頭部や内蔵まで負傷するとほぼ死ぬ事となるため、細胞全てを焼き尽くすような威力までは不要なのである。
==============================


左右に密集させた数万本の〔サイコニードル〕が、地上からはまるで光の翼であるかのように見える。

ロッドは残留思念から読み取った、あの村の惨劇を思い出して怒っていた。
子供を含め、何の罪も無い者達を嬉々ききとして殺していたのだ。

因果応報で、自分達も同じ目に会う事になると知るべきだろう。
それを見逃したり隠したりかばう者も、また同罪だ。

以降、攻撃をして来る場合は本当に容赦しないと決めるロッド。


貴族連合軍は突如として現れて罰を与えると宣言した、光の翼を持つ神とも悪魔とも知れない存在に、恐怖するのであった。



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