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善悪

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「アレクシス」
「ノア、ありがとう。ヴァニタス、スピルス、すまない」

 俺とスピルスは首を横に振った。

「結界はしっかり機能しているね」
「何故結界内の者に危害を加える目的のヤツが侵入できたのか……」

 頭を抱える俺を、ジェラルドが引っ張った。

「早くビオンくんとスライくんのとこに行こう」

 そうだ。
 まずは薬を口にしたという二人だ。




 部屋からアルビオンとシルヴェスターが現れた。
 顔色が優れないが命に別状はないようだ。

「前世を思い出したよー。あれは強制的に前世を思い出させる薬だったみたいー」

 アルビオンのいつもの口調。
 しかし、元気がない。

「薬を混入させたのはライラという名の赤髪の侍女でした」
「ライラ!? 赤髪!?」
「ご存知なのですか?」

 マチルダの言葉に、俺は更に頭を抱えることになる。

「俺のせいだ……」

 俺は、王宮でのライラとの邂逅について話した。
 ライラは始めから王宮で働く気などなかったのかもしれない。
 ライラが王宮に来たのは俺と接触する為。
 俺と接触して俺から自分への敵愾心を奪い、アッシュフィールド公爵家の離れ屋敷に侵入する為。

「ライラ、赤髪と言ったね」

 いつの間にか、柚希がスライムから人間になっていた。

「魔王軍の副官に、ライラと言う名の赤髪の少女がいる」
「ま、魔王軍!?」

 皆が絶句している。
 という事は、薬は魔王が用意した?

「響哉君は優君を探しているからね。強制的に前世を思い出させる薬を開発していてもおかしくはない」

 確かに……そうかもしれない。

「アルビオン、シルヴェスター、前世について話せるか?」

 問いかけると、アルビオンは押し黙った。
 代わりにシルヴェスターが頷いた。

「前世の俺の名前は乙村直澄」
「乙村直澄」

 その名前には聞き覚えがあった。
 その名前は……。

「全寮制の男子校、天塚学園高等部の生徒だった。軽音部。ある日、事件が起こった。最初は集まって怪談話して全員がパニックになって、それから次々殺人事件が起こって……」
「犯人の名は、天塚隆斗……」

 俺は、思わずそう呟いてしまった。
 だって…………。

「何故だ!? 何故知っている!?」

 怒鳴ったのはアルビオンだった。
 アルビオンは俺に突っかかってくる。

「天塚隆斗!! 俺の名を!! 何故知っている!?」
「何故って……」

 それは…………。

「俺が生前に書いて小説投稿サイトに投稿したミステリー小説の登場人物だから……」

 アルビオンが俺を殴った。
 俺は床に倒れ込む。
 アルビオンは俺の上に馬乗りになると俺の首を締めた。

「アンタが俺たちを作らなければ!! 綾乃は!! 直澄は!! 俺は!! 俺はっ!!」

 頭の中が真っ白になる。
 苦しい。
 苦しい。
 苦しい。

「ビオンくん。それ書いたのバニーちゃんじゃなくて、赤津孝憲ね」

 ジェラルドが俺からアルビオンを引き剥がした。
 アルビオンはジェラルドを睨む。

「同じだろうが!?」
「違うよ。君だってビオンくん……アルビオンだ。天塚隆斗じゃない」
「ふっざけんな!! 直澄!! 行くぞ!!」

 アルビオンは叫ぶと、シルヴェスターを連れて屋敷を出て行った。
 スピルスに助け起こされた俺は、そんな二人をぼんやりと見ていることしかできなかった。



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