半神の守護者

ぴっさま

文字の大きさ
上 下
58 / 81

第50話 無傷と停戦

しおりを挟む
「な、何事が起きたのだ! 報告しろ!」
本陣にいる帝国軍の将軍が、陣に戻って来た参謀役に報告を求めた。

「はい。まだ各部隊混乱していますが、さきほど獣人の円陣をくずす為に突撃中であった騎馬隊が、周りの兵士ごと何らかの力により吹き飛んで瓦解がかいしたようです。一旦、獣人の陣とは距離を取って各部隊の混乱を立て直しております」
参謀役の男が汗をぬぐいながら説明する。

そんなやり取りの中、戦場にいる全員に向けて命令する声が聞こえて来た。
その声は耳に聞こえているようで、実際には頭の中だけで聞こえる声であった。


「帝国軍全員に告げる! 即時戦闘を停止し、武装を解除せよ!
 繰り返す! 帝国軍は即時戦闘を停止し、武装を解除せよ!
 したがわない場合は、実力を持って排除はいじょする!」


驚いた将軍と参謀役の男が陣幕じんまくから出て空を見上げると、うわさに聞く赤い悪魔が中空にたたずんでいるのが見えた。

「今のはあれが言っているのか?」
将軍が驚いて参謀役に尋ねる。

「恐らくそうなのだと思います……停戦と武装解除に応じますか?」
参謀役の男が将軍に確認する。

「馬鹿な! 我が帝国軍が一魔法使いに屈するなどあってはならん! 空を飛んでいるなら飛龍ワイバーン部隊に攻撃させろ! それに傭兵も使え!」
将軍が激昂して命令する。

参謀役の男は、部下に命じて飛龍ワイバーン部隊と傭兵部隊に、赤い悪魔への攻撃命令を告げるのであった。

ーー

ロッドは獣人の陣が、ミーアの魔法のような舞で持ち直したのを見ると、〔念動力の翼〕で空に浮かび上がった。

そして超能力である〔精神感応テレパシー〕を使い、この戦場にいる全員に向けて、即時の戦闘停止と武装解除を求めた。

何度か繰り返し命じていると、飛龍ワイバーン部隊がこちらに攻撃する構えを見せた。

ロッドはそれをみて、ピーちゃんに〔精神感応テレパシー〕で話した。
(ピーちゃん、あの飛龍ワイバーン部隊を任せる。必要がなければ殺さないようにしてくれ。『はいデス。ご主人様!』)

ピーちゃんは飛龍ワイバーン部隊に向き直ると、鳥王の威圧バードキングプレッシャーを全ての飛龍ワイバーンに向けて放った。

飛龍ワイバーン達は良く訓練されており、今まで人間に逆らう事など無かったが、ピーちゃんの威圧を受け、その恐ろしさで乗り手の制御を無視して真っ逆さまに地上に降り、翼を伏せて平伏へいふくするのであった。

ピーちゃんの威圧は鳥系への効果が絶大であり、飛行系の生物や魔物にはピーちゃんの威圧は何よりも恐ろしい物となり、逆らえなくなってしまうのである。

実際に飛龍ワイバーンとピーちゃんが戦えば、一瞬で切り刻まれて死ぬだけとなるだろう。
それを本能でも悟っているため、尚更逆らえないのである。

飛龍の乗り手ワイバーンライダーは、指示を無視して地上に降り、テコでも動こうとしなくなった自分の飛龍ワイバーンを、ため息をついてながめるのであった。

ーー

「赤い悪魔に向け、一斉に撃てっ!」
傭兵部隊長の指示で、50人ほどの魔法使い達から次々と攻撃魔法が放たれる。


魔法の矢マジックアロー
炎の矢ファイヤーボルト
炸裂する火球ファイヤーボール
炎の嵐ファイヤーストーム
迸る稲妻ライトニング
氷柱の爆発アイスブラスト
氷の槍アイスジャベリン
風の刃エアーエッジ
暴風テンペスト
石の礫ストーングラヴル
岩の弾丸ロックバレット
……


様々な属性の攻撃魔法が合計何百発も、空中にいる赤い悪魔=ロッドを襲う。

数分し、もう充分だと判断した傭兵部隊長の指示で、魔法攻撃が停止される。
「撃ち方止めっ!」

しかし魔法で発生した爆炎等が晴れて見ると、そこには傷ひとつない赤い悪魔が変わらず空中にたたずんでいるのであった。

魔法は全て〔サイコバリア〕に阻まれ、直接ロッドに届いてはいなかった。
知らない魔法もあったため、模倣で習得出来たと密かにほくそ笑むロッド。

「ば、馬鹿な! あれだけの攻撃魔法が効いてないのか!」
驚愕する傭兵部隊長。

「無傷だぞ!」
「魔法が効いてないのか!」
「化け物か?」
「やはり悪魔なのか!」
「空中だと戦えないぞ!」
「悪魔め!」
「降りてこい!」
「そうだ! 卑怯者!」

傭兵部隊は柄が悪いやからが多いようで、罵詈雑言ばりぞうごんが飛んでロッドの耳にも入る。

ロッドはそれならと〔念動力の翼〕で高速で飛翔し、傭兵部隊のど真ん中に舞い降りた。

「チャンスだ! 直接攻撃部隊で殺れっ!」
傭兵部隊長が千載一遇せんさいいちぐうの機会を得たとばかりに叫ぶ。


突撃チャージ
連撃ダブル・アタック
三連撃トリプル・アタック
剛撃ハードアタック
剛衝撃ハードインパクト
剛刺突ハードスタビング
精密射撃プレシジョン・ショット
三連射トリプル・ショット
速射スピード・ショット
渾身の一撃オールアウト・ブロウ
全身全霊の一撃ホール・ボディ・ブロウ
……


様々な武器から、様々な戦技バトルアーツでの物理攻撃が、赤い悪魔=ロッドを襲う。

背後攻撃バックアタックであったり、一旦距離を取っての一斉射撃であったり、中には王国にいたゴードンのように身体強化フィジカルブーストを使う高ランク冒険者の様な者もいた。

その全ての攻撃を受けても傷ひとつなく、一歩も動かないロッド。

〔サイコバリア〕も無敵ではないが、傭兵部隊の者達の中級までの攻撃魔法や単発攻撃では、守りに徹した時に常時サイコエネルギーで補強される〔サイコバリア〕の強度を突破出来ないのだ。

無傷の赤い悪魔=ロッドにひるむ傭兵達。

「もう終わりなのか?」

さきほどから指揮をしてる傭兵部隊長に、ロッドは尋ねた。
傭兵部隊長は頬をピクピクさせ、答えられず固まっている。

「なら今度はこちらのターンだな」
ロッドは片手を空に向けると、魔法を発動した。

炸裂する火球ファイヤーボール〛出力最大同時発動!

ロッドは自分が出せる最大威力で、同時発動も最大限を試みる事にしてみた。

以前、オーク亜種あしゅほふった時には1mを少し超えるぐらいであった火球が、数々の経験を経たからなのか毎日の精神統一のおかげなのか、今は大人の背丈ほどの巨大なサイズになっていた。

そのサイズの火球が、同時発動により数百の数で所狭ところせましとひしめいている。

少しヤバいかな?と思うロッドであったが、発動を止める方法など知らないため、発射するしかなかった。

大空に超特大の炸裂する火球ファイヤーボールが多数打ち上がる。

ドッガガガがガガガがガガガガガガガガガガガガガオオオオォォッ……

少し拡散して撃った火球が、大爆発を起こして大空全体を炎で埋め尽くし、大音響を響かせた。

ーー

帝国兵達は諦めた表情で、次々と武器を地面に置いていく。
全員が理解していたのだ。

先程の魔法は、山へ撃てば山が消失し、街へ撃てば街ごと全てが灰になるほどの威力だ。

あんな威力の魔法を見た後では、もう誰も赤い悪魔に逆らう気にはなれなかったのである。

仮にこの戦場に撃てば、自分達帝国軍の全滅は必至ひっしだろう。

散々さんざん赤い悪魔に攻撃していた傭兵部隊も、魔法攻撃でも物理攻撃でも全く傷つく様子がないのと、先程見た強大な威力の魔法で心を折られていた。

ーー

ロッドは、空から見渡した時に見つけた帝国軍の本陣まで悠々ゆうゆうと歩く。
青白い光に包まれたロッドが歩くと、進行方向の人波が割れてゆく。

いつの間にかハム美とピーちゃん、狼獣人のドルフが付いてきていた。
ハム美はユニークモンスター化しており、背中にミーアを乗せている。

本陣の天幕に入ると、奥に帝国軍の幹部と思われる二人の男がいた。

「お前達が帝国軍の責任者だな?」
赤い悪魔=ロッドが尋ねる。

「私は帝国軍の参謀です。そしてこの方は帝国軍の将軍閣下です」
参謀役の男は観念し、自分達の立場を名乗った。

「お、お前は何者だ? その力、ほ、本当に悪魔なのか?」
将軍の男が後ずさりながら言う。

「俺は悪魔ではなく、守護者という者だ。俺がここに来たのは、お前達に王国の砦への進行を取り止め、撤退を命じるためだ」

ロッドは帝国将軍に返答し、続けて自身の考えを話す。

「お前達帝国は少しやり過ぎだ。獣人の里を征服せいふく弾圧だんあつし、征服した者を捨て石にしてまた圧政あっせいの及ぶ版図はんとを広げ続ける。これは獣人にだけという訳でも無いだろう? このままのやり方で帝国が侵略しんりゃくを繰り返し、暴虐ぼうぎゃく覇道はどうを突き進むようであれば、平和をおびやかす魔物と何ら変わらない。今後、世界にとって害悪がいあくだと判断すれば、俺が直接的に帝国を滅ぼすとしよう」

参謀役の男は、ロッドの的確な指摘に言葉を返す事が出来なかった。
帝国のやり方は他国にしてみれば、指摘の通りただの横暴おうぼうな侵略であるからだ。

だが、将軍の男は敵意をき出しにして叫ぶ。
「そ、そんな事が出来る訳が無い!」

「出来ないと思うか? 俺は先程撃った魔法程度なら何千発でも撃てるぞ。数は撃ったが、あれはただの炸裂する火球ファイヤーボールなのだからな」

「「 !!! 」」

参謀役の男と将軍の男はこれまで以上に驚愕する。

軍事に関わる者として、中級魔法程度であればその威力や効果、範囲などは当然のように頭に入っている。

しかも〔炸裂する火球ファイヤーボール〕は代表的な中級魔法であり、使える者も多くその威力も熟知されている。

通常であれば家一軒を爆発させる程度である。
それも全て吹き飛ばす訳ではなく、燃やすのが精一杯なのだ。

さきほど赤い悪魔が放った魔法が、仮に帝都に放たれた場合、おそらくみやこの半分から3分の1程度は、文字通り吹き飛んでしまうだろう。

それをまだ何千発も撃てるという事であれば……
また、もっと威力の高い上級魔法などであれば……

帝国軍の二人は、冷や汗が止まらなくなるのであった。

「よし! この者達や帝国に少し分からせてこよう。ついでに色々と根回しも含んでな! ドルフ、お前は一旦獣人達の元に戻ってピーちゃんと一緒に獣人達を護れ。もし俺が帰るまでに帝国軍が獣人達を攻撃してきた場合、帝国軍は皆殺しにしても構わない」
ロッドがドルフとピーちゃんに獣人を護るよう指示を出す。

(『はいデス! ご主人様!』)
「はっ! 承知しました。守護者様!」


「ミーアは獣人代表として一緒に来てくれ! ハム美はミーアの肩で護衛だ」
そしてミーアとハム美にはついて来るように指示を出した。

「はい! 一緒に参ります!」
(『はいデチュ! ご主人様!』)


皆の答えを聞くと、ロッドは帝国軍の二人を連れて〔瞬間移動テレポート〕するのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろうでも公開しています。 2025年1月18日、内容を一部修正しました。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

借金背負ったので死ぬ気でダンジョン行ったら人生変わった件 やけくそで潜った最凶の迷宮で瀕死の国民的美少女を救ってみた

羽黒 楓
ファンタジー
旧題:借金背負ったので兄妹で死のうと生還不可能の最難関ダンジョンに二人で潜ったら瀕死の人気美少女配信者を助けちゃったので連れて帰るしかない件 借金一億二千万円! もう駄目だ! 二人で心中しようと配信しながらSSS級ダンジョンに潜った俺たち兄妹。そしたらその下層階で国民的人気配信者の女の子が遭難していた! 助けてあげたらどんどんとスパチャが入ってくるじゃん! ってかもはや社会現象じゃん! 俺のスキルは【マネーインジェクション】! 預金残高を消費してパワーにし、それを自分や他人に注射してパワーアップさせる能力。ほらお前ら、この子を助けたければどんどんスパチャしまくれ! その金でパワーを女の子たちに注入注入! これだけ金あれば借金返せそう、もうこうなりゃ絶対に生還するぞ! 最難関ダンジョンだけど、絶対に生きて脱出するぞ! どんな手を使ってでも!

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

処理中です...