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第42話 掌握と防戦
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ロッドは砦の司令官であった副団長ゲイルを、魔法の練習をしていた誰もいない岩場に〔物質転送〕で移動させた。
武士の情けで革袋に入った水とパンを一つだけ送ってやるロッド。
一応武装していたし、まあ運が良ければ生きながらえるだろう。
存在その物を消してしまっても良かったが、そこ迄の悪者ではないので、今ここから消えるのであればどうでも良かったのである。
「ああ、奴は邪魔だったから俺がある場所に送った。特に気にしなくても良い」
いきなり消えた副団長ゲイルに、ジュリアンやリーンステアがびっくりしていると、ロッドが説明した。
「それより、俺は相手が魔物でも出して来ない限り戦争に加担して、一方的に帝国軍を虐殺したりする事は出来ない。お前がこの砦を掌握して帝国軍を撃退するんだ。この砦の大多数の者の支持を得る事が出来れば、俺も少し手を貸そう。出来るかジュリアン? お前を疑っている者も大勢いると思うぞ」
ロッドはジュリアンに砦を掌握してみろと、手を貸す条件を提示した。
ジョアンナに約束した事もあり、ジュリアンやリーンステアを死なせるつもりは毛頭なかったが、無条件で王国側について帝国を一人で撃退してしまっては、ロッドへの依存があまりにも大きくなってしまうし、今後良い結果を生まないと思ったのである。
「分かりました。皆に呼び掛けてみます!」
ジュリアンは勢い良く答えた。
ロッドは超能力である〔精神感応〕を使い、この砦にいる全員に向けて3度繰り返し命令した。
「この砦にいる者全員に告げる! 今すぐ砦の中央広場に集合せよ!」
頭の中だけで聞こえた命令に、砦の守備隊は一時的にパニックに陥るが、3度も聞こえるとなると幻聴では無い事が分かり、程なく砦のほぼ全員が中央広場へと集合する事となった。
ーー
ロッドがジュリアンに告げる。
「ジュリアン。集まった皆に、お前の正直な想いをぶつけてみろ! 指揮権どうこうじゃなく皆の心を掴むんだ。お前ならきっと出来る!」
ジュリアンは意を決してロッドに頷き、厳しく表情を変え口を開く。
ロッドはジュリアンの皆への呼び掛けが遠くまで聞こえるように、超能力である〔風操能力〕で風を操作した。
「皆! 聞いて欲しい!
僕の名はジュリアン・ロードスター。
この辺境伯家の嫡男であり、後継者でもある。
僕の事を知っている者もいるだろう。
戦う事も出来ない、名ばかりの後継者と言われている事も知っている。
そう言われても仕方が無いぐらい、後継者らしい事は何もしてこなかった!
これなかった!
僕は幼少の頃、病気で目の光を失ってしまった。
そして自分一人では何も出来なくなってしまったんだ。
こんな僕なんか、辺境伯家の跡継ぎに相応しくないと思った。
程なく母も亡くなり、僕は生きる気力や意味を失っていた。
辺境伯家の嫡男であるにも関わらず、ただ流されて生きてきたんだ。
最近、他家の陰謀で殺されそうになったが運よく助かった。
そして目の治療も受けて、やっと光を取り戻したんだ。
だけど治療で取り戻した光で見たものは、街を襲う大量の魔物の群れだった!
荒れ狂う多数の魔物。逃げ惑う民。焼け落ちる家屋。
強大な悪魔が使う古の魔法により星まで落ちてきた。
僕は自分の無力さを痛感した。
だが同時に領民を! 街を! そしてこの辺境伯領を!
心の底から守りたいという想いも、湧き上がってきたんだ!
今、辺境伯家に謀反の疑いが掛けられている事を知る者も多いだろう。
恐らく父は今、謀反の嫌疑により王都で監禁されている。
僕にも共謀の嫌疑が掛けられているはずだ。
だが僕は断言する、事実無根であると!
父と僕は、絶対に王国を裏切るような事はしない!
ここにいる皆と、先祖の魂と、神に誓おう!
この命を、辺境伯領の民の安寧の為に捧げると!
進行してきた帝国軍などに、この砦は渡さない!
だから皆の力を貸して欲しい!!
力を合わせて帝国軍を追い返そう!
そして後にいる人々を、家族を一緒に守んだ!」
ジュリアンは今、自分の心の内にある全てを正直に話した。
守備隊や増援隊の者達も、この裏表の無い純粋なジュリアンの心の叫びに呼応する。
「「「「「「「おおおおーーっ!」」」」」」」
「「ジュリアン様万歳~!」」
「「帝国軍を倒そう!」」
「「そうだ。故郷を守れ!」」
「「ロードスター辺境伯家万歳~!」」
「「やってやるぞ!」」
「「家族を守るんだ!」」
2千もの人々がジュリアンの想いに賛同したのだ。
リーンステアは間近に見たジュリアンの成長に涙した。
こうしてジュリアンはこの砦を掌握したのであった。
ーーーーー
「撃てーっ!」
リーンステアの掛け声と手を振り下ろすアクションで、砦の壁上に並んだ者が長弓から一斉に矢を放つ。
ジュリアンが砦を掌握した後、リーンステアは指揮権を得て、大まかにではあるが守備隊の再配置を行った。
それが丁度終わると同時に、帝国軍の先鋒隊が砦に突撃を掛けてきたのである。
一射だけでなく前後何人かが交代で入れ代わり、遠距離からの矢を射続けた。
そうして砦から放物線を描いた矢が、突出してきた帝国軍の先鋒に降り注ぐ。
外れる矢、盾に防がれる矢もあるが、ヒットした矢が先鋒の帝国兵を減らしてゆく。
中距離になると数は少ないが、砦の魔法部隊が魔法を放つ。
炎の矢や炸裂する火球などの比較的射程が長い魔法が使用されている。
矢や魔法で徐々に兵を減らしつつであるが、数に任せて砦の壁面近くまでたどり着いた帝国兵達は今度は梯子や、縄などで壁面を登って砦を越えようと試みる。
また、同時に砦の門を壊す大鎚部隊がおり、何十人もの屈強な獣人達が力任せに扉を叩いた。
単弓を装備した帝国兵も、砦の壁上や内部ヘ射撃攻撃を加える。
「打ち方やめ! 続いて防壁部隊前に! 弓は近距離用に交換! 近接迎撃部隊も準備せよ!」
リーンステアが戦局に応じて、各所をまわって次々と指示を出してゆく。
防壁部隊は壁を登ろうとする者達へ、投石や投油、短弓での射撃などで対応する。
油まみれになった帝国兵へは、各隊に少人数だけ割り当てられている魔法使いによって炎の矢などで着火され、火だるまになった。
ロッドは事前にジュリアンとリーンステアに2つの事を約束していた。
一つ目は砦の門はロッドの力で破らせない事、2つ目はロッドに怪我の治療を無制限にしてもらえる事だった。
上記の約束があるため、リーンステアは門が壊される心配をする必要がなくなり、本来は門の防御に必要な人員を、全て防壁に割り当てる事が出来た。
また、怪我人は直ぐにロッドのところに行くか運ぶかで、治療できるルーチンが出来上がっていたため兵の損耗率がほぼ0になり、砦側は身体が動く限り戦える体制となっていたのである。
ーーーーー
帝国軍の獣人部隊の男はおかしいと思った。
砦の門がなぜか青白く発光しており、いくら攻撃を加えてもびくともしないからである。
通常の門であれば大鎚で叩けば、門自体はすぐに壊れないにしても、振動などの手応えがあるはずだった。
しかしこの門は、皆でいくら叩こうともピクリとも動かない。
自分達の攻撃では絶対に壊れない、別の何かに包まれているように思えた。
そうして考えている間にも、壁上から矢や魔法が飛んで来て、仲間の獣人が倒れてゆく。
味方は数に任せて壁上にも何箇所か侵入できたようだったが、よく見るとすぐに近接攻撃部隊に撃退され、壁上から落とされていっているのが見える。
帝国軍側からの弓兵の攻撃で、砦側も人員が少しは減っているはずであるが、見たところでは戦闘開始当初から大幅に減っているようには見えなかった。
むしろ、近接攻撃部隊が壁上にいるため、密集度が上がっているくらいだった。
男は考える。
俺達は多分捨て石だ。
本当はこんな戦争になど参加したくは無かった。
だが帝国に協力しないと、里が攻め滅ぼされてしまうのだ。
帝国に侵略された里では、まだ圧政に苦しむ仲間が沢山いる。
大勢の者が奴隷にされたり、戦争に駆り出されている。
この現状を変えないと俺達の里にもう未来は無い。
男は悔しそうに歯を食いしばる。
こんなところで倒れる訳にはいかないのだ。
だがこうして考えている間にも、仲間達はどんどん倒されてゆく。
男はとうとう諦めて、戦場であるにも関わらず片膝をついて手を組み、神に祈った。
どうか自分がここで倒れ伏したとしても、いつの日か里の皆が救われますように……
その瞬間、男の姿が砦の門の前から煙のように消えてしまうのであった。
武士の情けで革袋に入った水とパンを一つだけ送ってやるロッド。
一応武装していたし、まあ運が良ければ生きながらえるだろう。
存在その物を消してしまっても良かったが、そこ迄の悪者ではないので、今ここから消えるのであればどうでも良かったのである。
「ああ、奴は邪魔だったから俺がある場所に送った。特に気にしなくても良い」
いきなり消えた副団長ゲイルに、ジュリアンやリーンステアがびっくりしていると、ロッドが説明した。
「それより、俺は相手が魔物でも出して来ない限り戦争に加担して、一方的に帝国軍を虐殺したりする事は出来ない。お前がこの砦を掌握して帝国軍を撃退するんだ。この砦の大多数の者の支持を得る事が出来れば、俺も少し手を貸そう。出来るかジュリアン? お前を疑っている者も大勢いると思うぞ」
ロッドはジュリアンに砦を掌握してみろと、手を貸す条件を提示した。
ジョアンナに約束した事もあり、ジュリアンやリーンステアを死なせるつもりは毛頭なかったが、無条件で王国側について帝国を一人で撃退してしまっては、ロッドへの依存があまりにも大きくなってしまうし、今後良い結果を生まないと思ったのである。
「分かりました。皆に呼び掛けてみます!」
ジュリアンは勢い良く答えた。
ロッドは超能力である〔精神感応〕を使い、この砦にいる全員に向けて3度繰り返し命令した。
「この砦にいる者全員に告げる! 今すぐ砦の中央広場に集合せよ!」
頭の中だけで聞こえた命令に、砦の守備隊は一時的にパニックに陥るが、3度も聞こえるとなると幻聴では無い事が分かり、程なく砦のほぼ全員が中央広場へと集合する事となった。
ーー
ロッドがジュリアンに告げる。
「ジュリアン。集まった皆に、お前の正直な想いをぶつけてみろ! 指揮権どうこうじゃなく皆の心を掴むんだ。お前ならきっと出来る!」
ジュリアンは意を決してロッドに頷き、厳しく表情を変え口を開く。
ロッドはジュリアンの皆への呼び掛けが遠くまで聞こえるように、超能力である〔風操能力〕で風を操作した。
「皆! 聞いて欲しい!
僕の名はジュリアン・ロードスター。
この辺境伯家の嫡男であり、後継者でもある。
僕の事を知っている者もいるだろう。
戦う事も出来ない、名ばかりの後継者と言われている事も知っている。
そう言われても仕方が無いぐらい、後継者らしい事は何もしてこなかった!
これなかった!
僕は幼少の頃、病気で目の光を失ってしまった。
そして自分一人では何も出来なくなってしまったんだ。
こんな僕なんか、辺境伯家の跡継ぎに相応しくないと思った。
程なく母も亡くなり、僕は生きる気力や意味を失っていた。
辺境伯家の嫡男であるにも関わらず、ただ流されて生きてきたんだ。
最近、他家の陰謀で殺されそうになったが運よく助かった。
そして目の治療も受けて、やっと光を取り戻したんだ。
だけど治療で取り戻した光で見たものは、街を襲う大量の魔物の群れだった!
荒れ狂う多数の魔物。逃げ惑う民。焼け落ちる家屋。
強大な悪魔が使う古の魔法により星まで落ちてきた。
僕は自分の無力さを痛感した。
だが同時に領民を! 街を! そしてこの辺境伯領を!
心の底から守りたいという想いも、湧き上がってきたんだ!
今、辺境伯家に謀反の疑いが掛けられている事を知る者も多いだろう。
恐らく父は今、謀反の嫌疑により王都で監禁されている。
僕にも共謀の嫌疑が掛けられているはずだ。
だが僕は断言する、事実無根であると!
父と僕は、絶対に王国を裏切るような事はしない!
ここにいる皆と、先祖の魂と、神に誓おう!
この命を、辺境伯領の民の安寧の為に捧げると!
進行してきた帝国軍などに、この砦は渡さない!
だから皆の力を貸して欲しい!!
力を合わせて帝国軍を追い返そう!
そして後にいる人々を、家族を一緒に守んだ!」
ジュリアンは今、自分の心の内にある全てを正直に話した。
守備隊や増援隊の者達も、この裏表の無い純粋なジュリアンの心の叫びに呼応する。
「「「「「「「おおおおーーっ!」」」」」」」
「「ジュリアン様万歳~!」」
「「帝国軍を倒そう!」」
「「そうだ。故郷を守れ!」」
「「ロードスター辺境伯家万歳~!」」
「「やってやるぞ!」」
「「家族を守るんだ!」」
2千もの人々がジュリアンの想いに賛同したのだ。
リーンステアは間近に見たジュリアンの成長に涙した。
こうしてジュリアンはこの砦を掌握したのであった。
ーーーーー
「撃てーっ!」
リーンステアの掛け声と手を振り下ろすアクションで、砦の壁上に並んだ者が長弓から一斉に矢を放つ。
ジュリアンが砦を掌握した後、リーンステアは指揮権を得て、大まかにではあるが守備隊の再配置を行った。
それが丁度終わると同時に、帝国軍の先鋒隊が砦に突撃を掛けてきたのである。
一射だけでなく前後何人かが交代で入れ代わり、遠距離からの矢を射続けた。
そうして砦から放物線を描いた矢が、突出してきた帝国軍の先鋒に降り注ぐ。
外れる矢、盾に防がれる矢もあるが、ヒットした矢が先鋒の帝国兵を減らしてゆく。
中距離になると数は少ないが、砦の魔法部隊が魔法を放つ。
炎の矢や炸裂する火球などの比較的射程が長い魔法が使用されている。
矢や魔法で徐々に兵を減らしつつであるが、数に任せて砦の壁面近くまでたどり着いた帝国兵達は今度は梯子や、縄などで壁面を登って砦を越えようと試みる。
また、同時に砦の門を壊す大鎚部隊がおり、何十人もの屈強な獣人達が力任せに扉を叩いた。
単弓を装備した帝国兵も、砦の壁上や内部ヘ射撃攻撃を加える。
「打ち方やめ! 続いて防壁部隊前に! 弓は近距離用に交換! 近接迎撃部隊も準備せよ!」
リーンステアが戦局に応じて、各所をまわって次々と指示を出してゆく。
防壁部隊は壁を登ろうとする者達へ、投石や投油、短弓での射撃などで対応する。
油まみれになった帝国兵へは、各隊に少人数だけ割り当てられている魔法使いによって炎の矢などで着火され、火だるまになった。
ロッドは事前にジュリアンとリーンステアに2つの事を約束していた。
一つ目は砦の門はロッドの力で破らせない事、2つ目はロッドに怪我の治療を無制限にしてもらえる事だった。
上記の約束があるため、リーンステアは門が壊される心配をする必要がなくなり、本来は門の防御に必要な人員を、全て防壁に割り当てる事が出来た。
また、怪我人は直ぐにロッドのところに行くか運ぶかで、治療できるルーチンが出来上がっていたため兵の損耗率がほぼ0になり、砦側は身体が動く限り戦える体制となっていたのである。
ーーーーー
帝国軍の獣人部隊の男はおかしいと思った。
砦の門がなぜか青白く発光しており、いくら攻撃を加えてもびくともしないからである。
通常の門であれば大鎚で叩けば、門自体はすぐに壊れないにしても、振動などの手応えがあるはずだった。
しかしこの門は、皆でいくら叩こうともピクリとも動かない。
自分達の攻撃では絶対に壊れない、別の何かに包まれているように思えた。
そうして考えている間にも、壁上から矢や魔法が飛んで来て、仲間の獣人が倒れてゆく。
味方は数に任せて壁上にも何箇所か侵入できたようだったが、よく見るとすぐに近接攻撃部隊に撃退され、壁上から落とされていっているのが見える。
帝国軍側からの弓兵の攻撃で、砦側も人員が少しは減っているはずであるが、見たところでは戦闘開始当初から大幅に減っているようには見えなかった。
むしろ、近接攻撃部隊が壁上にいるため、密集度が上がっているくらいだった。
男は考える。
俺達は多分捨て石だ。
本当はこんな戦争になど参加したくは無かった。
だが帝国に協力しないと、里が攻め滅ぼされてしまうのだ。
帝国に侵略された里では、まだ圧政に苦しむ仲間が沢山いる。
大勢の者が奴隷にされたり、戦争に駆り出されている。
この現状を変えないと俺達の里にもう未来は無い。
男は悔しそうに歯を食いしばる。
こんなところで倒れる訳にはいかないのだ。
だがこうして考えている間にも、仲間達はどんどん倒されてゆく。
男はとうとう諦めて、戦場であるにも関わらず片膝をついて手を組み、神に祈った。
どうか自分がここで倒れ伏したとしても、いつの日か里の皆が救われますように……
その瞬間、男の姿が砦の門の前から煙のように消えてしまうのであった。
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