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第19話 回復と激怒
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ロッドは見張りを精霊の扉に任せて眠っていたが、受動的能力である〔遠隔知覚〕が至近距離まで迫った悪意ある反応を感知した為に眠りから覚めた。
少しすると爆発音があり〔自在の瞳〕を発動し確認してみると5人のドレスを着た襲撃者を確認できた。
ロッドはその者達の見た目を前世のファンタジー知識と照らし合わせ、おそらく吸血鬼であると推測した。
爆発音でアイリスも起きたようなのでロッドが見た状況を説明し、テントから出てジュリアン達のテントと侍女達のテントを起こして回り、御者達も一応起こして集合させる。
「恐らくだが襲撃者が来たようだ。こちらはまだ襲われていないが、危ないからここから離れないようにしてほしい。そのうち精霊の扉も異変を察知してこちらに来ると思う」
ロッドはそう説明すると、一旦バーン達を待つ事にした。
ーー
少しするとやはりバーン達が現れ、襲撃されている可能性を話してきた。
バーン達はそのまま様子を見に向かうとの事だったのでロッドは待機となったが、その間にこの世界の吸血鬼は強いのかどうかアイリスに聞いてみた。
地球の吸血鬼だとロッドのあやふやな記憶では、倒すのは日中に心臓に杭を打つなどの縛りがあって面倒な感じだが、攻撃とかはさほど強くは無く血を吸うぐらいかなと思っていた。
あと十字架とニンニクが嫌いであると。
「私の持つ知識では吸血鬼は元々この世界にはいない存在です。恐らく邪神が過去に異界からこの世界に召喚した存在ではないかと考えます。直接鑑定してみないと正確な強さは分かりませんが魔法が使える可能性があり、通常武器が無効であるとするならこの世界では強者と言えます」
アイリスが分かる限りの事を説明してくれる。
「ありがとう。後で吸血鬼を見たら鑑定してほしい」
バーン達が少し心配になり〔自在の瞳〕で様子を見ようと思うロッドであったが、その時〔時遠隔知覚〕がこちらに近づく反応を捉えた。
ーー
ジュリアン達を背にして吸血鬼を待ち構えるロッド。
既にテントで〈仮面の守護者〉の装束に着替え済みである。
少しして大蝙蝠がロッド達の近くに飛んで来る。
ジョアンナと侍女達があまりにも大きなコウモリを見て震えていた。
女性特有の勘か何かで特別に危険な存在だと感じているようであった。
ロッドはストレージから毛布を3枚取り出してそれぞれに渡した。
「怖い思いをさせてすまない。これでも被っておいてくれ」
ブルブル震えながら毛布を被る侍女達。御者達も侍女達の背中を擦ったりして気遣っている。
ジョアンナはジュリアンとリーンステアに付き添われていた。
ロッドの3mぐらい手前で着地し、変身を解く吸血鬼。
「アイリス、コイツを鑑定してくれ」
ロッドはアイリスに鑑定を依頼する。
「承知しました。私の手をお取りください」
アイリスが差し出した手を握り〔精神感応〕を使うとアイリスの目を通して吸血鬼の鑑定結果が読み取れた。
〈鑑定結果 吸血鬼〉
種族:吸血鬼 性別:男性 年齢:42歳
力属性ランクB(一流)
敏捷属性ランクC(上位)
耐久属性ランクA(超一流)
知能属性ランクB(一流)
魔力属性ランクB(一流)
特殊体質:夜行性、物理攻撃無効(例外:銀製武器)、再生+6、魔法耐性+4、魔力向上+3
特殊能力:吸血、変身、霧化
装備:高品質な男性用パーティードレス
ロッドはアイリスを経由した鑑定結果を見て強烈な危機感を覚えた。
この属性値ランクと特殊体質、能力では例え1体でも精霊の扉のパーティーでは勝てないだろう。
既に4体と対峙しているかもしれない、それにあの子供と家族も無事なのだろうか?
ロッドは神ではない。
周囲にいる全ての人間を救うなどという事は出来ないが、自分が関わった人は極力救おうとある種地球の現代人的な感覚で思っていた。
知っている人にはなるべく無事でいてほしいのだ。
「ははっ。お前達はこれから俺に皆殺しにされ…ふっ……がっぐあああああっ……」
ロッドは吸血鬼が喋り始めた時に〔サイコジャベリン〕を生成し、喋り終わるのを待たず投擲した。
〔サイコジャベリン〕が突き刺さった時、一瞬ニヤリとした吸血鬼であったが、次の瞬間に馬鹿な!という驚愕の表情となり、数秒で断末魔の声を上げて消滅して行った。
「アイリス、これから精霊の扉の様子を見てくるからここを頼む。ハム美、ピーちゃんも頼むぞ!何かあったら変身を許可する」
ロッドはそう言うと〔遠隔知覚〕でバーンの位置を感知し、その上空に〔瞬間移動〕するのであった。
ーーーーー
ロッドはバーン達の上空30mの位置で〔空中浮遊〕を使い浮遊した状態で全体を俯瞰して眺める。
〔遠隔知覚〕も合わせて見ると、吸血鬼が全部で4体、1体はバーン達の近くに、もう3体は少し離れた位置にいるのが分かる
盆地奥の商隊に生命反応は無く、おそらく既に全員死亡していると考えられる。
乗合馬車の付近には子供と思われる小さい反応が1つだけある。
そしてここ商隊の護衛冒険者の野営場所には、死にかけの護衛冒険者3人とバーン達精霊の扉6名の反応があった。
ロッドは精霊の扉が無事だった事に一旦は安心したが、フランだけは感知した感じ、様子がおかしいようであった。
〔瞬間移動〕後の一瞬で〔思考加速〕も使用し、上記の状況を読み取る。
そして、バーンを襲おうとしていたフランの近くまで応用技である〔念動力の翼〕で空中を高速で移動し、浮遊した状態で片手を伸ばしてフランの身体全体の動きを〔念動力〕で封じた
=============== 〔念動力の翼〕
ロッドが〔念動力の翼〕と名付けているこの技は〔空中浮遊〕と〔念動力〕を組み合わせた技である。
〔空中浮遊〕の本質的な力は重力制御であるが、自分を対象とした場合には単に空中に浮くだけとなってしまうため、推進力として〔念動力〕を用いて加速・停止を行って飛行を制御する事になる。
通常〔念動力〕が物を動かす場合は重力の影響を受ける為、それなりの出力が必要になるが、〔空中浮遊〕により重力の影響を受けない状態の場合、少ない出力での飛行が可能となる。
自分以外の者に適用する事も可能である。
==============================
いきなり空から現れて空中に浮いているロッド=仮面の守護者を見て精霊の扉のメンバーは全員驚愕する。
ロッド=仮面の守護者がバーンに尋ねる。
「確かバーンと言ったな。状況はどうなっている?」
「あ、あんたは仮面の守護者!た、頼む助けてくれ!フランが!」
「お願い助けて!フランが吸血鬼に噛まれて下級吸血鬼にされてしまったの!」
バーンは必死に、エスティアは泣きながら仮面の守護者に助けを求めた。
「フランは死んだ訳じゃ無いんだな?」
ロッドが確認すると頷く2人。
ロッドはフランを〔念動力〕で封じたまま近づき、正面に立つ。
動く事は出来ないが唸り声を上げて仮面の守護者を睨み付けるフラン。
「奇妙な仮面を被った者よ。君が誰なのか知らないが、その娘は私の下僕となったのだよ。助ける術はないから諦めるんだね。しかし空中に浮けるとは魔法使いなのかな?」
吸血鬼Cが急に現れたロッドを警戒するでも無く助けるのは不可能だとロッドに教えた。
「やってみないと分からないだろう?」
ロッドは吸血鬼にそう告げるとフランの首、恐らく血を吸われたであろう箇所に手を当て、超能力を発動する。
ロッドの瞳が仮面の奥で金色に煌めく。
〔治癒〕
ロッドの超能力を受け苦しむ下級吸血鬼=フラン。
ロッドの手から出る光がフランの全身を包みやがて光が収まるとフランが力を失って倒れ込む。
ロッドはそれを支えてやり横抱きにしてバーンの前まで歩く。
「俺の治癒能力は死んでさえいなければ、全ての状態異常を回復出来る。口から出ていた牙も無いようだから恐らくもう大丈夫だと思う」
ロッドはそう言ってフランをバーンに手渡した。
バーンは回復したフランを見て涙し、大切な宝物を扱うように受け取った。
「あ、ありがとう!本当にありがとう!」
精霊の扉のメンバーも周囲に集まり、絶望の淵から一転して嬉し涙を流した。
「馬鹿な!私の下僕をどうやって!貴様、人間の分際で許さん!!」
吸血鬼Cはフランが回復した様子を見て逆上し、素早く呪文を唱えてロッド達に向けて魔法を発動した。
〚炸裂する火球〛
吸血鬼の高い魔力を乗せた燃え盛る火の玉がロッド達に迫る。
突然の攻撃魔法に密集していたパーティーメンバーは直撃を予想し硬直したが、ロッド=仮面の守護者が片手を上げて対抗魔法を発動する。
〚魔法消去〛
ロッドは〔思考加速〕を用いて着弾のタイミングで魔法を発動し、吸血鬼の魔法を完全に相殺、消去する事に成功した。
呆気に取られる精霊の扉と吸血鬼C。
通常、魔法消去での魔法の消去は常設・常駐タイプの魔法に限定される。
放出型の攻撃魔法を消去したくても呪文の詠唱が必要であり、発動が遅すぎるかタイミングが合わないからである。
ロッドの場合は模倣により魔法を再現しているだけなので呪文の詠唱が必要ない為、タイミングさえ合えば全ての魔法が消去可能であった。
そのタイミングでさえ〔思考加速〕で完全に捉える事が出来る。
「ぬうう!何だ?なぜ私の完璧で美しい魔法が発動しない!なぜ消えてしまったのだ!!」
吸血鬼Cは確かに当たる寸前であった己の魔法が消えてしまった事に驚く。
「その程度であれば、何発打とうがお前の魔法など俺には通じないぞ」
ロッドは吸血鬼に答える。
その時、吸血鬼の背後から、さらに3人の吸血鬼が姿を現した。
バーンがフランを抱えたまま叫ぶ。
「まずいぞ!吸血鬼は全部で5体もいるんだ!さっきロッド達の方へも1体向かった!いくらあんたでも無理だ!逃げろ!」
吸血鬼B「うふふ。私達から逃げられると思っているのかしら。可愛いわね~」
吸血鬼E「ふふっ。無理ね、皆殺しよ。ご褒美だもの!」
吸血鬼D「まだ少し残ってたが、こっちの方が面白そうだから来てやったぞ?」
吸血鬼達はロッド達に向け告げた。
「ふう。少し冷静さを欠いてしまったな。皆、この者達は私の分だ。手出しはしないでもらいたいな」
仲間が来たことで冷静になった吸血鬼Cが仲間に向け話す。
吸血鬼D「その割には手こずっていたようじゃないか?」
吸血鬼B「うふふ。手伝ってあげようかしら」
吸血鬼E「ふふっ。あなたは魔法が苦手だものね。私が代わりに黒焦げや串刺しにしてあげるわよ?」
吸血鬼達は仲間内での会話に夢中になっていた。
ロッドは吸血鬼達の会話に割り込む。
「一つ聞こう。お前達はなぜここで殺戮をしている。誰に依頼されたんだ?」
ロッドは内心の怒りを抑え、穏やかに問いただした。
吸血鬼達は笑顔で次のように答えた。
吸血鬼B「うふふ。それは面白いからよ。偉大なお方からのご褒美でもあるの」
吸血鬼E「ふふっ。そうそう、これはご褒美なのよ!普段は禁じられているから、今夜は思いっきり残酷に殺してあげるわ!」
吸血鬼D「人間など俺達を楽しませる餌でしかないわ!殺戮もクソも無い!」
吸血鬼C「君の質問に答えてあげようじゃないか。私達に、たしか辺境伯嫡男だったかの一行を全員殺しても良いというご褒美が与えられたのだよ。それでここまで飛んで来たんだ」
吸血鬼B「うふふっ。子供を殺すのも面白かったわ!見つけた場所から凄~く一生懸命走って逃げて!それでも残酷に殺されて!うふっ!」
ロッドは、どうやら吸血鬼の襲撃にジュリアン暗殺の件が絡んでいるらしい事と、少年が無惨に殺された事を知った。
乗合馬車付近の反応を改めて探るとあの少年よりももっと幼い反応であった。
恐らくだがあの少年の妹ではないだろうか?
少年は妹を何処かに隠しそれがバレないように自らは囮になって必死に離れたのだろう。
自分もお腹が空いているだろうに妹の為に懸命に食べ物を探していた少年。
妹に食べさせられるとパンを手に笑顔で走り去った少年を想い、悲しむと同時にこれまでに無い激しい怒りを感じるロッド。
ロッド=仮面の守護者の身体全体が青白く輝く。
それは超能力を宿した光であった。
少しすると爆発音があり〔自在の瞳〕を発動し確認してみると5人のドレスを着た襲撃者を確認できた。
ロッドはその者達の見た目を前世のファンタジー知識と照らし合わせ、おそらく吸血鬼であると推測した。
爆発音でアイリスも起きたようなのでロッドが見た状況を説明し、テントから出てジュリアン達のテントと侍女達のテントを起こして回り、御者達も一応起こして集合させる。
「恐らくだが襲撃者が来たようだ。こちらはまだ襲われていないが、危ないからここから離れないようにしてほしい。そのうち精霊の扉も異変を察知してこちらに来ると思う」
ロッドはそう説明すると、一旦バーン達を待つ事にした。
ーー
少しするとやはりバーン達が現れ、襲撃されている可能性を話してきた。
バーン達はそのまま様子を見に向かうとの事だったのでロッドは待機となったが、その間にこの世界の吸血鬼は強いのかどうかアイリスに聞いてみた。
地球の吸血鬼だとロッドのあやふやな記憶では、倒すのは日中に心臓に杭を打つなどの縛りがあって面倒な感じだが、攻撃とかはさほど強くは無く血を吸うぐらいかなと思っていた。
あと十字架とニンニクが嫌いであると。
「私の持つ知識では吸血鬼は元々この世界にはいない存在です。恐らく邪神が過去に異界からこの世界に召喚した存在ではないかと考えます。直接鑑定してみないと正確な強さは分かりませんが魔法が使える可能性があり、通常武器が無効であるとするならこの世界では強者と言えます」
アイリスが分かる限りの事を説明してくれる。
「ありがとう。後で吸血鬼を見たら鑑定してほしい」
バーン達が少し心配になり〔自在の瞳〕で様子を見ようと思うロッドであったが、その時〔時遠隔知覚〕がこちらに近づく反応を捉えた。
ーー
ジュリアン達を背にして吸血鬼を待ち構えるロッド。
既にテントで〈仮面の守護者〉の装束に着替え済みである。
少しして大蝙蝠がロッド達の近くに飛んで来る。
ジョアンナと侍女達があまりにも大きなコウモリを見て震えていた。
女性特有の勘か何かで特別に危険な存在だと感じているようであった。
ロッドはストレージから毛布を3枚取り出してそれぞれに渡した。
「怖い思いをさせてすまない。これでも被っておいてくれ」
ブルブル震えながら毛布を被る侍女達。御者達も侍女達の背中を擦ったりして気遣っている。
ジョアンナはジュリアンとリーンステアに付き添われていた。
ロッドの3mぐらい手前で着地し、変身を解く吸血鬼。
「アイリス、コイツを鑑定してくれ」
ロッドはアイリスに鑑定を依頼する。
「承知しました。私の手をお取りください」
アイリスが差し出した手を握り〔精神感応〕を使うとアイリスの目を通して吸血鬼の鑑定結果が読み取れた。
〈鑑定結果 吸血鬼〉
種族:吸血鬼 性別:男性 年齢:42歳
力属性ランクB(一流)
敏捷属性ランクC(上位)
耐久属性ランクA(超一流)
知能属性ランクB(一流)
魔力属性ランクB(一流)
特殊体質:夜行性、物理攻撃無効(例外:銀製武器)、再生+6、魔法耐性+4、魔力向上+3
特殊能力:吸血、変身、霧化
装備:高品質な男性用パーティードレス
ロッドはアイリスを経由した鑑定結果を見て強烈な危機感を覚えた。
この属性値ランクと特殊体質、能力では例え1体でも精霊の扉のパーティーでは勝てないだろう。
既に4体と対峙しているかもしれない、それにあの子供と家族も無事なのだろうか?
ロッドは神ではない。
周囲にいる全ての人間を救うなどという事は出来ないが、自分が関わった人は極力救おうとある種地球の現代人的な感覚で思っていた。
知っている人にはなるべく無事でいてほしいのだ。
「ははっ。お前達はこれから俺に皆殺しにされ…ふっ……がっぐあああああっ……」
ロッドは吸血鬼が喋り始めた時に〔サイコジャベリン〕を生成し、喋り終わるのを待たず投擲した。
〔サイコジャベリン〕が突き刺さった時、一瞬ニヤリとした吸血鬼であったが、次の瞬間に馬鹿な!という驚愕の表情となり、数秒で断末魔の声を上げて消滅して行った。
「アイリス、これから精霊の扉の様子を見てくるからここを頼む。ハム美、ピーちゃんも頼むぞ!何かあったら変身を許可する」
ロッドはそう言うと〔遠隔知覚〕でバーンの位置を感知し、その上空に〔瞬間移動〕するのであった。
ーーーーー
ロッドはバーン達の上空30mの位置で〔空中浮遊〕を使い浮遊した状態で全体を俯瞰して眺める。
〔遠隔知覚〕も合わせて見ると、吸血鬼が全部で4体、1体はバーン達の近くに、もう3体は少し離れた位置にいるのが分かる
盆地奥の商隊に生命反応は無く、おそらく既に全員死亡していると考えられる。
乗合馬車の付近には子供と思われる小さい反応が1つだけある。
そしてここ商隊の護衛冒険者の野営場所には、死にかけの護衛冒険者3人とバーン達精霊の扉6名の反応があった。
ロッドは精霊の扉が無事だった事に一旦は安心したが、フランだけは感知した感じ、様子がおかしいようであった。
〔瞬間移動〕後の一瞬で〔思考加速〕も使用し、上記の状況を読み取る。
そして、バーンを襲おうとしていたフランの近くまで応用技である〔念動力の翼〕で空中を高速で移動し、浮遊した状態で片手を伸ばしてフランの身体全体の動きを〔念動力〕で封じた
=============== 〔念動力の翼〕
ロッドが〔念動力の翼〕と名付けているこの技は〔空中浮遊〕と〔念動力〕を組み合わせた技である。
〔空中浮遊〕の本質的な力は重力制御であるが、自分を対象とした場合には単に空中に浮くだけとなってしまうため、推進力として〔念動力〕を用いて加速・停止を行って飛行を制御する事になる。
通常〔念動力〕が物を動かす場合は重力の影響を受ける為、それなりの出力が必要になるが、〔空中浮遊〕により重力の影響を受けない状態の場合、少ない出力での飛行が可能となる。
自分以外の者に適用する事も可能である。
==============================
いきなり空から現れて空中に浮いているロッド=仮面の守護者を見て精霊の扉のメンバーは全員驚愕する。
ロッド=仮面の守護者がバーンに尋ねる。
「確かバーンと言ったな。状況はどうなっている?」
「あ、あんたは仮面の守護者!た、頼む助けてくれ!フランが!」
「お願い助けて!フランが吸血鬼に噛まれて下級吸血鬼にされてしまったの!」
バーンは必死に、エスティアは泣きながら仮面の守護者に助けを求めた。
「フランは死んだ訳じゃ無いんだな?」
ロッドが確認すると頷く2人。
ロッドはフランを〔念動力〕で封じたまま近づき、正面に立つ。
動く事は出来ないが唸り声を上げて仮面の守護者を睨み付けるフラン。
「奇妙な仮面を被った者よ。君が誰なのか知らないが、その娘は私の下僕となったのだよ。助ける術はないから諦めるんだね。しかし空中に浮けるとは魔法使いなのかな?」
吸血鬼Cが急に現れたロッドを警戒するでも無く助けるのは不可能だとロッドに教えた。
「やってみないと分からないだろう?」
ロッドは吸血鬼にそう告げるとフランの首、恐らく血を吸われたであろう箇所に手を当て、超能力を発動する。
ロッドの瞳が仮面の奥で金色に煌めく。
〔治癒〕
ロッドの超能力を受け苦しむ下級吸血鬼=フラン。
ロッドの手から出る光がフランの全身を包みやがて光が収まるとフランが力を失って倒れ込む。
ロッドはそれを支えてやり横抱きにしてバーンの前まで歩く。
「俺の治癒能力は死んでさえいなければ、全ての状態異常を回復出来る。口から出ていた牙も無いようだから恐らくもう大丈夫だと思う」
ロッドはそう言ってフランをバーンに手渡した。
バーンは回復したフランを見て涙し、大切な宝物を扱うように受け取った。
「あ、ありがとう!本当にありがとう!」
精霊の扉のメンバーも周囲に集まり、絶望の淵から一転して嬉し涙を流した。
「馬鹿な!私の下僕をどうやって!貴様、人間の分際で許さん!!」
吸血鬼Cはフランが回復した様子を見て逆上し、素早く呪文を唱えてロッド達に向けて魔法を発動した。
〚炸裂する火球〛
吸血鬼の高い魔力を乗せた燃え盛る火の玉がロッド達に迫る。
突然の攻撃魔法に密集していたパーティーメンバーは直撃を予想し硬直したが、ロッド=仮面の守護者が片手を上げて対抗魔法を発動する。
〚魔法消去〛
ロッドは〔思考加速〕を用いて着弾のタイミングで魔法を発動し、吸血鬼の魔法を完全に相殺、消去する事に成功した。
呆気に取られる精霊の扉と吸血鬼C。
通常、魔法消去での魔法の消去は常設・常駐タイプの魔法に限定される。
放出型の攻撃魔法を消去したくても呪文の詠唱が必要であり、発動が遅すぎるかタイミングが合わないからである。
ロッドの場合は模倣により魔法を再現しているだけなので呪文の詠唱が必要ない為、タイミングさえ合えば全ての魔法が消去可能であった。
そのタイミングでさえ〔思考加速〕で完全に捉える事が出来る。
「ぬうう!何だ?なぜ私の完璧で美しい魔法が発動しない!なぜ消えてしまったのだ!!」
吸血鬼Cは確かに当たる寸前であった己の魔法が消えてしまった事に驚く。
「その程度であれば、何発打とうがお前の魔法など俺には通じないぞ」
ロッドは吸血鬼に答える。
その時、吸血鬼の背後から、さらに3人の吸血鬼が姿を現した。
バーンがフランを抱えたまま叫ぶ。
「まずいぞ!吸血鬼は全部で5体もいるんだ!さっきロッド達の方へも1体向かった!いくらあんたでも無理だ!逃げろ!」
吸血鬼B「うふふ。私達から逃げられると思っているのかしら。可愛いわね~」
吸血鬼E「ふふっ。無理ね、皆殺しよ。ご褒美だもの!」
吸血鬼D「まだ少し残ってたが、こっちの方が面白そうだから来てやったぞ?」
吸血鬼達はロッド達に向け告げた。
「ふう。少し冷静さを欠いてしまったな。皆、この者達は私の分だ。手出しはしないでもらいたいな」
仲間が来たことで冷静になった吸血鬼Cが仲間に向け話す。
吸血鬼D「その割には手こずっていたようじゃないか?」
吸血鬼B「うふふ。手伝ってあげようかしら」
吸血鬼E「ふふっ。あなたは魔法が苦手だものね。私が代わりに黒焦げや串刺しにしてあげるわよ?」
吸血鬼達は仲間内での会話に夢中になっていた。
ロッドは吸血鬼達の会話に割り込む。
「一つ聞こう。お前達はなぜここで殺戮をしている。誰に依頼されたんだ?」
ロッドは内心の怒りを抑え、穏やかに問いただした。
吸血鬼達は笑顔で次のように答えた。
吸血鬼B「うふふ。それは面白いからよ。偉大なお方からのご褒美でもあるの」
吸血鬼E「ふふっ。そうそう、これはご褒美なのよ!普段は禁じられているから、今夜は思いっきり残酷に殺してあげるわ!」
吸血鬼D「人間など俺達を楽しませる餌でしかないわ!殺戮もクソも無い!」
吸血鬼C「君の質問に答えてあげようじゃないか。私達に、たしか辺境伯嫡男だったかの一行を全員殺しても良いというご褒美が与えられたのだよ。それでここまで飛んで来たんだ」
吸血鬼B「うふふっ。子供を殺すのも面白かったわ!見つけた場所から凄~く一生懸命走って逃げて!それでも残酷に殺されて!うふっ!」
ロッドは、どうやら吸血鬼の襲撃にジュリアン暗殺の件が絡んでいるらしい事と、少年が無惨に殺された事を知った。
乗合馬車付近の反応を改めて探るとあの少年よりももっと幼い反応であった。
恐らくだがあの少年の妹ではないだろうか?
少年は妹を何処かに隠しそれがバレないように自らは囮になって必死に離れたのだろう。
自分もお腹が空いているだろうに妹の為に懸命に食べ物を探していた少年。
妹に食べさせられるとパンを手に笑顔で走り去った少年を想い、悲しむと同時にこれまでに無い激しい怒りを感じるロッド。
ロッド=仮面の守護者の身体全体が青白く輝く。
それは超能力を宿した光であった。
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スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。
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