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大谷麗華

第8話 こんなはずじゃ

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優くんに赤羽先輩と付き合うと告げた後、泣きながら走り去った優くんは、翌日学校を休んだ。

別れを告げた時のあんな悲しそうに怒った優くんは初めて見た。
私はあれから優くんに合わす顔が無く、五条家への足は遠のいていた。

この状況をお母さんに伝える訳にもいかず、五条家で度々いただいていた夕食も食べられなくなったので、貯めていたお小遣いを食費にあてていた。

優くんを捨てて付き合った赤羽先輩は自分本位でプライドが高くて気難しく、怒ると手がつけられなかった。
私が無意識に優くんとの事を話題に上げると、途端に凄く不機嫌になった。
穏やかな優くんとしか付き合ってこなかった私には、急に豹変する先輩は恐怖でしか無かったけど、ここで捨てられたら意味がないと思い身体まで差し出して先輩を繋ぎ止めた。

私をモノにした先輩は、優くんの悪い噂をテニス部員を使って流し始めた。
幼馴染で仲が良く、話の端々に優くんが出るのが気に入らなかったんだろう。
私は優くんがストーカーだという悪い噂を否定したかったんだけど、先輩に捨てられるのが怖くて庇う事は出来なかった。



ーーーーー



優くんの悪い噂が広まってしまった頃、私は意を決して優くんの家に向かった。
もう既に貯金が底を尽きて夕食が食べられなかったのと、第二の母親とも言える優くんの優しいお母さんに、赤羽先輩との事を相談したかった為だ。

もし優くんに会ってしまっても誠心誠意に謝れば許してくれるだろうと、私は軽く考えていた。

「帰りなさい。もうこの家の敷居は二度と跨がないで! あなたが優太にした事は全部知っているわよ。うちから援助していた学費も今月で止めるから!」

あの優しかった優くんのお母さんが、私に氷の様な冷たい目を向けて話した。
私は信じられない思いで、冷たく震える手を抱えながら優くんの家を逃げるように立ち去った。

それから私は家に帰って冷静になって考えてみた。
いくら隣家で仲が良かったとはいえ、息子を裏切った女を優しく迎える訳がない。
二度と居心地の良かった五条家に行って、笑いながら楽しい時を過ごす事が出来ないという事実は、私の心を打ちのめした。

私はその夜、お母さんに今の状況を話してみたら驚くような答えが帰ってきた。
私と優くんが付き合っているのは既に両家の親は知っており、優くんと同じ私立に通いたいと言った私の為に、実は五条家から入学金や学費、支度金などの援助があったと言う事だった。

お母さんは、どうせこのまま優くんと一緒になるだろうし、私には援助があったと言うと負い目になるので言わずにおいたという事だった。
付け加えると、その時に優くんのお父さんは大会社の社長で、将来は一人息子の優くんが跡を継ぐ事になると聞いたそうだ。

私はそれを聞いて、涙を流してお母さんを恨んで睨みつけた。
先にそれを全て知っていれば、優しい優くんを絶対に手放さなかったのに!

なんで教えてくれなかったの……
私の身体はもう……


ーーーーー



ゴールデンウィーク明けから、優くんは机や上履きにストーカーなど不名誉な落書きで嫌がらせをされている様だった。
私は赤羽先輩に確認したけど、俺は関係ないと白を切るだけだった。

私は優くんが心配だったけど何も出来ない日々が続いた。
だけど担任が学校を辞めたのを皮切りに、優くんに直接嫌がらせを行っていたテニス部の部員が退学になるなどしてテニス部の力が弱まると、自然に優くんへの嫌がらせは無くなっていったようだった。

でも私にとってショックな事に、いつの間にか優くんの一家が何処かへ引っ越しをしてしまったのだ。
家が隣であればいつか優くんに謝る機会があると思っていたのに……

そして夏休みが終わって登校してきた優くんを見て、私は倒れそうになった。
優くんは背がまた凄く伸びていて、細マッチョの超イケメンになっていた。
入学当初は私と同じ位の身長だったはずなのに、今は私より全然高い。
イケメンで背も高く運動が出来て頭も良くお金持ちで優しく性格も良い。

今となっては私の選択が完全に間違いだったのがわかった。
優くんの隣には物凄く綺麗になった、小学生の時に乞食女と呼んでいた女がいた。
あそこは私の場所だったのに、いつの間にか乞食女に奪われてしまったのだ。

私自身といえば、優くんを裏切って学費の援助が無くなったので、家計はさらに苦しくなり、日々の食事にも事欠く有り様だった。
赤羽先輩とは何とか続いていたけど、呼び出されて身体を提供するだけの都合の良い女扱いしかされず、とても私が愛されているとは思えなかった。

ゴールデンウィーク明けから囁かれていた様に、私以外に他の女がいるのだろう。
不規則な食事や家計、恋愛の不安から私は生理不順になってしまっていた。

入学当初、優くんと一緒で希望に満ちていた時と違い、私の日常は地獄の様な日々となってしまった。

こんなはずじゃ無かったのに……
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