18 / 81
第18話 襲撃と絶望(モンスター討伐難度説明有)
しおりを挟む
宵闇の中、ロッド達の野営している盆地に急降下した闇の一族は、静かに馬車の上に降り立った。
そして一瞬だけ闇色に光ると大蝙蝠から元の姿に戻る。
それは人間のようで人間ではなく、目は赤く充血し、肌は青白く、口には犬歯がそのまま伸びたように長い牙があり、その爪も鋭い。
そしてそれぞれが貴族のように綺羅びやかな装いをしていた。
闇の一族は人間からは吸血鬼と呼ばれる者達であった。
ーー
吸血鬼は一族である集団で纏まって暮らし時折人間や家畜を襲いその血液を飲む。
血液を飲まれた者は下級吸血鬼としてその吸血鬼の下僕となり使役される関係になる。
※血だけ飲み使役しないケースもある
吸血鬼は日光を嫌い、日中は寝所である棺桶の中で眠り、夜に起きて活動する。
吸血鬼は高い身体能力を持ち、永く生きたその叡智から各種の強力な魔法を操り、爪には麻痺毒の効果がある。
精霊に近い身体のため通常の武器では傷つかず、仮にダメージを負ってもあり得ないレベルで自然回復してしまう。
大蝙蝠への変身で空を飛ぶ事も出来る。
体を一時的に霧状にする事もできるので閉じ込める事も出来ない。
吸血鬼はこのように様々な特殊能力を持っており、冒険者ギルドが定義するモンスター討伐難度ではAに相当する。
これは金級パーティー以上でないと対応できない討伐難度である。
ーー
〈モンスター討伐難度〉
モンスター討伐難度は下記表のようにE~SSで定義されている。
討伐難度SSは人間ではほぼ勝てない相手となる。
また飛行するモンスターや海中のモンスターは討伐しにくいため実力に比べ討伐難度としては上になる傾向がある。
----------------------------------------------------
討伐難度SS…真銀級パーティー以上を推奨
例:古竜、不死者の王、悪魔の君主
----------------------------------------------------
討伐難度S…白金級パーティー以上を推奨
例:不死者、各種の竜
----------------------------------------------------
討伐難度A…金級パーティー以上を推奨
例:吸血鬼、上級悪魔
----------------------------------------------------
討伐難度B…銀級パーティー以上を推奨
例:大鬼、石造人形、飛龍
----------------------------------------------------
討伐難度C…鉄級パーティー以上を推奨
例:下級悪魔、女面鳥、屍食鬼
----------------------------------------------------
討伐難度D…銅級パーティー以上を推奨
例:猪頭人、中人鬼、生ける屍
----------------------------------------------------
討伐難度E…条件なし
例:小鬼、粘菌生物、犬小鬼
ーーーーー
商隊の護衛冒険者で野営の見張番の男がふと何かの違和感を感じ、上を見ると自分達の荷馬車の屋根に人が立っていた。
顔や服装は暗くて確認出来ない。
男は誰かが悪ふざけでもしているのだろうと、イラついて声を掛ける。
「おい誰だ!馬車の屋根になんか乗りやがって!早く降りろ!」
吸血鬼A「下等な人間が!」
吸血鬼B「早く皆殺しにしましょうよ!」
吸血鬼C「まあ待て、充分楽しんでからにしよう」
吸血鬼D「俺様に指図するなよ?」
吸血鬼E「もういいじゃないの!これはご褒美なのよ!やっちゃうわ!」
最後に発言した者が素早く呪文を唱え、発動する。
〚邪悪なる炎柱〛
少し距離がある商隊の馬車の1台に黒色が入り混じった火柱が上がり、燃え上がる。
馬車が燃え上がったことで周囲が騒然となる。
寝ていた者も目を覚まし、何事が起こったのかを確認しようとした。
全員馬車の上から音もなく地上に降り立つ吸血鬼。
「ひっ!なっ何だお前ら!」
最初に発見した見張りの男が5人の吸血鬼を見て人ならざる者の気配を感じて怯え、後退る。
「俺もやりたいようにやるぜ!」
吸血鬼Dはそう言うと見張りの男に素早く近づくと、腕を爪で切り裂き切断した。
よく見ると爪が異様に伸びて長めのナイフほどになっていた。
「ぎゃあああああ~!あががががあ!」
見張りの男は切断されたところを押さえて絶叫するが、すぐに爪から入った麻痺毒で痙攣し始める。
商隊の護衛冒険者達が見張りの男の絶叫を聞き、集まってくる。
吸血鬼達の饗宴の始まりであった。
ーーーーー
精霊の扉のバーンはフランと組んで夜間の見張りをしていた。
そろそろ小腹が空いてきたので、夜食としてロッドが差し入れてくれたという物を食べようかと籠から出して手に取る。
プリンとかいうらしいこの食べ物は、中央に何か柔らかそうで弾力を感じる山のような物と、その周りに果物などが添えてあり見た目も良く、凄く美味しそうである。
そっと蓋を開け食べようとするバーン。
ふと視線を感じ、フランを見るとじっとバーンの手にあるプリンを見つめていた。
バーンは何となく危機感を覚え、フランに背を向けてプリンにスプーンを差し込み食べようとした時、異変が起こった。
バーンの耳にドン!と爆発音が聞こえた。
慌てて辺りを見回すと、商隊の野営場所の方が明るくなっている。
何かが燃えている様子だった。
フランと顔を見合わせるバーン。
「襲撃かもしれない。皆を起こせ!」
フランに指示し、バーンは爆発が起こった方角の様子を確認する。
何やらその辺りから絶叫のような叫び声も聞こえてくる。
これは只事ではないと判断したバーンは、全員起きて武装したのを確認した後、まずは護衛対象であるジュリアン達の野営場所に向かう事にした。
ーー
バーンがジュリアン達の野営場所に着くと、既に異変を感じて全員が起きており、ロッドを中心に集まっていた。
皆神妙な面持ちをしている。
「無事か!この盆地が襲撃されているかもしれない」
バーンは全員に襲撃されている可能性がある事を説明する。
ロッドがバーンに頷き答える。
「さっき商隊の野営場所の方で爆発があったようだ。魔法による攻撃かもしれない」
バーンが皆に指示する。
「俺達は状況の確認の為、商隊の野営場所に行ってくる。ロッドとアイリスはここでリーンステアさんと一緒にジュリアン様達の護衛を頼む。念の為、いつでもここを出られるよう馬車の準備をしておいてくれ」
ロッドは了承して頷く。
精霊の扉は全員で襲撃されたと思われる商隊の野営場所に急行する事にした。
ーー
精霊の扉が商隊の護衛の野営場所に着くとそこには地獄のような光景が繰り広げられていた。
馬車は焼かれ、脚や腕を失って倒れている者、腹を切り裂かれ腸が出ている者、重度の火傷を負っている者など商隊の護衛冒険者が皆どこかしら傷つけられた状態でまだ生かされているようであった。
その近くには3人の綺羅びやかなドレスを着た人物が後ろ向きで立っている。
その光景を見たバーンが叫ぶ。
「お前らは誰だ!何をやっている!」
その声に振り向いた者達は青白い顔に赤い目を爛々とさせ、口からは犬歯が伸びたような牙が生えていた。
「バーン!彼らは吸血鬼です!」
精霊の扉のマックスがバーンに叫ぶように教える。
マックスは精霊の扉では一番歳が若くまだ19歳であったが、知識欲は旺盛で勉強熱心であり、冒険者ギルドと魔法師ギルド両方の資料に記載されている魔物は大体記憶していた。
「吸血鬼だと」
「吸血鬼…」
クラインが絶句し、エスティアが呟く。
彼らも吸血鬼の特徴は詳しくなくても、冒険者として過ごしてきた中で噂を聞きかじったりして、その名前と強さを知っていたのだ。
マックスがパーティーに向け説明する。
「吸血鬼はギルドで討伐難度Aにランクされています。1体でも金級以上のパーティーでないと勝てないと言われています。それが3体も…」
「おいおい冗談だろ!」
ザイアスが怯えて少し後ずさる。
「くっ!隙を見て撤退してロッド達と合流するぞ。少なくとも俺達だけでは勝てない」
バーンが状況を判断して撤退の命令を下した。
「「「「「了解!」」」」」
バーン達は吸血鬼と対峙したまま、ジリジリと下がり始める。
そこへ吸血鬼の後方と右側から1体ずつ、速い速度で駆け寄る者達がいた。
吸血鬼E「ふふっ。奥にいた商人みたいな人間は皆殺しにしたわ!」
吸血鬼B「うふふ。私もよ。街の方向にいた馬車の人間もたっぷり可愛がって殺してあげたわ。子供もね。逃げている人間を殺すの面白かったぁ」
「うっ!増えたぞ。5体だと!」
クラインが盾を握り締めて呻く。
どうやら吸血鬼達は商隊と乗合馬車を手分けして襲撃してきたようであった。
吸血鬼C「レディーファーストだ。どうだ、面白かったかい?」
吸血鬼達はバーン達などいないかのように笑顔で会話する。
吸血鬼A「もう我慢の限界だ!おれは中央の馬車を貰うぞ!」
吸血鬼C「いいだろう。楽しんでこいよ」
吸血鬼Aはそう言うと、闇色に一瞬光り大蝙蝠に変身するとロッド達の馬車の方角に飛んで行った。
「くっ。まずいぞ!ロッド達が危ない!」
バーンが飛んでいく大蝙蝠を見て叫ぶ。
吸血鬼D「もうコイツらは飽きたから、そろそろ殺すとするか」
吸血鬼Dは後方で倒れている護衛冒険者の女性の頭を足裏で踏むように押さえる。
脚を斬られている護衛冒険者の女性は、か細い声で泣きながら命乞いをする。
吸血鬼Dはニヤリと楽しそうに微笑むと、護衛冒険者の女性を殺した。
その光景を見て胸糞が悪くなると同時にバーン達は絶望を感じる。
銀級パーティーが、モンスター討伐難度Aランクとされている吸血鬼を4体も相手に出来る訳が無い。
吸血鬼C「さて、残ったのは君達だけだ。君達は私の分なんだよ。中央の馬車の人間もすぐに皆殺しにされるよ。君達の人生はここで確実に終わるんだ。逃げるのは諦めてくれるかい?」
そう言うと嬉々として両手を広げ精霊の扉に飛びかかる吸血鬼C。
精霊の扉は盆地中央に向け、戦列を撤退気味に下げる。
その中でクラインが吸血鬼Cの進行方向に出て大盾で突撃を止めようとするが、スッと避けられ馬鹿にするようにザイアスの目の前に立つ。
ザイアスは戦斧を振り上げて斬撃を放つ。
〚強撃〛
ザイアスの放った斬撃は確かに吸血鬼Cの身体を引き割いた。
「やったぞ!」
吸血鬼を倒したと思って笑顔になるザイアス。
ところが一瞬後に吸血鬼Cの身体は何事も無かったように元に戻る。血の後なども無い全くの無傷であった。
「何っ!」
それを見て驚愕するザイアス。
「ザイアス!吸血鬼には銀製の武器か魔法の武器しか効果がありません!」
マックスが吸血鬼の特性についての絶望的な知識を披露した。
「キャーッ!」
いつの間にかフランの後ろに回り込んだ吸血鬼Cが、フランの首元に噛み付きニヤリとした笑みを浮かべてチュウチュウと血を啜る。
フランは武器を落とし、痛みに目を瞑り歯を食いしばっている。
「フラン!」
エスティアが悲痛な声を上げる。
「くそーっ!」
バーンが半ば自暴自棄になったように長剣を両手に持ち、吸血鬼Cに切り掛かった。
吸血鬼Cはフランから離れバーンの斬撃を簡単に避けるとバーンに向け話す。
「無駄だよ。さっきのお友達の話しを聞いていなかったのかい?うん。まあいいか。フランとか言ったね、この男を殺すんだ!」
血を吸われた後、項垂れていたフランが吸血鬼Cの命令で顔を上げた。
フランは青白い顔をして赤い目を輝かせ口には短い牙が生えていた。
そこにいたのはもう以前のフランではなく、吸血鬼の下僕となって使役される者となっていた。
フランを見て驚愕するバーン。
「吸血鬼に血を吸われると下級吸血鬼にされます!」
マックスがフランに何が起こったのかを説明する。
「そんな……フラン!」
「フラン!くそおっ!」
「そんな馬鹿な!フラン!」
「…」
エスティアが涙し、バーン、クラインが変わってしまったフランを見て悲痛な叫び声を上げた。ザイアスは声も出ないようであった。
「シャーーッ!」
鋭い爪となった両手を上げ、牙を剥きフランがパーティーに襲い掛かかる。
残されたパーティーメンバーはそれを絶望した瞳で見つめるのであった。
そして一瞬だけ闇色に光ると大蝙蝠から元の姿に戻る。
それは人間のようで人間ではなく、目は赤く充血し、肌は青白く、口には犬歯がそのまま伸びたように長い牙があり、その爪も鋭い。
そしてそれぞれが貴族のように綺羅びやかな装いをしていた。
闇の一族は人間からは吸血鬼と呼ばれる者達であった。
ーー
吸血鬼は一族である集団で纏まって暮らし時折人間や家畜を襲いその血液を飲む。
血液を飲まれた者は下級吸血鬼としてその吸血鬼の下僕となり使役される関係になる。
※血だけ飲み使役しないケースもある
吸血鬼は日光を嫌い、日中は寝所である棺桶の中で眠り、夜に起きて活動する。
吸血鬼は高い身体能力を持ち、永く生きたその叡智から各種の強力な魔法を操り、爪には麻痺毒の効果がある。
精霊に近い身体のため通常の武器では傷つかず、仮にダメージを負ってもあり得ないレベルで自然回復してしまう。
大蝙蝠への変身で空を飛ぶ事も出来る。
体を一時的に霧状にする事もできるので閉じ込める事も出来ない。
吸血鬼はこのように様々な特殊能力を持っており、冒険者ギルドが定義するモンスター討伐難度ではAに相当する。
これは金級パーティー以上でないと対応できない討伐難度である。
ーー
〈モンスター討伐難度〉
モンスター討伐難度は下記表のようにE~SSで定義されている。
討伐難度SSは人間ではほぼ勝てない相手となる。
また飛行するモンスターや海中のモンスターは討伐しにくいため実力に比べ討伐難度としては上になる傾向がある。
----------------------------------------------------
討伐難度SS…真銀級パーティー以上を推奨
例:古竜、不死者の王、悪魔の君主
----------------------------------------------------
討伐難度S…白金級パーティー以上を推奨
例:不死者、各種の竜
----------------------------------------------------
討伐難度A…金級パーティー以上を推奨
例:吸血鬼、上級悪魔
----------------------------------------------------
討伐難度B…銀級パーティー以上を推奨
例:大鬼、石造人形、飛龍
----------------------------------------------------
討伐難度C…鉄級パーティー以上を推奨
例:下級悪魔、女面鳥、屍食鬼
----------------------------------------------------
討伐難度D…銅級パーティー以上を推奨
例:猪頭人、中人鬼、生ける屍
----------------------------------------------------
討伐難度E…条件なし
例:小鬼、粘菌生物、犬小鬼
ーーーーー
商隊の護衛冒険者で野営の見張番の男がふと何かの違和感を感じ、上を見ると自分達の荷馬車の屋根に人が立っていた。
顔や服装は暗くて確認出来ない。
男は誰かが悪ふざけでもしているのだろうと、イラついて声を掛ける。
「おい誰だ!馬車の屋根になんか乗りやがって!早く降りろ!」
吸血鬼A「下等な人間が!」
吸血鬼B「早く皆殺しにしましょうよ!」
吸血鬼C「まあ待て、充分楽しんでからにしよう」
吸血鬼D「俺様に指図するなよ?」
吸血鬼E「もういいじゃないの!これはご褒美なのよ!やっちゃうわ!」
最後に発言した者が素早く呪文を唱え、発動する。
〚邪悪なる炎柱〛
少し距離がある商隊の馬車の1台に黒色が入り混じった火柱が上がり、燃え上がる。
馬車が燃え上がったことで周囲が騒然となる。
寝ていた者も目を覚まし、何事が起こったのかを確認しようとした。
全員馬車の上から音もなく地上に降り立つ吸血鬼。
「ひっ!なっ何だお前ら!」
最初に発見した見張りの男が5人の吸血鬼を見て人ならざる者の気配を感じて怯え、後退る。
「俺もやりたいようにやるぜ!」
吸血鬼Dはそう言うと見張りの男に素早く近づくと、腕を爪で切り裂き切断した。
よく見ると爪が異様に伸びて長めのナイフほどになっていた。
「ぎゃあああああ~!あががががあ!」
見張りの男は切断されたところを押さえて絶叫するが、すぐに爪から入った麻痺毒で痙攣し始める。
商隊の護衛冒険者達が見張りの男の絶叫を聞き、集まってくる。
吸血鬼達の饗宴の始まりであった。
ーーーーー
精霊の扉のバーンはフランと組んで夜間の見張りをしていた。
そろそろ小腹が空いてきたので、夜食としてロッドが差し入れてくれたという物を食べようかと籠から出して手に取る。
プリンとかいうらしいこの食べ物は、中央に何か柔らかそうで弾力を感じる山のような物と、その周りに果物などが添えてあり見た目も良く、凄く美味しそうである。
そっと蓋を開け食べようとするバーン。
ふと視線を感じ、フランを見るとじっとバーンの手にあるプリンを見つめていた。
バーンは何となく危機感を覚え、フランに背を向けてプリンにスプーンを差し込み食べようとした時、異変が起こった。
バーンの耳にドン!と爆発音が聞こえた。
慌てて辺りを見回すと、商隊の野営場所の方が明るくなっている。
何かが燃えている様子だった。
フランと顔を見合わせるバーン。
「襲撃かもしれない。皆を起こせ!」
フランに指示し、バーンは爆発が起こった方角の様子を確認する。
何やらその辺りから絶叫のような叫び声も聞こえてくる。
これは只事ではないと判断したバーンは、全員起きて武装したのを確認した後、まずは護衛対象であるジュリアン達の野営場所に向かう事にした。
ーー
バーンがジュリアン達の野営場所に着くと、既に異変を感じて全員が起きており、ロッドを中心に集まっていた。
皆神妙な面持ちをしている。
「無事か!この盆地が襲撃されているかもしれない」
バーンは全員に襲撃されている可能性がある事を説明する。
ロッドがバーンに頷き答える。
「さっき商隊の野営場所の方で爆発があったようだ。魔法による攻撃かもしれない」
バーンが皆に指示する。
「俺達は状況の確認の為、商隊の野営場所に行ってくる。ロッドとアイリスはここでリーンステアさんと一緒にジュリアン様達の護衛を頼む。念の為、いつでもここを出られるよう馬車の準備をしておいてくれ」
ロッドは了承して頷く。
精霊の扉は全員で襲撃されたと思われる商隊の野営場所に急行する事にした。
ーー
精霊の扉が商隊の護衛の野営場所に着くとそこには地獄のような光景が繰り広げられていた。
馬車は焼かれ、脚や腕を失って倒れている者、腹を切り裂かれ腸が出ている者、重度の火傷を負っている者など商隊の護衛冒険者が皆どこかしら傷つけられた状態でまだ生かされているようであった。
その近くには3人の綺羅びやかなドレスを着た人物が後ろ向きで立っている。
その光景を見たバーンが叫ぶ。
「お前らは誰だ!何をやっている!」
その声に振り向いた者達は青白い顔に赤い目を爛々とさせ、口からは犬歯が伸びたような牙が生えていた。
「バーン!彼らは吸血鬼です!」
精霊の扉のマックスがバーンに叫ぶように教える。
マックスは精霊の扉では一番歳が若くまだ19歳であったが、知識欲は旺盛で勉強熱心であり、冒険者ギルドと魔法師ギルド両方の資料に記載されている魔物は大体記憶していた。
「吸血鬼だと」
「吸血鬼…」
クラインが絶句し、エスティアが呟く。
彼らも吸血鬼の特徴は詳しくなくても、冒険者として過ごしてきた中で噂を聞きかじったりして、その名前と強さを知っていたのだ。
マックスがパーティーに向け説明する。
「吸血鬼はギルドで討伐難度Aにランクされています。1体でも金級以上のパーティーでないと勝てないと言われています。それが3体も…」
「おいおい冗談だろ!」
ザイアスが怯えて少し後ずさる。
「くっ!隙を見て撤退してロッド達と合流するぞ。少なくとも俺達だけでは勝てない」
バーンが状況を判断して撤退の命令を下した。
「「「「「了解!」」」」」
バーン達は吸血鬼と対峙したまま、ジリジリと下がり始める。
そこへ吸血鬼の後方と右側から1体ずつ、速い速度で駆け寄る者達がいた。
吸血鬼E「ふふっ。奥にいた商人みたいな人間は皆殺しにしたわ!」
吸血鬼B「うふふ。私もよ。街の方向にいた馬車の人間もたっぷり可愛がって殺してあげたわ。子供もね。逃げている人間を殺すの面白かったぁ」
「うっ!増えたぞ。5体だと!」
クラインが盾を握り締めて呻く。
どうやら吸血鬼達は商隊と乗合馬車を手分けして襲撃してきたようであった。
吸血鬼C「レディーファーストだ。どうだ、面白かったかい?」
吸血鬼達はバーン達などいないかのように笑顔で会話する。
吸血鬼A「もう我慢の限界だ!おれは中央の馬車を貰うぞ!」
吸血鬼C「いいだろう。楽しんでこいよ」
吸血鬼Aはそう言うと、闇色に一瞬光り大蝙蝠に変身するとロッド達の馬車の方角に飛んで行った。
「くっ。まずいぞ!ロッド達が危ない!」
バーンが飛んでいく大蝙蝠を見て叫ぶ。
吸血鬼D「もうコイツらは飽きたから、そろそろ殺すとするか」
吸血鬼Dは後方で倒れている護衛冒険者の女性の頭を足裏で踏むように押さえる。
脚を斬られている護衛冒険者の女性は、か細い声で泣きながら命乞いをする。
吸血鬼Dはニヤリと楽しそうに微笑むと、護衛冒険者の女性を殺した。
その光景を見て胸糞が悪くなると同時にバーン達は絶望を感じる。
銀級パーティーが、モンスター討伐難度Aランクとされている吸血鬼を4体も相手に出来る訳が無い。
吸血鬼C「さて、残ったのは君達だけだ。君達は私の分なんだよ。中央の馬車の人間もすぐに皆殺しにされるよ。君達の人生はここで確実に終わるんだ。逃げるのは諦めてくれるかい?」
そう言うと嬉々として両手を広げ精霊の扉に飛びかかる吸血鬼C。
精霊の扉は盆地中央に向け、戦列を撤退気味に下げる。
その中でクラインが吸血鬼Cの進行方向に出て大盾で突撃を止めようとするが、スッと避けられ馬鹿にするようにザイアスの目の前に立つ。
ザイアスは戦斧を振り上げて斬撃を放つ。
〚強撃〛
ザイアスの放った斬撃は確かに吸血鬼Cの身体を引き割いた。
「やったぞ!」
吸血鬼を倒したと思って笑顔になるザイアス。
ところが一瞬後に吸血鬼Cの身体は何事も無かったように元に戻る。血の後なども無い全くの無傷であった。
「何っ!」
それを見て驚愕するザイアス。
「ザイアス!吸血鬼には銀製の武器か魔法の武器しか効果がありません!」
マックスが吸血鬼の特性についての絶望的な知識を披露した。
「キャーッ!」
いつの間にかフランの後ろに回り込んだ吸血鬼Cが、フランの首元に噛み付きニヤリとした笑みを浮かべてチュウチュウと血を啜る。
フランは武器を落とし、痛みに目を瞑り歯を食いしばっている。
「フラン!」
エスティアが悲痛な声を上げる。
「くそーっ!」
バーンが半ば自暴自棄になったように長剣を両手に持ち、吸血鬼Cに切り掛かった。
吸血鬼Cはフランから離れバーンの斬撃を簡単に避けるとバーンに向け話す。
「無駄だよ。さっきのお友達の話しを聞いていなかったのかい?うん。まあいいか。フランとか言ったね、この男を殺すんだ!」
血を吸われた後、項垂れていたフランが吸血鬼Cの命令で顔を上げた。
フランは青白い顔をして赤い目を輝かせ口には短い牙が生えていた。
そこにいたのはもう以前のフランではなく、吸血鬼の下僕となって使役される者となっていた。
フランを見て驚愕するバーン。
「吸血鬼に血を吸われると下級吸血鬼にされます!」
マックスがフランに何が起こったのかを説明する。
「そんな……フラン!」
「フラン!くそおっ!」
「そんな馬鹿な!フラン!」
「…」
エスティアが涙し、バーン、クラインが変わってしまったフランを見て悲痛な叫び声を上げた。ザイアスは声も出ないようであった。
「シャーーッ!」
鋭い爪となった両手を上げ、牙を剥きフランがパーティーに襲い掛かかる。
残されたパーティーメンバーはそれを絶望した瞳で見つめるのであった。
0
お気に入りに追加
133
あなたにおすすめの小説
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
時き継幻想フララジカ
日奈 うさぎ
ファンタジー
少年はひたすら逃げた。突如変わり果てた街で、死を振り撒く異形から。そして逃げた先に待っていたのは絶望では無く、一振りの希望――魔剣――だった。 逃げた先で出会った大男からその希望を託された時、特別ではなかった少年の運命は世界の命運を懸ける程に大きくなっていく。
なれば〝ヒト〟よ知れ、少年の掴む世界の運命を。
銘無き少年は今より、現想神話を紡ぐ英雄とならん。
時き継幻想(ときつげんそう)フララジカ―――世界は緩やかに混ざり合う。
【概要】
主人公・藤咲勇が少女・田中茶奈と出会い、更に多くの人々とも心を交わして成長し、世界を救うまでに至る現代ファンタジー群像劇です。
現代を舞台にしながらも出てくる新しい現象や文化を彼等の目を通してご覧ください。
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
悠久の機甲歩兵
竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。
※現在毎日更新中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる