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黒田鉄男(伯父)
第9話 訪れる破滅
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ある日、兄妹の兄が店の手伝いに現れず、夕食の時間になっても兄妹は食事に来なかった。
全くたるんでやがる、思い知らせてやる! と息巻いて物置小屋に行ってみたが誰もいない。
妻に学校に連絡させてみたが普通に帰宅したとの事だった。
何処かに駆け込まれて虐待の疑いを掛けられても困る。
とりあえず警察に連絡して捜索願いを出してもらった。
クソが! 見つかったら必ず思い知らせてやるからな!
その後、いつまで経っても兄妹は見つからなかったが一ヶ月ぐらい経った時、閉店後に弁護士が家に訪れてきた。
その弁護士が言うには依頼主は一条浩市氏、名前を変えて暮らしていた故吉井浩二氏の父で、兄妹の祖父に当たるとの事だった。
弁護士の説明では吉井浩二、吉井由香、両氏の金融資産が不正に換金されており、預貯金も法的な手続きを踏まずに不正に持ち出されているとの事だった。
俺と妻はそれを聞いて青くなって震え上がった。
全部、俺達が横からいただいていたからだ。
まずい! もし訴えられたら負けてしまうだろう……
だが、弁護士が言うには兄妹の親権を放棄すれば見逃しても良いと言う事だったので、俺達は一も二もなく書類にサインして弁護士には直ぐに帰ってもらった。
いきなりだったので俺も混乱したが後で考えたところ、金を返さなくても良く、兄妹の面倒を見なくて良いんであればこんなに良い話は無いだろう。
俺と妻は密かに喜びあった。
ーーーーー
「何っ! 今後は取り引き出来ないってどういう事です! おい! もしもし!」
兄妹の親権を手放してから10年後、急に食材の卸元から取引中止の連絡が入った。
卸元は複数あるが、その全てから同じ様な連絡が入る。
ならばと新規の卸元に連絡するも横の繋がりがあるのかどこも同じ対応だった。
そして次の日には取引銀行から貸付金の即時返還の要請があった。
事実上の貸し剥がしだ。
俺達は絶望して頭を抱えていた。
「何だ、何が起こってるんだよ! これじゃあ商売出来ないじゃねえか!」
「私だって知らないわよ! あなたが何かしたんじゃないの?」
ーーーーー
二ヶ月後、銀行からの貸し剥がしを受けてもう現金が無く、食材も無くなって店も開けない俺達は、空腹に喘いでいた。
今朝食べたのが最後の食パンだった……
街金で金を借りる事も考えたが、何故かブラックリストに乗っているらしく、高金利でもどこも貸してもらえない様だ。
俺が、俺達が一体何をしたって言うんだ……
腹が減って全然力も出ない。
そういえば昔うちにいた由香の子供、あの兄妹を良く飯抜きにしたっけ。
あいつらも空腹に耐えかねる、こんな気持ちだったのかよ……
(ピンポーン! ピンポーン!)
「おい、誰か来たぞ……」
「あなたが出てよ……」
仕方なく俺が玄関のドアを開けると年若い男女、気品のある物凄い美人と、背の高い頭の良さそうな男の二人が立っている。
更にその後ろには黒ずくめでグラサンのSPみたいな強面の男二人が控えている。
強面は護衛なんだろうか?
年若い男女もさっぱり見覚えが無いが、誰だったか。
「あの、どちら様で……」
「満足に食事が出来ず空腹になった気持ちはどう? 良い気分なのかしら!」
「お、お前らはまさか……由香の子供、浩人と真由子なのか?」
「僕は違いますよ。僕は彼の友人、いえ親友です!」
男の方は違うと言い、女を落ち着かせる様に手を握った。
女の方は否定しないって事は、コイツは真由子なのか? そう言えばどことなく由香に似ていやがる。
「お前は……真由子なのか? 何でこんな事を……それに、どうやって……」
「手段など、どうだって良いわ! あなた達にそれを味わって貰えればね」
……凄い剣幕だ。
どうやったかわからないが、今やコイツは銀行や全ての卸元さえも動かせる力があるらしい。
あの強面の護衛達も地味に怖え、悔しいがここは謝るしかねえか。
「そのう……済まなかった。お前達の子供の頃に飯を抜いて、空腹でひもじい思いをさせてしまっ……」
「勘違いしないで!!」
俺は女の物凄い圧力にビビリ、体をのけ反らせて黙ってしまった。
「私はひもじい思いなんてしていない! いつも私の大好きだったお兄ちゃんが、私の事を守り続けてくれていたから……自分を犠牲にして、いつも……」
女はポロポロと大粒の涙を流し、男が寄り添ってハンカチで涙を拭いている。
「だからお兄ちゃんと同じ苦しみを少しでも味あわせてあげたかった! こんなの全然、序の口よ! だってお兄ちゃんは私を守って最期は餓死したんだから!」
浩人が餓死! 何でだ? 少なくとも俺はそこまではしていなかったはずだ。
しかし浩人はもう死んでたのか?
「真由子……もう、この位にしておこう」
「そうね。でもこれだけは言っておくわ! お兄ちゃんを甘く見たあなた達は破滅する! これは絶対よ!」
ーーーーー
真由子の捨て台詞にビビる俺達だったが、それから数日経ったある日、警察が大挙して押しかけてきて家宅捜索が行われた。
驚く俺達だったが、罪状は身に覚えがあり過ぎる妹夫婦の殺害だった。
警察は予め知っていたかの様に物置小屋を解体して穴を掘り始めた。
「車だ! 情報通り車が出てきたぞ!」
もう終わりだ……真由子が最後に言っていたのはこれだったのか。
まさか俺達の犯行がバレていたとは。
逮捕された俺達は当然の如く裁判にかけられ、自己中心的な理由で妹夫婦を殺害した、凶悪な犯罪者として最終的には死刑判決を受けた。
さらに二年の後、日本の法務大臣が交代するタイミングで二人同時に死刑が執行される日が来た。
俺達は全部間違っていたんだ!
もっと勉強して真面目に生きれば良かった。
義理妹の結婚をもっと祝福するべきだった。
子供が出来ないからって散財なんかするんじゃ無かった。
妹夫婦を羨んで殺害すべきじゃ無かった。
せめて浩人と真由子に普通の暮らしをさせていれば良かった……
浩人もいつの間にか死んでたんだな、しかも餓死ってなんだよ。
真由子があれだけ怒ってたんだ、たぶん俺のせいなんだろう。
あいつに俺は酷い事ばかりしてしまった。
今さら後悔しても全てがもう遅かった……
刑場への途中、俺の幻覚なのか由香と旦那の二人が立っているのが見えた。
二人とも足元の地面を指していた。
指された方を良く見ると、まるで地獄への門が開いているように見える。
そうか……俺が、俺達が行くのは地獄で確定みたいだな……
全くたるんでやがる、思い知らせてやる! と息巻いて物置小屋に行ってみたが誰もいない。
妻に学校に連絡させてみたが普通に帰宅したとの事だった。
何処かに駆け込まれて虐待の疑いを掛けられても困る。
とりあえず警察に連絡して捜索願いを出してもらった。
クソが! 見つかったら必ず思い知らせてやるからな!
その後、いつまで経っても兄妹は見つからなかったが一ヶ月ぐらい経った時、閉店後に弁護士が家に訪れてきた。
その弁護士が言うには依頼主は一条浩市氏、名前を変えて暮らしていた故吉井浩二氏の父で、兄妹の祖父に当たるとの事だった。
弁護士の説明では吉井浩二、吉井由香、両氏の金融資産が不正に換金されており、預貯金も法的な手続きを踏まずに不正に持ち出されているとの事だった。
俺と妻はそれを聞いて青くなって震え上がった。
全部、俺達が横からいただいていたからだ。
まずい! もし訴えられたら負けてしまうだろう……
だが、弁護士が言うには兄妹の親権を放棄すれば見逃しても良いと言う事だったので、俺達は一も二もなく書類にサインして弁護士には直ぐに帰ってもらった。
いきなりだったので俺も混乱したが後で考えたところ、金を返さなくても良く、兄妹の面倒を見なくて良いんであればこんなに良い話は無いだろう。
俺と妻は密かに喜びあった。
ーーーーー
「何っ! 今後は取り引き出来ないってどういう事です! おい! もしもし!」
兄妹の親権を手放してから10年後、急に食材の卸元から取引中止の連絡が入った。
卸元は複数あるが、その全てから同じ様な連絡が入る。
ならばと新規の卸元に連絡するも横の繋がりがあるのかどこも同じ対応だった。
そして次の日には取引銀行から貸付金の即時返還の要請があった。
事実上の貸し剥がしだ。
俺達は絶望して頭を抱えていた。
「何だ、何が起こってるんだよ! これじゃあ商売出来ないじゃねえか!」
「私だって知らないわよ! あなたが何かしたんじゃないの?」
ーーーーー
二ヶ月後、銀行からの貸し剥がしを受けてもう現金が無く、食材も無くなって店も開けない俺達は、空腹に喘いでいた。
今朝食べたのが最後の食パンだった……
街金で金を借りる事も考えたが、何故かブラックリストに乗っているらしく、高金利でもどこも貸してもらえない様だ。
俺が、俺達が一体何をしたって言うんだ……
腹が減って全然力も出ない。
そういえば昔うちにいた由香の子供、あの兄妹を良く飯抜きにしたっけ。
あいつらも空腹に耐えかねる、こんな気持ちだったのかよ……
(ピンポーン! ピンポーン!)
「おい、誰か来たぞ……」
「あなたが出てよ……」
仕方なく俺が玄関のドアを開けると年若い男女、気品のある物凄い美人と、背の高い頭の良さそうな男の二人が立っている。
更にその後ろには黒ずくめでグラサンのSPみたいな強面の男二人が控えている。
強面は護衛なんだろうか?
年若い男女もさっぱり見覚えが無いが、誰だったか。
「あの、どちら様で……」
「満足に食事が出来ず空腹になった気持ちはどう? 良い気分なのかしら!」
「お、お前らはまさか……由香の子供、浩人と真由子なのか?」
「僕は違いますよ。僕は彼の友人、いえ親友です!」
男の方は違うと言い、女を落ち着かせる様に手を握った。
女の方は否定しないって事は、コイツは真由子なのか? そう言えばどことなく由香に似ていやがる。
「お前は……真由子なのか? 何でこんな事を……それに、どうやって……」
「手段など、どうだって良いわ! あなた達にそれを味わって貰えればね」
……凄い剣幕だ。
どうやったかわからないが、今やコイツは銀行や全ての卸元さえも動かせる力があるらしい。
あの強面の護衛達も地味に怖え、悔しいがここは謝るしかねえか。
「そのう……済まなかった。お前達の子供の頃に飯を抜いて、空腹でひもじい思いをさせてしまっ……」
「勘違いしないで!!」
俺は女の物凄い圧力にビビリ、体をのけ反らせて黙ってしまった。
「私はひもじい思いなんてしていない! いつも私の大好きだったお兄ちゃんが、私の事を守り続けてくれていたから……自分を犠牲にして、いつも……」
女はポロポロと大粒の涙を流し、男が寄り添ってハンカチで涙を拭いている。
「だからお兄ちゃんと同じ苦しみを少しでも味あわせてあげたかった! こんなの全然、序の口よ! だってお兄ちゃんは私を守って最期は餓死したんだから!」
浩人が餓死! 何でだ? 少なくとも俺はそこまではしていなかったはずだ。
しかし浩人はもう死んでたのか?
「真由子……もう、この位にしておこう」
「そうね。でもこれだけは言っておくわ! お兄ちゃんを甘く見たあなた達は破滅する! これは絶対よ!」
ーーーーー
真由子の捨て台詞にビビる俺達だったが、それから数日経ったある日、警察が大挙して押しかけてきて家宅捜索が行われた。
驚く俺達だったが、罪状は身に覚えがあり過ぎる妹夫婦の殺害だった。
警察は予め知っていたかの様に物置小屋を解体して穴を掘り始めた。
「車だ! 情報通り車が出てきたぞ!」
もう終わりだ……真由子が最後に言っていたのはこれだったのか。
まさか俺達の犯行がバレていたとは。
逮捕された俺達は当然の如く裁判にかけられ、自己中心的な理由で妹夫婦を殺害した、凶悪な犯罪者として最終的には死刑判決を受けた。
さらに二年の後、日本の法務大臣が交代するタイミングで二人同時に死刑が執行される日が来た。
俺達は全部間違っていたんだ!
もっと勉強して真面目に生きれば良かった。
義理妹の結婚をもっと祝福するべきだった。
子供が出来ないからって散財なんかするんじゃ無かった。
妹夫婦を羨んで殺害すべきじゃ無かった。
せめて浩人と真由子に普通の暮らしをさせていれば良かった……
浩人もいつの間にか死んでたんだな、しかも餓死ってなんだよ。
真由子があれだけ怒ってたんだ、たぶん俺のせいなんだろう。
あいつに俺は酷い事ばかりしてしまった。
今さら後悔しても全てがもう遅かった……
刑場への途中、俺の幻覚なのか由香と旦那の二人が立っているのが見えた。
二人とも足元の地面を指していた。
指された方を良く見ると、まるで地獄への門が開いているように見える。
そうか……俺が、俺達が行くのは地獄で確定みたいだな……
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