半神の守護者

ぴっさま

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第20話 殲滅と少年

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「遊び半分か。ならば自分達が同じ目にあっても文句はないな?俺がお前達を全員殺すとしよう」
ロッドは吸血鬼ヴァンパイア達に向けそう宣言した。

「なんだと!たかが人間の癖に生意気な!我ら吸血鬼ヴァンパイアを倒せると思うな!」

吸血鬼ヴァンパイアDはロッドの発言に逆上し、最大限に伸ばした爪を振り上げ猛スピードでロッドに向かって突進する。

ロッドはその場から一歩も動かない。

ロッドの目の前まで移動した吸血鬼ヴァンパイアDが、これで殺したとばかりにニヤリとしながら振り上げていた爪を振り下ろす。

だが吸血鬼ヴァンパイアDの爪がロッドの身体に触れるか触れないかのところで、ガキン!と何かに弾かれる。弾かれた衝撃で体勢が崩れ、驚愕する吸血鬼ヴァンパイアD。

「軽いな。そんな斬撃じゃあ俺は斬れないぞ」

ロッドは変わらずその場から動かずに吸血鬼ヴァンパイアDに告げる。
良い訓練になると思い体表面に沿って〔サイコバリア〕を張っていたのだ。

「そんな馬鹿な!」
吸血鬼ヴァンパイアDはその後も懸命に左右の爪を振るうが、棒立ちのロッドに届かずに全て弾かれてしまう。

「どきなさい!魔法で倒すわ!」
「ええ。やるわよ!」

それを聞き吸血鬼《ヴァンパイア》Dが距離を取ると同時に、吸血鬼ヴァンパイアEとBが唱えていた呪文を発動する。

邪悪なる炎柱エビルフレイムピラー
邪悪なる炎柱エビルフレイムピラー

ドン!ドン!という音と共に黒色が入り混じった火柱が二重に上がり、ロッドを焼き尽くすような勢いで包み込む。

人間など直ぐに燃やし尽くしてしまいそうな猛炎であった。

「そんな!仮面の守護者様!」
「「「仮面の守護者!」」」
「…」

エスティアと他のパーティーメンバーは火柱に包まれた仮面の守護者=ロッドを見て悲鳴を上げる。

ザイアスは言葉も出ない。
フランはまだ意識を失ったままである。

「ふふっ。その炎はお前が燃え尽きるまで消えないわ!」
「うふふ。呪文の相乗効果で威力もアップしてるのよ。これ使ったの久しぶりよね」
「物理耐性は高いようでしたが、まあ人間などこんな物でしょう」
「くそっ!俺が殺したかった!」
吸血鬼ヴァンパイアEとBは勝ち誇った顔でそう話し、吸血鬼ヴァンパイアCも追随し、吸血鬼ヴァンパイアDは悔しがった。

ーー

頼みの仮面の守護者が倒されてしまったと、再び訪れた危機に精霊の扉のメンバーは絶望の表情となった。

皆、拳を握りしめて燃えている仮面の守護者を見つめる。

だがその時、炎柱に包まれていた仮面の守護者が手を振るような動作をすると燃え盛る黒炎が嘘の様に消え、そこには一片も燃えた様子が無い仮面の守護者=ロッドが、何も無かったかのように平然と立っていた。

ロッドが〚魔法消去ディスペル〛を発動して攻撃魔法を消去したのである。

「派手な魔法だが威力はそれ程でも無いな。修行が足りないんじゃないか?」
ロッドは顔だけ攻撃魔法の発動者である吸血鬼ヴァンパイアBとEの方を向くと、辛口の評価を口にした。

吸血鬼ヴァンパイアB「え!そんな事ってあるの!」
吸血鬼ヴァンパイアE「何をしたのよ!私の魔法が消せるはずない!」
吸血鬼ヴァンパイアC「私の時と同じだ!」
吸血鬼ヴァンパイアD「あれだけの炎で無傷だと!」

ロッドが攻撃魔法を消してしまった事に吸血鬼ヴァンパイア達は信じられない思いを吐き出した。

攻撃魔法は他の属性で相殺出来る場合がある。

例えば炎系統の魔法であれば氷結系統の魔法で相殺するなどの方法があるが、魔法消去ディスペルなどで他人の魔法を消去する為には、その魔法発動者より魔力が高いかどうかの判定があり、上回る場合に限ってある一定確率で消去が可能となる。

確率も術者の実力差に左右され、下回る場合に消去出来る確率はほぼゼロとなる。

吸血鬼ヴァンパイア達は魔力の高さもあって、これまで人間などに自分の魔法を消去された事は無かったのだ。

精霊の扉はあれだけの炎に包まれて無傷である仮面の守護者に驚くと共に、ホッと胸を撫で下ろすのであった。

「さて、次はこっちの番だ。覚悟してもらおうか!」
ロッドは吸血鬼ヴァンパイア達に大声でそう告げると〔サイコ纏い〕を使用して身体強化を行なった。

身体を包む青白い輝きがますます強くなる。

ロッドは吸血鬼ヴァンパイアBの前まで高速で移動し〔サイコブレード〕で両肘、両腕の付け根、両膝、両足の付け根、首と胴体、さらに胴体を十字に4分割にする斬撃を放ち、13のパーツに分解した。

いつの間にかバラバラにされた吸血鬼ヴァンパイアBに驚く吸血鬼ヴァンパイア達。

「ひいい!何で私がバラバラに!」
首だけになった吸血鬼ヴァンパイアBが叫ぶ。

吸血鬼ヴァンパイアD「何だコイツ!全然動きが見えなかったぞ!」
吸血鬼ヴァンパイアE「え!どうして!」
吸血鬼ヴァンパイアC「なぜだ?我々を傷つけられるはずが無い!」
吸血鬼ヴァンパイア達はいつの間にかバラバラにされた仲間を見て驚愕する。

「お前は今から熱さで苦しんで死ぬ」

ロッドは片手を翳してバラバラとなった吸血鬼ヴァンパイアBを〔念動力テレキネシス〕で一か所に集め〔サイコバリア〕で周囲を囲った状態で〔火操能力パイロキネシス〕により温度を上げてゆく。

「ぎゃあああ!熱い!熱いわ!助けて!」
吸血鬼ヴァンパイアBが叫ぶ。

「お前ではそこから出る事は出来ない。超高温で細胞が全て灰になってしまえば再生も出来ないだろう?」
ロッドは冷静にそう話すと温度をどんどん上げてゆく。

「ああああ!私が悪かったわ!許して下さいぃぃ!」
あまりの苦しさに吸血鬼ヴァンパイアBが叫ぶ。

吸血鬼ヴァンパイアD「なんだこの玉は!びくともしないぞ!」
吸血鬼ヴァンパイアE「何なのよ、これ!」
吸血鬼ヴァンパイアC「これは一体…」
吸血鬼ヴァンパイアBの苦しむ様を見て、吸血鬼ヴァンパイア達は〔サイコバリア〕を割ろうと試みるも無駄な様子であった。

「あの世でお前が殺した、あの心優しい少年に詫びてこい!」
ロッドはさらにどんどん温度を上げる。

あまりの事態に吸血鬼ヴァンパイア達は何も出来ず、吸血鬼ヴァンパイアBが燃え尽きる様を見つめるだけであった。

「ぎゃあああああぁぁ……」

やがて蒸発してゆく吸血鬼ヴァンパイアB。
ロッドは完全に燃え尽きたのを確認した後、〔サイコバリア〕を解除した。

「あと3人か、次はお前にしよう」

ロッドはそう言うと〔サイコジャベリン〕を作り出し、仲間の死によりショックで棒立ちとなっている吸血鬼《ヴァンパイア》Dに投擲した。

「ぎゃあああああああ!!」

〔サイコジャベリン〕に貫かれた吸血鬼ヴァンパイアDは、断末魔の叫び声を上げ内部から滅ぼされていった。

吸血鬼ヴァンパイアE「え!」
吸血鬼ヴァンパイアC「なにっ!」

今度は魔法と思われる一撃で簡単に滅ぼされた事に驚愕し、後ずさる吸血鬼ヴァンパイア達。

精霊の扉はモンスター難度Aであり金級ゴールドランクパーティー以上でないと対抗できない吸血鬼ヴァンパイアをいとも簡単に次々と屠ってゆく仮面の守護者の強さに戦慄を覚えた。

例えSランク冒険者であっても人間がここまで圧倒的に強くなれるのだろうか。

「次はお前だ!」
ロッドは吸血鬼ヴァンパイアEを指差す。

指名された吸血鬼ヴァンパイアEはあまりの恐怖に失禁して叫んだ。
「ひい!嫌あああ!始祖様あ!助けて!」

だが急に吸血鬼ヴァンパイアEの姿が薄くなり見えなくなる。

吸血鬼ヴァンパイアの特殊能力の一つである霧化アトマゼーションを使用して逃げようとしているのを察知したロッドは〔遠隔知覚テレパス〕で位置を特定すると、そこに〔サイコバリア〕を球形に展開し逃げられないようにした。

霧化アトマゼーションで逃げようとしても無駄だ。わざわざ自分から火炙りを願うとはな」

そう言うとロッドは〔サイコバリア〕を目の前に移動させ、中に〔火操能力パイロキネシス〕で高熱を発生させた。

「ひいい。熱い!熱い!死にたくない!嫌あああ!お願い!ここから出してえ!死ぬのは嫌あ!」
逃げられないと理解した吸血鬼ヴァンパイアEは姿を現し、泣き叫んだ。

だがロッドが手を緩める事は無く、吸血鬼ヴァンパイアEもやがて蒸発していった。

ーー

「後はお前だけだな」
ロッドは吸血鬼ヴァンパイアCに顔を向ける。

吸血鬼ヴァンパイアCは汗をダラダラ流し、引き気味にロッドに話し掛ける。
「君の強さは良く分かった。残念だが私では勝てないだろう…君は一体何者なんだ?まさか神なのか?」

「俺はただの人間だ。落ちこぼれだがな。お前達のやった事は許せないが、指示した奴の事を話せ!そうすればこの場はお前を生かしてやっても良い」

ロッドはこの件の黒幕を知るため最初から1体は残した上で、この取引をする事を考えていた。

そのため一番理性的に見えた吸血鬼ヴァンパイアCを最後まで生かしておいたのだった。

「…その提案は飲めないね。私を殺せば良い」
吸血鬼ヴァンパイアCは自分達の始祖で偉大なお方を裏切る事は出来なかった。

ロッドは吸血鬼ヴァンパイアCの目の前に〔瞬間移動テレポート〕し、手首を掴んだ。
吸血鬼ヴァンパイアCの思考がロッドに流れ込む。

「なるほど。吸血鬼ヴァンパイアの始祖である吸血鬼の君主ヴァンパイアロードか。居場所も分かったぞ」
ロッドは吸血鬼ヴァンパイアCから読み取った思考の一部を口にした。

「馬鹿な!君は私の心が読めると言うのか?」
吸血鬼ヴァンパイアCは自分の思考を読まれた事に驚愕し、そして諦めた顔になった。

ロッドは〔サイコジャベリン〕を生成し尋ねる。
「お前が自ら喋っていないのでさっきの約束は無しだが、最後に何か言っておく事があれば聞いてやろう」

吸血鬼ヴァンパイアCは今夜ここへ来た事を後悔した。目の前の仮面の者は自分達の勝てる相手では無かった。

この様な存在と出会うと知っていればここには絶対来なかったし、強さを事前に知っていれば出会った瞬間に逃げていたであろう。

吸血鬼ヴァンパイアCは諦めた様子で話す。
「君の様な強者がこの様な場所にいるとはな。前もって知っていれば絶対にここへは来なかった。人間に敗れるとは、我達がそれほど弱かったという事か……始祖様に栄光あれ!」

ロッドは言い終わるのを待ってから〔サイコジャベリン〕を吸血鬼ヴァンパイアCに向け投擲して消滅させた。

辺りがシンと静まり返る。

バーンがはっとして仮面の守護者に向けて叫んだ。
「仮面の守護者!さっき盆地の中央の馬車にも吸血鬼ヴァンパイアが1体向かったんだ!頼む手を貸してくれ!」

「そうだわ!お願いよ!仮面の守護者様!」
「助けに行こう!」
「おう!」
「すぐに助けに行きましょう!」

エスティア、クライン、ザイアス、マックスも続く。

仮面の守護者=ロッドは片手を上げて制する。

「いや、ここへ来る前に既に1体吸血鬼ヴァンパイアを倒して来た。あそこの馬車だろう?あそこにいた者達は全員無事だ」

精霊の扉のメンバーはそれを聞き、ほっと胸を撫で下ろした。

ーー

仮面の守護者=ロッドはまず瀕死となっている商隊の護衛冒険者達の方に治療に向かった。

精霊の扉には死者の整理に協力してもらい、ロッドは生き残っていた3名の冒険者を一番酷い怪我をしている者から順次〔治癒ヒーリング〕で治療していった。

腹を切り裂かれていた者、重度の火傷の者、肩から腕を切り裂かれた者をそれぞれ治療し、まだ気を失ったままの者達を精霊の扉に任せ、ロッドは一旦テントに戻って通常の服に着替え、アイリスにざっと説明した後、乗合馬車の方に急いで〔瞬間移動テレポート〕した。

ーー

ロッドは乗合馬車の近くまで行き、〔遠隔知覚テレパス〕で感知した反応の場所に話しかけた。
「ほら、出ておいで。怖い人達はもう居ないよ」

もぞもぞと音だけがする。

ロッドは居場所は分かっているが、粘り強く話しかけた。
「大丈夫。もう怖くないよ」

何回か話し掛けると6、7歳ほどの年齢だと思われる少女が、パンが2つ入った袋を両手に大切に抱えて木に空いている穴から出て来た。

ロッドはそれを見て自分が少年にあげたパンが1つしか減っていない事に気づいた。

きっとあの少年は自分の分さえも食べず、妹に全部あげたのだろう。

パンはいくらでもあったのに…ロッドは空腹の少年が我慢する可能性を考慮しなかった自分に腹が立ったが内心の想いを隠し、笑顔で少女に話し掛ける。

「ここにはいつまでも居られないんだ。おいで。一緒に街まで行こう」

「お兄ちゃんとお父さんは?お兄ちゃんがいいと言うまで、ここに隠れててって言ったの!」
少女が父と兄に会いたいとばかりにロッドに尋ねる。

ロッドは今までで一番困難な状況に陥った。

少女になんと言えば良いのだろうか?
2人は死んだとストレートに言えば傷つくに決まっている。

いい考えが浮かばなかったロッドは仕方なく強行手段に出た。

瞬間移動テレポート

ーー

ロッドはテント付近に少女も連れて〔瞬間移動テレポート〕してきた。
「皆!ちょっと集まってくれ!」

皆、何事かと集まってくる。

急に場所が変わって戸惑っている少女を侍女達に預かってもらい、少し離れてジュリアン達に今の状況を説明するロッド。

「するとあの子供の親と兄弟は、吸血鬼ヴァンパイアに殺されてしまった訳ですね」
「ぐすん。可哀想です」
「そうですか…また僕のせいで…」
リーンステア、ジョアンナ、そしてジュリアンが気落ちした様子で話す。

「ジュリアンそれは違う。あくまで悪いのは襲撃者であり、一連の襲撃を依頼をしている者だ。お前が悪い訳じゃ無い」
ロッドが気落ちしているジュリアンを励ます。

「それに今回の襲撃者の裏にいた吸血鬼の君主ヴァンパイアロードを俺は許さない。必ず滅ぼしてやる!元々俺達の倒すべき敵であるかも知れないし、必死に妹を守った心優しい少年の無念を晴らす為にもな!」

ロッドは珍しく怒った様子で、アイリスやハム美やピーちゃんにも目配せしながらそう宣言した。

ーー

ロッドは話し合い後、乗合馬車まで戻り〔念視サイコメトリー〕で少年の残留思念を辿り、その無惨に殺された遺体を見つけた。

残留思念からやはり少年は妹の為に囮となったようであった。
死に際に妹を誰かに頼むとの想いも残していた。

同じく父親の遺体も見つけ出して両方ストレージに格納し、この盆地に隣接する森の奥に墓を作り、遺体を埋葬した。

墓標の前にパンを供えるロッド。
そして少年の想いに応える。

「分かった。妹は俺に任せておけ。そして今度こそ、そのパンを食べてくれないか…」

ロッドは妹の無事を少年の魂に伝えて欲しい想いと、今夜の犠牲者の魂が安らかに眠れるようイクティス神に祈る。

夜空に一筋の流れ星が輝く。

それを見て、この祈りはきっと聞き届けられるとロッドは確信するのであった。
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