半神の守護者

ぴっさま

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第18話 襲撃と絶望(モンスター討伐難度説明有)

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宵闇の中、ロッド達の野営している盆地に急降下した闇の一族は、静かに馬車の上に降り立った。

そして一瞬だけ闇色に光ると大蝙蝠ジャイアント・バットから元の姿に戻る。

それは人間のようで人間ではなく、目は赤く充血し、肌は青白く、口には犬歯がそのまま伸びたように長い牙があり、その爪も鋭い。

そしてそれぞれが貴族のように綺羅びやかな装いをしていた。

闇の一族は人間からは吸血鬼ヴァンパイアと呼ばれる者達であった。

ーー

吸血鬼ヴァンパイアは一族である集団で纏まって暮らし時折人間や家畜を襲いその血液を飲む。

血液を飲まれた者は下級吸血鬼レッサーヴァンパイアとしてその吸血鬼ヴァンパイアの下僕となり使役される関係になる。
※血だけ飲み使役しないケースもある

吸血鬼ヴァンパイアは日光を嫌い、日中は寝所である棺桶の中で眠り、夜に起きて活動する。

吸血鬼ヴァンパイアは高い身体能力を持ち、永く生きたその叡智から各種の強力な魔法を操り、爪には麻痺毒の効果がある。

精霊に近い身体のため通常の武器では傷つかず、仮にダメージを負ってもあり得ないレベルで自然回復してしまう。

大蝙蝠ジャイアント・バットへの変身ポリモーフで空を飛ぶ事も出来る。

体を一時的に霧状にする事もできるので閉じ込める事も出来ない。

吸血鬼ヴァンパイアはこのように様々な特殊能力を持っており、冒険者ギルドが定義するモンスター討伐難度ではAに相当する。

これは金級ゴールドランクパーティー以上でないと対応できない討伐難度である。

ーー

〈モンスター討伐難度〉
モンスター討伐難度は下記表のようにE~SSで定義されている。
討伐難度SSは人間ではほぼ勝てない相手となる。

また飛行するモンスターや海中のモンスターは討伐しにくいため実力に比べ討伐難度としては上になる傾向がある。
----------------------------------------------------
討伐難度SS…真銀級ミスリルランクパーティー以上を推奨
  例:古竜エンシェントドラゴン不死者の王リッチキング悪魔の君主デーモンロード
----------------------------------------------------
討伐難度S…白金級プラチナランクパーティー以上を推奨
  例:不死者リッチ、各種のドラゴン
----------------------------------------------------
討伐難度A…金級ゴールドランクパーティー以上を推奨
  例:吸血鬼ヴァンパイア上級悪魔グレーターデーモン
----------------------------------------------------
討伐難度B…銀級シルバーランクパーティー以上を推奨
  例:大鬼オーガ石造人形ストーンゴーレム飛龍ワイバーン
----------------------------------------------------
討伐難度C…鉄級アイアンランクパーティー以上を推奨
  例:下級悪魔レッサーデーモン女面鳥ハーピー屍食鬼グール
----------------------------------------------------
討伐難度D…銅級カッパーランクパーティー以上を推奨
  例:猪頭人オーク中人鬼ホブゴブリン生ける屍ゾンビ
----------------------------------------------------
討伐難度E…条件なし
  例:小鬼ゴブリン粘菌生物スライム犬小鬼コボルト


ーーーーー

商隊の護衛冒険者で野営の見張番の男がふと何かの違和感を感じ、上を見ると自分達の荷馬車の屋根に人が立っていた。

顔や服装は暗くて確認出来ない。

男は誰かが悪ふざけでもしているのだろうと、イラついて声を掛ける。
「おい誰だ!馬車の屋根になんか乗りやがって!早く降りろ!」

吸血鬼ヴァンパイアA「下等な人間が!」
吸血鬼ヴァンパイアB「早く皆殺しにしましょうよ!」
吸血鬼ヴァンパイアC「まあ待て、充分楽しんでからにしよう」
吸血鬼ヴァンパイアD「俺様に指図するなよ?」

吸血鬼ヴァンパイアE「もういいじゃないの!これはご褒美なのよ!やっちゃうわ!」
最後に発言した者が素早く呪文を唱え、発動する。

邪悪なる炎柱エビルフレイムピラー

少し距離がある商隊の馬車の1台に黒色が入り混じった火柱が上がり、燃え上がる。

馬車が燃え上がったことで周囲が騒然となる。
寝ていた者も目を覚まし、何事が起こったのかを確認しようとした。

全員馬車の上から音もなく地上に降り立つ吸血鬼ヴァンパイア

「ひっ!なっ何だお前ら!」
最初に発見した見張りの男が5人の吸血鬼ヴァンパイアを見て人ならざる者の気配を感じて怯え、後退る。

「俺もやりたいようにやるぜ!」
吸血鬼ヴァンパイアDはそう言うと見張りの男に素早く近づくと、腕を爪で切り裂き切断した。

よく見ると爪が異様に伸びて長めのナイフほどになっていた。

「ぎゃあああああ~!あががががあ!」
見張りの男は切断されたところを押さえて絶叫するが、すぐに爪から入った麻痺毒で痙攣し始める。

商隊の護衛冒険者達が見張りの男の絶叫を聞き、集まってくる。
吸血鬼ヴァンパイア達の饗宴の始まりであった。


ーーーーー

精霊の扉のバーンはフランと組んで夜間の見張りをしていた。

そろそろ小腹が空いてきたので、夜食としてロッドが差し入れてくれたという物を食べようかと籠から出して手に取る。

プリンとかいうらしいこの食べ物は、中央に何か柔らかそうで弾力を感じる山のような物と、その周りに果物などが添えてあり見た目も良く、凄く美味しそうである。

そっと蓋を開け食べようとするバーン。
ふと視線を感じ、フランを見るとじっとバーンの手にあるプリンを見つめていた。

バーンは何となく危機感を覚え、フランに背を向けてプリンにスプーンを差し込み食べようとした時、異変が起こった。

バーンの耳にドン!と爆発音が聞こえた。

慌てて辺りを見回すと、商隊の野営場所の方が明るくなっている。
何かが燃えている様子だった。

フランと顔を見合わせるバーン。
「襲撃かもしれない。皆を起こせ!」

フランに指示し、バーンは爆発が起こった方角の様子を確認する。
何やらその辺りから絶叫のような叫び声も聞こえてくる。

これは只事ではないと判断したバーンは、全員起きて武装したのを確認した後、まずは護衛対象であるジュリアン達の野営場所に向かう事にした。

ーー

バーンがジュリアン達の野営場所に着くと、既に異変を感じて全員が起きており、ロッドを中心に集まっていた。

皆神妙な面持ちをしている。

「無事か!この盆地が襲撃されているかもしれない」
バーンは全員に襲撃されている可能性がある事を説明する。

ロッドがバーンに頷き答える。
「さっき商隊の野営場所の方で爆発があったようだ。魔法による攻撃かもしれない」

バーンが皆に指示する。
「俺達は状況の確認の為、商隊の野営場所に行ってくる。ロッドとアイリスはここでリーンステアさんと一緒にジュリアン様達の護衛を頼む。念の為、いつでもここを出られるよう馬車の準備をしておいてくれ」

ロッドは了承して頷く。
精霊の扉は全員で襲撃されたと思われる商隊の野営場所に急行する事にした。

ーー

精霊の扉が商隊の護衛の野営場所に着くとそこには地獄のような光景が繰り広げられていた。

馬車は焼かれ、脚や腕を失って倒れている者、腹を切り裂かれ腸が出ている者、重度の火傷を負っている者など商隊の護衛冒険者が皆どこかしら傷つけられた状態でまだ生かされているようであった。

その近くには3人の綺羅びやかなドレスを着た人物が後ろ向きで立っている。

その光景を見たバーンが叫ぶ。
「お前らは誰だ!何をやっている!」

その声に振り向いた者達は青白い顔に赤い目を爛々とさせ、口からは犬歯が伸びたような牙が生えていた。

「バーン!彼らは吸血鬼ヴァンパイアです!」
精霊の扉のマックスがバーンに叫ぶように教える。

マックスは精霊の扉では一番歳が若くまだ19歳であったが、知識欲は旺盛で勉強熱心であり、冒険者ギルドと魔法師ギルド両方の資料に記載されている魔物は大体記憶していた。

吸血鬼ヴァンパイアだと」
吸血鬼ヴァンパイア…」
クラインが絶句し、エスティアが呟く。

彼らも吸血鬼ヴァンパイアの特徴は詳しくなくても、冒険者として過ごしてきた中で噂を聞きかじったりして、その名前と強さを知っていたのだ。

マックスがパーティーに向け説明する。
吸血鬼ヴァンパイアはギルドで討伐難度Aにランクされています。1体でも金級ゴールドランク以上のパーティーでないと勝てないと言われています。それが3体も…」

「おいおい冗談だろ!」
ザイアスが怯えて少し後ずさる。

「くっ!隙を見て撤退してロッド達と合流するぞ。少なくとも俺達だけでは勝てない」
バーンが状況を判断して撤退の命令を下した。

「「「「「了解!」」」」」

バーン達は吸血鬼ヴァンパイアと対峙したまま、ジリジリと下がり始める。

そこへ吸血鬼ヴァンパイアの後方と右側から1体ずつ、速い速度で駆け寄る者達がいた。

吸血鬼ヴァンパイアE「ふふっ。奥にいた商人みたいな人間は皆殺しにしたわ!」
吸血鬼ヴァンパイアB「うふふ。私もよ。街の方向にいた馬車の人間もたっぷり可愛がって殺してあげたわ。子供もね。逃げている人間を殺すの面白かったぁ」

「うっ!増えたぞ。5体だと!」
クラインが盾を握り締めて呻く。

どうやら吸血鬼ヴァンパイア達は商隊と乗合馬車を手分けして襲撃してきたようであった。

吸血鬼ヴァンパイアC「レディーファーストだ。どうだ、面白かったかい?」
吸血鬼ヴァンパイア達はバーン達などいないかのように笑顔で会話する。

吸血鬼ヴァンパイアA「もう我慢の限界だ!おれは中央の馬車を貰うぞ!」
吸血鬼ヴァンパイアC「いいだろう。楽しんでこいよ」

吸血鬼ヴァンパイアAはそう言うと、闇色に一瞬光り大蝙蝠ジャイアント・バット変身ポリモーフするとロッド達の馬車の方角に飛んで行った。

「くっ。まずいぞ!ロッド達が危ない!」
バーンが飛んでいく大蝙蝠ジャイアント・バットを見て叫ぶ。

吸血鬼ヴァンパイアD「もうコイツらは飽きたから、そろそろ殺すとするか」
吸血鬼ヴァンパイアDは後方で倒れている護衛冒険者の女性の頭を足裏で踏むように押さえる。

脚を斬られている護衛冒険者の女性は、か細い声で泣きながら命乞いをする。

吸血鬼ヴァンパイアDはニヤリと楽しそうに微笑むと、護衛冒険者の女性を殺した。

その光景を見て胸糞が悪くなると同時にバーン達は絶望を感じる。

銀級シルバーランクパーティーが、モンスター討伐難度Aランクとされている吸血鬼ヴァンパイアを4体も相手に出来る訳が無い。

吸血鬼ヴァンパイアC「さて、残ったのは君達だけだ。君達は私の分なんだよ。中央の馬車の人間もすぐに皆殺しにされるよ。君達の人生はここで確実に終わるんだ。逃げるのは諦めてくれるかい?」
そう言うと嬉々として両手を広げ精霊の扉に飛びかかる吸血鬼ヴァンパイアC。

精霊の扉は盆地中央に向け、戦列を撤退気味に下げる。

その中でクラインが吸血鬼ヴァンパイアCの進行方向に出て大盾ラージシールドで突撃を止めようとするが、スッと避けられ馬鹿にするようにザイアスの目の前に立つ。

ザイアスは戦斧を振り上げて斬撃を放つ。
強撃ストロング・ブロウ

ザイアスの放った斬撃は確かに吸血鬼ヴァンパイアCの身体を引き割いた。

「やったぞ!」
吸血鬼ヴァンパイアを倒したと思って笑顔になるザイアス。

ところが一瞬後に吸血鬼ヴァンパイアCの身体は何事も無かったように元に戻る。血の後なども無い全くの無傷であった。

「何っ!」
それを見て驚愕するザイアス。

「ザイアス!吸血鬼ヴァンパイアには銀製の武器か魔法の武器しか効果がありません!」
マックスが吸血鬼ヴァンパイアの特性についての絶望的な知識を披露した。

「キャーッ!」

いつの間にかフランの後ろに回り込んだ吸血鬼ヴァンパイアCが、フランの首元に噛み付きニヤリとした笑みを浮かべてチュウチュウと血を啜る。

フランは武器を落とし、痛みに目を瞑り歯を食いしばっている。

「フラン!」
エスティアが悲痛な声を上げる。

「くそーっ!」
バーンが半ば自暴自棄になったように長剣ロングソードを両手に持ち、吸血鬼ヴァンパイアCに切り掛かった。

吸血鬼ヴァンパイアCはフランから離れバーンの斬撃を簡単に避けるとバーンに向け話す。
「無駄だよ。さっきのお友達の話しを聞いていなかったのかい?うん。まあいいか。フランとか言ったね、この男を殺すんだ!」

血を吸われた後、項垂れていたフランが吸血鬼ヴァンパイアCの命令で顔を上げた。

フランは青白い顔をして赤い目を輝かせ口には短い牙が生えていた。

そこにいたのはもう以前のフランではなく、吸血鬼ヴァンパイアの下僕となって使役される者となっていた。

フランを見て驚愕するバーン。

吸血鬼ヴァンパイアに血を吸われると下級吸血鬼レッサーヴァンパイアにされます!」
マックスがフランに何が起こったのかを説明する。

「そんな……フラン!」
「フラン!くそおっ!」
「そんな馬鹿な!フラン!」
「…」

エスティアが涙し、バーン、クラインが変わってしまったフランを見て悲痛な叫び声を上げた。ザイアスは声も出ないようであった。

「シャーーッ!」
鋭い爪となった両手を上げ、牙を剥きフランがパーティーに襲い掛かかる。

残されたパーティーメンバーはそれを絶望した瞳で見つめるのであった。
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