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第49話 舞踊と奇跡
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「何っ! 帝都から獣人共がいなくなっているだと!」
早朝に、参謀役の男から報告を受けた帝国軍の将軍が怒鳴る!
「はい。私が砦攻略のために秘密裏に要請した飛龍部隊からの報告です。昨夜一斉にとの事なので、恐らく前々から周到に準備していたのでしょう。帝国で押さえている獣人の里も移住を始めている可能性があります」
参謀役の男が説明した。
「くそっ! 王国へ進行するこのタイミングで獣人共の謀反か!」
帝国将軍が腕を振り下ろして怒りを表した。
「密かに獣人を見張らせている者によりますと、複数の獣人が昨夜から怪しい動きをしているとの報告もあります。恐らくですが、今日の戦場で一斉に離反した行動を取る可能性があります」
参謀役の男が淡々と話した。
「今、ここにいる獣人共はどのくらいの数だ?」
「はい。獣人は当初約3千でしたが、現在100名ほどが死傷して約2千9百名となります」
参謀役の男が何かの目録を出し、確認しながら説明した。
・帝国第6軍団 12,000(帝国騎士、兵士、魔法兵)
・帝国民兵 2,500(物資の搬送など後方支援)
・傭兵部隊 500(傭兵ギルド、志願した帝国領の冒険者)
・従属国から強制徴兵した民兵 9,000(死傷者およそ1,150)
・奴隷兵 3,000(死傷者およそ720)
・獣人兵 3,000(死傷者およそ110)
「10分の1か。ならば獣人共は先手を打って、ここで殲滅してしまおう! お前が勝手に要請した飛龍部隊にも協力させろ!」
帝国将軍がもう決めたとばかりに命令した。
参謀役の男は考える。
この状況であれば一旦帝国領に引き上げるのが良策だろう。
少なくとも早急にもっと多くの情報を収集するべきだ。
帝国領の獣人全体での謀反ともなれば、帝国自体の失策なので我軍だけがリスクを負う必要は全く無い。
砦側が獣人に呼応して、野戦を仕掛けてくる可能性もある。
例の赤い悪魔と言われた、大魔法使いの存在も気になる。
殲滅しようとすれば、こちら側の被害もある程度覚悟しなければならない。
獣人達の戦闘能力は人間と比較すると総じて高く、平均換算すれば2倍近くにもなるのだ。
飛龍部隊もそう数は多くないし、砦の攻略ならともかく地上戦では切り札にはなり得ない。
後は傭兵部隊、帝国に本拠地を置く傭兵ギルドから雇った一流の傭兵達と、志願してきた冒険者達だが、これも多数の獣人を相手にするには向かないだろう。
色々考えた参謀役の男が、恐らく無駄だろうと思いつつも具申する。
「恐れながら閣下に申し上げます。ここは一旦、獣人を警戒しつつ情報収集に注力すべきであると具申いたします。謀反が本当だとすれば、早急に本国に引き返すべきかと」
帝国将軍が顔真っ赤にして怒鳴り散らす。
「今更何の戦果も上げずにのこのこ帰れるか! お前はただ実行すればいいんだ! 余計な口を叩くな!」
参謀役の男は、仕方なく頭を下げて了承するのであった。
ーーーーー
「円陣だ! 円陣になって、負傷者や戦闘力が低い者を中央で守れ! 耐久度が高いタイプの獣人が盾になって踏ん張るんだ!」
ドルフは、朝食中の獣人達の陣にいきなり攻め込んで来た帝国兵に対抗していた。
いつの間にか周囲の全てを帝国兵で包囲されており、逃げ道が無い状態であった。
昨日まで隣で戦っていた仲間が、必死の形相で襲い掛かって来る。
(くそっ! 何処から情報が漏れたのか?)
「あ、あれは! 飛龍部隊!」
思わず口に出すドルフ。
(帝国領から飛んで来たのか? だとすると計画が露見したか。でもこの騒ぎは砦からも見えるはず!)
「皆、敵を無理に倒さなくて良い! その分、防御に徹して生き残るんだ! 必ず! 必ずや救いの手が、半神の守護者様が来て下さるぞ!」
ドルフはロッドが救いに来てくれると信じ、皆を鼓舞する。
「「「「「おおおーっ」」」」」
周りの獣人達もドルフの激に呼応する。
前後左右の全ての方向からの直接攻撃を、熊や虎などの耐久属性値が高い獣人が外側で盾になって防ぎ、後方からの遠距離攻撃は猫や兎などの敏捷属性値が高い獣人が払い落とす。
だが全ての攻撃を躱せるはずも無く、負傷者はどんどん増えてゆく。
魔法はそもそも躱せないし、飛龍部隊の高所からの投擲攻撃もかなり有効であったからである。
深く負傷したものは死なないように、なるべく早め円陣の中央に送るが、魔法などの回復手段がある訳でもなく、負傷者は増える一方であった。
戦闘開始から30分ほどで負傷者がかなり増えてしまったが、当初から防御に徹していたため、奇跡的にまだ死者は出していなかった。
だが、前方の民兵が左右にスッと別れると、遠くに騎槍を構えた騎馬隊の大部隊が垣間見えた。
(やばいっ! 今、騎馬隊の突撃を食らったら、円陣が崩壊する!)
「皆! 前方の騎馬隊がっ……」
肩に流れ矢を喰らい、膝をつくドルフ。
痛みで声も出せず、どうしようも無い状態で放心する事しか出来なかった。
騎槍を構えて砂煙を上げ、突進して近付いてくる騎馬隊。
それを見つめるドルフの頭に、死の文字がよぎった。
だがそこに、一羽の巨大な鳥が低空飛行かつ、超スピードで通り過ぎる。
(ドンッ!)
その途端、途轍もない空気の圧力で、騎馬隊と周囲の帝国兵全てが吹き飛ばされた。
超音速からのピーちゃんの羽での風圧による吹き飛ばし攻撃であった。
ドゴオオオオオオン!
遅れて発生した超音速が生み出すソニックブームの物凄い爆音が、その後の戦場に沈黙をもたらす。
ドルフが痛む肩を押さえて上空を見上げると、ミーアを抱えた半神の守護者=ロッド、待ち望んでいた救世主がいたのであった。
ーー
「ドルフ、大丈夫か? 遅くなって済まなかった」
ロッドはドルフのところまでミーアを横抱きにして地上に降りると、片膝を付いて肩に手を当てているドルフを〔治癒〕で治療した。
「守護者様! ミーア姫様! 必ず救いに来て下さると皆、信じて耐えておりました」
ドルフが目に涙を溜めて言った。
「守護者様!」
「あれは! ミーア姫様!」
「あれが守護者様か!」
「助かったのか?」
「ミーア様!」
「姫様~」
「守護者様~」
獣人達も守護者を待ち望んでいたため、口々に叫んだ。
また、この戦場に猫族のミーア姫がいる事にも驚いていた。
「私は猫族のミーア! 私は窮地にいる皆を鼓舞する為に来たのです! 立ち上がりなさい誇り高き獣人達よ!」
ミーアはそう言と、里を出る時に持たされた獣人の里に代々伝わる宝剣を取り出し、同じく里に古くから伝わる舞を披露した。
〚治癒精強の舞〛
ミーアの身体が仄かに白く光り輝く。
獣人達はその舞を間近に見て、自身の中から力が無限に湧き上がって来る感覚と同時に、怪我が徐々に治りあまり痛まなくなっているのを感じた。
「おおお!」
「これが我らがミーア姫の力か!」
「力が漲ってくる!」
「奇跡だ!」
「傷が徐々に治ってゆくぞ!」
「これでまだまだ戦える!」
「凄いぞ! ミーア姫様!」
獣人達がミーアの舞の効果について驚く。
ロッドも舞で獣人全体に効果がある事に驚く。
(これは何らかの魔法なのか? 全体バフと同時に回復もしているようだ。いや、再生に近いか。後でアイリスに聞いてみよう……)
だが、実はミーア自身が一番驚いていた。
(えっ! 何なのこれ! 帝国での修練ではこんな事出来なかったのに……)
皆に伝統的な舞を見てもらい、精神的に鼓舞するだけのつもりだったのだ。
密かに首を傾げるミーアであった。
早朝に、参謀役の男から報告を受けた帝国軍の将軍が怒鳴る!
「はい。私が砦攻略のために秘密裏に要請した飛龍部隊からの報告です。昨夜一斉にとの事なので、恐らく前々から周到に準備していたのでしょう。帝国で押さえている獣人の里も移住を始めている可能性があります」
参謀役の男が説明した。
「くそっ! 王国へ進行するこのタイミングで獣人共の謀反か!」
帝国将軍が腕を振り下ろして怒りを表した。
「密かに獣人を見張らせている者によりますと、複数の獣人が昨夜から怪しい動きをしているとの報告もあります。恐らくですが、今日の戦場で一斉に離反した行動を取る可能性があります」
参謀役の男が淡々と話した。
「今、ここにいる獣人共はどのくらいの数だ?」
「はい。獣人は当初約3千でしたが、現在100名ほどが死傷して約2千9百名となります」
参謀役の男が何かの目録を出し、確認しながら説明した。
・帝国第6軍団 12,000(帝国騎士、兵士、魔法兵)
・帝国民兵 2,500(物資の搬送など後方支援)
・傭兵部隊 500(傭兵ギルド、志願した帝国領の冒険者)
・従属国から強制徴兵した民兵 9,000(死傷者およそ1,150)
・奴隷兵 3,000(死傷者およそ720)
・獣人兵 3,000(死傷者およそ110)
「10分の1か。ならば獣人共は先手を打って、ここで殲滅してしまおう! お前が勝手に要請した飛龍部隊にも協力させろ!」
帝国将軍がもう決めたとばかりに命令した。
参謀役の男は考える。
この状況であれば一旦帝国領に引き上げるのが良策だろう。
少なくとも早急にもっと多くの情報を収集するべきだ。
帝国領の獣人全体での謀反ともなれば、帝国自体の失策なので我軍だけがリスクを負う必要は全く無い。
砦側が獣人に呼応して、野戦を仕掛けてくる可能性もある。
例の赤い悪魔と言われた、大魔法使いの存在も気になる。
殲滅しようとすれば、こちら側の被害もある程度覚悟しなければならない。
獣人達の戦闘能力は人間と比較すると総じて高く、平均換算すれば2倍近くにもなるのだ。
飛龍部隊もそう数は多くないし、砦の攻略ならともかく地上戦では切り札にはなり得ない。
後は傭兵部隊、帝国に本拠地を置く傭兵ギルドから雇った一流の傭兵達と、志願してきた冒険者達だが、これも多数の獣人を相手にするには向かないだろう。
色々考えた参謀役の男が、恐らく無駄だろうと思いつつも具申する。
「恐れながら閣下に申し上げます。ここは一旦、獣人を警戒しつつ情報収集に注力すべきであると具申いたします。謀反が本当だとすれば、早急に本国に引き返すべきかと」
帝国将軍が顔真っ赤にして怒鳴り散らす。
「今更何の戦果も上げずにのこのこ帰れるか! お前はただ実行すればいいんだ! 余計な口を叩くな!」
参謀役の男は、仕方なく頭を下げて了承するのであった。
ーーーーー
「円陣だ! 円陣になって、負傷者や戦闘力が低い者を中央で守れ! 耐久度が高いタイプの獣人が盾になって踏ん張るんだ!」
ドルフは、朝食中の獣人達の陣にいきなり攻め込んで来た帝国兵に対抗していた。
いつの間にか周囲の全てを帝国兵で包囲されており、逃げ道が無い状態であった。
昨日まで隣で戦っていた仲間が、必死の形相で襲い掛かって来る。
(くそっ! 何処から情報が漏れたのか?)
「あ、あれは! 飛龍部隊!」
思わず口に出すドルフ。
(帝国領から飛んで来たのか? だとすると計画が露見したか。でもこの騒ぎは砦からも見えるはず!)
「皆、敵を無理に倒さなくて良い! その分、防御に徹して生き残るんだ! 必ず! 必ずや救いの手が、半神の守護者様が来て下さるぞ!」
ドルフはロッドが救いに来てくれると信じ、皆を鼓舞する。
「「「「「おおおーっ」」」」」
周りの獣人達もドルフの激に呼応する。
前後左右の全ての方向からの直接攻撃を、熊や虎などの耐久属性値が高い獣人が外側で盾になって防ぎ、後方からの遠距離攻撃は猫や兎などの敏捷属性値が高い獣人が払い落とす。
だが全ての攻撃を躱せるはずも無く、負傷者はどんどん増えてゆく。
魔法はそもそも躱せないし、飛龍部隊の高所からの投擲攻撃もかなり有効であったからである。
深く負傷したものは死なないように、なるべく早め円陣の中央に送るが、魔法などの回復手段がある訳でもなく、負傷者は増える一方であった。
戦闘開始から30分ほどで負傷者がかなり増えてしまったが、当初から防御に徹していたため、奇跡的にまだ死者は出していなかった。
だが、前方の民兵が左右にスッと別れると、遠くに騎槍を構えた騎馬隊の大部隊が垣間見えた。
(やばいっ! 今、騎馬隊の突撃を食らったら、円陣が崩壊する!)
「皆! 前方の騎馬隊がっ……」
肩に流れ矢を喰らい、膝をつくドルフ。
痛みで声も出せず、どうしようも無い状態で放心する事しか出来なかった。
騎槍を構えて砂煙を上げ、突進して近付いてくる騎馬隊。
それを見つめるドルフの頭に、死の文字がよぎった。
だがそこに、一羽の巨大な鳥が低空飛行かつ、超スピードで通り過ぎる。
(ドンッ!)
その途端、途轍もない空気の圧力で、騎馬隊と周囲の帝国兵全てが吹き飛ばされた。
超音速からのピーちゃんの羽での風圧による吹き飛ばし攻撃であった。
ドゴオオオオオオン!
遅れて発生した超音速が生み出すソニックブームの物凄い爆音が、その後の戦場に沈黙をもたらす。
ドルフが痛む肩を押さえて上空を見上げると、ミーアを抱えた半神の守護者=ロッド、待ち望んでいた救世主がいたのであった。
ーー
「ドルフ、大丈夫か? 遅くなって済まなかった」
ロッドはドルフのところまでミーアを横抱きにして地上に降りると、片膝を付いて肩に手を当てているドルフを〔治癒〕で治療した。
「守護者様! ミーア姫様! 必ず救いに来て下さると皆、信じて耐えておりました」
ドルフが目に涙を溜めて言った。
「守護者様!」
「あれは! ミーア姫様!」
「あれが守護者様か!」
「助かったのか?」
「ミーア様!」
「姫様~」
「守護者様~」
獣人達も守護者を待ち望んでいたため、口々に叫んだ。
また、この戦場に猫族のミーア姫がいる事にも驚いていた。
「私は猫族のミーア! 私は窮地にいる皆を鼓舞する為に来たのです! 立ち上がりなさい誇り高き獣人達よ!」
ミーアはそう言と、里を出る時に持たされた獣人の里に代々伝わる宝剣を取り出し、同じく里に古くから伝わる舞を披露した。
〚治癒精強の舞〛
ミーアの身体が仄かに白く光り輝く。
獣人達はその舞を間近に見て、自身の中から力が無限に湧き上がって来る感覚と同時に、怪我が徐々に治りあまり痛まなくなっているのを感じた。
「おおお!」
「これが我らがミーア姫の力か!」
「力が漲ってくる!」
「奇跡だ!」
「傷が徐々に治ってゆくぞ!」
「これでまだまだ戦える!」
「凄いぞ! ミーア姫様!」
獣人達がミーアの舞の効果について驚く。
ロッドも舞で獣人全体に効果がある事に驚く。
(これは何らかの魔法なのか? 全体バフと同時に回復もしているようだ。いや、再生に近いか。後でアイリスに聞いてみよう……)
だが、実はミーア自身が一番驚いていた。
(えっ! 何なのこれ! 帝国での修練ではこんな事出来なかったのに……)
皆に伝統的な舞を見てもらい、精神的に鼓舞するだけのつもりだったのだ。
密かに首を傾げるミーアであった。
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